特集:米中摩擦でグローバルサプライチェーンはどうなる?支援対象の拡大で、域内投資増を目指す(台湾)

2019年12月25日

米中貿易摩擦などの影響を受け、中国進出台湾企業の台湾回帰の動きが進んでいる。当局は2019年1月から中国進出台湾企業の台湾回帰投資支援策を実施しているが、同年7月から支援対象を台湾域内で事業を続けてきた台湾企業や中小企業にも拡大し、域内投資の増加を目指している。

「InvesTaiwan」の体制と「投資台湾三大方案」の概要

「InvesTaiwan」は2019年1月から、米中貿易摩擦の影響を受け、かつ2年以上の対中投資実績を有する台湾企業に対し、台湾域内の投資で優遇を受けることができる「歓迎台商回台(台湾回帰)投資行動方案」(以下、「台湾回帰方案」)を実施している。7月からは、対象を対中投資実績のない大企業や中小企業にも拡大し、「根留台湾企業加速投資行動方案」(以下、「根留台湾企業方案」)、「中小企業加速投資行動方案」(以下、「中小企業方案」)を追加、「投資台湾三大方案」と呼び推進している。「投資台湾三大方案」は「InvesTaiwan」が単一窓口となり、個別企業のニーズに基づいて、土地の賃借支援や融資などのサービスを提供し、台湾企業が迅速かつ安心して投資できるように努めている。

「InvesTaiwan」の張銘斌執行長によると、承認を受けた企業は個別にサポートしており、プロジェクトマネジャー1人当たり20~30件を担当しているという。申請文書の各種審査は2週間以内に完了する。これまでは、中小企業は中小企業処が、それ以外は工業局が管轄していたが、2019年7月から全て「InvesTaiwan」が担当している。なお、企業のサポートは外資企業や国内企業、大中小を問わず、「InvesTaiwan」が工業局、工業技術研究院などと一緒に当たっている。 台湾経済部は「投資台湾三大方案」の実施により、2021年末に1兆1,000億台湾元を超える投資を目指す。以下、「投資台湾三大方案」のポイントを簡単に整理する(表1、表2参照)。

A.「歓迎台商回台投資行動方案」

「台湾回帰方案」は、台湾企業の回帰投資を誘致し、台湾がグローバルサプライチェーンの中枢になることを目標に掲げている。実施期間は2019年1月1日~2021年12月31日までの3年間で、台湾企業が政策支援を受けるためには、(1)米中貿易摩擦の影響を受けていること、(2)対中投資実績が2年以上あること、(3)回帰投資・工場拡張の生産ラインのスマート化に対応していることの必須3条件に加えて、特定資格として次の5項目のうち、少なくとも1項目を満たさなければならない。(1)5+2産業〔アジア・シリコンバレー(IoT)、スマート機械、グリーンエネルギー、バイオ医療、国防、新農業、循環経済〕のイノベーション領域に属すること、(2)高付加価値製品および中核部品関連産業に属すること、(3)グローバルサプライチェーンの中核的な地位にあること、(4)自主ブランドの国際販売があること、(5)投資項目が国家重点産業政策と関連があること。条件を満たした回帰投資案件は、申請・認可手続きにより、台湾の事業で必要とする土地や水、電力の供給、労働力確保面で各種支援や優遇措置などを享受できる。

台湾当局による銀行手数料補助は、中小企業が1.5%、大企業は融資額に応じて0.5%(20億台湾元未満)、0.3%(20億~100億台湾元未満)、0.1%(100億台湾元以上)となっている。融資総額は最大5,000億台湾元、補助財源は国家発展基金から拠出される。

3年間の政策支援により、1兆台湾元の投資と9万人の雇用機会の創出が見込まれる。

表1:「台湾回帰方案」の概要
投資方案 A.歓迎台商回台投資行動方案
実施期間 2019年1月1日~2021年12月31日
適用対象
〔(1)と(2)両方の条件を満たすこと〕
(1)米中貿易摩擦の影響を受けていること
(2)対中投資歴2年以上
条件 製造業:回帰投資・工場拡張の生産ラインのスマート化に対応し、かつ以下の条件の1つを満たすこと
  • 5+2産業のイノベーション領域に属する
  • 高付加価値製品および中核部品関連産業に属する
  • グローバルサプライチェーンの中核的な地位にある
  • 自主ブランドの国際販売がある
  • 投資項目が国家重点産業政策と関連がある
融資総額 5,000億台湾元
台湾当局による
銀行手数料補助
中小企業:1.5%
大企業:
0.5%(20億台湾元未満)
0.3%(20億~100億台湾元未満)
0.1%(100億台湾元以上)
補助期限 5年
補助財源 国家発展基金
その他の優遇措置 外国人労働者受け入れ枠を15%増加(最高40%)
土地需要、水や電気の安定供給、税務専属サービス

注:1台湾元=約3.6円。
出所:InvesTaiwan「投資台湾三大方案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2019年11月27日閲覧)を基にジェトロ作成

B.「根留台湾企業加速投資行動方案」

「根留台湾企業方案」は、台湾域内で事業を続けてきた台湾企業の投資を促進し、企業の進化(高度化)を加速させることを目標としている。実施期間は2019年7月1日~2021年12月31日までの2年半で、台湾企業が政策支援を受けるためには、(1)中小企業に属さないこと、(2)「台湾回帰方案」の適用対象外の企業であること、(3)投資・工場拡張の生産ラインのスマート化に対応していることの必須3条件に加えて、製造業の場合は特定資格として次の5項目のうち、少なくとも1項目を満たさなければならない。(1)5+2産業のイノベーション領域に属すること、(2)高付加価値製品および中核部品関連産業に属すること、(3)グローバルサプライチェーンの中核的な地位にあること、(4)自主ブランドの国際販売があること、(5)投資項目が国家重点産業政策と関連があること。条件を満たした回帰投資案件は、申請・認可手続きにより、台湾の事業で必要とする土地や水、電力の供給について優遇措置を享受できる。

台湾当局による銀行手数料補助は、0.5%(20億台湾元未満)、0.3%(20億~100億台湾元未満)、0.1%(100億台湾元以上)となり、融資総額は最大800億台湾元、補助財源は国家発展基金から拠出される。

2年半の政策支援で、1,500億台湾元の投資と1万2,000人の雇用機会の創出が見込まれる。

C.「中小企業加速投資行動方案」

「中小企業方案」は、中小企業の投資を加速させ、台湾がグローバルサプライチェーンの中枢になることを目標にしている。「根留台湾企業方案」同様、実施期間は2019年7月1日~2021年12月31日までの2年半で、台湾企業が政策支援を受けるためには、(1)「中小企業認定標準」を満たし、統一発票を使用する中小企業、(2)「台湾回帰方案」を未申請の中小企業、(3)投資・工場拡張の生産ラインのスマート化に対応という必須3条件に加えて、製造業の場合は特定資格として次の5項目のうち、少なくとも1項目を満たさなければならない。(1)5+2産業のイノベーション領域に属すること、(2)高付加価値製品および中核部品関連産業に属すること、(3)グローバルサプライチェーンの中核的な地位にあること、(4)自主ブランドの国際販売があること、(5)投資項目が国家重点産業政策と関連があること。条件を満たした回帰投資案件は、申請・認可手続きにより、台湾の事業で必要とする土地や水、電力の供給について優遇措置を享受できる。

台湾当局による銀行手数料補助は1.5%(この他、保証限度額1億台湾元の増額などの優遇あり)となり、融資総額は最大1,000億台湾元、補助財源は中小企業発展基金から拠出される。

2年半の政策支援で、250億台湾元の投資と2,000人の雇用機会の創出が見込まれる。

表2:「根留台湾企業方案」と「中小企業方案」の概要
投資方案 B.根留台湾企業加速投資行動方案 C.中小企業加速投資行動方案
実施期間 2019年7月1日~2021年12月31日
適用対象
〔(1)と(2)両方の条件を満たすこと〕
(1)中小企業に属さない
(2)「A.歓迎台商回台投資行動方案」の適用対象外の企業
(1)「中小企業認定標準」を満たし、統一発票を使用する中小企業
(2)「A.歓迎台商回台投資行動方案」を未申請の中小企業
条件 製造業:投資・工場拡張の生産ラインのスマート化に対応し、かつ以下の条件の1つを満たすこと
  • 5+2産業のイノベーション領域に属する
  • 高付加価値製品および中核部品関連産業に属する
  • グローバルサプライチェーンの中核的な地位にある
  • 自主ブランドの国際販売がある
  • 投資項目が国家重点産業政策と関連がある
サービス業:サービスがスマート化に対応し、かつ投資項目が国家重点産業政策と関連がある
融資総額 800億台湾元 1,000億台湾元
台湾当局による
銀行手数料補助
0.5%(20億台湾元未満)
0.3%(20億~100億台湾元未満)
0.1%(100億台湾元以上)
1.5%
(この他、保証限度額1億台湾元の増額などの優遇あり)
補助期限 5年
補助財源 国家発展基金 中小企業発展基金
その他の優遇措置 土地需要、水や電気の安定供給、税務専属サービス

注:1台湾元=約3.6円。
出所:InvesTaiwan「投資台湾三大方案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2019年11月27日閲覧)を基にジェトロ作成

台湾回帰企業の実態

米中貿易摩擦などの影響を受けた中国進出台湾企業の台湾回帰の動きはどの程度進んでいるのか。

InvesTaiwanが発表したプレスリリースで投資金額が比較的大きい企業の事例をみると(表3参照)、液晶パネル大手の群創光電(イノラックス)が701億台湾元を投じて域内2工場を拡張する予定で、「台湾回帰方案」を利用した回帰投資としては過去最高額となる。同じく液晶パネル大手の友達光電(AUO)も407億台湾元を投じて、スマート生産ライン導入などを予定している。電子部品大手の国巨(ヤゲオ)は165億台湾元を投じて、工場拡張や機械設備の購入などを行い、半導体大手の南茂科技(チップモス・テクノロジーズ)(投資額151億台湾元)やEMS(電子機器受託製造サービス)大手の和碩聯合科技(ペガトロン)(同149億台湾元)などが生産能力増強や生産ラインの増設、自動化設備などに対して大規模な投資を行う。そのほか、自転車大手の巨大機械工業(ジャイアント)やEMS大手の英業達(インベンテック)、自動車部品大手の和大工業(ホタ・インダストリアル)なども、回帰投資を進めていることがわかる。

表3:主な台湾回帰予定企業の事例
主な事業
(製造品目)
企業名 金額
(億台
湾元)
主な投資内容
液晶パネル 群創光電(イノラックス) 701 新竹科学工業園区と南部科学工業園区の工場拡張など
液晶パネル 友達光電(AUO) 407 桃園市と台中市の工場にスマート生産ラインの導入など
電子部品 国巨(ヤゲオ) 165 工場拡張、機械設備の購入など
半導体 南茂科技(チップモス・テクノロジーズ) 151 南部科学工業園区および新竹県竹北市で生産能力増強
EMS 和碩聯合科技(ペガトロン) 149 台北市にR&Dセンター建設、桃園市亀山区の2工場で生産ライン増設および自動化設備の導入など
自転車 巨大機械工業(ジャイアント) 50 台中市大甲区でスマート生産ラインの導入や自動化国際物流センターの建設など
EMS 英業達(インベンテック) 48 亀山工場と大渓工場の拡張、域内のR&D強化など
自動車部品 和大工業(ホタ・インダストリアル) 30.1 大埔美精密機械園区で新工場建設、自動化ラインの増設

注:プレスリリースに詳細(企業名、投資額、投資内容)が明記されている企業の中から金額順に抜粋した。1台湾元=約3.6円。
出所:InvesTaiwanプレスリリースを基にジェトロ作成

ただ、こうした台湾回帰予定企業の投資額は過大ではないかという批判が野党側から挙がっていた。台湾経済部はそれに反論するため、2019年末までに実際に回帰する企業や投資項目を明らかにした(中央通訊社11月19日)。

台湾経済部の沈栄津部長によると、回帰投資は実際に企業の申請に基づいたものであり、実行ベースの総投資額は2,253億台湾元と発表した。このうち、既に遊休工場に生産ラインを増設した企業は29社(投資額の合計は592億台湾元)だった。また、新工場の建設準備に着手している企業は113社(投資額の合計は1,661億台湾元)で、このうち2019年末までに着工予定の企業は99社、工場の改修や機械設置を予定する企業が7社、2019年末までに量産体制を完了する企業が7社だという。多くの企業が既に域内での活動開始に向けて着手している様子が示された。

なお、12月5日までに台湾回帰の支援対象として認可された投資案件は158件で、投資予定額は7,078億台湾元となった。今後も順次、回帰投資を行う企業が新工場建設や生産ライン増設などに着手することが見込まれる。回帰投資の動向について、引き続き注視していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ)
2017年4月より現職。

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