世界の次世代燃料の生産・消費動向を追う転換を迎える中国の次世代燃料市場

2026年3月11日

世界が脱炭素化と石油燃料依存からの脱却を目指す中で、バイオ燃料の需要は急速に拡大している。バイオ燃料のうちエタノールやバイオディーゼルは既にガソリンやディーゼルの代替燃料として広く認知されており、近年は航空分野における持続可能な航空燃料(SAF)の導入が国際的に強く求められている。こうした次世代燃料は輸送部門の脱炭素化を進める上で重要な役割を担い、各国政府は排出削減目標の達成に向けて政策的な後押しを強化している。

こうした国際的潮流の中で、中国も次世代燃料の開発と利用を進めている。本稿では、中国での主要な次世代燃料であるエタノール、バイオディーゼル、SAFに関する制度の整備状況や動向を概観する。

バイオ燃料やSAFを積極的に推進

2021年10月には国務院が「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動プラン」を発表し(2021年11月1日付ビジネス短信参照)、従来型燃料の代替として先進的なバイオ液体燃料やSAFを積極的に推進する方針を示した。

また、2022年5月には国家発展改革委員会が「『第14次5カ年(2021~2025年)規画』におけるバイオ経済発展計画(以下、バイオ発展計画)」を発表し、バイオ燃料を重点分野に位置付けた。具体的には、バイオ天然ガスやセルロース系エタノール、藻類バイオ燃料などの重要技術の研究開発と装置の製造を加速するとし、交通などの重点分野で先進的なバイオ燃料を代替燃料として積極的に普及させることなどが掲げられた。

こうした一連の政策では、改めてバイオ燃料やSAFが従来の化石燃料に代わる主要な選択肢として位置付けられ、その開発や普及の重要性が強調された。

エタノール:穀物系原料の使用が厳格化

まず、バイオ燃料のうちエタノールに関する政策動向を追っていく。中国の燃料エタノール産業は「第10次5カ年(2001~2005年)計画」初期に始まり、2001年には長期保管され品質が劣化した穀物の処理問題などを解決するために、パイロットプロジェクトが開始された。しかし、その後トウモロコシの生産量・在庫量が減少し、価格が上昇したことを受け、「第11次5カ年(2006~2010年)規画」以降は穀物由来の燃料エタノール(以下、穀物エタノール)の拡大は一時停止され、その代わりに非穀物由来の燃料エタノール(以下、非穀物エタノール)の実証プロジェクトが広西チワン族自治区、内モンゴル自治区、山東省、河南省などで進められた。

2017年には全国で「国V基準」のクリーン燃料の義務化により、ガソリンにはE10(10%のエタノールを混合)、ディーゼルにはB5(5%のバイオディーゼルを混合)といった再生可能燃料混合も含めて供給が開始されたが、穀物エタノールは適度にとどめ、総量は厳格に管理し、非穀物エタノールの拡大を推進する方針が打ち出された。

2022年に入ると、穀物系原料の使用を巡る管理がさらに厳格化。同年1月の中国共産党中央委員会と国務院による「2022年の農村振興全面推進に関する重点作業の意見」では、トウモロコシを原料とする燃料エタノール加工を厳格に管理する方針が示され、続く10月発表の「『第14次5カ年(2021~2025年)規画』再生可能エネルギー発展計画(以下、再エネ発展計画)」では、セルロースなど非穀物エタノールの開発を積極的に進めることが明記された。しかし、中国の燃料エタノール生産は依然として穀物系原料に依存しているのが現状だ。米国農務省(USDA)によれば、2024年の中国の燃料エタノール生産のうち、75%以上が穀物系(トウモロコシ、小麦、米)で、約10%がキャッサバまたはサトウキビ由来、残りは産業廃棄ガスと限られたセルロース系原料に由来するとされている。

このように穀物系原料の使用が制限される中、USDAのレポートによれば、2025年時点で中国の平均エタノール混合率は約2.1%にとどまり、E10を実施しているのは15省のみとなった(注)。また、中国では新エネルギー車(NEV)の急速な普及に伴うガソリン消費量の減少や大型トラックの液化天然ガス(LNG)車への転換などの政策により、バイオ燃料の政策的優先度が相対的に低下している面もあるとみられる。米国のバイオエタノール生産者団体である再生可能燃料協会(RFA)の統計によれば、中国は2024年時点で米国、ブラジル、インド、EUに次ぐ世界第5位の燃料エタノール生産国であるものの、2025年の中国の燃料エタノール生産量は前年比11.3%減の約43億リットルと推定され、消費量も同じく約43億リットルへ減少するとの見通しが示された(図1参照)。

図1:中国におけるエタノールの生産量および消費量
2025年の燃料エタノール消費量は前年比11%減の約43億リットルと推定され、生産量も同じく約43億リットルへ減少する見通し。

出所:USDAレポートからジェトロ作成

バイオディーゼル:EUへの輸出が激減、国内利用を拡大へ

次に、バイオディーゼルの動向についてみていく。中国の2024年のバイオディーゼルの生産量は16億1,000リットルである一方で、国内消費量は約5億リットルにとどまっており(図2参照)、多くが輸出に振り向けられている状況だ。

図2:バイオディーゼルの国別消費・生産量の現状と見通し
2024年のバイオディーゼルの生産量は16億1,000リットルである一方で、国内消費量は約5億リットルにとどまっている。

出所:IEA, Renewables 2025

中国はバイオディーゼルやSAFの主原料となっている廃食用油(UCO)の世界最大の産出国であり、EUなどへ大量にUCOを輸出していた。上述のとおり、NEVの普及など国内市場の情勢を受け、中国の製油所は豊富なUCOを使ってバイオディーゼルを精製し、欧州などへの輸出を図る動きが強まった。さらに、2024年12月に中国政府が輸出向けUCOに対する13%の増値税還付を廃止したことで、原料のまま輸出するよりもバイオディーゼルやSAFを国内で精製して輸出する動きが一段と促進された。

欧州では、中国から安価なバイオディーゼルの輸入が急増。域内の精製事業者に大きな打撃を与えたことから、欧州委員会は2023年12月から、中国産バイオディーゼルに対するアンチダンピング(AD)調査を開始し、2024年8月に暫定AD税を賦課(12.8~36.4%)。2025年2月からは、正式な課税(10~35.6%)を開始した(2025年12月11日付地域・分析レポート参照)。

AD税措置の導入により、中国からEUへのバイオディーゼル(HS3826)の輸出は急激に縮小した。中国の海関(税関)統計を基に、中国産バイオディーゼルの輸出量の推移を国・地域別に見ると、対EU輸出は、暫定AD税の影響で2024年は前年比58.3%減の約78万トンに急減した(表1参照)。2025年には正式なAD税が適用されたことで、対EU輸出はさらに縮小し、前年比60.2%減の約31万トンに落ち込んだ。

表1:中国産バイオディーゼルの輸出量の推移(△はマイナス値)
輸出先 2024年 2025年
数量(トン) 伸び率(%) 数量(トン) 伸び率(%)
EU27 778,273 △ 58.3 310,119 △ 60.2
マレーシア 95,914 342.3 227,909 137.6
シンガポール 169,340 375.0 180,903 6.8
香港 27,058 564.3 120,480 345.3
韓国 21,257 △ 1.5 69,496 226.9
全世界合計 1,111,690 △ 43.0 923,549 △ 16.9

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

EU向け輸出が縮小する一方で、マレーシアやシンガポールなどへの輸出は急拡大している。対マレーシア輸出は、2024年に前年比約4.4倍の9万5,000トン、2025年にはさらに2.4倍の22万8,000トンと急増した。対シンガポール輸出も、2024年は前年から約4.8倍の16万9,000トン、2025年には6.8%増の18万1,000トンに拡大した。他にも香港や韓国向けでも増加がみられる。EUのAD税措置を受けて、中国が輸出先の多角化を図る動きが表れているとみられる。

また、輸出先市場との摩擦が顕在化した中、豊富な生産能力を活かし、国内での利用拡大に向けた取り組みも進められている。既述のバイオ発展計画では、バイオディーゼル普及に向けたパイロット事業の実施が明記されており、再エネ発展計画でも、バイオディーゼルにおける先進的な技術や設備の研究開発と普及を支援し、大型車両や航空、海運でガソリンやディーゼルに代わる燃料としての利用を拡大していくことが示された。さらに、2023年11月には、国家能源局が地方政府や関連企業を対象に「バイオディーゼル普及応用パイロット示範の通知」を発表し、国内での利用拡大や政策体系の構築を目的としたパイロット事業の申請を促した。同通知では、条件を満たすパイロット事業について、製造業向け中長期融資の優先対象とするなどの方針が示された。また、バイオディーゼル利用の中国認証排出削減量(CCER、2023年12月12日付地域・分析レポート参照)への組み込みなどを推進し、バイオディーゼルのグリーン価値を高める取り組みも進めるとした。

2024年3月には、審査を経て22件のバイオディーゼル普及パイロットプロジェクトを正式に公示(以下表2参照)。道路用のB5に加えて、船舶燃料などでのB5やB24(24%のバイオディーゼルを混合)の導入を積極的に推進している。

表2:バイオディーゼル普及パイロットプロジェクト(ーは記載なし)
番号 省市 プロジェクト名 主導組織・実施機関
1 北京市 北京市海淀区バイオディーゼル推進応用パイロット 北京市海淀区発展改革委員会
2 河北省 石家荘市バイオディーゼル推進応用パイロット 石家荘市人民政府
3 河北省 唐山市バイオディーゼル推進応用パイロット 唐山市人民政府
4 河北省 邯鄲市バイオディーゼル推進応用パイロット 邯鄲市発展改革委員会
5 河北省 滄州市バイオディーゼル推進応用パイロット 滄州市人民政府
6 江蘇省 張家港市バイオディーゼル推進応用パイロット 張家港市人民政府
7 浙江省 舟山自由貿易区バイオディーゼル推進応用パイロット 中国(浙江)自由貿易試験区舟山管理委員会
8 浙江省 温州市バイオディーゼル推進応用パイロット 温州市発展改革委員会
9 福建省 アモイ市バイオディーゼル推進応用パイロット アモイ市発展改革委員会
10 山東省 青島市バイオディーゼル推進応用パイロット 青島市人民政府
11 山東省 徳州市バイオディーゼル推進応用パイロット 徳州市人民政府
12 山東省 日照市莒県バイオディーゼル推進応用パイロット 日照市莒県発展改革局
13 湖北省 松滋市バイオディーゼル推進応用パイロット 松滋市人民政府
14 湖北省 江陵県バイオディーゼル推進応用パイロット 江陵県人民政府
15 湖北省 漢川市バイオディーゼル推進応用パイロット 漢川市発展改革局
16 広東省 広州市バイオディーゼル推進応用パイロット 広州市人民政府
17 広東省 仏山市バイオディーゼル推進応用パイロット 仏山市発展改革局
18 重慶市 重慶市江津区バイオディーゼル推進応用パイロット 重慶市江津区発展改革委員会
19 四川省 広安経済技術開発区バイオディーゼル推進応用パイロット 広安経済技術開発区発展改革局
20 中国船舶燃料バイオディーゼル推進応用パイロット 中国船舶燃料
21 中国石化燃料販売バイオディーゼル推進応用パイロット 中国石化燃料販売
22 山東高速集団バイオディーゼル推進応用パイロット 山東高速集団

出所:国家能源局の発表からジェトロ作成

また、2025年3月には交通運輸省を含む10省庁が「交通運輸とエネルギーの統合的発展促進に関する指導意見」を発表し、船舶向けバイオディーゼルの活用や航空郵便輸送におけるSAFの利用促進、LNGやバイオ燃料などの供給能力強化などを推進する方針を示した。6月には中国人民銀行などが「グリーン金融支援プロジェクト目録(2025年版)」を公表し、バイオディーゼルやSAFを含むグリーン燃料分野を支援対象に位置付け、グリーン金融商品に適用できる基準を整備した。

このように、国内市場はまだ限定的であるものの、自動車燃料としてだけでなく船舶向けバイオディーゼルの活用を促し、さらにCCERへの組み込みなど金融面での支援を拡充することで、国内におけるバイオディーゼルの利用拡大を図る動きがみられている。

SAF:パイロットプロジェクトが進展、国際線での活用事例も

SAFは再生可能資源や廃棄物を原料として製造される航空燃料であり、ライフサイクル全体で顕著な排出削減効果を持ち、既存の航空機や民航インフラとの互換性も高い。前述のとおり、世界最大のUCO産出国である中国は、SAFについても生産国としての存在感を高めており、また、2024年の航空市場規模(旅客数)で世界第2位の市場規模を持つことから、市場としてのポテンシャルも高いといえる。

USDAの推計では、2025年末までにSAFの国内消費は約6,250万リットル(約5万5,000トン)に達し、第14次5カ年(2021~2025年)規画の政策期間におけるSAFの年間消費量目標5万トンを達成すると予測されている。他方で、生産能力は30~38億リットルと見込まれており、バイオディーゼルと同様に国内の消費量は生産能力に対して大きな乖離がある状況だ。

足元では国内消費量が限定的な中、国際市場ではSAF需要が高まっている。EUでは、2025年から航空燃料のSAF混合率を2%以上とすることが義務化され、段階的に2050年までに70%へ引き上げられる予定だ。中国からの輸出をさらに後押しする可能性があるが、中長期的には不透明さが残る。前述のとおり、バイオディーゼル燃料はEUのAD税措置により、中国からEU向けの輸出が急減している。SAFについても中国の生産能力が立ち上がるにつれて、諸外国で安価な中国産の流入を警戒する動きにつながる恐れがある。

こうした中で、SAFに関しても国内市場の拡大に向けてパイロットプロジェクトが進められている。2024年8月の「経済・社会発展における全面的グリーン転換の加速に関する意見」(2024年8月13日付ビジネス短信参照)の中で、SAFの研究開発および応用の強化の方針が打ち出され、続く9月にはSAFのパイロットプロジェクトが開始された。同プロジェクトは2段階で実施され、第1段階は2024年9~12月に実施。中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空の3つの航空会社と、北京大興空港、成都双流空港など4つの空港が参加し、これら航空会社による計12便が、プロジェクトに参画する空港から出発する際に正式にSAFの給油を受けるもの。第2段階は2025年通年で参加機関を拡大するとし、プロジェクトを通し、供給体制、品質管理、効果評価、標準策定なども検討されてきた。

さらに、2024年7月には四川航空が成都から成田への国際定期旅客便において、SAFを混合した燃料が使用された(2024年7月22日付ビジネス短信参照)。中国の航空会社として初めて国際定期便にSAF混合燃料を導入した事例となった。

SAFの活用には課題もある。ハネウェルエナジー&サステナブルテクノロジーズの中国副総裁兼総経理の孫建氏によると、2024年のSAFの平均コストは従来型航空燃料のおよそ3倍に達しており、企業は短期的な投資回収の面で大きなプレッシャーを抱えているという。このため、政策的な後押しと市場メカニズムの双方による支援が必要となっているとの見方を示した(「21世紀経済報道」2025年11月4日)。

中国の次世代燃料市場は、全体として転換期を迎えているといえよう。エタノールについては、穀物系原料の制限やNEVの普及が進む中でエタノールを推進する政策自体がトーンダウンしている状況だ。他方、バイオディーゼルおよびSAFについては、国内の豊富な原料資源を活かしつつ、輸出先の多角化や、政策支援を通じた国内市場の拡大を進めている。今後も持続可能な発展が遂げられるのか、政策の実効性を含め、市場動向を引き続き注視していく必要があるだろう。


注:
B5についても道路向けでは2024年時点で上海市が唯一実施している地域とされている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
富永 笑美子(とみなが えみこ)
2019年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て、2022年10月から現職。