世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うドイツ合成燃料の重点領域、政策支援と実証プロジェクトが新市場形成

2026年3月19日

ドイツにおける合成燃料は、内燃機関搭載車(自動車)向けガソリンを全面的に代替する解とは位置付けられていない。一方、電動化が難しい大型・重量車両、長距離輸送、船舶、航空(SAF)の分野で有望な選択肢とされ、政策支援と実証プロジェクトが新市場形成を後押しする。

本稿は、ドイツ次世代燃料のうち、内燃機関搭載車で使用可能な合成燃料に焦点を当て(2023年1月18日付ビジネス短信参照)、製造に不可欠な水素クラスターの育成が進むノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州(2025年9月1日付地域・分析レポート参照)でのインタビュー調査(注1)を基に、ドイツの合成燃料導入の一端を報告する(調査日:2026年1月27日~29日)。

EU、2035年の内燃機関搭載車禁止方針を転換

ドイツは、温室効果ガス(GHG)排出量を2045年までに実質ゼロとする気候中立を掲げ、省エネルギー、再生可能エネルギー拡大、電化、水素利活用の促進に官民で取り組んでいる。EUが2050年までに気候中立を目指す中、ドイツは5年前倒しという野心的な目標の下でエネルギー転換を加速させている(2024年4月5日付地域・分析レポート2021年7月6日付ビジネス短信参照)。

一方で、移行の途上ならではの課題も顕在化している。カテリナ・ライヒェ経済・エネルギー相は2025年9月15日、電力の約60%が風力・太陽光などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来となったことを評価しつつも、産業競争力との両立の観点から「エネルギー転換は岐路に立っている」と述べた〔ドイツ連邦政府プレスリリース参照(ドイツ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。

自動車政策でも見直しが進む。ドイツ連邦政府は11月28日、欧州委員会に対し、2035年以降の内燃機関搭載車販売の実質禁止について柔軟化を働きかけると表明〔ドイツ連邦政府ウェブサイト参照(ドイツ語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2025年12月8日付地域・分析レポート参照〕。これを受け欧州委員会は12月16日、自動車産業のクリーンモビリティー移行を支援する新たな政策パッケージを発表し(欧州委員会プレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、2035年の乗用車・バンのCO2削減目標(2025年11月20日付ビジネス短信参照)を「2021年比100%」から「90%」へと緩和、2035年以降の新車の内燃機関搭載車の実質禁止方針(2023年3月30日付ビジネス短信参照)を転換した。残る10%は、EU域内産の低炭素鉄鋼や合成燃料(e-fuel)(注2)、バイオ燃料の活用で相殺可能とした(2025年12月25日付ビジネス短信参照)。

NRW.Energy4Climate、再エネ・水素・合成燃料を軸に産業転換を推進

NRW州はドイツ有数の工業集積地であり、技術力と国際競争力を備えた中小企業や外国企業が集積する欧州屈指のビジネス拠点だ。68の大学と60の研究機関を背景に高度人材を確保でき、州都デュッセルドルフを中心に650社超の日本企業が進出、その多くが欧州本社を置く(2025年6月19日付ビジネス短信参照)。

同州は気候保護とエネルギー転換を加速するため、州政府100%出資のNRW.Energy4Climateを2022年にデュッセルドルフに設立(職員約140人)。この機関は、(1)ドイツ最大の工業州を維持した上での2045年の気候中立の達成、(2)欧州のエネルギー転換の先導、(3)エネルギー・産業・建物・暖房・モビリティー分野で政策・企業・研究・市民社会をつなぐハブとなること、の三点を目標に掲げる。既存の化学・素材・機械・自動車産業の強みを活かし、再エネ・水素・合成燃料を軸に産業転換を図るのが基本方針だ。

シュテファン・ヨーン氏(エネルギー・交通部門プロジェクトマネジャー)、ドメニク・フーフ氏(交通部門プロジェクトマネジャー)へのヒアリングでは、運輸部門の脱炭素化は、「バイオ燃料」と「電力由来の合成燃料(e-ディーゼル、e-メタノール、e-メタン、e-アンモニア、e-SAF)」の両方で取り組みが進んでいる状況が示された(本特集「次世代燃料導入の現状(1)運輸脱炭素化にバイオ燃料の選択肢」参照)。2050年のEU気候中立目標の下で、運輸のGHG削減はバッテリー電動自動車(BEV)、水素、合成燃料の三本柱で進めるのが基本設計だ。


EV急速充電ステーション(ジェトロ撮影)

水素ステーション(ジェトロ撮影)

2025年12月に発表された欧州委員会の新政策パッケージの下では、2035年の乗用車のCO2 90%削減に向け、2035年以降は現行のガソリン、ディーゼル車の新車登録はできなくなるが、実質的にCO2排出が少ない合成燃料対応車は例外的に登録可能となった。しかし、 NRW.Energy4Climateが特に重視するのは、大型・重量車、船舶、航空といった電動化が難しい用途だ。合成燃料の利点は、(1)長寿命の既存機材(航空機は約30年、船舶は約60~80年)への対応、(2)建設用大型特殊車両・長距離トラックなどの重車両での有効性、(3)既存インフラ(例えば給油所)の活用可能性、の三点だ。

また、水素は合成燃料の中間体かつ基盤であり、再生可能電力で水を電解して得たグリーン水素に回収CO2を反応させることで、e-メタノールやe-ディーゼル、e-メタン、e-アンモニア、e-SAF(電力由来の合成航空燃料)を製造できる。水素自体も燃料電池や内燃機関で利用可能で、用途ごとに最適化していくことが前提となるという。

規制の枠組み:EU RED IIIおよびRFNBOの要件

制度面では、EUのREDIII(再生可能エネルギー指令)が、2030年までに産業で使用される水素の42%以上をRFNBO(非生物由来の再生可能燃料)(注3)とすることを加盟国に義務付け、追加性(additionality)、時間的相関(temporal correlation)、地理的相関(geographical correlation)の三要件を求める。これらは、(1)再エネ電力の追加的な供給電力を用いること、(2)電力供給と水素製造の時間を合わせること、(3)電力源と製造設備を同じ電力市場内に置くこと、を求めるものだ。

現時点で、EUとドイツともに、ガソリンやディーゼルに合成燃料(e-fuel)を混合する義務は未導入だが、B5(5%混合)・E10(10%混合)など従来型のバイオ燃料混合義務は存在する。これに加え、REDIIIでRFNBOに三倍カウントのインセンティブが付与され、GHG削減義務達成で有利になることから、製油所における合成燃料製造への関心は高まりつつあるという。

Forschungszentrum Jülich、再エネメタノール由来のガソリン相当燃料を開発

欧州最大級の総合研究機関Forschungszentrum Jülich(FZJ)(注4)では、ヨアヒム・パーゼル博士(燃料合成化学部門長)が、再生可能電力由来メタノールをガソリン相当燃料へ変換するMTG(Methanol-to-Gasoline)に関し、パイロット設備での技術確立に向けた研究に参画している。パーゼル氏によれば、ザクセン州フライベルク大学のパイロット設備で実証が行われ、化学反応器の技術はCAC(Chemieanlagenbau Chemnitz)が提供、生成した合成ガソリンは国内企業が受け取り、精製・アップグレード後に規格適合燃料として、シェル、ビー・エム・ダブリュ、フォルクスワーゲンなどがエンジン試験を行っている。

FZJは触媒研究や反応速度論など科学技術の中核を担い、「いかに効率よく合成ガソリンを得るか」を基礎科学の観点から追及する。生産量は合計300〜350立方メートル(=約30〜35万L)と国内最大級。量産段階には至っていないが、規格適合燃料は追加装置なしに通常のガソリン同様に利用できることが確認されている。

合成燃料は、今後5~10年で一定の市場拡大の余地はあるものの、ガソリンの全面置換には至らないとパーゼル氏はみている。主因は、電力→燃料→内燃機関の経路がBEVと比べて効率的に不利(BEVが約80%、燃料電池車での水素利用は50%に対し、e-fuel+内燃機関は約25%以下)で、コストと供給量の制約も大きいことだという。他方、電動化が困難な長距離・重量輸送(大型トラック)では充電時間、航続距離、電池重量が制約となり液体が必要となる。ドイツ政府はEV(電気自動車)を強く推進してきたが、内燃機関の全面排除が難しい領域があるため、合成燃料も選択肢の1つとして位置付けている。

一方で、航空分野では合成燃料の意義は大きい。とりわけSAF(持続可能な航空燃料)(注5)は代替が難しく、航空部門の排出削減に不可欠であるため、政策の焦点は乗用車向けよりもSAFに寄っている。ドイツには内燃機関で大きな強みがある一方、産業を守りつつ気候変動にも対応するには電動化が必須となっている。ただし、EVだけに絞る、あるいは合成燃料だけに依存するなど、一方に振り切るのは現実的でないため、両者の間で最適化を探る必要がある。

Fraunhofer UMSICHT、コア技術IPを基盤に産業側との補完関係を強調

Fraunhofer UMSICHT(注6)は、同研究所の主要な専門分野の全てで、産業パートナーとの共同開発(例:企業との電解装置技術の共同開発など)に積極的だ。グリーン水素・炭素管理部門のセバスティアン・シュティーセル博士(事業開発マネジャー)、電力由来化学品技術部門のケビンジェオルジオス・ペッルンビ博士(上級研究員)へのヒアリングによれば、季節変動・出力変動の大きい再エネ比率の上昇と需要側のデジタル化(データセンターなど)により、大容量エネルギー貯蔵の必要性は一段と高まるという。

電池のコスト制約を踏まえると、水素(ガス・液化・化学形態)が有力な貯蔵オプションであり、欧州は水素を広域的に輸送・貯蔵するための大規模パイプライン網(欧州水素バックボーン)の整備を進めている。一方で、水素だけでは十分でなくSAFなどの重要な化学品や燃料を作るには、炭素が原料として必要となる。そのため研究所では、再生可能電力を活用して水素や合成燃料など脱化石の新しい燃料を作り出す一連の技術や産業プロセス(バリューチェーン)をつなぐ取り組みであるCCU活動を強化している。

また、ドイツは中長期的にもエネルギー輸入国であり続け、完全自給は難しいが、地政学的観点から電気分解などの基礎的なノウハウを国内に蓄積することが重要となる。そのため、合成燃料などのエネルギー製造において日本企業との協業可能性があり、CO2回収装置、CO2の精製・プラント設計などの周辺機器・プロセス設計は可能性の大きな領域といえる。日本企業は部品・コンポーネントや大規模製造に強みがある。特に、モジュール型技術(電解、DAC、CO2回収など)を多数並べて統合・最適化する「バランス・オブ・プラント(BoP)」の設計力は重要だ。

Fraunhofer UMSICHTは、材料開発からシステム統合、エンジニアリング、現場テストまで多段階で企業と連携し、中核技術の開発から用途ごとの導入設計まで、一貫したソリューションづくりを共同して進めているという。

ドイツでの連携の可能性

ドイツでの企業との連携について、Hitachi Energy Germany AGのモーリッツ・ベルクホフ氏(プロダクトマーケティング担当)は、日本企業を含めグローバルに協業を広げていく意向があるという。水素領域は、同社が製造する変圧器だけでなく、系統統合、高電圧製品やサービスなど、複数部門が関わる統合ソリューションの対象であり、世界各地のチームが連携して顧客への対応をしている。日本企業をはじめ他社との連携では、水電解メーカーや整流器メーカーなどとの可能性を挙げる。

ドイツでビジネスを行う際の留意点について、一般財団法人日本品質保証機構(JQA)欧州駐在員事務所 男澤英貴所長は、ドイツでの会社設立自体は比較的容易だが、CEマーキングなどの製品規制への対応は難度が高いという。JQAは日本企業に対して規制・認証制度の説明に加え、必要に応じて認証試験の手配(認証書発行の実務支援)を行い、NRW州と東京都の連携の枠組みでも日本企業の参入を支援している。

合成燃料の開発と導入が進むドイツにおいて、日本企業は、NRW.Energy4Climate を案件形成のハブとして活用し、ドイツ研究機関との段階的な連携、日系企業との補完関係の構築、さらに規制・認証に詳しい機関との早期対話を組み合わせることで、初期段階の不確実性を低減しながら事業機会を効果的に見いだすことが可能となるかもしれない。


注1:
インタビュー対象は、NRW.Energy4Climate、Fraunhofer UMSICHT、 Forsungsuzentrum Jülich、Hitachi Energy Germany AG、日本品質保証機構(JQA)欧州駐在員事務所の5カ所。 本文に戻る
注2:
合成燃料はCO2と水素を合成して製造する。従来の化石燃料の代替となることが期待さ れる。 本文に戻る
注3:
EU法において、合成燃料はグリーン水素を含むより広い概念のRFNBO(非生物由来の 再生可能燃料:Renewable Fuels of Non-Biological Origin)に分類される。 本文に戻る
注4:
Forschungszentrum Jülichは、ノルトライン・ウェストファーレン州ユーリッヒに所在す る総合研究機関であり、約7,450人の研究者・職員が、エネルギー、情報、バイオエコノミー分野にまたがる学際研究に従事している。 本文に戻る
注5:
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、バイオ由来原料から製造される燃料に加え、再生可能電力由来の水素とCO2を合成して得る合成燃料(e‑kerosene:RFNBO)を含む。 本文に戻る
注6:
Fraunhofer全体では約3万人の職員がおり、ドイツ各地に約76の研究所がある。 Fraunhofer UMSICHTはオーバーハウゼンにあり、サーキュラー・エコノミー(循環経済)、ローカル・エネルギー・システム(地域エネルギーシステム)、カーボン・マネジメント(CO2回収・利用:CCU中心)、グリーン水素の4つを重点テーマとしている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部 主任調査研究員
清水 幹彦 (しみず みきひこ)
1992年、ジェトロ入構。ジェトロ・デュッセルドルフ事務所、海外調査部情報企画課長代理、ジェトロ・ブリュッセル事務所(欧州広域調査)、ジェトロ佐賀所長、ジェトロ・ワルシャワ事務所長などを経て、2025年5月から現職。欧州経済の基礎知識(ジェトロ)、世界経済・金融危機とヨーロッパ(勁草書房)などを分担執筆。