特集:米中摩擦でグローバルサプライチェーンはどうなる?重点産業の投資支援とビジネス環境整備で競争力強化へ(台湾)

2019年12月25日

米中貿易摩擦の影響を受けた中国進出台湾企業の台湾回帰を迅速に進めるカギとなるのが、台湾のビジネス環境の整備・改善といわれる。特に、台湾の産業界からは、いわゆる「5欠問題(土地、電力、水、人材、労働力の不足)」が企業の積極的な域内投資を阻害する要因になっているという指摘がある。台湾当局は企業の問題提起や要望を踏まえたビジネス環境の整備と回帰投資支援により、台湾の競争力強化を目指している。

「5欠問題」改善の取り組み

「5欠問題」に関する台湾企業の問題提起や要望は、おおむね次の点に集約することができる(表参照)。

まず、土地については、取得コストが高いこと、土地の供給エリアと需要が符合していないことだ。土地の選定では、産業の集積や発展、外部(周辺地域など)との交通の利便性、人的資源の確保可能性などを考慮する必要がある。また、産業界は建築許可申請の簡素化と審査時間の短縮を求めている。

電力の問題では、電力の安定的な供給確保が必要なこと。特に北部地域で電力不足や電力制限が生じないよう求めている。水の供給に関しては、一部の工業区で水不足問題があることが指摘されている。

労働力については、夜勤(輪番制のシフト)の域内労働力確保が容易でないこと、外国人労働者比率の上限引き上げや自動化生産設備導入の支援要望がある。

人材問題では、基礎的な作業要員(ワーカー)やエンジニア、データ分析人材、管理などの人材、R&Dセンターの台湾回帰に応じて十分なR&D人材が必要とされている。

これらの「5欠問題」とは別に、資金面では、台湾回帰に伴う資金還流に関する税務コンサルタントや租税優遇、資金支援の要望が出ている。

表:「5欠問題」と産業界の主な要望
分野 問題点・改善要望
土地
  • 取得コストが高い
  • 土地の供給エリアが需要に合致していない
  • 建築許可申請の簡素化と審査時間の短縮(要望)
電力
  • 特に北部地域の電力不足や電力制限
  • 安定的な供給(要望)
  • 一部工業区の水不足問題
労働力
  • 夜勤(輪番制のシフト)の域内労働力確保が容易でない
  • 外国人労働者比率(上限)の拡大(要望)
  • 自動化生産設備導入の支援(要望)
人材
  • ワーカー、エンジニア、データ分析人材、管理人材、R&D人材が必要(要望)

出所:「歓迎台商回帰投資行動方案(核定本)」2018年12月に基づきジェトロ整理

企業ニーズ踏まえた支援を推進

台湾当局はこれらの問題提起や要望に対し、「5大策略」として、(1)土地需要の充足、(2)水・電力の安定供給、(3)産業人材の充実、(4)迅速な融資協力、(5)税務専門サービスの提供を打ち出し、具体的な支援方針による計画を推進中だ。

国家発展委員会が2018年11月に取りまとめた「台湾企業回帰投資手帳」によると、台湾の産業界から最大の問題と指摘されている土地について、回帰企業は、経済部工業局が主導開発する工業区の土地を優先的に賃借できる。経済部所管の工業用地は賃借限定(販売しない)という方針だ。企業が2年以内に土地使用免許を取得し、所定計画どおりに使用すれば、2年分の賃料を免除するという優遇措置もある。

また、条件を満たした業種および指定の産業用地は、土地使用効率(容積率)の引き上げなどが認められる。例えば、都市計画範囲内で経済部または地方自治体が管轄する工業区であり、かつ基準容積率が240%以下の工業区は、計36カ所が優遇の適用となる。申請者の条件は製造業のほか、卸売業や倉庫業など、産業創新条例の関連規定が指定する業種だ。

現在、供給可能な産業用地(科学技術部、経済部、地方開発園区の所管)は、合計435ヘクタール(北部44ヘクタール、中部183ヘクタール、南部137ヘクタール、東部71ヘクタール)ある。また、今後3年間の新規土地供給予定面積は合計873ヘクタールで、2019年282ヘクタール、2020年384ヘクタール、2021年207ヘクタールとなっている。

電力供給については、発電設備運転のメンテナンス強化と新規発電設備の計画期限内完成・運転開始により、2019年から予備電力の比率を15%以上確保することとしている。発電設備運転のメンテナンス強化は、台湾電力が確実な運転メンテナンスと従業員の技能向上により、全ての発電設備の安定的な電力供給を確保する。

2025年までの新規発電設備増強計画は、天然ガス発電889万6,000キロワット(kW)、石炭発電40万kWだ。2019年から順次稼働予定の発電設備は、大林新2号機、通宵新2号機、3号機、林口新3号機などで、2019年から予備電力比率は15%以上が確保可能と説明されている。

このほか、台湾回帰投資で工場を建設する企業を支援するため、高圧電力または特別高圧電力を必要とするような特別案件は、電気使用申請から事務手続き完了までの期間を短縮することも可能という。

水の供給では、2018~2019年に水源開発や漏水対策、節水などの取り組みによって1日当たり100万トンの水源が増加した。これは新竹、嘉義、屏東地区の水使用量に相当するという。また、2031年までには1日当たり519万トン(台湾全体の用水量の4割)の水源を増加できる予定としている。

用水計画がある科学園区や工業区、産業園区に投資する企業は個別の用水計画の提出は不要であり、園区などの管理部門が割り当てることになっている。

労働力の不足や人件費負担の大きさに対して、回帰投資の支援策では、台湾域内での雇用を優先的に促進するという原則の下、一定の条件を満たせば、外国人労働者の雇用人数上限を拡大できる措置がある。

例えば、域内の雇用に対しては、条件を満たす雇用者・就業者(連続30日以上の失業者)にそれぞれ奨励補助金を支給する。外国人労働者の雇用については、工場(新規建設・拡張)の規模や投資金額、台湾の労働者雇用数に対する外国人労働者の比率などの所定条件を満たす企業は、初年度の検査免除、外国人労働者雇用人数の上限引き上げの優遇を受けることができる。

また、専門人材については、中国籍人材のうち、多国籍企業内部の異動をはじめ、産業科学技術分野の人材を対象に、経理(マネジャー)や科学技術分野の実務経験者の雇用を認める措置がある。

産業界は回帰投資支援を支持、さらなる投資環境改善を要望

台湾当局が取り組む「5欠問題」の改善措置に対し、産業界などの評価はどうか。

個別産業・企業の事情や要望がそれぞれ異なるため、見解は必ずしも一様ではない。当局の回帰支援策の実施時期や支援内容には一定の評価をしつつも、土地問題や電力の安定供給が現在でも重要課題だとする指摘は多くの製造業の共通認識といえそうだ。

例えば、全国工業総会は最大の懸念が電力などエネルギーの安定供給だと指摘する。「台湾では、LNG(液化天然ガス)の輸入が不可欠だが、パイプラインがないため輸送は海運に限られる。LNG備蓄量はわずか2週間分なのでリスクが大きい。石炭発電は大気汚染問題で地方自治体等の反対がある。太陽光発電は土地制約の厳しい台湾には不向きだ。洋上風力発電は、夏季の台湾海峡が無風なので、エネルギー源として期待できるのは主に冬季だ。グリーンエネルギーはコストが割高という問題もある。水力発電ダムは久しく新規建設がない」と指摘する。

土地の問題では、「台湾の工業団地は老朽化しており、立体化が必要だ。当局保有の土地は必ずしも交通利便性がよくない。条件が良い土地は主に民間の開発用地で、価格が高い」という。

中長期的な産業政策の必要性も

一方、台湾回帰支援の取り組みに対しては、短期的な対応だけでなく、台湾の強みを生かした中長期的な産業政策の必要性を強調する提言もみられる。

全国工業総会の2019年版白書によると、「貿易摩擦が長期化する中、電子産業のサプライチェーン構築には少なくとも3~5年が必要であり、組み立て工程だけでも2年は必要だ。サプライチェーンの変化は今後30年の産業発展に影響をもたらす」と指摘し、当局に対し、短期的な対応だけでなく、「台湾の30~50年後の将来を見据えて、『5欠問題』の確実な解決と産業の衛星体系形成の支援」を求めている。

工場のスマート化が回帰投資支援を受けるための必須条件の1つに設定されていることは、台湾が目指す産業発展の方向性とも一致しているといえる。例えば、スマート機械産業は重点産業分野である「5+2創新産業」の1つに位置付けられている。スマート機械や第5世代移動通信システム(5G)関連の投資に対しては、台湾回帰投資に限らず、産業創新条例の改正により2019年1月から期間限定で減税措置が実施されている。

資訊工業策進会産業情報研究所(MIC)は「台湾の『5欠問題』は短期間では抜本的な改善が難しい。『5+2創新産業』の中のアジア・シリコンバレー(IoT)は、台湾の専門人材の育成・活用可能性はもちろんのこと、必ずしも広大な土地や大量の電力を必要としない研究開発に焦点を当てている。資源・エネルギーの制約がある台湾に合致した有望な産業だ」と指摘している。

台湾の置かれた事情や企業の要望を十分考慮し、ビジネス環境の整備・充実が着実に進むことは、台湾企業の回帰を推進するだけでなく、外資の誘致にも有利な条件となり、台湾の競争力強化に寄与するものと考えられる。

果たして、台湾は、米中貿易摩擦がもたらすマイナスの影響(危機)を転機として十分生かすことができるかどうか。台湾回帰の本格的な実行段階に入るとみられる2020年以降の動向が回答の糸口を示してくれそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
加藤 康二(かとう こうじ)
1987年、ジェトロ入構。日本台湾交流協会台北事務所(1990~1993年)、ジェトロ・大連事務所(1999年~2003年)、海外調査部中国北アジア課長(2003年~2005年)などを経て2015年から現職。

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