多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-良品計画が語る、持続的成長に向けた市場戦略
インド(6)

2026年10月22日

本稿では、インド進出日系小売企業「良品計画」の事業内容について述べる。良品計画は、2015年にインドの財閥系リライアンス・グループ傘下の「リライアンス・ブランズ(Reliance Brands )」と提携し、翌2016年に「MUJI 無印良品」の店舗運営を開始した。現在、ムンバイ(2店舗)とデリー首都圏のノイダ(1店舗)を展開している。執筆にあたり、良品計画リライアンス・インディア(Ryohin-Keikaku Reliance India)のチーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)である藤本健氏に近年のインド小売市場の変化や顧客層の特徴、事業展開にあたっての障壁や対応策などについて聞いた(取材日:2026年7月24日)。


右から4番目が藤本氏(良品計画提供)

ムンバイ市内にある良品計画の店舗(ジェトロ撮影)

変化する消費市場、消費ニーズの高度化

質問:
インド市場に参入した背景は。
答え:
経済成長に伴う中間所得層の拡大や都市化の進展を背景に、消費者の関心が「生活の質の向上」へと高まっていたことが進出の背景だ。当社は衣服、生活雑貨、ヘルスケア商品など、日常生活に関わるさまざまな商品を展開している。シンプルかつ機能性の高い商品を通じて、インドの人々の日常生活をより豊かにすることを目指している。現在は輸入品が中心だが、中長期的には現地生産の拡大を視野に入れている。インドには綿をはじめとした天然素材があり、製造基盤が整っていることから、現地生産を拡大することで、価格競争力や供給力を高めるだけでなく、同国の産業発展にも貢献できると考えている。
質問:
インドの消費市場は過去5~10年でどのように変化したか。
答え:
最も大きく変わったのは、消費者の「選択肢」と「情報量」だ。近年は、国際ブランドの進出に加え、EC(電子商取引)やSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の普及により、最新のトレンド情報をタイムリーに入手できるようになった。その結果、「海外の有名ブランド」「日本の有名ブランド」といったブランド力だけでは選ばれにくくなっているのが現状だ。一方で、消費者自らが付加価値を認めた商品には支出する傾向が強まっており、品質、デザイン、機能性などがより重要視されつつある。

SNSがもたらす購買行動の変化

質問:
主な顧客層は。
答え:
都市部に住む中間層からアッパーミドル層をターゲットとしており、特に海外ブランドや最新トレンドへの関心が強い20~40代を重視している。ただし、MUJIは特定の年齢層に限定せず、衣料品、文房具、収納用品、スキンケア用品など幅広いラインアップを展開し、学生からファミリーまで対応している。インドでは「価格に見合う価値」を明確に示すことが重要であると感じている。店頭では、商品の原産地や素材、機能などについて積極的に質問する顧客も多い。そのため、接客時には素材や機能といった商品の特徴を伝えることはもちろん、消費者目線に立ち、日常生活の中で「どのようなメリットをもたらすのか」を丁寧に伝えることが求められる。
質問:
日本の消費ニーズと比べて異なる点は。
答え:
ブランドに対する考え方が大きく異なる。前述のとおり、昨今は多様な情報の流入などにより、単なるブランド名の力だけでは購入要因として不十分になった一方、インドは他国と比較してもブランドの認知度やステータス性自体が購買判断に及ぼす影響が大きいとみている。
また近年、インド人インフルエンサーが日本の大手雑貨店を訪れて日本や韓国の化粧品を紹介するなど、SNSを通じた情報発信が活発化している。インスタグラムをはじめとするSNSの影響力は広がっており、海外ブランドに対する心理的ハードルも以前と比べると低下している。その結果、今日のショッピングモールでは「SNSで見たことがある商品」として購買につながるケースが増加している。

企業ブランド価値を維持したローカライズ戦略

質問:
事業展開にあたって苦労したことは。
答え:
大きく分けると、「規制」「コスト」「サプライチェーン」「組織」の4点だ。
規制面では、BIS認証(2026年6月4日付地域・分析レポート参照)をはじめ、輸入規制、表示規制、化粧品・食品関連規制など、商品ごとに異なる制度への対応が求められる。日本や他国で販売している商品を、そのままインドで販売できるとは限らない。コスト面では、輸入品には関税や物流コストなどが課されるため、日本や他国と比較して販売価格が高くなる傾向がある。一方、インドの消費者の価格感度は高く、ブランド価値だけで価格差を正当化することは容易ではない。そのため、価格と提供価値のバランスを適切に保つことが重要だ。
サプライチェーン面は、輸入に伴うリードタイムに加え、通関手続きや各種認証取得に時間を要するため、市場環境の変化に対してタイムリーに商品を供給することが困難な場面もある。組織面では、インド市場は変化のスピードが速いため、現地で迅速に意思決定を行う組織体制を構築しなければならない。また、日本本社と市場環境や事業運営のスピード感を共有し、「良品計画として維持すべきブランド価値」と「現地市場に合わせて柔軟に変えるべき要素」を明確化していくことが重要だ。

インド消費市場で持続的成長を実現するために

質問:
インド消費市場への参入を検討する際、重要なポイントは。
答え:
最も重要なのは、「インドは巨大市場が故に進出すれば収益が見込める」と安易に考えないことだ。人口規模は非常に大きいが、ターゲット顧客の数や地域ごとに異なるニーズ、価値観などを的確に捉えるためのマーケティング戦略が必要だ。特に重要なポイントは、次の5点だ。
  1. ターゲット顧客を具体的に定義する。
  2. 関税、物流コスト、認証費用などを含む価格構造について十分に収益性を検証する。
  3. 商品ごとに異なる規制や認証要件を理解する。
  4. 攻め(市場環境に適応した柔軟性)と守り(ブランド価値の維持)のバランスを取った経営を行う。
  5. 短期的な収益だけでなく、中長期的な視点で市場の動向を捉える。
また、インドは単一の巨大市場ではなく、異なる消費者層、都市、文化が共存する「複数市場の集合体」として認識することが大切だ。そのためには、店舗数の拡大や販売目標に加え、「ブランド認知力の向上」「顧客理解の深化」「人材育成」「現地生産体制の構築」など、事業基盤を段階的に強化していかなければならない。
以上のような複雑性を十分に理解した上で、長期的な視点から事業を構築していくことが、インド市場において持続的な成長を実現するための重要なポイントとなる。
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。

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