アルジェリアでミッション実施
北アフリカの再エネ(2)

2025年4月1日

ジェトロは2月17~19日、アルジェリアで再生可能エネルギー・グリーン水素ミッションを実施し、日本の企業14社、3機関が参加した(2025年3月3日付ビジネス短信参照)。ミッションでは、アルジェリア側の日本企業のプロジェクト参入への期待や、再エネ、海水淡水化における日本の設備機器・技術への関心の高さがうかがえた。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)も、世界でも有数の太陽光の潜在性と豊富な風力を有するアルジェリアの再エネ分野への投資に大きな可能性があるとしている(2022年10月付調査レポート「アルジェリアにおけるグリーンエネルギー分野のビジネスチャンスPDFファイル(1.76MB)」、2022年11月7日付地域・分析レポート参照)。そこで本稿では、アルジェリアに焦点を当て、ミッションの様子と併せ、同国の再エネの現状について概説する。

アルジェリアと再エネ

北アフリカに位置するアルジェリアはアフリカ最大の面積(238万平方メートル)を誇り、首都アルジェのある北部は、夏は暑く乾燥し、冬は雨が多く穏やかな地中海性気候に、その他国土の大部分は砂漠性気候に属する。2023年のGDPは2,399億ドルで、IMFのデータによるとアフリカ大陸で第4位の経済規模を誇り、1人当たりGDPも5,000ドルを超える。基礎的経済データは表1の通り。人口も増加傾向で、30歳未満の若年層が60%を占める。天然ガスなどの豊富なエネルギー資源を有し、例えばガソリン価格は1リットルあたり0.35ドルと、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなど中東の産油国にも引けを取らず、天然ガスの価格も世界で4番目に安いという。主要産業は石油・天然ガス関連産業で、主要な輸出品目も石油や天然ガスなど炭化水素が占める。日本の財務省貿易統計によると、日本の2024年におけるアルジェリアからの輸入品目の最多金額は鉱物性燃料で、139億5,000万円(石油および同製品:96億3,000万円、天然ガスおよび製造ガス:42億9,000万円)と、輸入品目のほぼ100%を占める(注1)。

表1:アルジェリアの概況

経済概況(2023年)
項目 内容
GDP 2,399億ドル
国民1人当たりGDP 5,176ドル
実質GDP成長率 4.10%
インフレ率 9.30%
インフラ
項目 内容
鉄道 5,316km
道路 12万7,000km
空港(うち国際空港)数 36(20)
海港(うち商業用)数 50(10)
携帯電話普及率 98%
電化率 99%
ガス普及率 64%
生産コスト
項目 内容
ガソリン価格 0.35ドル/L
ディーゼル価格 0.218ドル/L
LPガス価格 0.068ドル/L
月間平均給与 317ドル
法定最低賃金 148ドル

出所:アルジェリア投資促進庁(AAPI)資料を基にジェトロ作成


首都アルジェの様子、アルジェには約700万人が暮らす(ジェトロ撮影)

アルジェリアでは、政府が国内の石油やガス資源の使用を最小限に抑え、代わりに国際市場への輸出を増やすことを計画している。また、人口増加や製造業への投資などによる国内の電力需要の高まりもあり、天然ガスなどから再エネへ切り替える「エネルギー・トランジション」政策を推進している。再エネへの切り替えは、気候・環境問題への対処に有効であるだけでなく、国内産業の発展にもつながり、社会・経済双方の利益をもたらす可能性があると政府は認識している、とIRENAも指摘する。一方、国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年のアルジェリアの最終エネルギー消費における再エネの割合は0.11%とアフリカの中で34番目、2022年の再エネによる発電量の割合は0.7%と同地域で33番目にとどまっている。なお、同国の2000年以降の再エネの発展の推移については図のとおりで、2022年は太陽光発電が再エネによる総発電量の95%を占めている。

図:アルジェリアの2000年以降の再エネの発展(単位:GWh)
2015年頃から風力や太陽光が出てきており、IEAの最新の統計では、2022年は太陽光発電が再エネによる総発電量の95%を占めている。

出所:IEAからジェトロ作成

2025年2月にジェトロは、このようなアルジェリアの再エネ分野のポテンシャルを踏まえ、同国への投資やビジネスの可能性を現地で視察するため、再エネ・グリーン水素に関するミッションを派遣した。関係省庁や国営エネルギー会社など、同国の再エネ拡大のキープレーヤーからの情報収集や対話が行われた。

大臣や国営企業CEOと面談

ミッションでは初めに、ムハンマド・アルカブ・エネルギー・鉱業・再生可能エネルギー相と面談を行った。エネルギー・鉱業・再生可能エネルギー省は2021年4月に「再エネ国家計画」を発表し、2035年をめどに太陽光発電容量を15ギガワット(GW)にする目標を設定した。同相は、再エネ分野については本計画に加え、アルジェリア全域を電力網で接続させる計画があることに言及した。計画の推進、実現のために日本の技術、日本企業の協力が必要であることを強調し、再エネ開発を最優先事項とするアブデルマジド・テブン大統領も同じことを明言していると紹介した。水素分野でも、グレー水素・グリーン水素・ブルー水素(注2)の生産開始に向け、日本企業に協力を呼びかけた。他にも、鉱山分野で今後1万以上の産地発見が予測されるため、開発に力を入れることや、海水淡水化分野で装置が既に14基稼働し、直近で加えて7基が稼働予定であることについての説明もあった。特に海水淡水化については、プラント向けポンプを日本の酉島製作所から納入したことにも触れ、この分野での日本企業との協力関係を高く評価した。


エネルギー・鉱業・再生可能エネルギー省での面談の様子(ジェトロ撮影)

同17日には、国営炭化水素公社ソナトラックも訪問し、ラシッド・ハシシ最高経営責任者(CEO)らと面談した。同社は、アフリカで最も収益をあげる石油会社である。2024年7月に地球温暖化対策として「新気候戦略」を発表し、再エネ活用を強化するとしており、事業化に必要な技術導入を狙い、欧州各国を中心に連携を進めている。アルジェリアはグリーン水素の生産ポテンシャルが高く、欧州などに比べると生産コストも安価であるため、今後も風力や太陽光などによるグリーン水素生産向けに、国内で機器製造に取り組む方針が述べられた。同社は同年10月にはグリーン水素関連で複数の欧州企業と合意書を締結しており、アルジェリアからイタリアやオーストリアを通る回廊でドイツでのグリーン水素需要に対応する計画なども紹介された(2024年10月21日付ビジネス短信参照)。そして、ハシシ氏は面談の最後に、中国や米国、インドと同様に日本からのアルジェリアへの投資、進出を強く訴えた。


ソナトラックでの面談の様子(ジェトロ撮影)

また、他にも、再エネ国家計画の管理と運営を担う国営電力公社ソネルガスやソナトラック傘下の海水淡水化公社AEC、ソーラーパネルの製造を行い、太陽光発電の入札も落札している民間企業ゼルグーン・グリーン・エナジー(Zergoun Green Energy)への訪問も行われた。


AECではチャヘド・ブラヒム副社長と面談(ジェトロ撮影)

ジェトロが投資環境セミナーを開催

ミッションでは、ジェトロ主催の「アルジェリア再エネ・グリーン水素・海水淡水化部門におけるビジネス・投資環境セミナー」も開催された。セミナーには、AAPI長官付ダイレクターのイマネ・トゥミ氏やアルジェリア・グリーンエネルギー・クラスター(注3)のマネージング・ダイレクターのブハルファ・ヤイシ氏が登壇した。

トゥミ氏は冒頭、アルジェリアの概況について紹介した(表1参照)。同国には若く優秀な人材や広範囲におよぶインフラがあることに加え、エネルギー産出国であるため生産コストも競争力があるとアピールした。また、同国の水素分野のビジネスチャンス、再エネの潜在性(表2参照)についての説明もあり、15ギガワット(GW)の太陽光発電プロジェクトのうち、既に3GWが建設中であることや、グリーン水素を生産するプロジェクトが進行中であることが報告された。水素については、2025年までのグリーン水素規制枠組みの設定や、2040年までにグリーン水素、ブルー水素を産業用に移行するプロジェクトを実施することなどを計画しているという。さらに同氏からは、投資環境が改善され(2022年10月5日付ビジネス短信参照)、外国人投資家にとって参入しやすくなっていることが強調された。

表2:AAPIから紹介のあった再エネ分野におけるアルジェリアの現状

潜在性
項目 内容
熱源数 240
年間太陽放射時間 3,900時間
最大風速 7m/s
既存インフラ
項目 内容
再エネ設備容量 600MW
送電網 3万4,409km
電力供給網 39万6,802km
国内パイプライン 406石油換算トン
1日あたりの淡水化量 210万㎥

出所:AAPI資料からジェトロ作成


講演をするAAPIのイマネ・トゥミ氏(ジェトロ撮影)

ヤイシ氏からは、グリーンエネルギー・クラスターの説明やアルジェリアの再エネ分野の入札結果など現状が紹介された。同氏は、同国の再エネにおけるローカルコンテンツ(原材料調達)の割合が約45%に達していることに言及した上で、そうした中でも、日本企業はバリューチェーンのあらゆる部分で投資可能であることを強調した。アルジェリア企業は他の国の企業同様に、日本企業からの協力に関心を持っていると述べた。また、質の高いインフラも必要であるとし、特にプロジェクトにおいて、インフラの建設だけでなく、それを運営・管理する専門的な人材が必要であるとした。そして、同氏は講演の最後に、同国は太陽光と風力を組み合わせることで、他の地域でも競争力のある電力を生産できる可能性があると、同国の再エネ分野のポテンシャルも強調した。

また、セミナー後のネットワーキングでは、日本企業とアルジェリア側の参加者が熱心に話し込む様子も見られた。


講演をするアルジェリア・グリーンエネルギー・
クラスターのブハルファ・ヤイシ氏
(ジェトロ撮影)

セミナー後のネットワーキング様子
(ジェトロ撮影)

アルジェリアと日本企業

ミッションに参加した日本企業からは、政府関係者やキーパーソンとなる企業との面談などをとおして、アルジェリアの再エネやグリーン水素における実態把握だけでなく、アルジェリア側のニーズや日本への期待、再エネや水素で優位性を持つことを実感したとの声があった。一方で、面談では積極的なロビイングや安価な応札を行う中国やトルコを始めとする新興国企業も競合相手になるなどの実態も分かった。また、ビジネスへの規制が今後の投資、進出のハードルとなると感じた参加者もいた。IRENAも、同国で再エネ割合を高めるための政府への提言として、(1)再エネ政策の実施戦略の明確化、(2)再エネプロジェクトの所有権ルールの検討、(3)送電網開発戦略の策定、(4)国際的な再エネ開発者と地元産業の連携強化、の4つを挙げており、今後のビジネス環境の改善も期待される。

外務省が公表した、2023年10月時点でアルジェリアに進出している日系企業拠点数は23で、アフリカの中で10番目となっている。同国は、再エネや水素、電力の輸出市場でもある欧州に地理的にも近く、コスト面でも優位性を持つ。また、石油や天然ガスなどのノウハウやインフラがあることから、それを再エネやグリーン水素に活用・転用可能という強みも持つ。日本企業の技術力の高さがアルジェリア側から評価されていることもあり、投資・進出方法次第では、日本企業にもビジネスチャンスがあると考えられる。2025年8月に第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を控えており、近隣の輸出市場である欧州への再エネとグリーン水素の展開を積極的に目指すアルジェリアと日本企業の今後の連携拡大が期待される。


注1:
日本からの輸出品目について、2024年の1年間で最も金額が大きかった品目は一般機械(9億4,000万円)やポンプおよび遠心分離機(6億3,000万円)などを含む機械類および輸送用機器(13億円)で、鉄鋼(3億6,000万円)やゴム製品(1億円)などを含む原料別製品(4億8,000万円)が続いている。
注2:
資源エネルギー庁によると、化石燃料をベースとしてつくられた水素は「グレー水素」、製造工程のCO2排出をおさえた水素は「ブルー水素」、製造工程においてもCO2を排出せずにつくられた水素は、「グリーン水素」と呼ぶ。
注3:
企業、大学、研究センターなどが参画する、アルジェリアのエネルギー転換を支援する業界団体。2017年に太陽光エネルギー・クラスター(CES)として設立され、2022年に組織名が現在の名称に変更された。

北アフリカの再エネ

  1. 再生可能エネルギーの現状と課題
  2. アルジェリアでミッション実施
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと)
2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。