世界の次世代燃料の生産・消費動向を追う牛ふんからバイオガス、農業残さで燃料製造に乗り出すインド

2026年1月20日

世界的な脱炭素化や化石燃料依存脱却の高まりを背景として、次世代燃料に注目が集まっている。特にインドはエネルギー源として石炭・石油への依存度が高く、またそれらの大部分を輸入によりカバーしていることから、安全保障の視点でエネルギー転換を急速に進めている。その中でも、有望分野とされているのがバイオ燃料だ。政府は、農業大国であることを強みに、豊富な残さを活用することでエネルギー自立を目指している。本稿では、インドのバイオ燃料市場、特に日系企業数社が製造に乗り出す圧縮バイオガス(以下、CBG)に焦点をあて、生産および消費の動向と課題、今後のビジネス機会を概観する。

農業残さ活かし、「エネルギー自立」を進める

インドは、中国、米国に次ぐ世界3位のエネルギー消費国だ。国際エネルギー機関(IEA)によれば、インドの2023年のエネルギー供給構成比は46.4%が石炭、24.7%が石油で、それに天然ガスや原子力、水力、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが続く(図参照)。他方、エネルギー輸入も世界で3番目に多く、14億人という巨大な人口を抱えるインドにとって、エネルギーの自給は経済安全保障の観点からも課題となっている。

図:インドの燃料別エネルギー供給構成比(%)
インドのエネルギー供給構成比の46.4%が石炭、24.7%が石油で、それに天然ガス(構成比5.3%)や原子力、水力、風力や太陽光などの再生可能エネルギーが続く 。

出所:IEA資料からジェトロ作成

そこで政府は2021年8月に、インド独立から100年後となる2047年までに「エネルギー自給国(Energy Independence)」を目指すと宣言した。以降、モビリティーの電化や再生可能エネルギーの活用など、さまざまな軸を打ち出しているが、農業大国のインドにとって、バイオ燃料はとりわけ有望な分野だといえよう。その理由は、次の3点に集約できる。第1に、インドは世界有数の農業大国であり、国内の農業残さが豊富だ。年間余剰残さは約2.3億トンといわれており、バイオ燃料の供給可能性は非常に大きい。第2に、バイオ燃料を開発する企業が農業残さを買い取り、生成を進めることで、農村部に経済的安定性をもたらすことが可能だ。インドにおける農村人口の割合は約7割とみられ、ナレンドラ・モディ政権の主たる票田とされる。農村部の所得向上を目指すことで支持を獲得することは、現政権にとって非常に重要だ。第3に、環境負荷の軽減だ。通常、農業残さは野焼きなどによって処理されることが多いが、野焼きはインドにおける大気汚染の原因のひとつとなっている。農業残さを有効活用し、野焼きを減らすことができれば、大気汚染軽減にもつながるのだ。

世界最速で拡大するバイオ燃料市場

では、インドにおけるバイオ燃料市場はどうなっているのか。IEAによれば、インドにおける2023年のエネルギー消費量全体に占めるバイオ燃料の割合は13%で、2030年に最大で45%まで拡大するといわれている。また、バイオ燃料市場が世界最速で拡大すると予測されており、世界のバイオ燃料需要増加に占めるインドの割合は35%となる見通しだ。

インド石油・天然ガス省(MoPNG)によれば、登録されている国内のCBGプラント数は1,362基で、うち177基が既に稼働を開始している(2025年12月末時点)。州ごとでは、北部ウッタル・プラデシュ州(36基)、西部グジャラート州(25基)、北部ハリヤナ州(19基)、西部マハーラーシュトラ州(18基)、南部カルナータカ州(18基)の順で稼働プラント数が多い(表1参照)。また、建設中のプラントは279基、建設は開始されていないものの登録が完了しているプラントにいたっては890基と、国内におけるCBG製造拡大の機運が見て取れる。

表1:インド国内における州別CBGプラント数(2025年12月末時点)
州名 登録完了
(建設準備中)
建設中 建設完了 稼働中 合計
アンダマン・ニコバル諸島* 0 1 0 0 1
アンドラ・プラデシュ州 58 14 0 6 78
アルナーチャル・プラデシュ州 0 0 0 0 0
アッサム州 8 1 0 0 9
ビハール州 28 12 2 2 44
チャンディガル* 1 0 0 0 1
チャッティースガル州 25 2 0 2 29
ダドラ・ナガル・ハべリおよびダマン・ディウ* 0 0 1 0 1
デリー準州 1 6 0 2 9
ゴア州 0 0 0 1 1
グジャラート州 71 28 2 25 126
ハリヤナ州 38 14 1 19 72
ヒマーチャル・プラデシュ州 1 0 0 0 1
ジャンム・カシミール* 1 0 0 0 1
ジャールカンド州 5 3 0 1 9
カルナータカ州 38 19 1 18 76
ケララ州 2 3 0 0 5
ラダック* 0 0 0 0 0
ラクシャドウィープ* 0 0 0 0 0
マディヤ・プラデシュ州 91 20 1 10 122
マハーラーシュトラ州 134 33 4 18 189
マニプール州 0 0 0 0 0
メガラヤ州 0 0 0 0 0
ミゾラム州 0 0 0 0 0
ナガランド州 0 0 0 0 0
オディシャ州 21 9 0 0 30
プドゥチェリー* 0 0 0 0 0
パンジャブ州 61 11 1 10 83
ラジャスタン州 32 11 1 8 52
シッキム州 0 0 0 0 0
タミル・ナドゥ州 51 8 0 8 67
テランガナ州 42 7 0 6 55
トリプラ州 0 0 0 0 0
ウッタル・プラデシュ州 162 72 2 36 272
ウッタラカンド州 10 1 0 4 15
西ベンガル州 9 4 0 1 14
合計 890 279 16 177 1,362

注:※は連邦直轄地。
出所:MoPNG資料からジェトロ作成

政府、上流と下流の両サイドから政策推進

これらの市場拡大には、インド政府が推進する政策の影響が大きいだろう。バイオガスに関連する中央政府の主たる政策は、次のとおりだ。

表2:インドの中央政府によるCBG関連政策
No 政策名 管轄 内容
1 持続可能で安価な代替輸送手段
(Sustainable Alternative Towards Affordable Transportation、SATAT)
MoPNG
  • 2018年10月発表。
  • CBG製造を行うプラントを2023年度(2023年4月1日~2024年3月)までに5,000基国内に設置し、年間で1,500万トンのCBG製造を目指す。他方、2025年11月現在、同スキーム下におけるCBGプラント数は100基程度にとどまる。
2 バイオガスプログラム(フェーズI) 新・再生可能エネルギー省
(MNRE)
  • 2022年11月発表。
  • 実施期間:2021~2025年度
  • 対象となるのは、1日当たり1~25立方メートルのCBG製造を行う小・中規模のCBGプラントで、プラント設立に際して資金援助が行われる。
3 CBG混合義務 MoPNG
  • 2023年11月発表。
  • 自動車用の圧縮天然ガス(CNG)と家庭用の都市ガス(PNG)への圧縮バイオガス(CBG)の混合を段階的に義務化。
  • 混合割合については次のとおり。
    • 2024年度まで:任意
    • 2025年度:1%
    • 2026年度:3%
    • 2027年度:4%
    • 2028年度以降:5%
    ※なお、「義務」とされる一方で、2025年12月時点では、罰則などについて特段の定めはない。

出所:インド政府資料からジェトロ作成

各政策の内容からも分かるとおり、表2の(1)と(2)は上流サイド、(3)は下流サイドの視点に立ったCBG促進政策だ。CBG製造にあたってプラント数を増加させるだけでなく、CBG混合を義務化することで、市場全体を加速度的に拡大させていく方針だ。

また少し視点は異なるが、CBGの今後の動向を踏まえる上で無視できないのは、有機肥料に対する政府の姿勢だ。インドは世界で2番目に巨大な肥料消費市場であるが、貿易総額に占める肥料(HSコード31)の輸入金額が全体で14位(2024年、約78.0億ドル)と大きい。肥料の輸入内訳を確認すると、約78.0億ドルのうち、約77.6億ドルを化学肥料(HSコード3102~3105の合計)が占めていることから、国内で使用する化学肥料の多くを輸入に依存していることが分かる。政府は、大地回復・啓発・育成・改善プログラム(Prime Minister Programme for Restoration, Awareness, Nourishment and Amelioration of Mother Earth、PM-PRANAM)スキームを通じて、化学肥料の消費量を低減させた州に対してインセンティブを付与することで、有機肥料の消費促進を進めている。ガス製造時に副産物として発生する残さから有機肥料を生成するCBGの製造を促進することは、インド政府の肥料政策とも合致する。CBG普及にあたっては、CBG促進政策に加え、有機肥料促進政策との連携、具体的には残さを原料とした有機肥料の普及への支援の充実がカギとなる。

日系企業が乗り出すCBG製造

では、インドのCBG市場において日系企業はどのような動きをしているのか。本稿では、牛ふんからCBG製造に取り組む、スズキのインド子会社Suzuki R&D Center India Private Limited(以下、SRDI)と産業ガスを手掛けるエア・ウォーターの取り組みを紹介する。

スズキのインド現地法人であるSRDI(ヒアリング日:2025年10月28日)は、インド政府機関の全国酪農開発機構(National Dairy Development Board:NDDB)およびアジア最大級の乳製品メーカーのバナス・デイリーとともに、主に自動車燃料としてのCBGを製造している。CBGプラントはグジャラート(GJ)州バナスカンタ県で稼働を開始しており、そこで生産されたCBGは、スズキブランドを冠してプラントに併設されたスタンドで販売されている。

CBGプラントと併設するスタンドの様子(同社提供)

同社の事業モデルは、プラント周辺の酪農家から牛ふんを購入し、それを原料としてバイオガスを製造するという非常にシンプルなものだ。通常残さとなる牛ふんを農家から買い取ることで、酪農家の現金収入につながるほか、牛ふんが野積みされることによって発生するメタンも抑制できる。カーボンニュートラルだけでなく、農村部の所得向上という社会課題解決の一助となる事業モデルなのだ。なお、牛ふんの回収やCBG生成過程で生まれた有機肥料の販売先開拓に大きく影響しているのが、協業先であるNDDBとバナス・デイリーだ。両団体は、それぞれインドの酪農組合を支援・発展させるための政府機関およびGJ州バナスカンタ県を拠点とする酪農組合だ。もとより牛乳販売に向けて、予防注射や獣医の提供、餌の指導など牛の生育に係るノウハウ・技術提供や、搾乳した牛乳の回収・販売まで確固としたサプライチェーンを同地域内で協力して構築してきたため、地域の酪農家との関係性は非常に強い。CBG製造事業においては、原料となる牛ふんをどのように回収するかがボトルネックとなることが多いが、既存のサプライチェーンを有効活用できたことは、大きなメリットであったという。SRDIは、「今後の課題は、収益性を兼ね備えたバイオガスプラントの実現だ。規模を拡大させ、全国展開を見据えた新たな協業先開拓をしていきたい。また、有機肥料を国産化していく動きがインド国内でも盛り上がっており、カーボンニュートラル燃料に対する世論の醸成やさらなる制度化が必要だ」と期待感をにじませた。

産業ガスを手掛けるエア・ウォーター・インディア(ヒアリング日:2025年10月29日)は、牛ふん由来のCBGからメタンを分離・精製し、バイオメタンとして工場の稼働燃料などとしての供給を目指している。既に日本国内では北海道十勝地方で商業化しており、インドではNEDO実証事業の一環として事業化に取り組む。特筆すべきは、牛ふんの回収方法だ。ヒンドゥー教では牛は神聖な生き物とされており、食肉も禁忌とされる。そのため国内には、ヒンドゥー教思想に基づく牛の保護施設(Gaushala)が多く存在している。同社はハリヤナ州内の保護施設と提携し、牛ふんの回収・運搬を委託、施設内でのCBGプラント設置を目指している。既にインドの産業ガス分野で3位のシェアを誇る同社であるが、樋口一哉ディレクターは「政府・民間の両サイドでバイオメタン事業への関心が高い。こういった取り組みで、当社のインドにおけるプレゼンスの更なる向上の観点でも効果を発揮するとともに、カーボンニュートラル社会の実現および地域社会への貢献も目指す」と今後の事業拡大に意欲を示した。


Gaushalaの様子(同社提供)

各社が取り組むのは「インドならでは」のアプローチ

エネルギー安全保障の観点からバイオ燃料推進を図るインドであるが、牛ふんを活用したCBG製造など、各社のアプローチはまさに「インドならでは」の特性を生かしたものといえよう。また、足元では低廉な燃料費を背景に、CNG車購入台数が増加しており、2024年度の乗用車販売台数に占めるCNG車の割合は19.5%と、2019年度の同6.3%から過去5年間で急激な拡大を遂げた。インドにおけるCBG推進は、モビリティーの脱炭素化達成に向けた現実的な解のひとつになると思われる。投資分野としてのバイオ燃料市場のポテンシャルは高く、今後はさらなる企業の参入が見込まれるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
深津 佑野(ふかつ ゆうの)
2022年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て、2023年8月から現職。