世界の次世代燃料の生産・消費動向を追う政策による需要喚起と生産支援
英国のSAF動向(1)

2026年3月24日

2019年6月にG7で初めて2050年までのネットゼロ目標を法制化した英国。温室効果ガス(GHG)の排出削減が困難とされる分野の1つである航空分野について、英国政府は保守党政権下の2022年7月にジェットゼロ戦略(2022年7月28日付ビジネス短信参照)を発表し、持続可能な航空燃料(SAF)を、航空分野のネットゼロを達成するための鍵となる技術の1つと位置付けた。2024年7月に政権を獲得した労働党の現政権も、前政権の方針を踏襲している。2025年6月に発表した産業戦略(2025年6月25日付ビジネス短信参照)では、航空分野を含む先端製造産業を8つの成長産業の1つに指定。SAFについて、航空分野の脱炭素化において重要な役割を果たすとした上で、英国の成長機会に資するものと位置付けている。本稿では、現地関係者へのヒアリング(1月20~23日実施)を踏まえ、SAFの普及拡大に向けた英国政府の取り組みを概観(前編)するとともに、プロジェクト事例や日本企業の連携の可能性について、現地の動向をレポート(後編)する。

SAFに係る期待と課題

既に電気自動車(EV)が商用化している乗用車と比べ、航空分野は電化のハードルが高い。バッテリーが高重量のため、エネルギー密度(重量当たりのエネルギー量)の低さが課題となっている。極短距離の路線から順次電化が可能となると見込まれるが、国際航空運送協会(IATA)の見通しによれば、2050年頃でも短距離路線に限られる。水素を燃料とすることも研究されているが、液体水素に対応した燃料タンクや供給システムを要するため、機体の改造や新型機の開発が必須となる。航空機大手エアバスは2025年2月、2035年としていた商用水素航空機の開発目標に遅れが生じていると発表しており、直ちに脱炭素化の主たる手段とすることは難しい状況だ。こうした背景から、既存の内燃機関を活用できるSAFには、2050年のネットゼロに向けて足元で実施できる脱炭素化の手段として期待が寄せられている。SAFのGHG削減効果はその製法により異なるが、英国政府は航空燃料を全てSAFに置き換えることができれば、少なくとも70%のGHG削減が可能と見積もっている。

しかし、IATAの推計によると、2025年のSAFのコストは従来の航空燃料に対して4.2倍に上り、この生産コストの高さがSAF普及の課題となっている。また、製法の多様化も課題の1つだ。現在、SAFの生産は大豆、パーム油、廃食油(UCO)などを原料とした水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)製法(注1)によるものが主流で、英国では主にUCOを原料に用いている。英国のSAF生産に用いられたUCOの約8割(2025年速報値)は輸入に頼っているが、UCOは再生可能バイオディーゼル(HVO)(注2)の生産にも用いられるためSAFの生産に充てられる量が限られることに加え、脱炭素化の進展により国際的な需要増加が見込まれる。こうした背景から、英国政府は、英国では遅くとも2029年には、原料不足によるSAFの生産抑制が生じると想定している。しかしHEFA以外の製法については、さらにコストが高い。英国政府が2024年4月に公表した製法ごとのSAFの生産コスト推計(表1参照)を見ると、足元ではHEFAが最も低コストであることが分かる。また、2040年に近づくにつれてコストの低下が期待される製法もあるが、ケースによる価格差は大きく、不確実性の高さが伺える。

表1:英国のSAF生産コスト推計(単位:ポンド/トン、△はマイナス値) 注1:本表における各製法の概要は、次のとおり。 BtL(Biomass to Liquid):フィッシャー・トロプシュ(FT)合成(合成ガスと触媒を用いて液体燃料を製造する技術)により、バイオマス由来の合成ガスからSAFを精製する手法。 PBtL(Power and Biomass to Liquid):BtLにおける合成ガス生成にグリーン水素を添加する手法。 HTL(Hydrothermal Liquefaction): バイオマスを水熱液化処理して得たバイオ原油から燃料を精製する手法。 PtL(Power to Liquid):再生可能エネルギーなどの低炭素電力に由来する水素と二酸化炭素(CO2)からSAFを精製する手法。 注2:各金額は2023年の消費者物価指数で算出。
製法 原料 2025年 2035年 2040年
楽観ケース 中間ケース 悲観ケース 楽観ケース 中間ケース 悲観ケース 楽観ケース 中間ケース 悲観ケース
HEFA 廃食油 807 1,288 1,914 764 1,227 1,859 751 1,211 1,836
HEFA 獣脂 834 1,132 1,659 790 1,070 1,604 778 1,055 1,581
BtL 林業残渣 2,066 2,641 4,742 1,339 1,719 3,529 793 1,027 2,620
BtL 一般廃棄物 3,869 4,617 7,088 2,473 2,855 4,770 1,422 1,529 3,029
BtL 農業残渣 2,125 2,751 4,916 1,397 1,829 3,703 850 1,136 2,794
BtL 廃材 3,894 4,775 7,565 2,494 3,521 5,247 1,441 1,682 3,506
PBtL 林業残渣 1,854 3,379 6,241 1,132 2,421 5,068 686 1,811 4,383
PBtL 一般廃棄物 3,323 4,815 7,829 2,096 3,246 5,852 1,250 2,156 4,526
HTL 林業残渣 5,612 3,379 17,371 4,137 2,421 14,421 3,148 1,811 12,412
HTL 廃材 5,577 12,422 23,845 3,278 9,217 19,611 1,833 7,111 16,912
HTL 汚泥 2,196 3,965 8,014 1,339 2,650 6,067 751 1,731 4,714
HTL サトウキビ残渣 6,407 10,663 17,772 4,845 8,422 14,692 3,827 6,911 12,655
HTL 湿式堆肥 1,404 2,274 5,052 783 1,264 3,493 356 556 2,405
HTL 残渣廃棄物 5,041 9,024 17,145 2,010 4,913 11,650 △ 52 2,053 7,854
HTL 再生不能プラスチック 2,501 4,355 8,735 1,127 2,370 5,947 201 999 4,040
HTL 廃ゴム 1,968 3,027 6,502 811 1,338 4,059 △ 4 132 2,314
PtL CO2直接空気回収(DAC) 2,423 6,799 10,697 1,422 4,714 8,493 1,111 4,025 7,946
PtL CO2ポイントソース回収 1,345 3,837 7,704 834 3,034 6,685 612 2,620 6,265

注1:本表における各製法の概要は、次のとおり。
BtL(Biomass to Liquid):フィッシャー・トロプシュ(FT)合成(合成ガスと触媒を用いて液体燃料を製造する技術)により、バイオマス由来の合成ガスからSAFを精製する手法。
PBtL(Power and Biomass to Liquid):BtLにおける合成ガス生成にグリーン水素を添加する手法。
HTL(Hydrothermal Liquefaction): バイオマスを水熱液化処理して得たバイオ原油から燃料を精製する手法。
PtL(Power to Liquid):再生可能エネルギーなどの低炭素電力に由来する水素と二酸化炭素(CO2)からSAFを精製する手法。
注2:各金額は2023年の消費者物価指数で算出。
出所:英国運輸省「SAFマンデート最終段階費用便益分析(2024年4月)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(943KB)」を基にジェトロ作成

将来的には規模の経済や技術開発の進展によるコスト低減が望まれるが、少なくとも現時点では、民間の取り組みだけではSAFは経済合理性を保てない。そのため、英国政府はSAFの普及を図るべく、需要喚起と、多様な製法を促す生産支援を講じている。

供給義務と罰則によりSAF需要を喚起

英国政府は2025年から、段階的に拡大するSAFの供給義務を課すSAFマンデート(2024年5月10日付ビジネス短信参照)を導入した。総エネルギー含有量年間15.9テラジュール(TJ)以上の航空燃料を供給している事業者が対象となる。英国政府は、SAF産業の成功と強靭(きょうじん)性確保のためにはSAF生成の幅広い技術や原料が必要であるとして、製法の多様化を目的とした仕組みをSAFマンデートに組み込んでいる。まず、通常のSAF供給義務であるメインオブリゲーションに加えて、2028年からはPtLによるSAFに限定した供給義務であるPtLオブリゲーションを導入する。またHEFAについては、2027年から、メインオブリゲーションの履行に占める割合に上限(HEFAキャップ)を設ける。上限値は経年に応じて引き下げ、HEFA依存からの脱却を図る(表2参照)。

表2:SAFマンデートの供給義務(単位:%)(ーは値なし) 注1:メインオブリゲーション、PtLオブリゲーションの値は、総燃料供給量に対する割合。 注2:HEFAキャップはメインオブリゲーション量に対する割合。
メインオブリ
ゲーション
PtLオブリ
ゲーション
合計 HEFA
キャップ
2025年 2.00 2.00 100.00
2026年 3.60 3.60 100.00
2027年 5.20 5.20 92.31
2028年 6.60 0.20 6.80 87.88
2029年 8.20 0.20 8.40 80.49
2030年 9.50 0.50 10.00 74.74
2031年 10.25 0.50 10.75 73.17
2032年 11.00 0.75 11.75 69.09
2033年 11.75 1.00 12.75 65.53
2034年 12.50 1.25 13.75 61.60
2035年 13.50 1.50 15.00 57.78
2036年 14.50 1.90 16.40 53.79
2037年 15.50 2.30 17.80 50.32
2038年 16.50 2.70 19.20 47.27
2039年 17.50 3.10 20.60 44.57
2040年 18.50 3.50 22.00 42.16

注1:メインオブリゲーション、PtLオブリゲーションの値は、総燃料供給量に対する割合。
注2:HEFAキャップはメインオブリゲーション量に対する割合。
出所:英国運輸省「SAFマンデート・コンプライアンス・ガイダンス(2026年1月)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(619KB)」を基にジェトロ作成

供給義務の履行手段は2通りあり、SAFの供給に応じて発行される証書を用いるか、バイアウトプライス(buy-out price)の支払いにより履行する。バイアウトプライスは、メインオブリゲーションの場合1メガジュール(MJ)当たり0.137ポンド(約29円、1ポンド=約210円)、PtLオブリゲーションの場合1MJ当たり0.145ポンド。これらは1トン当たりに換算すると、それぞれ5,880ポンド、6,250ポンド相当であり、前述の表1と比べると、相応に高い水準であることが分かる。これにより、証書による義務履行が果たせなかった場合の金銭的なペナルティーとして機能し、SAFの需要を喚起する。

英国運輸省の統計によると、SAFマンデート適用初年となる2025年の航空燃料に占めるSAFの割合(速報値)は年間で2.36%となったが、速報値のため目標の2%を達成したかの判断は待たれる。ただし、月ごとに見ると後半にかけてSAFの割合が増加(図1参照)していることから、SAFマンデートの義務履行判定が1年ごとになされることを踏まえた駆け込み需要が生じた可能性が伺え、需要喚起という目的は一定程度機能しているといえそうだ。

図1:2025年英国の航空燃料に占めるSAFの割合(速報値、注)
2025年英国の航空燃料に占めるSAFの割合は、1月1日~1月14日が0.00%、1月15日~2月14日が0.70%、2月15日~3月14日が1.93%、3月15日~4月14日が0.45%、4月15日~5月14日が0.79%、5月15日~6月14日が2.58%、6月15日~7月14日が4.52%、7月15日~8月14日が0.47%、8月15日~9月14日が2.04%、9月15日~10月14日が1.63%、10月15日~11月14日が5.38%、11月15日~12月14日が3.29%、12月15日~12月31日が8.11%。

注:速報値は事業者からの申請値に基づき、持続可能性の評価・承認待ちの申請中案件が含まれる。
出所:英国運輸省「SAFマンデート統計外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の第3次暫定リリース(2026年2月)を基にジェトロ作成

政府基金によりHEFA以外の商業化を支援

英国では、HEFA以外のSAFプラントは商業化に至っておらず、政府の介入無しでは克服が困難な高い初期資本コストと投資障壁に直面している。こうした状況を打破し、商業化の加速や多様なSAF製造技術の進展を支援するため、英国政府は2022年7月から、先進燃料基金(AFF)による企業支援を行っている。

AFFでは、コンペティションを経て選定された商用および実証のSAF生産プロジェクトに対し資金を提供する。応募要件にはSAFの生産に用いる原料に係る要件があり、UCOなどの油脂は不適格とされるため、HEFAは対象外となる。支援の対象となるステップは、実現可能性調査(Feasibility)、概念設計(Pre-FEED)、基本設計(FEED)、詳細設計・調達(Detailed Design, Procurement)で、詳細設計・調達については費用の最大50%までを対象とできる。プロジェクト初期の資本調達を支え、民間投資を呼び込む狙いだ。これまでに、ウィンドウ(W)1~3の3回のコンペティションが実施され、合計で約2億ポンドの資金提供がなされている。

採択されたプロジェクト(表3参照)を見ると、バイオマス由来のBtLと低炭素電力由来のPtLが偏りなく採択されていることが分かる。既に採択後に生産開始時期の延伸を発表しているプロジェクトも見られるが、これらの採択プロジェクトが今後SAFマンデートの義務拡大に沿って順調に生産開始に至れるかが注目される。

収益保証による投資リスク軽減に向けた制度検討

英国では現在、SAFの普及に向けたさらなる政策として、SAF収益確実性メカニズム(Sustainable aviation fuel revenue certainty mechanism、RCM)の導入が検討されている。RCMは、SAFマンデートや先進燃料基金といった既存の政策では対処できない、(1)HEFA以外のSAFに明確な市場価格が存在しないこと、(2)政策や規制の不確実性、(3)他の新興低炭素技術との資金調達における競合、といったリスクを緩和することで、資本コストを低減し最終投資決定(FID)への到達を支援することを目的としている。なお、前述のAFFと同様、HEFAは本メカニズムの対象外となる。

RCMの基本思想は、不確実性の中でSAF生産者の収益を保証することにある。英国政府は、収益を保証するための原資については汚染者負担の原則に従い航空業界が負担すべきとの考えから、再生可能エネルギー支援に用いられている差額決済契約制度(Contracts for Difference、CfD)(注3)を参考に具体的な制度設計を進めている。具体的には、SAFマンデートの対象となる総エネルギー含有量年間15.9TJ以上の航空燃料を供給している事業者から、政府機関が航空燃料の供給量シェアに応じた賦課金を徴収する。当該政府機関はSAF生産者との私契約で固定価格(ストライクプライス)を定め、市場価格に応じて変動する参照価格(リファレンスプライス)との差額を、賦課金を原資に補填(ほてん)(リファレンスプライスがストライクプライスを上回る場合は、SAF生産者が政府機関へ差額を払い戻し)する(図2参照)。これにより、予測困難な将来の市場価格や政策に左右されず、SAF生産者の収益を保証する。

図2:RCMの制度イメージ
横軸が時間、縦軸が価格。ストライクプライスは時間に関わらず一定で、リファレンスプライスは時間によって変動する。リファレンスプライスがストライクプライスを上回る場合は、差額をSAF生産者から政府機関へ払戻す。リファレンスプライスがストライクプライスを下回る場合は、政府機関からSAF生産者へ差額を補填する。

出所:英国運輸省「RCM:英国SAF産業を支える収益確保オプション(2024年4月)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.6MB)」を基にジェトロ作成

2026年1月12日には、(1)契約期間、(2)契約の割り当て、(3)ストライクプライスの決定方法などの主要な要素を含む意見公募(公募期間:2026年4月3日まで)が開始された。(1)については15年間とすること、(2)と(3)については、初回入札では入札者との個別交渉により決定することが提案されている。後者について、市場初期においては入札者が限定的と想定されることや、コストの不確実性を考慮し、現時点では、CfDのようなオークション方式はとらない方向だ。これらの要素が黎明(れいめい)期における非HEFAのSAFの収益性に与える影響は大きく、今後の詳細設計が期待される。英国政府は本意見公募を踏まえ、2026年末までに本メカニズムに係る法規制を整備し、第1回オークション(AR1)のタイムラインや全体戦略を公表するとしている。

英国では需給の両面からSAF普及に向けた政策を打ち、RCMのように、課題に即したアップデートが今も続いている。現時点では多くのプロジェクトが稼働前であり、これらの政策が成功モデルとなるのか、今後の動向が注目される。後編では、こうした政策を背景に英国でSAFプラントのプロジェクトを手掛ける企業などの声を紹介する。


注1:
脂肪酸エステルを水素化処理することで炭化水素系燃料を製造する技術。 本文に戻る
注2:
植物油や廃食油などの油脂を水素化処理(高温・高圧下で水素を添加)して得られる燃料。 本文に戻る
注3:
発電事業者の投資リスクを減らすため、対象となる電源の固定価格(ストライクプライス)と市場価格の間の変動する差額を政府が補填する制度。市場価格がストライクプライスを上回る場合は、発電事業者が差額を支払う。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 リサーチ・マネージャー
齊藤 圭(さいとう けい)
2015年、東北電力入社。2025年4月からジェトロに出向し、調査部欧州課勤務。