世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うバイオ燃料新販路開拓に向けSAF生産を振興(コロンビア)
2026年3月25日
コロンビアでは、自動車輸送向けバイオ燃料の生産が伸び悩んでいる。そうした中で、バイオ燃料の新たな販路として、持続可能な航空燃料(SAF)の市場開拓に注目が集まっている。
コロンビア民間航空庁(Aerocivil)は2025年1月22日、SAFの生産と利用を促進するロードマップを発表。国として道筋を示したかたちだ。その中に5つの柱を立てて、行動計画を策定した。その結果、SAFの国内生産に向け、具体的な動きにつながっている。例えば、国営石油公社エコペトロールがカルタヘナ製油所で共処理(Co-Processing)によるパイロット生産を開始。このほか、BioD(バイオディーゼルの地場大手)が米国企業と提携。エタノールからSAFを製造する計画を進めている。
この記事では、SAFの市場開拓を巡る動きを探る。2026年3月18日付地域・分析レポート記事「歴史あるバイオ燃料業界に新販路開拓の課題」とあわせて読むと、当地の次世代燃料事情が見えてくるだろう。
SAF導入行動計画に5本柱
国家企画庁(DNP)は2023年12月、国の再工業化に向けて国家経済社会審議会決議4129号(CONPES 4129)を採択。その柱の1つとしてエネルギー転換に関する政策方針を定めた。その中に、SAFの生産と利用の促進を盛り込んでいる。
これを受け、コロンビア民間航空庁(Aerocivil)は2025年1月22日、SAF導入に向けて「きれいな空、経済、生命のための航空:コロンビアにおける持続可能な航空燃料のロードマップ」を発表。(1)規制、(2)市場創設、(3)サプライチェーン、(4)研究開発(R&D)、(5)金融投資、の5本柱で行動計画を策定した。またSAFの導入目標として、
- 生産量:2035年に1億ガロン、2050年4億5,000万ガロン、
- 消費量:2035年6億8,600万ガロン、2050年8億4,500万ガロン、
を掲げた。
一方、国際民間航空機関(ICAO)は国際民間航空のためのカーボンオフセット・削減スキーム(CORSIA)で、SAFの製造プロセスとして11プロセスを認めている。このうち、コロンビアは(1) HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)、(2)ATJ(Alcohol to JET)、(3) FT(Fischer-Tropsch)合成を優先している。ちなみに(1)は、パーム油や廃食用油(UCO)などの油脂を水素化処理して航空燃料に適した炭化水素(パラフィン)を製造する。また、(2)はエタノールを脱水してオレフィンを精製、重合・水素化処理してパラフィンを生成。さらに、(3)は一酸化炭素と水素の合成ガスから触媒反応を用いて液体炭化水素を合成する方法だ。(3)を活用すると、含炭素廃棄物などの固体原料からも液体炭化水素(人造石油)やメタンガスを作り出すことが可能になるため、廃棄物の再利用促進にもつながる。
コロンビアでは既に、サトウキビからエタノール、パーム油からバイオディーゼルを製造している。この両者はそれぞれ、ATJとHEFAの両方式で加工する際の原料になる。また、サトウキビの搾りかす(バガス)やパーム油廃液(POME)などの廃棄物からメタンガスを抽出し、FT合成に用いることもできる。なお、バイオ燃料用の作物の栽培を増やすことは十分可能だ。Aerocivilによると、当地には農業適地が4,294万4,941ヘクタール(ha)あるのに対し、実際には20%しか農業に使っていない。
当地でパーム油を生産するに当たっては、環境面の配慮を徹底している。つまり、土地の間接利用(ILUC)(注1)によるGHG排出が少ない。しかし、現時点でICAOはCORSIA上、コロンビア産パーム油由来のSAFにILUCのデフォルト値を設定していない。そのため、コロンビア産パーム油のSAF向け利用促進に向け、AerocivilがICAOに対してデフォルト値の設定を働きかけている(本特集「歴史あるバイオ燃料業界に新販路開拓の課題(コロンビア)」参照)。
共処理によるパイロット生産を開始
コロンビアには、製油所が2カ所ある。エコペトロールが運営するカルタヘナ製油所は、その1つだ。
そもそもは、1957年に建設。2015年に大規模に改修し、精製能力15万バレル/日の製油所として2016年に再スタートした。2022年にはさらに、能力を拡張。現在の精製能力は日量21万バレル。35の処理装置があり、中質油から重質油の原油を精製できる。製品の内訳は、ガソリンが21%、超低硫黄ディーゼルとジェット燃料を合わせて60%、残りが石油化学製品向けのナフサ、プロピレン、コークス、タール、液化石油ガス(LPG)になっている。複数の水素化処理装置があり、低硫黄のガソリンやディーゼルを生産している。
同製油所では2024年10月、エコペトロールとして初めてSAFの生産を開始した。中南米最大の航空会社ラタム(LATAM)との共同プロジェクトになる。LATAMコロンビアのフライト700 便以上に、エコペトロールが生産する3万2,000バレルのSAF混合ジェット燃料を用いる。
同製油所のSAF製造プロセスでは、共処理(Co-Processing)という手法を採用している。具体的には、石油系の常圧残油にパーム油と廃食用油(UCO)を混合し、水素化処理装置や流動触媒分解装置(FCC)で同時に処理する。既存精製設備を最大限活用して、化石燃料から持続可能な原料に転換するのを進められるメリットがある。
生産品は、2024年10月時点で混合比率1%にとどまる。しかし今後は、CORSIAが認める混合比率5%まで生産の幅を広げることを検討している。なお、SAFの製造工程で、再生可能ディーゼル(HVO)が副産物になる。そのため、海運業界などへのHVO売却収入も見込める。
2026年第3四半期には規模を拡大し、SAF混合ジェット燃料を7万バレル生産できるようにする計画だ。中期的には、エコペトロールが所有するもう1カ所のバランカベルヘハ製油所に、HEFA方式のSAF製造専用プラントを設置する計画がある。ただしこの計画は、コロンビア産パーム油のILUCデフォルト値の設定後に取りかかる予定だ。
HEFA方式のSAFになると、ジェット燃料への混合比率をさらに引き上げることができる。また、SAFを使用すると、化石燃料比でCO2排出量を50~80%削減することが可能になる。そのため、LATAMの脱炭素目標の達成に大きく貢献できる。
ATJ製法によるSAF生産開始を2030年に計画
バイオD(BioD/バイオディーゼルを製造する地場大手)は2025年5月、SAFについて計画を発表した。ランサジェット(LanzaJet/米国のスタートアップ)と組んで、首都ボゴタ近郊の既存バイオディーゼル・プラント隣接地でSAFを製造する。投資額は7億3,900万ドル。SAFの製造方式としては、ランサジェットが開発したATJ方式を用いる。生産量は、年間3,000万ガロンだ。
BioDは、2021年からSAF製造に向けて調査を開始。製造方式を約20種類、比較検討したという。その結果、2024年にATJ方式の採用を決定。さらに2025年、既に同方式による商用プラント(注2)を稼働した実績のあるランサジェットをパートナーに選んだ。
ATJ方式を採用した理由として、BioDのカロリーナ・ベタンクール新事業開発マネジャーは、(1)国内に余剰生産能力があるサトウキビ由来のエタノール(第1世代)が利用できることを指摘。加えて、(2)中長期的に第2世代のエタノール原料の使用を考慮していることを挙げた。
なお、エタノールの原料にはさまざまな選択肢がある。目下検討している計画は、コロンビア国内オリノキア地域メタ県で、生育が早い飼料用途の牧草からエタノールを製造することだ。この牧草は既に栽培中。既に10haの土地を取得して試験栽培に着手済みだ。将来的には、同社がSAFを製造する上で必要になる1万4,000haに広げる計画だ。

同社が製造するSAFは、ボゴタのエルドラド国際空港で給油に用いる。当該空港は、プラントから約40キロメートルに位置する。アビアンカ(Avianca/地場資本)航空の本拠地で、中米・カリブ・アンデス地域の主要ハブ空港の1つだ。この空港では特に貨物の取扱量が多い。
BioDによると、2024年のコロンビア国内のジェット燃料使用量は5億5,000万ガロン。国際規格によりSAFを混合できる上限が現状で50%のため、需要は最大2億7,500万ガロンということになる。そのうち、当該空港分は1億4,600万ガロン。国内全空港の53%を占める。BioDの生産量は結局、2024年にこの空港で使用を見通せたSAF需要の20%を賄える計算になる。
BioDは同社製造SAFについて、既に2社と基本合意書(MOU)、1社と意向表明書(LOI)を締結済みだ。サトウキビ由来の第1世代エタノールでSAFを製造する第1フェーズは、2030年に開始する計画。なお、ATJを生産する工程でHVOの生産も生じる。最終製品としては、9割がSAF、1割がHVOになる。このうちHVOは、陸上輸送燃料として販売する。
第2フェーズでは、セルロースや廃棄物由来の第2世代エタノールを用いる計画になっている。ただし、第2世代エタノールの製造を軌道に乗せる必要があるため、具体的な開始年は現時点で定まっていない。
SAF製造を税制上優遇する法案を国会審議
コロンビアは2018年時点で、有償航空輸送量(RTK)がICAO加盟国の上位90%に入らない。そのため2027年以降も、国としてICAOのCORSIAプログラムに参加する義務はない。
しかし、バイオ燃料の国内生産振興や国内での関連雇用創出促進、国策として進めているエネルギー転換の柱として、SAFの国内生産を促している。その観点から、国際航空運送協会(IATA)が中心となって進めるBook and Claim(注3)の枠組みに注目。国際的にも有利な環境下でSAFを製造できる当地に外国企業のSAF製造投資を呼び込みたいと考えている。
インベスト・パシフィック(国内太平洋地域への外国投資を促進する団体)によると、当地におけるATJ方式のSAF製造コストは、従来のサトウキビ由来のエタノールを用いた場合で7.35ドル/ガロン。農業廃棄物など第2世代のエタノールを用いた場合は同5.01ドル/ガロンと試算される。現時点で国際的に流通するHEFA方式SAFは、1ガロン当たり8.29ドル/ガロンなので、大きく下回ることになる。ただし、同試算は、政府が再生可能エネルギー(再エネ)発電などに適用している税制インセンティブをSAF製造にも適用するのが条件になっている。
国内でのSAF生産を促進する上で、持続可能航空燃料法案(通称、「SAF法案」が目下注目材料になっている。ニコラス・アントニオ・バーギル下院議員は2024年11月、下院に当該法案を提出。現在、国会で審議中になっている。法案内容は、2014年の法案1715号が定める再エネ発電に対する税制インセンティブを、SAFの生産にも導入するというものだ。税制インセンティブは、所得税のインセンティブと付加価値税、関税のインセンティブで構成する(詳細は表のとおり)。
この法案が国会を通過すると、現状でエタノールやバイオディーゼルの生産に適用のない所得税のインセンティブが適用できるようになる。
政府とバイオ燃料業界は内外企業を誘致。当地へのSAF製造投資を呼び掛けている。そのためのカギになるのが、ここで示したインセンティブとIATAのBook and Claimの枠組みだ。
| 税目 | 適用期限 | 内容 |
|---|---|---|
| 所得税(法人税) | 投資から15年 |
投資額の50%を追加費用控除。ただし、課税所得の50%までが上限。 控除しきれなかった場合は翌年以降に繰り越し。 |
| 2051年6月30日 | 加速度償却(毎年関連資産取得価格の33.33%まで)。 | |
| 付加価値税(IVA) | 2051年6月30日 | プロジェクトに必要な機械設備、原材料、サービスなどを対象にする。 |
| 輸入関税 | 2051年6月30日 | プロジェクトに必要な機械・機器、原材料などについて、関税を免除する。 |
出所:2014年の法律1715号から作成
- 注1:
-
ILUCとは、バイオ燃料やバイオマスの生産を拡大する際、直接的な農地転換だけでなく、他の土地利用に間接的な影響を与えるのこと。
例えば、食料・飼料用の農地をバイオ燃料原料の生産に転換すると、不足した食料を補うため、新たに森林や湿地を農地に新規開墾することにつながり得る。そうした現象は、炭素吸収源の破壊やCO₂放出を引き起こす。 - 注2:
-
ランサジェットは、米国で2020年設立のスタートアップだ。三井物産や全日空など、日本企業も出資している。2024年には米国ジョージア州で、ATJ方式で、年間1,000万ガロンの生産能力を持つSAF製造プラントの商業運転を開始した。当該方式による商業運転は世界初。
- 注3:
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「Book and Claim」は、SAF の環境価値(排出削減効果)と物理的燃料を切り離して扱う仕組み。
この仕組みを導入した背景には、SAFの物理的供給拠点が世界的に限定的なことがある。すなわち、すべての航空会社が現地でSAFを入手できるわけではない。
この現実的制約を克服するため、次の流れをとることができる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課主幹(中南米)
中畑 貴雄(なかはた たかお) - 1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から調査部主任調査研究員、2025年4月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『グローバルサプライチェーン再考: 経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』など。






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