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特集:米中摩擦でグローバルサプライチェーンはどうなる?米中貿易摩擦の日本企業への影響(その1)対中制裁関税などへの対応に苦慮

2020年1月10日

米中貿易摩擦の日本企業への影響について、影響を受けていない企業も少なからずみられるが、本稿では「影響あり」とした企業の動きを中心に、述べることとしたい。ジェトロによる企業ヒアリング(注1)や、マスコミ報道、プレスリリースなど公開情報から概観すると、(1)日本企業が、中国や米国に拠点(子会社)を有しているかどうか、(2)日本企業の顧客(納品先)が中国や米国に所在するかどうか、(3)自社取扱品目が、米中貿易摩擦の追加関税の適用対象となったかどうかなど、各企業の置かれた状況により、影響の度合いが異なることがうかがえた。

本稿では、日本企業への影響に関し、(1)(追加関税適用など)直接的なマイナスの影響、(2)(顧客からの受注減など)間接的なマイナスの影響、(3)(中国からの生産移管先での需要増など)プラスの影響に分類し、3回に分けて概説することにしたい。

「米国の対中制裁関税賦課」への対応に多くが苦慮

まず米中貿易摩擦では、どのような日本企業が影響を受けているのか。「影響あり」と回答した企業の中で、「(追加関税措置による)直接的なマイナスの影響」が見込まれるのは、その多くが、「米国による対中制裁関税適用となった中国産品」を取り扱う企業であった(注2)。これら企業は、(中国拠点が)追加関税引き上げ分を自社負担(あるいは輸入先顧客側との折半)などで何とかしのいでいたり、また、しのぎきれないケースにおいては、やむなく値上げに踏み切らざるを得ないなどの対応が見られる。そして、値上げによって価格競争力の低下、さらには客層を失うケースも散見される。

また、「米国の対中追加関税の除外品目申請は米国現地法人側で行うが、米国現法と本社間でのやりとりはもとより、当該品目が中国からしか調達できないことを証明するための準備の煩雑さや、弁護士経費といった諸コスト負担など、対応に苦慮した」(家電メーカー)ことを指摘する声も聞かれる。

製品仕向け地別に生産拠点を整備~生産拠点移管の動き

また、追加関税負担が重くのしかかり、自社製品の価格競争力低下で中国から米国向け輸出が難しくなる一方で、中国での生産を、第三国・地域に移管する動きも見られる(表参照)。そもそも、中国における人件費の高騰などコスト高などを理由として事業環境が悪化した在中企業も多いが、米中貿易摩擦が、「チャイナプラスワン」と呼ばれる中国から第三国・地域への一部(または全面)生産移管の動きを加速させたと言える。これは、中国での米国向け生産分について、米国側での追加関税賦課回避を目的として、中国から第三国への生産移管を促すことになるためである。

中国からの主な生産移管先として、日本企業では、(1)ベトナムやタイといった東南アジア諸国や、日本への本国回帰、さらには対米輸出上の近接性やメリットなどから、メキシコへの移管を念頭に置いた動きが見られた。移管状況はまちまちで、既に着手済みの企業もあれば、目下検討中、さらには、検討した結果、諸般の理由により断念した企業など、さまざまなケースが見られる。

例えば、「追加関税回避のため、中国からベトナムなどへの生産移管を進める」(繊維メーカー)、「中国工場で生産する米国向けの部品が米国の追加関税第1弾の対象になり、25%の追加関税を負担した。販売先からはメキシコへの生産移管を提案されたが、短期的な対応策としては移管コストが大き過ぎると判断し、現時点で生産移管は行っていない。ただし、ベトナムへの移管に関し、その可能性を探るため、サプライヤー調査を開始している。」(通信関連部品メーカー)といった具合である。また、中国から日本へ一部生産移管を行い、中国における生産比率が低下し、日本の生産比率が大幅に上昇したケースも見られる。

ちなみに、ジェトロが中国進出日系企業に対し実施した調査(注3)によれば、「通商環境の変化の影響」に関して「マイナスの影響がある」とした企業に対し、「通商環境の変化に対する対応策」として「生産地の移管(実施済みを含む)」を指摘したのは、有効回答293社中、27社(9.2%)であった。さらに、「生産地の移管(実施済みを含む)」と回答した企業(有効回答26社)に対し、生産移管規模を聞いたところ、「10%以上~30%未満」が11社(42.3%)、「30%以上~100%未満」が8社(30.8%)、「1%~10%未満」が6社(23.1%)、「100%全面移管」が1社(3.9%)となっており、一部生産移管のケースが多いことがうかがえる。

生産移管の理由に関し、プレスリースの中で、明確に米中貿易摩擦を挙げているのはリコーである。同社は、2019年5月のニュースリリース(注4)で、複合機の量産拠点である中国とタイでの製品仕向け地を見直し、米国向け主要複合機の生産を中国からタイへ移管することを決定。今回の決定は、米国が中国への制裁関税措置第4弾として、関税引き上げ対象をほぼすべての中国輸入製品に広げるとの発表を受けたものである。製品仕向け地の見直しにより、関税引き上げの影響を最小限にすることを目的としている。これまで高速モデルの生産を深圳市で、中速および低速モデルの生産をタイで行っていた体制を見直し、製品仕向け地別に生産拠点を分けることにした旨、公表している。

また、シャープは、浙江省杭州市の工場を中心に中国で全てのノートパソコンを生産しているが、米国向けの一部の生産をベトナムに移管する方針とされる(注5)。当初、スマートフォン向けカメラ部品組み立て専用工場にする予定であったが、ノートパソコン生産に活用するとのことである。一方、京セラも、トランプ大統領が対中制裁関税第4弾の発動方針を表明したことを受け、米国向け複合機の生産拠点を中国からベトナムへ移管する、とし(注6)、中国(工場)では米国向けであったものを欧州向けに入れ替えて、米国による追加関税の回避を目指すとしている(注7)。そのほか、カシオ計算機も、「中国で生産する時計のうち、米国向けはタイで作る方向で検討中」と報じられている(注8)。

ちなみに、上述の通り、米国向け生産拠点の中国からの移管先は、ベトナムをはじめとするASEANや日本本国回帰、米国に隣接するメキシコを指向するケースが日本企業ではみられるが、アイリスオーヤマのように米国とのFTA(自由貿易協定)を有する韓国に(米国向け送風機の)一部生産を移管するケースもみられる(注9)。なお、国際企業のサプラーチェーン担当267人を対象とした物流大手DHLの子会社による調査(注10)では、中国から海外への有望な生産拠点の移転先として、インドがベトナムと同率で第1位となっている。

そもそも、中国生産を第三国・地域へ移管させる動きがみられたケースを、米中貿易摩擦が加速化させたものとして、旭化成のように、中国から日本への樹脂製品の生産移管を2018年8月に前倒ししたケース(注11)などが報じられている。

一方で、生産拠点の移管を検討したものの、「(中国から)日本への生産回帰を検討したが、多大な初期コストが掛かることはじめ、サプライチェーンの見直しが必要なことから現時点では生産移管の予定はない」(精密機械メーカー)といった、断念したケースも少なからずみられる。

なお、中国からの生産移管先について、中国進出の台湾系企業では、台湾本土への回帰が多く報じられている(注12)。

また、米国による対中制裁関税適用対象となり、中国からの調達を、日本や他国・地域に変更する米国側での動きも聞かれた。

そのほか、中国からの対米輸出に際する関税負担を回避するため、中国からの半製品を日本で加工した上で、米国向けに追加関税負担なしで輸出できるかどうか、可能性を検討・追求する企業も散見された。マスコミで報じられた事例としては、自動車内装部品の河西工業が、「中国で作った金型は一旦日本の工場で加工して米国に送るよう準備を進めている」(注13)といったケースがある。

表:米国向け生産の中国から第三国・地域への主な移管事例
企業名 製品 移管元 移管先 概要
東芝機械 射出成型機 中国 日本、
タイ
米国の中国製品に対する追加関税の適用対象となったため、2018年10月に移管。
三菱電機 工作機械 中国 日本 制裁対象となった米国向け工作機械の生産を中国から日本へ移管。逆に米国向け以外の製品を日本から中国へ振り替えた。
リコー 複合機 中国 タイ 米国が中国への制裁関税第4弾として関税引き上げ対象をほぼ全ての中国輸入製品に広げると発表したことを受け、19年5月、米国向け主要複合機の生産を中国からタイへ移管することを決定。
アイリスオーヤマ サーキュレーター(送風機)の一部 中国 韓国 中国から米国への輸出が一段と難しくなる事態に備え、中国国内2工場で生産する送風機について2020年にも一部を韓国生産に変えてリスク分散を図る。
京セラ 複合機 中国 ベトナム トランプ大統領は対中制裁関税第4弾の発動方針を表明したことに対し、同社幹部は米国向け複合機の生産を中国からベトナムへ移管する考えを示した。
シャープ 車載用液晶ディスプレイ (中国) ベトナム 中国で生産予定であった米国向け車載用液晶ディスプレイにつき、ベトナムで生産するよう計画変更。

出所:マスコミ報道、企業プレスリリースからジェトロ作成


注1:
2019年9月~12月に実施。
注2:
米国による対中制裁関税賦課となった中国産品を取り扱う日本企業が、中国による対米報復関税賦課となった米国品目を取り扱う日本企業に比べ、相対的に多いことなどによるものと思われる。ジェトロが中堅・中小企業を対象に実施した「米中貿易摩擦による中堅・中小企業への影響調査~2019年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(速報値)」(2019年12月、調査期間は2019年11月5日~30日)でも、影響を受ける具体的な通商政策としては「米国の中国に対する通商法301条に基づく追加関税」が最も高い回答率(35.7%)だった。
注3:
ジェトロ 「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」。調査時期は、2019年8月26日~9月24日。アンケート調査対象とした中国進出日系企業数は1,519社、有効回答694社(うち、製造業は386社、非製造業308社)。
注4:
株式会社リコー ニュースリリース2019年5月16日付「リコー、中国での米国向け主要複合機生産をタイ工場に移管」
注5:
日本経済新聞2019年6月6日付「米関税にらみシャープ生産移管」
注6:
時事速報2019年8月2日付「京セラ、複合機をベトナム移管=生産見直し、対中関税第4弾で」
注7:
日本経済新聞2019年9月1日付「日本、生産移管へ試行錯誤」
注8:
時事通信社2019年9月2日付「日本企業、脱中国シフト加速=第4弾制裁の影響抑制でー米中摩擦が投資心理圧迫」
注9:
日本経済新聞2019年3月23日付「アイリス、中国生産の一部を韓国に移管、20年をめど、米中摩擦で」
注10:
DHL Resilience 360 “Impact of the US-China Trade War on Global Supply Chains” (2019年12月)によれば、本調査で国際企業サプライチェーン担当267人が回答した中国から海外への有望生産拠点移管先は、インド、ベトナムが各11%で第1位、以下、EU7.7%、メキシコ6.7%、米国6.5%、マレーシア6.1%、タイ5.8%、インドネシア5.5%、カンボジア3.2%、日本2.5%となっている。
注11:
NNA2018年9月25日付「日系企業が中国生産見直し、業績悪化回避へ」
注12:
台湾は「台湾回帰奨励策」を推進し、在中国台湾企業に対する台湾回帰支援施策を実施。対象は、(1)米中貿易摩擦の影響があり、(2)中国での投資を2年以上継続し、(3)台湾に新設または拡張する生産ラインにスマート化を導入するとともに、かつ重点産業分野などである企業。本奨励策実施のために設置した台湾投資事務所が、土地、電力・水道、人材、税務、資金の各面で支援。日本経済新聞(2019年12月25日付)「台湾総統選 産業界板挟み」によれば、国家発展委員会の陳美伶主任委員(閣僚級)は2019年12月24日の記者会見で、台湾回帰の投資申請額が2019年に7,115億台湾ドル(約2兆5,600億円、1台湾ドル=約3.6円)に達したと述べた旨、報じている。
注13:
日本経済新聞2019年9月1日付「日本、生産移管へ試行錯誤」の中で、河西工業社長のコメントを掲載。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。

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