世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うドイツのSAF政策の再編と商業化への課題
2026年3月27日
ドイツでは、モビリティー分野での脱炭素化として「持続可能な航空燃料(SAF)」の研究や生産に力をいれている。ドイツ・ヘッセン州が設立した航空業界における気候・騒音対策コンピテンスセンター(CENAヘッセン)
が発表している「CENA SAF-Outlook 2025-2030
(2.9MB)」によると、2024年時点で、世界における約3分の1のSAFプロジェクトが米国とドイツに集中している。SAFの製造技術は主に2つに分かれ、バイオ燃料由来のSAFと再生可能エネルギー由来のグリーン水素と二酸化炭素(CO2)から製造する合成燃料由来のe-SAFがある。世界規模で見ると、2030年に製造されるSAFのほとんどはバイオ燃料由来のSAFとなっている。一方、2030年までのドイツにおけるSAFの総生産量は約42万トンと見込まれる中で、その半分以上は合成燃料由来のe-SAFと予測されている。
本稿は、ドイツにおけるSAFの利用拡大のための政策と具体的なプロジェクトについて概観する。日本同様に巨大な自動車産業を抱えるドイツだが、自動車への合成燃料の活用は限られている。一方、液体燃料が必須となる航空燃料に代替する燃料としてSAFが注目されており、同分野の研究や政策支援が集中している現状が見えてきた。
合成燃料の研究に取り組むユーリッヒ研究センター
(Forschungszentrum Jülich)のラルフ・ペータース博士とヨハヒム・パーゼル博士へのインタビューに基づき、研究機関からの視点も踏まえ、同国でのSAFの取り組み、商業化への課題について紹介する。また、今後の日本におけるモビリティー分野での脱炭素化に向けた示唆を提示する。
ドイツ国内法の規定からReFuelEUに準ずる方針への転換
EUは2024年1月1日より、欧州の空港を離陸する航空機に対し、2025年から航空燃料におけるSAF混合割合を規定する「ReFuelEU Aviation」規則
を発効した。具体的には、燃料供給事業者に対して、2025年に2%、2030年6%、2035年20%、2040年34%、2045年42%、2050年70%のSAF混合割合を義務付けた。このうち、合成燃料由来のe-SAFの混合割合については、2030~2031年は年平均1.2%、2032~2034年は年平均2.0%、2035年に5%、2040年15%、2045年20%、2050年35%と定めた(本特集「次世代燃料導入の現状(2)国際的枠組み整備と技術革新に期待」参照)。SAFの定義は同規則の第3条7項において、e-SAF、航空バイオ燃料および先進バイオ燃料、再生炭素航空燃料と定めている。
一方、ドイツでは2021年5月にドイツ連邦政府、州および航空業界が、2030年までに少なくとも年20万トン(ドイツ国内線で消費する燃料の約3分の1に相当)のSAFを、再生エネルギー由来のグリーン水素を合成する製造プロセスであるパワー・ツー・リキッド(PtL)を用いて製造するロードマップを策定した(注1)。加えて、連邦環境汚染防止法(BImSchG)第37a条4a項において、ドイツで提供される航空燃料に一定量のPtL合成燃料の混合義務を課していた。具体的には、2026年に0.5%、2028年に1%、2030年には2%の混合割合を定めており、混合義務は2026年から始まる予定だった(2021年10月13日付ビジネス短信参照)。
しかし、EUのe-SAF混合割合の規則化が欧州委員会により2021年7月に提案されて以降、ドイツ国内法による混合比率はEU規則を上回る比率であることから、EU域内における公平な競争条件を確保できないことなどを理由にドイツ航空業界連盟(BDL)などから国内法を廃止すべきという声が上がった(注2)。その後、ドイツ連邦議会は2025年12月4日にBImSchGで定めていたPtL混合比率の廃止を可決した。
ドイツで進むSAF、e-SAFのプロジェクト
CENAヘッセンによると、ドイツは欧州の中でも特に多くのSAFプロジェクトを抱えている。国内に研究センターや大学が多いこともあり、そのほとんどは大規模な工業生産プラントではなく、パイロットプラントや研究プラントだという。2024年時点で、進行中のプロジェクトは31件あり、そのうちの13件が産業用の生産プラントで、残りの18件が研究・パイロットプロジェクトだ(注3)。
ドイツにおける主要なプロジェクトとしては、年間11万トンの生産能力を計画しているホルボーン・エウロパ製油所プロジェクトがある。これは、ドイツ最大のプロジェクトで、2027年にバイオ燃料由来のSAFの工場生産を開始する予定となっている。また、e-SAFの主要生産者は、イー・ディー・エル(EDL)、スカイエヌアールジー(SkyNRG)、アール・ダブリュー・イー(RWE)、コンクリート・ケミカルズ(Concreate Chemicals)(注4)だ(表参照)。最近では、2026年1月29日にコンクリート・ケミカルズが3億5,000万ユーロの公的資金を確保したと発表した。同プロジェクトは、ドイツ最大のPtL方式の合成燃料プラントで、年間3.7万トン(e-SAF3万トン、e-ナフサ7,000トン)以上の生産能力を計画しており、航空業界にとって少なくとも年間10万トンのCO2削減が期待されているという(注5)。
| 社名 | プロジェクト名 | 都市 | 技術 | 実施度合い | プロジェクト開始年 | 2030年生産予定量 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Sasol | NetZeroLEJ | シュコイディッツ |
FT (注1) |
保留中 (注2) |
2029年 | 50万トン |
| Holborn Europa Raffinierie GmbH | Holborn Hamburg Harburg | ハンブルク・ハルブルク |
HEFA (注3) |
建設中 | 2027年 | 11万トン |
| Hatletmann Carless(HCS) | Amelia | シュパイアー |
AtJ (注4) |
計画中 | 2026年 | 6万トン |
| EDL | HyKero | ベーレン | FT | 計画中 | 2027年 | 5万トン |
| SkyNRG | SkyNRG Germany/SAF@STR | ハイデンハイム=メルゲルシュテッテン | FT | 計画中 | 2028年 | 5万トン |
| RWE AG | NRW-Revier-Power-to-BioJetFuel | ヒュルト=クナップザック | FT | 計画段階 | 2028年 | 5万トン |
| Hy2gen | Jangada/Green Fuels Lausitz | ドレーヴェッツ/イェンシュヴァルデ |
MtJ (注5) |
計画中 | 2028年 | 3万トン |
| Shell Park Rheinland | Relli+ | ケルン | HEFA | 閉鎖 | 2026年 | 3万トン |
| Concrete Chemicals | Concrete Chemicals Germany | リューダースドルフ | FT | 計画中 | 2028年 | 3万トン |
| OMV | OMV Germany (M2SAF) | デュイスブルク | MtJ | 計画中 | 2026年 | 2万トン |
注1:フィッシャー・トロプシュ(FT)合成は、一酸化炭素と水素の合成ガスと触媒を用いて合成燃料を製造する技術。
注2:SasolのNetZeroLEJは、水素供給会社の倒産問題により、当分の間中断されている。
注3:水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)製法は、脂肪酸エステルを水素化処理することで炭化水素系燃料を製造する技術。
注4:ATJ(Alcohol-to-Jet)は、エタノールなどを原料に化学反応を通じて航空燃料規格に適合する炭化水素を製造する技術。
注5:MTJ(Methanol-to-Jet)は、メタノールとゼオライト系触媒を用いて合成燃料を製造し、ジェット燃料に精製する技術。
出所:CENA HESSEN「CENA SAF-Outlook 2025-2030」からジェトロ作成
SAF商業化の難しさ
前述したドイツにおける主要なSAFプロジェクトの1つ、RWEによるNRW-Revier-Power-to-BioJetFulのパートナー機関であるユーリッヒ研究所によれば、ドイツがSAFの市場化・商業化に向けて抱えている課題として(1)EUによるSAFに使用するCO2と水素の回収源の厳格な規制、(2)グリーン水素の製造コストの高さ、(3)SAF製造への投資不足が挙げられる。
1点目について同研究所の研究部門長で、エネルギーシステムや燃料合成を専門とするペータース博士は、SAFに使用されるCO2と水素の回収源について挙げ、「EUの規制(注6)ではCO2の回収源に厳しいため、(使用するCO2がEUの規制に基づいたものなのか証明が必要となり)課題を抱えている企業がいる」と話す。加えて、水素については「EUの水素の持続性に関する規制は不必要な制限を課している」とした。EUではグリーン水素は再生可能エネルギー源由来の電力で水を電気分解したものと定義している。技術的には、生物由来のCO2を生成する際に同時に得られる水素(生物由来の水素)を使用することで合成燃料を生成可能だ。しかし同博士によると、EUの規制上「水素は水の電気分解から高い割合で得る必要があり、生物由来の水素は使用できない」ことから、EUの規制が合成燃料の製造に制限をかけているという見解だ。次に、水素の製造コストだ。ドイツ国内でのグリーン水素製造コストは高く、また需給のタイミングが合わないため、水素貯蔵設備が必要となると指摘する。また、南米や中東などで水素を製造したとしても、輸送費を計上すると、結果としてコストが高くなってしまう。また、SAF製造への設備投資も課題だという。ペータース博士によると、新しくプラントを建設してSAFを製造しても、当面投資を回収できる市場がない。しかし、プラントがなければ、そもそも低コストのSAFを作り出すことができないという矛盾がある。こうした状況の中で、SAFの技術を確立していかなければならないという難しさがあるという。
このような課題もある中で、SAFをビジネスとして成り立たせるのは容易ではない。SAFの販売だけでは採算が取れないため、SAFの製造過程で副生されるFT(フィッシャー・トロプシュ)ワックス(注7)を活用した塗料や化粧品といった化学分野における高付加価値の副産物を販売することで事業の安定化を図ることや、国からの補助金を得ることで価格を抑えるといった対応をする必要があるという。
課題がある中で、なお将来性のある合成燃料はSAF
同研究所のパーゼル博士は「航空分野においては、自動車のようにバッテリーなどへの代替が難しいことから、SAFが航空部門における温室効果ガス(GHG)排出削減に不可欠だ」とみている。モビリティー分野においては、自動車産業における合成燃料の使用は限定的で、長距離輸送トラックやレーシングカーといった長距離移動が必須となる分野に限定されるとした。全てのモビリティー分野に合成燃料を導入するのは現実的ではないとした上で、「合成燃料を製造するためのCO2もグリーン水素も不足する中、将来性のある市場として焦点を当てるべきは航空燃料」と話す。
ドイツはSAFにおいて合成燃料(e-SAF)縛りとしていた国内規制からバイオ由来のSAFも含んだEU規制へと方針を変えた。これにより、SAF全体の導入を現実的に進めようとする姿勢が見えるとともに、液体燃料が不可欠な航空分野に重点を置く考え方が一層強まっている。今後日本においてもモビリティー分野での脱炭素化に向け、SAFを次世代燃料の中でも特に重要な選択肢として位置付け、技術開発や供給体制の構築に向けたさらなる検討を進める必要がありそうだ。
- 注1:
-
PtLによるSAFのロードマップは、市場拡大の促進についてドイツ連邦政府、州、産業界が共同で作成したもの。PtL製造のSAFの生産と使用において、ドイツにおける重要な産業ノウハウと技術的リーダーシップを確立し、拡大する機会を掴もうとする狙いがある。National Organisation for Sustainable Mobility(NOW GmbH)プレスリリース“Federal government, states and industry agree on roadmap for the market ramp-up of climate-friendly PtL aviation fuels
” 参照。 - 注2:
-
ドイツ航空宇宙産業協会(BDLI)「Abschaffung nationale PtL-Quote Luftverkehr: Bundes-Immissionsschutzgesetz (BImSchG)(ドイツ語)
(78.3KB)」参照。 - 注3:
-
CENA HESSENは2024年12月時点に世界で発表されているSAF製造プロジェクトを「SAF Monitor
」で発表している。ドイツにおける31件のプロジェクトの詳細はSAF Monitorより確認できる。 - 注4:
-
表には技術としてFT(フィッシャー・トロプシュ)合成とあり、一般的にこの技術はバイオ由来のSAFとe-SAF製造のどちらでも用いられるが、イー・ディー・エル(EDL)、スカイエヌアールジー(SkyNRG)、アール・ダブリュー・イー(RWE)、コンクリート・ケミカルズ(Concreate Chemicals)では、e-SAF製造において利用されている。
- 注5:
-
ENERTRAGプレスリリース「Concreate Chemicals Receives €350 Million Funding for Germany’s Largest Industrial-Scale e-SAF Plant
」参照。 - 注6:
-
EU委任規則2023/1185は非生物起源の再生可能燃料(RFNBO)に使用できるCO2の回収源を産業活動由来、バイオ由来、大気由来、RFNBO燃料由来、自然発生由来と定めている。
- 注7:
-
一酸化炭素と水素から合成されるワックスで、液体燃料などを製造する際に副生するもの。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部調査企画課
小林 美晴(こばやし みはる) - 2025年、ジェトロ入構。同年4月から現職。






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