欧州自動車工業会、新車の乗用車・バンのCO2排出基準規則の見直しに関し提言

(EU)

ブリュッセル発

2025年11月20日

欧州自動車工業会(ACEA)は11月7日、EUの新車の乗用車と小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に係る規則に係る提言書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

EUは2023年に、CO2の排出量を2030年までに乗用車は55%、バンは50%削減、2035年までにはともに100%削減(いずれも2021年比)する目標を設定した。しかし、バッテリー式電気自動車(BEV)の新車登録台数は想定を下回り、EU域内のバッテリー生産体制の構築や充電インフラ整備も遅れている。ACEAは2030年目標、2035年目標ともに達成不可能で、より現実的な取り組みが必要と述べた。欧州委員会は9月、2025年内に規則を見直すと表明し(2025年9月16日記事参照)、12月に法案を発表予定だ。

ACEAは排出基準規則の見直しだけでなく、充電インフラや電力網強化・VtoG(注1)対応の規制改革や購入支援などあらゆる関連施策を強化することや、脱炭素化と競争力およびレジリエンスの強化を両立させ、車種ごとに異なったアプローチをとることを提言した。脱炭素化に向けた電動化を主軸としつつも、技術中立の原則に立ち、プラグインハイブリッド技術、レンジエクステンダー(注2)や燃料電池などの活用が必要と主張した。

具体策として、(1)乗用車は2028~2032年、バンは2025~2029年および2030~2034年のそれぞれ5年間の平均で順守状況をみる仕組みを導入(注3)、(2)メーカーにとって収益性が低い小型BEV乗用車に対し、優遇的な排出クレジットを付与することで生産を後押し、(3)排出基準の緩和措置が適用条件となる販売台数に占めるゼロおよび低排出車(ZLEV)の割合の見直し、(4)2035年以降も走行可能とした合成燃料(e-fuel)を使用する内燃機関搭載車(2023年3月30日記事参照)への税制優遇措置などを提言した。また、基準未達の企業に科される罰金の修正、経済や市場の状況に応じ2年ごとに規則の見直しを可能とする条項の追加なども提案した。

さらに、自動車メーカーだけでなく、燃料、電力やインフラ整備など関連産業も巻き込む政策の推進が必要と主張。排出の相殺になる策として、石油精製業事業者による脱炭素燃料の製造推進や、自動車メーカーに対するインセンティブ制度を含む生産時のCO2排出が少ない鉄鋼製品などの調達促進なども提案した。

提言書は、大型車の排出基準に係る規則(2024年1月25日記事参照)にも言及し、メーカーの努力だけでは達成は厳しく、基準未達に伴う巨額の罰金リスクにさらされていると述べた。短期的な施策として規則見直しに加え、インフラ整備なども含む大型車の脱炭素化の進捗状況を早急に評価し、その後、定期的にモニタリングすることやメーカーの競争力維持を目的に罰金の回避策を要請した。

(注1)電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の蓄電池を送配電系統に接続して充放電する技術(Vehicle to Grid)。

(注2)電気自動車(EV)の航続距離延長を目的に搭載される小型発電機からなるシステム。

(注3)2025~2027年については、2025年7月の規則改正により、3年間の平均値で順守状況をみることとなった(2025年4月7日記事参照)。

(滝澤祥子)

(EU)

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