ルーマニア北東部ヤシ、地理的強みでウクライナ復興のハブに

2026年4月28日

ルーマニア北東部の商業・文化の中心都市であるヤシ市と同市が属するヤシ県は、米系大手IT企業のデータセンターやドイツ系大手自動車企業の拠点が立地するなど、外資系企業の集積地として注目されている。一方で、モルドバおよびウクライナ国境に近い地理的特性から、EU圏外諸国とのビジネスが盛んに行われる地政学的に重要な都市でもある。ジェトロはウクライナ復興支援の文脈におけるヤシ市の取り組みとビジネス参画可能性について、ヤシ商工会議所のビジネス促進・メンバーシップ担当部長のソリン・ゲオルギウ氏にインタビューを実施した(2026年2月4日)。

欧州横断インフラ整備に伴いさらなる発展の兆し

ヤシ県はモルドバとの国境に接し、面積は約5,500平方キロメートル、人口は76万人を超える。ヤシ商工会議所によると2024年の域内総生産(GRP)は127億ユーロで、県別では6位に位置し、ルーマニア全体の約3.34%を占めるなど、同国有数の経済・教育・文化の中心地として発展している。

貿易面では、2024年の総輸出額は約10億4,000万ユーロで、その8割以上はドイツ、英国、オランダをはじめとする欧州諸国、6割以上はEU加盟国に輸出された。主要品目は機械・部品が5割以上を占める。輸入額は総額約13億2,000万ユーロで、8割以上はドイツ、イタリア、ポーランドをはじめとする欧州諸国から輸入された。EU圏外では、モルドバ、ウクライナ、トルコが主要な輸入相手国だ。品目は機械・部品が約3割を占めるが、輸送車両や化学製品、農産品や鉄など多岐にわたる。

ゲオルギウ氏は、ルーマニア東部を南北に走るA7高速道路と、東西に走るA8高速道路の整備(図参照)によって、ヤシを含むルーマニア北東部の発展が大きく促進されるとの見方を示した。A7高速道路(南北軸)はプロイエシュティから、ウクライナとの国境都市シレト近くのスチャバまでを結ぶ。プロイエシュティ〜アジュド間は既に開通しており、今後は北部へ向けた高速道路の整備が順次進む予定だ。なお、ブカレスト〜プロイエシュティ間は既にA3高速道路が開通している。A7高速道路が全線開通すれば、ブカレストおよびルーマニア南部の地域からウクライナ国境まで直結することになる。


A7高速道路の様子(ジェトロ撮影)

A8高速道路(東西軸)は、トランシルバニア地方のトゥグル・ムレシュを起点とし、ヤシを通過してモルドバの国境都市ウンゲニに至る。A8高速道路は将来的にモルドバの首都キシナウへと接続される計画だ。トゥグル・ムレシュとハンガリーとの国境にあるボルシュの区間はA3高速道路により接続される予定で、両道路が完成すれば、モルドバ国境からハンガリー国境まで1本のルートでつながる。ゲオルギウ氏は特にA8高速道路の開通がヤシと西欧との接続性を強化し、ヤシを含むルーマニア北東部に大きな影響をもたらすと指摘した。ヤシ県の輸出の70~80%が西欧諸国向けであることから、さらなる輸出量増加が見込める。また、西欧諸国からの直接投資の増加も期待でき、既に複数の企業が投資環境の視察に訪れている。

図:A7・A8高速道路
A7高速道路はルーマニア東部を南北に走り、ブカレストの北方に位置するプロイエシュティから、ウクライナとの国境都市シレト近くのスチャバまでを結ぶ。プロイエシュティ〜アジュド間はすでに開通している。A8高速道路はトランシルバニア地方のトゥグル・ムレシュを起点とし、ヤシを通過してモルドバとの国境都市ウンゲニに至るが、いずれの区間も建設中または入札進行中。

出所:ヤシ商工会議所の説明を基にジェトロ作成

ウクライナへの人道支援と経済連携活動

ゲオルギウ氏によると、ヤシ商工会議所はロシアによるウクライナ侵攻以前から、モルドバとウクライナの国境に近い地理的特性を生かし、3国間での企業交流を積極的に推進してきた。侵攻直後には、ロータリークラブやNGO、地方自治体などと連携し、発電機をはじめとする物資支援や難民支援などの人道支援活動を実施した。

ビジネス面では、2024年10月に、ウクライナの復興と経済発展を目的としたルーマニア・モルドバ・ウクライナ3国間ビジネスフォーラムを開催した。ウクライナ商工会議所が率いる80人の代表団を含み、全体で約370人が参加した。産業ごとの分科会が実施され、特に食品関連分野で多くの成果が得られた。このフォーラムでは、ウクライナ側参加者の渡航費・宿泊費・食費は全てヤシ商工会議所が負担した。3国間の商工会議所が主体となる連携は現在も継続しており、2026年6月にも同様のイベントを開催する計画が進んでいる。


2024年のルーマニア・モルドバ・ウクライナ3国間ビジネスフォーラムの様子(ヤシ商工会議所提供)

モルドバはウクライナと隣接している地理的優位性があり、ルーマニアとの言語的・文化的親和性が高いことから、ヤシはモルドバを巻き込んだ3国間のビジネス協力の在り方を常に模索してきた。また、ウクライナと国境を接するルーマニア北東部のスチャバ県やボトシャニ県などとも連携し、ヤシを終戦後のウクライナ復興ビジネスのハブとすることを目指している。

ヤシのビジネスリスクについてゲオルギウ氏は、ロシアのウクライナ侵攻に関連する不確実性を認識しつつも、「この地域の物流面での強みは地政学的なリスクよりも大きいため、復興において主導的な役割を果たすことは戦略的に重要だ」と指摘する。物流面で強みを有する同地域においては、一定のリスクを取る価値があるとの考えだ。

ウクライナ復興に向けて、海外政府・企業からの投資の加速が注目されるが、これらの取り組みの多くは、ウクライナの持続的な発展を見据えた長期的な視点に基づいている。物流網の拡充など、インフラを中心とした大型投資プロジェクトが進展するルーマニアは、EU加盟国として安定した投資環境を備えており、復興ビジネスの拠点となり得る存在といえる(2026年3月13日付地域・分析レポート参照)。


ソリン・ゲオルギウ氏(本人提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
太田 響子(おおた きょうこ)
2023年、ジェトロ入構。デジタルマーケティング部を経て、2025年8月から現職。