特集:米中摩擦でグローバルサプライチェーンはどうなる?影響は限定的で、当面は静観の構え(インド)
米中貿易摩擦による進出日系企業への影響

2020年1月7日

2018年に米中双方が相互に追加関税を課し始めて以降、米中貿易摩擦は泥沼化の様相を呈している。米国の対中関税は、中国企業だけでなく、中国で生産し米国に輸出している全ての企業に適用されるため、日系企業の経営悪化やサプライチェーンの見直しが必要となる可能性が指摘されている。一方、ジェトロが実施した調査や回答企業へのインタビュー結果を見る限り、インド進出日系企業にとって米中貿易摩擦による大きな影響はなさそうだ。また米中貿易摩擦の長期化は、インドにとって市場獲得の絶好の機会となる可能性も秘めている。

インド進出日系企業への影響は限定的

ジェトロが実施した「2019年度在アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(以下、ジェトロ調査)」の結果によると、進出日系企業に対し、「通商環境の変化が与える現時点の影響」を聞いた設問(回答企業数:409社)では、「分からない」が174社(42.5%)、「影響はない」が100社(24.5%)で、両者を合わせて全体の約7割を占めた(図1参照)。

図1:通商環境の変化が与える現時点の影響
最も多かった回答は「分からない」で174社(42.5%)だった。

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

インドは内需が旺盛なため、約半数の企業が完全内販型で輸出依存度が低いことや、コスト削減のため、約75%の企業が地場企業からの調達を実施しており、現地調達率が高いことが主な要因だ。

一方、現時点で「影響がある」と回答した企業は、「マイナスの影響がある」が70社(17.1%)で最も多く、次いで「プラスとマイナスの影響がある」が49社(12.0%)、「プラスの影響がある」が16社(3.9%)となった。

国内売り上げはプラスとマイナスの両面で影響大

マイナスの影響が及ぶ対象を聞いた設問(回答企業数:112社)では、「国内売り上げ(現地市場での売り上げ)」が72社(64.3%)と最多で、次いで「調達・輸入コスト」が57社(50.9%)、「生産コスト」が21社(18.8%)となった(図2参照)。

図2:マイナスの影響が及ぶ主な対象
「国内売り上げ(現地市場での売り上げ)」 が72社(64.3%)と最多で、次いで「調達・輸入コスト」が57社(50.9%)、「生産コスト」が21社(18.8%)となった。

注1:国内売り上げは、現地市場での売り上げ。
注2:海外売り上げは、輸出での売り上げ。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

プラスの影響が及ぶ対象を聞いた設問(回答企業数:60社)では、「国内売り上げ」が41社(68.3%)と最も多く、「海外売り上げ(輸出での売り上げ)」が18社(30.0%)、「調達・輸入コスト」が14社(23.3%)で続いた(図3参照)。

図3:プラスの影響が及ぶ主な対象
「国内売り上げ」が41社(68.3%)と最も多く、「海外売り上げ(輸出での売り上げ)」が18社(30.0%)、「調達・輸入コスト」が14社(23.3%)で続いた。

注1:国内売り上げは、現地市場での売り上げ。
注2:海外売り上げは、輸出での売り上げ。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

同調査の回答企業へのインタビューに対し、総合商社A社は「製造業の客先(繊維機械など)を中心に、特需の形で売り上げが伸びる企業もあれば減速する企業もある。今年になってその傾向はより顕著になった」と、国内売り上げにプラス・マイナス両面の影響が出ていると回答した。また、電機メーカーのB社は海外売り上げについて言及し、「米国向けに販売している車用モータードライブ装置のパーツをインド産に変更した」と、生産移管によるプラスの影響があるとする一方で、国内売り上げや生産コストについては、「太陽光パネル用変換装置の分野に、中国企業が進出してきている」と、価格競争によるマイナスの影響があるとコメントした。

日系企業の多くは静観の構え

ジェトロ調査で「影響がある」と回答した日系企業に、具体的な対応策を講じる動きはあまり見られない。生産地の移管、調達先の変更、販売先の変更の有無についてそれぞれ聞いた設問では、「あり」と回答した企業はいずれも低水準にとどまった(図4参照)。

図4:通商環境の変化に対する対応策
米中貿易摩擦の「影響がある」と回答した日系企業に、生産地の移管、調達先の変更、販売先の変更など、具体的な対応策を講じる動きはあまり見られない。

注1:生産地の移管は、実施済みを含む。
注2:調達先の変更は、新規開始・打ち切りを含む。
注3:販売先の変更は、新規開始・打ち切りを含む。
出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

これは、日系企業の多くが米中貿易摩擦による影響を限定的なものと捉えているためで、当面は状況を見守る姿勢だ。

一方、米中貿易摩擦よりも、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の影響を不安視する声が散見された。特殊鋼メーカーのC社は、インドがRCEPへの参加を見送った影響について、「インドや日本への鉄鋼製品に対する関税適用、輸入規制などのマイナス面が考えられる」と指摘した。

インドにとって米中貿易摩擦の長期化はプラスに

インドにとっては、米中貿易摩擦の影響はプラスに働くとの見方がある。例えば、2018年7月に中国は米国からの大豆の輸入に対し25%の追加関税を課す一方で、インドに対しては3%からゼロに引き下げた。2019年10月に中国は大豆を対米報復関税の適用除外としたものの、世界有数の大豆生産国であるインドにとって、世界最大の輸入国である中国市場が魅力的なことに変わりはない。インド商工省が公表した報告書(「Report of the High-Level Advisory GroupPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(9.9MB)」、p.41-50、2019年10月31日)によれば、米中双方が農業・鉱業・製造業分野に対し20%の関税を課した場合、米中双方のGDPにはマイナスに働くのに対し、インドのGDPにはプラスに働く、との試算結果が示された。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
宇都宮 秀夫(うつのみや ひでお)
2010年、日本政策金融公庫入庫。日本経済研究センター出向などを経て、2018年10月にジェトロ出向(ビジネス展開支援部新興国進出支援課)。2019年4月から現職。

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