多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-チーズを日常の食卓へ(メグミルク)
インドネシア(4)
2026年10月27日
雪印メグミルクと現地企業ロダマスの合弁会社、メグミルク・スノーブランド・インドネシア(Megmilk Snow Brand Indonesia)は、2012年に設立され、加工チーズをインドネシアで製造・販売してきた。同社の試算では、同国の1人当たりチーズ消費量は原料チーズ換算で年間約130グラムと、日本の約20分の1にとどまる。チーズを食べる習慣のある人も、主要10都市で約3割にすぎない。まだ日常の食卓に根づいていないチーズの購入を広げるには、用途、価格、流通をどう整えればよいのか。10年以上にわたり現地生産と商品開発を続け、現地企業との合弁による販売網も構築してきた同社の経験は、未成熟な消費市場を開拓する上での課題と判断を知る手掛かりになる。同社の福田哲也副社長に、消費者がチーズを選ぶ基準、商品開発、合弁運営、原料調達を聞いた(取材日:2026年7月16日)。

消費量は少ないが市場は拡大、競争は激しさを増す
- 質問:
- インドネシアのチーズ市場をどうみているか。
- 答え:
- 当社の試算では、チーズ消費量は原料チーズ換算で年間3万~4万トン、1人当たり約130グラムにとどまる。日本の約2.5キログラム、マレーシアの約1キログラムと比べても少ない。ただし、この国では製品に占める原料チーズの割合が低い商品が多い。この割合を平均25%程度とみると、チーズ製品としての消費量は単純換算で12万~16万トン、1人当たり年間約500グラムとなる。それでも伸びしろは大きい。2025年に主要10都市の約1,200人を対象に実施した自社調査でも、チーズを食べる人は約3割だった。
- 一方、市場は緩やかに拡大している。2020年はコロナ禍でチーズ需要も落ち込んだが、2021年以降は成長軌道に戻り、今後も、年1桁台の成長ペースが続くとみている。市場のメインはブロックタイプで、市場の約8割を占めており、チーズケーキなどの流行とともにクリームチーズも伸びている。
- また、2026年には、政府の無償栄養給食事業(注) 向けに当社のスライスチーズが採用され、新たな需要が生まれている。こうした給食向けの需要増と、家庭などでの購入の広がりは分けて捉える必要がある。
- 質問:
- 競合環境はどう変わり、その中で自社をどう位置付けているか。
- 答え:
- 当社がインドネシア市場に参入した2013年当時は、外資系のクラフト・ウルトラジャヤ・インドネシアが展開する「クラフト」ブランドがほぼ独占する市場だった。その後、地場企業のほか、日系や欧州系のメーカーなど外資系企業が参入し、現在は「プロチーズ(Prochiz)」を展開する地場メーカーのムリア・ボガ・ラヤが首位となっている。プロセスチーズの技術だけでは差が付きにくくなり、価格と提案力が競争力の差になっていると捉えている。
- 当社は、日本のプロセスチーズ技術とロダマスの販売網を生かして参入し、中間層向けの家庭用と食品メーカー向けなどの業務用を展開している。価格や現地の味の好みを分析し、クリームチーズなどの新たな用途を提案し、需要を創出することで、市場を広げる役割を担いたい。
料理に合わせる市場、味と価格が購入の決め手
- 質問:
- 消費者はチーズをどのように食べ、何を基準に選んでいるか。
- 答え:
- チーズをそのまま食べる人はほとんどおらず、パン、料理、菓子と合わせて食べる。当社調査では、「買ってきた食品へのトッピング」が76%、「トーストなどの朝食」が55%で、主な利用場面だった。市場では、そのまま食べるタイプの商品が定着しなかった例もある。日常の料理の中でどのように食べるのかを、商品を売る前に分かっていただく必要がある。
- 購入の決め手として重視されるのは、味や香りの良さと価格だ。健康を主な理由に購入する消費者は、まだ多くない。また、日本の技術は、品質を安定させる上で強みになるが、消費者がまず見るのは味、価格、料理への使いやすさだ。日本ブランドというだけで高い価格が受け入れられるわけではない。
- 質問:
- 食べ方を広げるため、商品開発や販売促進で重視していることは。
- 答え:
- テレビCMに大きな予算を投じるのは難しく、TikTokやInstagramで、食べ方や料理レシピを発信している。ただし、広告だけでは利用習慣は定着しない。そこで、そのまま絞り出せるソフトタイプなど、家庭で扱いやすい形を増やし、具体的な料理と組み合わせて提案する。流行の移り変わりが速いため、商品を出すスピードと、反応をみながら仕様や訴え方を見直すことも重要だ。
原料の配合と容量で価格を調整
- 質問:
- 価格に敏感な市場で、商品をどのように作り分けているか。
- 答え:
- 家庭用と業務用の売上比率はおよそ4対6だ。家庭用の主力は、料理やパンに幅広く使える汎用タイプのプロセスチーズで、中間層を広く狙っている。上位商品のチェダーシリーズは、主力商品の約2倍の価格で、中間層の中でも所得が高い層を対象とする。さらに所得が高い層は、より高価な輸入チーズを選ぶとみている。一方、市場には1個1万ルピア前後(1万ルピア=約90円)の他社商品もあり、これは伝統市場を利用する消費者にも手が届く価格帯だ。
- 価格は、製品全体に占める原料チーズの割合と容量で大きく変わる。チーズの配合率は商品ごとに表示され、当社品は10%~80%台と幅広く取りそろえている。一方最低価格帯では、チーズの配合率が1桁%台の商品もある。こうした低価格の商品には植物油脂や炭水化物なども多く使われており、容量も価格帯での差別化要因になる。消費者が受け入れる価格を維持するため、容量を調整することも一般的だ。日本と同じ原料配合や容量をそのまま持ち込むと、日常的に買える価格から外れてしまう。
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同社の家庭用チーズ商品(メグミルク・スノーブランド・インドネシア提供) - 質問:
- 業務用市場では何が求められるか。
- 答え:
- 食品メーカー、ベーカリー、カフェなどが主要顧客で、需要は総じて伸びている。業務用は家庭用と並ぶ市場の柱だ。顧客が重視するのは、価格と品質だけではない。必要な量を必要なときに安定して供給できるかどうかだ。新しいメニューへの採用は需要拡大につながる一方、原料が入らなければ顧客側の製造も止まる。安定供給も取引継続を左右する大切な条件だ。
現地企業が販売、日本側が生産・開発
- 質問:
- ロダマスとの合弁を選んだ理由と役割分担は。
- 答え:
- 2012年の設立以来、販売とマーケティング、人事はロダマス側、生産と品質管理および開発は日本側が主に担っている。ロダマスは食品流通網と資本力を持ち、日系企業との合弁経験も長い。参入当時は先行する外資1社の存在感が大きく、ゼロから販売網をつくるより、ロダマスの基盤を使って一定の規模で市場に入ることが重要だった。
- 従業員は約200名で、日本人駐在員は5名。このうち経営に参画する日本人は、副社長である私1名だ。現地の商習慣やバイヤーとの関係を理解するロダマスが販売を担い、雪印メグミルク側は生産、品質、開発を担う。双方の強みに沿って役割を分けることが、合弁事業を機能させるための前提となる。
- 質問:
- 商品開発はどこが主導しているか。
- 答え:
- 商品開発の権限は現地法人にある。雪印メグミルク日本本社の商品をそのまま持ち込むのではなく、現地の料理、価格帯、競合商品を調べて仕様を決める。ただ、権限を現地法人に持たせたとしても、市場調査が甘ければ、日本の味や技術を優先してしまう。当社の販売が伸び悩んだ時期を振り返ると、課題は販売力よりも、商品開発とマーケティングの現地化にあったとみている。
常温流通と原料調達が事業を左右
- 質問:
- なぜ常温で流通できるプロセスチーズが中心なのか。
- 答え:
- 全国・全所得水準で見ると、家庭の冷蔵庫普及率はまだ3~4割程度という感覚だ。一方、当社調査では、都市部のチーズ購入者の8割以上が冷蔵保管している。ただし、販売を担うディストリビューターの設備は常温が中心だ。常温プロセスチーズは、家庭の保管環境と流通設備の双方に合わせた商品だ。
- 現在の顧客層へ広く届けるには、常温で運び、保管し、十分な賞味期限を確保できることが優先される。将来、冷蔵流通が広がればチルド商品の可能性も出てくるが、現時点では主戦場ではない。商品設計では、味や品質だけでなく、販売先まで無理なく届けられるかを最初から考える必要がある。
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常温の売り場に並ぶ同社商品(メグミルク・スノーブランド・インドネシア提供) - 質問:
- 原料調達など、事業運営上の難しさは。
- 答え:
- チーズ原料は輸入への依存が高く、輸入許可や提出書類の変更で、予定どおり入らないことがある。2026年も手続きの組み直しにより、数カ月分の原料搬入が遅れる事態があった。原料の確保、在庫水準の維持、輸入手続きなどに関する行政対応を、別々ではなく一体の経営課題として管理する必要がある。
- 合弁相手の行政対応力は重要だが、任せきりにはせず、当社もサプライチェーン担当に日本人を起用し、調達リスクを経営判断の場で直接チェックできる体制にした。販売網を持つパートナーがいても、原料が入らなければ事業は続かない。
新しい用途を広げ、現地で判断する
- 質問:
- 今後3~5年、どのように市場を育てる考えか。
- 答え:
- クリームチーズ市場などの、新たな食シーンの創造・提案を広げたい。新しい商品を出せば競合も追随するが、利用場面が増えてカテゴリー全体が広がるのであれば、市場の育成につながる。高品質なチーズをそのまま味わう食べ方の啓発は、将来の課題として時間をかけて取り組む。
- 質問:
- 日本企業がインドネシアで事業を進める際、何が重要か。
- 答え:
- 3つある。第1は、日本でうまくいった商品をそのまま持ち込まず、この国の食べ方、価格、流通に合う手を打つこと。第2は、意思決定を速めること。第3は、計画を固定せず、現地で試した結果を商品や販売方法に反映することだ。現地法人に権限を与えるだけでなく、マーケティングとサプライチェーンの情報を経営判断につなげる必要がある。
用途、価格、流通を一体で考える
インドネシアのチーズ市場では、消費量が少ないため市場拡大の余地はあるものの、それだけで必ずしも商機につながるわけではない。同社の説明からは、所得層によって購入する商品の価格帯が異なり、それぞれの予算の中で味と使いやすさを重視して選ぶ消費者の姿が浮かび上がる。家庭でどの料理に使われるのか、いくらなら繰り返し買えるのか、常温でどこまで届けられるのか。日常的な購入を広げるには、これらを合わせて考える必要がある。同社の事例は、販売を現地パートナーに任せつつ、商品開発と原料調達の判断を現地で速める必要性を示している。メグミルク・スノーブランド・インドネシアは、料理に取り入れやすい商品を増やしながら、チーズの利用機会を広げていく方針だ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ) - 2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジャカルタ事務所
山田 研司(やまだ けんじ) - 2016年、ジェトロ入構。企画部地方創生推進課(現、国内事務所運営課)、ナイロビ事務所、ジェトロ山梨、企画部企画課を経て、2025年10月からジャカルタ事務所で調査員として勤務。








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