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特集:米中摩擦でグローバルサプライチェーンはどうなる?米中貿易摩擦の影響、ベトナムの日系企業はプラスとマイナスが均衡か

2020年1月7日

米中貿易摩擦の影響について、ベトナムは中国からの生産移管で得をする国だという見方が多い。ベトナムでは実際、2019年になって投資認可に占める中国のシェアが急増したり、米国向けの輸出額が例年以上の伸びをみせたりと、統計上は経済成長に寄与しているようにみえる。ただし、ベトナム国内では米中貿易摩擦の影響に関して、プラスとマイナスの両方の見方がされている。そのような状況下、ベトナムで活動する日系企業にどのような影響が生じているのか、ジェトロが2019年8月から9月にかけて実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、日系企業調査) の結果や企業へのヒアリングを踏まえて解説する。

ベトナム経済は好調も、中長期では警戒の声が

米国が対中追加関税賦課を開始して以降、中国から米国への輸出が減少した一方、ベトナムから米国への輸出は増加した。また、2019年初めに中国企業によるベトナムへの投資認可が急増するなど(2019年6月13日付ビジネス短信参照)、ベトナムは米国の対中関税賦課を避けるための生産拠点としても注目されている。ハノイ近郊の工場団地運営会社によると、対中関税賦課の影響を受けて一刻も早くベトナムに生産移管したいという中国企業をはじめ、外国企業の問い合わせが2018年から増えたという。

一方、ベトナムの産業界は警鐘を鳴らしている。ベトナム商工会議所(VCCI)のブ・ティエン・ロック会頭は10月30日の国会で「多くの専門家がベトナムは米中貿易摩擦から利益を得て、世界の新たな製造拠点になると予測するが、実態はその反対だ」と主張した。2019年1~9月の米国向け輸出の伸び率は高まっているが、輸出全体の伸び率は前年同期を下回っている。加えて、米国は貿易赤字が膨らんでいるベトナムに対して、中国と同様に追加関税などを課すリスクもあり、それを考慮すると、米国向け輸出自体が今後伸び続けるとはいえない状況だ。ロック会頭は外国直接投資の動向についても、「(米中貿易摩擦を受けた)急激な投資の増加は持続性を欠いており、長期的にはベトナムの経済成長に悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘した。今後、世界経済が停滞すると、輸出主体のベトナム経済には大打撃となるリスクも潜在しており、ベトナム政府は貿易摩擦の動向を注視している。

日系企業への影響は限定的、ベトナムは相対的にプラス影響も

在ベトナム日系企業の間では、必ずしも貿易摩擦の影響が顕在化しているとはいえない。ジェトロの日系企業調査によると、通商環境の変化が与える現時点での影響について、回答のあった在ベトナム日系企業718社のうち、「分からない」46.0%(330社)、「影響はない」26.0%(187社)との回答が合計で7割を超えた(図1参照)。在ベトナム日系企業の多くは、ベトナム国内向けか日本向けのビジネスが中心で、貿易摩擦による影響は限定的のようだ。日系の物流会社A社は「当社のビジネスは輸出入に関わるものであり、貿易摩擦はプラスにもマイナスにも影響する状況。しかし、日系企業との取引が主体のベトナムでは大きな影響はみられていない」という。

図1:通商環境の変化が与える現時点の影響(在ベトナム日系企業)
在ベトナム日系企業の間では、必ずしも貿易摩擦の影響が顕在化しているとはいえない。ジェトロの日系企業調査によると、通商環境の変化が与える現時点での影響について、回答のあった在ベトナム日系企業718社のうち、「分からない」46.0%(330社)、「影響はない」26.0%(187社)との回答が合計で7割を超えた。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

一方、影響があると回答した企業の内訳は、「マイナスの影響がある」が7.5%(54社)、「プラスの影響がある」が7.1%(51社)、「プラスとマイナスの影響がある」が13.4%(96社)となった。マイナス影響がプラス影響を若干(0.4ポイント)上回ったものの、ほぼ均衡しているのが特徴だ。ASEAN全体の回答では、マイナスの影響は14.4%、プラスの影響が4.0%と、マイナスがプラスを大きく上回った(図2参照)。ベトナムは、相対的にマイナスの影響が少なく、プラスの影響が多い結果となった。

図2:通商環境の変化が与える影響の比較(ASEAN全体および主要国)
影響があると回答した企業の内訳は、「マイナスの影響がある」が7.5%(54社)、「プラスの影響がある」が7.1%(51社)、「プラスとマイナスの影響がある」が13.4%(96社)となった。マイナス影響がプラス影響を若干(0.4ポイント)上回ったものの、ほぼ均衡しているのが特徴だ。ASEAN全体の回答では、マイナスの影響は14.4%、プラスの影響が4.0%と、マイナスがプラスを大きく上回った。

注:通商環境の変化が与える現時点での影響についての質問で、「プラスの影響がある」と「マイナスの影響がある」を回答した企業数を比較。「プラスとマイナスの影響がある」との回答は含まない。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

国内売り上げにはプラスに働くも、リスクは多岐に

「影響がある」と回答した企業に対して、影響が及ぶ対象を聞いたところ、プラスの影響としては、国内売り上げ(ベトナムでの売り上げ)を挙げた企業が多かった(図3参照)。ベトナムへの生産移管の恩恵を受け、部材メーカーでも国内売り上げが伸びている。日系の産業用部材メーカーB社は「新規企業の進出、取引先の生産拡大を受け、ベトナム国内での販売量が増えている。米国にある企業が製品の調達先を中国からベトナムに切り替えていることも、ベトナム法人の売り上げ増加につながっている」という。また、ベトナムに進出する企業が増えることで、企業向けサービスを提供する人材紹介会社や建設会社などにとっても、国内需要の増加につながっている。

図3:プラス影響の及ぶ主な対象(在ベトナム日系企業)
「影響がある」と回答した企業に対して、影響が及ぶ対象を聞いたところ、プラスの影響としては国内売り上げ(ベトナムでの売り上げ)を挙げた企業が多かった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

マイナスの影響が及ぶ対象としては、各種コストの上昇、海外および国内での売り上げの減少など、多岐にわたる回答となった(図4参照)。ベトナムへの生産移管が進むことにより、国内の販路拡大が期待される一方、同業者の進出で競争が激化し、国内売り上げが減少することが考えられる。併せて、国内における人材や物件、部材の需要が高まり、各種コストの上昇を招くと懸念されている。また、日系の鉄製部品メーカーC社は「貿易摩擦の影響だけとはいえないが、ベトナム国内およびASEANで中国製品との競争が激化している。中国製品の販売先が、米国から他地域に移行している可能性がある」と危惧している。

貿易摩擦を受け、ベトナムへの生産移管が突発的に進んだことによる弊害も生じている。地場縫製企業に米国向け縫製品の新規大型発注が入り、日本向けに受注してくれる企業が以前よりも少なくなっているという。一般的に、日本向けの縫製品は、欧米向けに比べて、小ロットかつ品質基準が厳しいため、地場縫製企業としては欧米向けの発注に飛びついてしまう傾向があるようだ。日系の縫製資材販売会社D社は「各種コストも上がり、日本向けの縫製品の生産や調達が以前よりも難しくなっている」という。

また、ベトナムには輸出加工型の企業が多いため、貿易摩擦の長期化による世界経済停滞を警戒する声が多方面から上がっている。特に携帯電話、OA機器、輸送機器向けの部材を生産・販売する日系企業は多く、それらの消費市場が落ち込むと、ベトナム国内での売り上げ減少につながりかねない。

図4:マイナス影響の及ぶ主な対象(在ベトナム日系企業)
マイナスの影響が及ぶ対象としては、各種コストの上昇、海外および国内での売り上げの減少など、多岐にわたる回答となった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

サプライチェーンの変化に対応、外国人材で営業強化も

米中間の追加関税賦課を背景に、サプライチェーンの変化が起きており、対応を迫られる企業が出てきている。日系の自動車関連部材を扱う商社E社は「中国から米国に輸出されていた部材が行き場を失い、ベトナムで安価に流通するようになった。米国から中国に輸出されていた原料も同様に、中国以外の国で安価に出回っている」と話す。モノの流れが全体的に変わってしまったため、調達先と販売先の変更が生じている状況だ。

日系企業による中国から東南アジアへの生産移管は、中国の人件費高騰や各種規制強化を受け、チャイナプラスワンの動きとして、以前から進められていた。米中貿易摩擦が生産移管を加速させる中、この加速が継続的なものなのか、判断に苦慮する声が聞かれている。日系の電子部品メーカーF社は「工場の生産能力が追い付かず、受注を受けきれないこともある。米中貿易摩擦の影響を踏まえ、設備や人員をどの程度増やすべきか、悩ましい状況だ」という。また、生産移管でベトナム国内での売り上げが伸びている日系企業の一部からは「グループ全体でみれば、売り上げが上がる地域が移るだけで、総売り上げは変わらず、喜ばしいこととも言えない」という意見もあった。

中国企業のベトナム進出増加に対しては、競合相手として警戒する声が多かった。日系の樹脂部品メーカーG社は、中国企業との競合について「価格だけの競争では不利になるため、品質や納期などで差別化していくしかない」と話す。一方、中国企業をはじめとする新規進出企業を、販売先および調達先として期待する企業もあり、日系の物流会社や販売会社では、ベトナム国内での営業を強化するという声が多く上がった。具体的には、ベトナムに進出する中国、台湾、香港企業との取引を増やすため、中国語ができる人材の採用を計画しているという。

米中貿易摩擦が在ベトナム日系企業に与える影響は、一概には大きいとはいえないが、間接的な影響は顕在化してきており、業態によってプラスにもマイナスにもなり得る。ただ、ベトナムは相対的には恩恵を享受できる可能性が高いため、これを好機と捉え、新たに構築されつつあるサプライチェーンに入り込む動きが出てきそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課(2010~2012年)、横浜貿易情報センター(2012~2014年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)(2015~2016年)、広報課(2016~2018年)を経て、現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
小川 士文(おがわ しもん)
2009年、静岡県庁入庁。2018年、ジェトロ・ビジネス展開支援課(出向)、2019年よりジェトロ・ホーチミン事務所勤務。

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