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ペンス米副大統領の演説から占う今後の米中関係

2019年12月13日

マイク・ペンス米国副大統領が「新冷戦」を予感させるほどの中国批判を行った演説から1年が経過した。10月24日には再度、対中政策方針に関する演説を行い、中国の行動を糾弾した。今回の演説内容は1年前から軟化したとの評価を受けるが、米中貿易交渉の第1段階合意が近いにもかかわらず根本的な問題は何1つ解決されていないという論調に加え、2020年の大統領選挙を見据えた人権重視の発言、個別企業批判など新たな火種も明るみに出た。大統領選も近づく中、米国の有識者によるペンス氏の演説に対する評価や、選挙以降の米中関係の見通しを報告する。

対中批判の論調は変わらず、トーンは軟化

ペンス副大統領は10月24日、ワシントンの政府系シンクタンク・ウィルソンセンター主催のイベントで、今後の米中関係に向けた演説を行った(2019年10月28日付ビジネス短信参照)。同氏はちょうど1年前にも米中関係をテーマに演説しており、その内容が中国の政策を強烈に批判するものだったために反響が大きく、今回の演説にも注目が集まっていた。演説への評価は前回との比較でよく語られるため、まずは前回の内容を概観する。

前回の演説は、2018年10月4日に保守系シンクタンクのハドソン研究所で行われた。ペンス副大統領は、中国が関税などの貿易障壁のほか、強制技術移転や知財窃盗、国有企業への補助金など不当な政策で米国に不利益を与えてきたと指摘。また、米国の政策・政治に影響力を行使しているとした上で、「そのような(中国を野放しにする)時代は終わった」と述べ、それらに対して毅然と対応していくと主張した。経済・軍事・外交などの各分野で中国を全面的に批判するトーンが強く、新聞各紙は一斉に「新冷戦」を予感させると報じた。

今回の演説でも、「トランプ大統領は中国と公平な関係を築く努力をしてきた」「しかし、中国側の態度はより攻撃的で、事態を不安定なものにしている」と強調するなど中国を批判する論調に変わりはなかった。他方、米中間のデカップリングについては、「断固として『NO 』(望まない)」と発言し、経済的に両国を隔てるつもりはないことを明確にした。演説の最後でも、貿易交渉の第1段階合意に楽観姿勢を示すとともに、「誠実な対話、信頼に基づく交渉こそが米中の平和で豊かな将来を切り開く」として、中国に協調を呼び掛けるかたちで締めくくったことから、多くのメディアは前回の演説と比べて軟化したと報じた。

参考:ペンス副大統領の演説比較

前回演説(2018年10月4日)
中国は政府一体で政治・経済・軍事力やプロパガンダを用いて米国に影響を及ぼし、利益を得ている。
米国の歴代政権は中国の行動を見過ごし、ほぼ加担していたが、そのような時代は終わった。
中国は米国の民主主義を妨害し、中間選挙にも影響を及ぼそうとしている。
(選挙上重要な州を狙った関税措置や広報活動を紹介)
グーグルは、中国共産党の検閲を強め、同国民のプライバシーを乱すアプリ開発を中止すべき。
(同社が中国向けに検閲機能付きの検索サービス「DragonFly」を開発中との情報を受けて)
今回演説(2019年10月24日)
ハドソン研究所の演説から1年経つが、中国政府は経済関係の改善に向けた行動を取っていない。
中国マネーや市場の魅力に釣られ、中国共産党を批判せず米国の価値観を堅持しない米多国籍企業が多過ぎる。
トランプ政権は中国とのデカップリングを望むのかと時々聞かれるが、答えは断固として「NO」だ。
米国は中国の広い世界との関与を求めているが、それは公正で相互に尊重するかたちであり、かつ商取引の国際ルールに沿ったものでなければならない。

出所:ホワイトハウス発表資料からジェトロ作成

演説を行う時期についても、中国を過度に刺激しないよう配慮があった。もともとは天安門事件30周年にあたる6月4日に予定されていたが、同月末のG20大阪サミット(首脳会議)の際に開く米中首脳会談への影響を考慮して延期したとされる。この延期については対中強硬派からの反発も出ている。トランプ政権に対中政策の助言をしていたアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)のデレク・シザース研究員は「6月に実施すべきとたびたび主張してきたが、この時期(10月)では何も意味がない。1年前のハドソン研究所での演説は良かったが、今回は米中関係を何ら変更するものではない」と、保守派の観点から厳しく評価している。

人権問題を取り上げて国内世論にも訴求

演説でもう1つ注目されたのが、中国政府に対して人権尊重を強く訴えた点だ。ペンス副大統領は香港と台湾での民主化運動の高まりを評価するとともに、中国政府が一連の運動に対して平和裏に事態を収束すべく、これら地域への過干渉を自制するよう演説の中で複数回にわたり促した。特に香港については、「トランプ大統領も再三発言しているが、暴力を行使して介入した場合は、貿易交渉で合意することが極めて難しくなる」と、第1段階の合意が近いとみられる米中間の貿易交渉に結びつけるかたちで、中国を牽制した。

この人権重視の発言について、米中関係に明るいワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)のスコット・ケネディ上級アドバイザーは「副大統領の個人的な思い入れもある気がするが、香港と台湾を挙げて人権擁護の姿勢を米国内にアピールしていたように映る。そうした意味で、副大統領は演説の聴衆として、中国の交渉相手と国内世論の2者を想定していたように思われる」と、国内世論に配慮した側面を指摘する。

国際的な人権保護を重視することは、トランプ大統領の再選にとっても重要だ。ピュー・リサーチ・センターによると、米国の有権者の4人に1人はキリスト教の中の福音派で、他のキリスト教宗派と比べても、トランプ大統領に対する支持が強い。福音派は聖書への信仰が強く、その信仰の拡大などの活動に積極的とされる。そのため、聖書の内容に親和的な、国際的な人権保護や民主化運動を支持する傾向が強い。2017年12月にトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したほか、2019年5月にはマイク・ポンペオ国務長官が人権問題について自らに助言してもらうための委員会を設置するなど、トランプ政権は選挙が近づくにつれて、福音派の支持を得るような外交政策を実践してきている。ペンス副大統領自身も福音派であり、人権擁護の発言を行うことは自らの支持基盤に訴えることにつながる。

ペンス演説では米企業も批判の的に

演説の矛先は中国のみならず、身内であるはずの米国企業にも向かった。ペンス副大統領は「米国企業が中国マネーやその市場規模に魅了されるあまり、中国に反発できなくなった」と指摘し、スポーツ用品大手のナイキを名指しして批判した。同社は、NBAヒューストン・ロケッツの幹部が香港の自由化運動を支持するツイートに中国政府が抗議したことを受け、10月上旬に同チームのグッズを中国本土の店舗から撤去していた。中国ではNBAが人気となっており、国内の視聴者は8億人、NBA関連グッズの売上高は40億ドル以上とされる。ペンス副大統領は、ナイキが中国の反発を恐れて販売自粛に踏み切ったとして、「NBAの選手やオーナーの一部は中国の下部組織と化し、(中国政府による)自由の侵害を黙認してしまっている」と非難するとともに、米国企業に米国が重視する自由競争や公正な貿易などの価値に配慮した行動を求めた。前回の演説でもIT大手グーグルの中国事業を批判する場面はあったが、産業界全体に要請したのは今回目新しい点だ。

中国ビジネスで利益を上げているのは無論ナイキだけではない。商務省が公表する米国資本による出資比率が10%以上の外国企業の売上高をみても、中国が他の国に比して近年市場として確実に拡大していることが分かる(図参照)。

図:米資本企業の海外売上高(国別、2012~2017年)
カナダにおける米資本企業の売上は、2012年からほぼ横ばいで2017年は646億ドルで1位。 中国における米資本企業の売上は堅調に増加。2012年の333億ドルから2017年には544億ドルに増加し、2位。 メキシコは2012年からほぼ横ばいで、2017年は284億ドルで3位。 日本も2012年からほぼ横ばいで、2017年は267億ドルで4位。

出所:商務省

企業を名指しで賞賛したり批判したりするのはトランプ大統領の常とう手段だが、米中摩擦が激化する中でペンス副大統領がこうした発言を行ったことは、今後、企業の判断を難しくさせるかもしれない。ペンス副大統領は米中のデカップリングを望まないとしたものの、実質的には米中どちら側につくかの選択を半ば強いる懸念があるからだ。この点について、先述のケネディCSIS上級アドバイザーは「米国か中国のどちらを選ぶのではなく、どちらのシステムを志向するのかを問うべきだ。一方は法の支配があって競争環境が維持されている。もう一方は人治国家ゆえに不透明かつ政府への服従が求められる。おのずと答えは出てくるはずだ」と述べた。

2020年米大統領選挙がもたらす影響

ペンス副大統領の演説を踏まえ、2020年の大統領選後の対中政策の見通しをワシントンの識者に聞いたところ、共通したのは「中国は戦略的なライバルであり、政党を問わず中長期的な対応が必要」との認識だ。CSISのマシュー・グッドマン上級副所長は「ワシントンは数年前と様子が変わり、親中姿勢を見せる識者はほとんどおらず、中国を競争相手と捉えるのが共通認識になっている。ただし、『競争』の定義はさまざまで、デカップリングを辞さない考えもあれば、中国をルールで囲い込んで公正な競争を志向する考えもある」と語る。

議会も対中強硬姿勢で足並みをそろえる。労働組合を支持基盤に持つ民主党はもともと保護主義的であり、下院のナンシー・ペロシ議長(カリフォルニア州)は中国に厳しく対応するよう常に求め続けており、チャック・シューマー上院少数党院内総務(ニューヨーク州)は2003年に全ての対中輸入に27.5%の関税を賦課する法案を提出したことがある強硬派だ。共和党も元来、自由貿易を志向するが、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)やリンゼー・グラハム上院議員(サウスカロライナ州)をはじめ、中国の自由貿易をゆがめる行為に対応が必要とする認識で一致している。いずれの政党候補が大統領となった場合でも、輸出・投資規制も含む対中政策が厳格化される方向には変更がないことが見込まれる。

ただし、誰が次の大統領になるか次第で、中国に対抗する圧力の程度や手段は異なる。共和党候補としてトランプ大統領が再選した場合について、先述したAEIのシザース研究員は「大統領は選挙も考慮して現在の対中政策を実行している」と述べ、選挙後は軟化する可能性を示唆している。他方、民主党候補が勝利した場合で識者の意見が一致したのは、トランプ大統領が現在賦課している追加関税を自動的には撤廃せず、民主党大統領も交渉ツールとして維持を選択するだろうと見立てている。民主党候補間の違いとして、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のメアリー・ラブリー上席研究員は、外国から米国への投資を審査するルールについて「厳格化する方向には(候補間で)変わりはない。エリザベス・ウォレン候補はウォール街から資金援助を受けていないため、より厳格な規制を好むかもしれない。ジョー・バイデン候補は金融業界との関係があるので、ソフトな政策を取ると思われる」と指摘する。

どの候補が勝利したとしても、中国という戦略的ライバルにどのような手段でいかに向き合うかは困難な政策課題となるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕
藪 恭兵(やぶ きょうへい)
2013年、ジェトロ入構。海外調査部調査計画課、欧州ロシアCIS課、米州課を経て、2019年10月から現職。

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