多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-FITOKIOが挑むマレーシア健康改革
マレーシア(6)

2026年10月26日

「マレーシアを健康にしたい」。そんな思いから2022年にマレーシアへ進出したFITOKIOは、日本人トレーナーによるパーソナルトレーニングジムや企業向け健康経営支援事業を展開している。健康課題が深刻といわれる同国で事業を展開する中で見えてきた消費者の健康に対する意識、また事業課題、今後の展望について、FITOKIOを運営するTAC & IDCJ Wellnessの吉村大作代表と小西慧ビジネスデベロップメントマネージャーにインタビューした(取材日:2026年6月30日)。


TAC & IDCJ Wellnessの吉村大作代表(同社提供)

TAC & IDCJ Wellnessの小西慧ビジネスデベロップメント
マネージャー(同社提供)

個人と企業の両面から、マレーシアの健康増進を支援

質問:
事業概要とマレーシアに進出した経緯は。
答え:
日本は健康への意識が比較的高い一方、マレーシアでは肥満率や糖尿病有病率が高く、健康課題が顕在化している。日本での事業の知見を生かして、マレーシアに住む人々の健康に貢献したいとの思いから、2022年に事業を開始した。現地に強い人脈があったことや、英語が広く通じること、治安が良好であることも進出の後押しとなった。 個人向けでは、クアラルンプール市内でパーソナルトレーニングジムを1店舗展開するほか、近年マレーシアで人気が高まっているピックルボールのレッスンも提供している。 2025年からは法人向け事業にも取り組みを始めている。従業員向けの健康・予防医療セミナーに加え、体組成測定、姿勢評価、ストレスケアなどを組み合わせたプログラムを提供し、企業の健康経営を支援している。同セミナーは研修の側面が大きいため、プログラムを導入する企業は、政府の人的資源開発基金(HRD Corp)(注) を活用することが可能だ。セミナーの内容は基礎的な栄養カロリーの話、姿勢の話、ストレッチの仕方など幅広いテーマを扱う。ダイエットコンペティションなどを実施することもある。
質問:
健康経営セミナーへのニーズについてどのようにみているか。
答え:
従業員の健康維持は生産性向上や欠勤予防につながるという考えから、従業員向けの健康教育を実施している企業がある。また、マレーシアでは近年保険料・医療費の上昇が続いており、負担の増加も懸念事項となる中、健康経営セミナーへのニーズが高まっている。当社のセミナーは、従来はオフィスワーカー向けが中心であったが、今年は工場からの依頼も出てきている。当社では、日本人が健康経営セミナーの講師を務めることで説得力を持たせている。地場企業では健康経営の概念がまだ十分に浸透していないため、現在は日系企業向けのサービスが事業の中心となっている。

クアラルンプール市内のトレーニングジム(同社提供)

健康経営セミナーの様子(同社提供)

健康意識の高まりと二極化する消費者像

質問:
マレーシアにおける健康意識の高まりや消費者像についてどのようにみているか。
答え:
マレーシアで健康問題を抱える人が多いことの背景には、マレーシア料理が高カロリーであることに加え、ファストフード、お菓子など欧米の食文化が入ってきていることが挙げられる。また、マレーシアでは自動車での移動が中心であるため、1日当たりの平均歩数は日本の約6,000歩に対し、マレーシアでは約4,000歩にとどまっているとの調査結果もある。日常生活の中で身体活動量を確保しにくい環境も影響している。
一方で、近年は健康意識の高まりもみられる。特にこの1~2年でランニングイベントやマラソン大会の開催が増加しており、積極的にスポーツに取り組む層も拡大している。健康維持・増進に積極的な層と、運動習慣を持たない層との二極化が進んでいる。
健康意識に関しては、地方と都市での差もみられる。昨年、マレーシア政府と連携して職業訓練校にトレーナーを派遣し、学生や講師向けの健康啓発プロジェクトを実施した。プロジェクトでマレーシアの地方に行く機会があったが、田舎になればなるほど、健康意識が下がる傾向がみられた。その時に見た町の商店で売っていたものは大半がお菓子やジュースだった印象だ。ただ、このような状況でも、プロジェクトに参加した母親が、子どもの成長段階に合わせた健康や栄養状態に関心を持つケースがみられたのは興味深かった。子どもを持つことが、母親にとっても健康意識が高まる契機のひとつになっていると感じた。
質問:
日本とマレーシアの違いは。
答え:
日本との違いがいくつかある。日本人は健康でいなければならないという意識が根付いている印象があるが、多くのマレーシアの人にとって運動することは1つの趣味という印象だ。日本のような学校体育教育が進んでいないことも背景にあるだろう。また当社の顧客を見る限り、日本人顧客は予約どおりに来店することが多い一方、マレーシア人顧客はキャンセルが多い。フィットネス事業の退会率も日本人以外が比較的高く、マレーシア人顧客は短期で来る方が多い傾向がある。興味が移り変わりやすいということもあるとみている。

法人向け事業を軸に、事業領域の拡大を目指す

質問:
事業運営上の課題は。
答え:
マレーシアでの外部環境として、フィットネス事業は競合が非常に激しい。消費者にとって余暇に使えるお金には限りがあるため、同業のパーソナルトレーニングジムにとどまらず、ヨガ、ピラティスなどのスタジオとも競合になっている状況だ。日本人トレーナーによる指導が受けられるということの認知度は高いが、コンドミニアムにジムが併設されていることや、他のフィットネスジムも多いため、競争環境は厳しい。現在の主要顧客は7~8割が日本人であり、マレーシア人の顧客開拓が課題となっている。現状は、新規のマレーシア人は友人の紹介による入会が多い。
また内部環境として、トレーナーはフリーランスが主流であるため、正社員のトレーナーを雇用することが難しい。加えて、正社員として雇用するためにも、会員数が伸びないとトレーナーの稼働率が低下し、経営面の課題だ。
質問:
競合が激しい中での差別化のポイントは。
答え:
現地顧客獲得のカギは説得力だと考えている。例えば、自身の身体づくりを十分に実践できていないトレーナーによる指導では、顧客に対して説得力がない。また、日系フィットネスジムとして、日本人トレーナーによるパーソナルトレーニングを強みとしている。パーソナルトレーナーの質、お客さんの身体を真剣に変えることへのコミットメント力を大切にしている。
このほか、利便性の面でも独自の工夫を凝らしている。例えば、当ジムではシューズもウェアもレンタル無料で、手ぶらで利用してもらえる環境を整えている。子連れの来店も歓迎している。最近では、飲食店や美容関連のお店との提携や、健康的なメニューのお弁当販売も始めた。
質問:
今後の事業展望について。
答え:
スポーツパフォーマンスの向上にフォーカスし、日本の体育の授業の良い部分をマレーシアに持ち込みたい。特に法人向けの事業にさまざまな可能性があると考える。総合ウェルネス会社という立ち位置を生かし、運動事業を広げていきたい。ローカルの子ども向け、老人ホーム向けなどでコンテンツを検討したい。また、ピックルボールはレッスンだけでなく、6月にトーナメント大会FITOKIO CUPを開催した。11月には第2回の「Shakariki Cup powered by FITOKIO」を開催予定だ。
マレーシア国内では、ペナンやジョホールなど地方中核都市、工場従業員向けなど多方面で健康経営セミナーの展開を進めていきたい。工場従業員向けのセミナーはニーズが高まっているため、マレー語でもセミナーを実施できるよう準備中だ。チャンスがあれば東南アジアの他国向けにも進出できると考えている。

注:
企業から徴収した拠出金を活用して、従業員の研修・スキルアップ・再教育を支援する助成制度。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
菊池 芙美子(きくち ふみこ)
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ茨城、ジェトロ・ヤンゴン事務所(実務研修生)などを経て、2020年9月から現職。

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