多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-健康価値と体験価値が拓く食品関連市場
マレーシア(3)
2026年10月22日
マレーシアの食品関連市場は、(1)健康志向の高まりと、(2)体験・自己表現志向の拡大という2つの消費特性が顕著にみられる市場の1つだ。これら2つの消費特性について同国で事業展開する企業がどのように事業機会と結び付けているのかを把握するため、健康飲料の製造・販売を手掛けるマレーシアヤクルトおよびフードサービス事業を展開するすかいらーくグループに対してヒアリングを実施した。両社の取り組み事例を通じて、健康価値や体験価値の提供に加え、多民族・多宗教社会の特性を踏まえた現地適応が重要であることが分かった。
健康を意識した食品販売が好調、顧客層の拡大も
マレーシアでは近年、健康志向の高まりを背景に、消費者はより健康的な食品や食事を選択する傾向が強まっている。英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナル(以下、ユーロモニター)によれば、アンケート回答者の76%が食品や飲料を選ぶ際に、健康に良い原材料・成分を重視しているという結果が明らかになっている。
こうした背景には、マレーシアでの生活習慣病の増加、健康増進のための政策の導入、コロナ禍後の価値観の変化などがある。政府は国民の健康増進のために、糖分を多く含む飲料を対象とした砂糖税の導入(表参照)や、健康的な食品であることを示す「Healthier Choice Logo(HCL)」制度など各種政策を通じて、消費者による健康食品・飲料の選択を促し、その行動を後押ししている。
在マレーシアの企業からもマレーシア消費者の健康への意識の高まりを裏付ける声が聞かれた。イオンマレーシアによると、減塩商品をはじめとする健康訴求商品の売り上げが伸長しているという。また、オーガニック食品製造販売を手掛ける地場企業のママミ・ショップでは、コロナ禍以降、オーガニック商品や抹茶、クロレラといった健康的なイメージを持つ食材を活用した商品の販売が拡大しているという。さらに、同社によれば、この2年ほどは若年層の間でも健康意識の高まりがみられ、健康関連食品の購買層が広がりつつある。こうした現状を踏まえると、HCLの取得、減塩・減糖、健康イメージのある食材の使用など、「健康への訴求」が顧客を獲得する上で重要な要素になると考えられる。
| 導入時期 | 健康制度 | 概要 |
|---|---|---|
| 2017年4月 | 「Healthier Choice Logo(HCL)」(任意) |
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| 2019年7月 | 砂糖入り飲料の物品税(義務) |
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| 2021年4月 | 「MyChoice Logo」(任意) |
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| 導入予定 |
「Nutri-Grade」 (義務化前提に制度化予定) |
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出所:マレーシア保健省、マレーシア税関局資料からジェトロ作成
外食と体験価値のかけ合わせが差別化戦略に
マレーシアでは、外食市場が拡大している。背景には都市化の進展や共働き世帯の増加に加え、生活様式の変化がある。マレーシアの消費者は「料理をする時間がない」と感じる人が多く、特に若年層では「料理以外のことに時間を使いたい」との意識もみられる(注) 。こうしたことから、自宅で調理する代わりに外食を利用する機会が増えており、食事に占める外食の比重は高まっている。
しかし、消費者が外食に求める価値は利便性だけではない。消費者は旅行やレジャーに限らず、日常生活のさまざまな場面で体験価値を重視する傾向がある。こうした消費特性を踏まえると、外食は食事を済ませるための手段ではなく、家族や友人との交流を楽しみ、娯楽や特別感を味わう場としての役割も果たしている。このように、外食事業は消費者の求める「身近な体験価値」と親和性が高い分野であり、マレーシアで外食事業を展開する際は、価格や利便性だけでなく、楽しさや特別感、共有したくなる体験といった価値をいかに提供するかが有効な差別化戦略の一つになると考えられる。
科学的根拠と対面での啓発を重視するヤクルト
健康志向の高まりを事業機会につなげている企業の1つが、乳酸菌飲料を製造・販売するマレーシアヤクルトだ。同社は2004年にマレーシアで事業を開始し、スランゴール州シャーアラムに本社、スンビラン州セレンバンに工場を置く。
同社の特徴は、商品の科学的根拠を重視するとともに、その価値をヤクルトレディを通じて消費者や医療関係者に丁寧に伝えている点にある。学校では腸の働きや栄養をテーマとする出前授業を実施しており、2025年には1,277校で開催した。また、教育省と連携した食育・運動プログラムの展開に加え、企業や地域コミュニティーでも健康講座を実施している。さらに、大腸がんや乳がんの予防啓発イベント、医師・栄養士を招いた講演などを通じて、商品を販売するだけでなく、健康に関する情報を継続的に発信し、消費者の健康意識の向上に取り組んでいる。
医療・研究機関との連携も進めている。医師や栄養士への研究成果の紹介を通じ、国内63病院で同社商品が病院食として採用されている。また、現地大学との共同研究、医学界への協賛、日本とマレーシアの専門家の交流支援も行う。こうした科学的根拠の蓄積と専門家との関係構築が、「信頼性」や「高品質」といった消費者評価につながっているという。
商品面でも、マレーシアの健康課題や消費者ニーズへの対応を進めている。同国では肥満や糖尿病などの生活習慣病が課題となっていることから、通常商品より糖分とカロリーを抑えた「ヤクルトエースライト」を展開している。また、イスラム教徒が人口の過半を占める市場で幅広い消費者に商品を届けるため、ハラル認証を取得している。さらに、HCLなどの健康訴求表示も活用しているが、こうした商品の特徴や適切な飲用方法について継続的に消費者へ説明することが重要だと同社はみている。
このため、同社では小売店での販売に加え、ヤクルトレディによる訪問販売を重視している。東マレーシアを除くマレー半島では約440人(2025年12月末現在)のヤクルトレディが活動し、商品の特徴を対面で説明しながら家庭に届けている。
主なターゲットは、家族や子どもの健康を意識し、食品購入の主導権を持つ20~45歳の女性だ。コロナ禍以降は、従来販売が多かった中華系に加え、マレー系消費者も増えているという。今後は、ハラル対応やマレー語、中国語、英語による情報発信に加え、よりヤクルトがマレーシア国民へ浸透するよう新商品の投入も検討する計画だ。

体験価値を捉えるすかいらーくの現地戦略
すかいらーくグループは、マレーシアで2つの事業を展開している。すかいらーくマレーシアは、食べ放題型しゃぶしゃぶレストラン「しゃぶ葉」を展開、SUKIYA SDN. BHD.は日本式しゃぶしゃぶ・すき焼きレストラン「SUKI-YA(すき屋)」を展開している。しゃぶ葉はクアラルンプール首都圏のほか、ペナン州とジョホール州を含む8店舗、すき屋はクアラルンプール首都圏を中心に20店舗を展開している。しゃぶ葉は豚肉なども提供しており、主に中華系消費者の利用が多い一方、すき屋は豚肉やアルコールを提供せず、主にマレー系ムスリムを対象としている。顧客層の異なる2ブランドを展開し、多民族・多宗教社会の幅広い需要を取り込んでいる。

同社がマレーシアを東南アジア初の進出先に選んだ背景には、市場の成長性や日本食への関心に加え、火鍋をはじめとする鍋料理が広く親しまれていたことがある。消費者は、限られた予算でも質や味を重視し、単に空腹を満たすだけではなく、食事に体験価値を求める傾向が強くなっているという。
こうした需要を取り込む上で、しゃぶ葉が強みの一つと位置付けるのが、食べ放題の野菜だ。同社の伊藤氏は「マレーシアでは、意識しなければ十分な野菜を取ることが難しい一方、生野菜を食べる習慣は必ずしも広くない」という。このため、しゃぶしゃぶは野菜を無理なく取れる食事として訴求できるという。野菜には、品質に定評のあるマレーシア中部のキャメロンハイランド産を可能な限り採用し、SNSでも、野菜を山盛りにした皿を肉とともに画面に入れるなど、新鮮で豊富な野菜を楽しめることを意識的に伝えている。
また、食材の品ぞろえだけではなく、消費者が自ら選び、組み合わせる過程も重要な体験価値と捉えている。例えば、薬味やたれは日本の店舗の約1.5倍の種類を用意している。さまざまな食文化が共存するマレーシアで、来店客が自分好みの組み合わせを作れるようにするためだ。デザートコーナーでも、消費者が自分で仕上げる楽しさを取り込んでいる。現地ではなじみが薄かったホイップクリームを絞り袋に入れて用意し、店頭で使い方を示したところ、来店客が自作のパフェを撮影してSNSに投稿する動きが広がったという。SNSで共有された体験が新たな来店を呼ぶ好循環が生まれている。

伊藤氏は、現地化に当たっては、中華系の火鍋に過度に寄せるのではなく、日本式しゃぶしゃぶとしての軸を維持しながら、現地の嗜好(しこう)に合う選択肢を加えることが重要だとしている。
健康価値・体験価値の提供とローカルニーズへの適応がカギ
マレーシア市場では、「健康価値」と「体験・自己表現価値」の双方が重要な競争軸となっている。消費者は健康的な食品や飲料への関心を強めている一方、外食分野では食事そのものが楽しさや特別感を伴う体験として捉えられつつある。
今回のヒアリングからは、マレーシア食品市場への参入・事業展開にあたって、二つの点が重要であることが分かった。第一に、日本ブランドの強みを生かしながらも、現地消費者の嗜好や消費行動に合わせた商品・サービスの提供が求められる。マレーシアヤクルトの低糖商品やハラル対応、「しゃぶ葉」の豊富な野菜やカスタマイズ性の高いメニューにみられるように、日本の商品やサービスをそのまま持ち込むのではなく、現地市場のニーズに適応させることが重要だ。
第二に、多民族国家であるマレーシアでは、ターゲット層を明確にした上で事業戦略を構築することも重要だ。すかいらーくグループがターゲットに応じて異なる業態を展開しているように、民族や宗教による消費特性の違いを踏まえた対応が求められる。この点は、同社の事例にとどまらず、他社ヒアリングでも同様の傾向が確認された。特にハラル認証はマレー系ムスリム市場への訴求力を高める一方、商品やサービスへの制約も伴うため、自社のターゲット層との整合性を十分に検討する必要がある。
日本企業には、日本ならではの品質やブランド力を維持しながら、健康価値と体験価値を付加価値として提供し、現地市場への適応を図ることが求められる。多民族・多宗教社会という市場特性を踏まえた戦略を構築できるかが、市場開拓のカギになるだろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
菊池 芙美子(きくち ふみこ) - 2009年、ジェトロ入構。ジェトロ茨城、ジェトロ・ヤンゴン事務所(実務研修生)などを経て、2020年9月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
籏 あかね(はた あかね) - 2026年、ジェトロ入構。アジア大洋州課でASEANおよびオセアニア関係の調査を担当。





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