世界の次世代燃料の生産・消費動向を追う新法でバイオ燃料導入加速を、合成燃料にもポテンシャル(メキシコ)
2026年2月17日
メキシコでは、他国と比べてバイオ燃料の導入が遅れている。明確な国家戦略の不備や政府の石油公社への過度な保護があだになった結果だ。しかし、2025年に新法を公布。エネルギー転換に向け、重要な要素と位置付けた。そのため今後、導入が加速するとみられる。
他方、水素由来の合成燃料は、風力や太陽光など恵まれた自然条件が存在するため、注目に値する。海運などで国際的枠組みの整備が進み、安定した需要が生まれると、生産拠点としての活用を見込める。
バイオガス利用が先行
メキシコは2000年代半ばから、有機廃棄物の埋め立て地(ランドフィル)からバイオガスを抽出して発電するバイオガス発電を導入している。バイオマスの有効活用という観点からは、発電燃料としてのバイオガスの利用が中心だ。
コンサルティング会社ERM(Environmental Resources Management)の報告書(注1)によると、2025年末時点でメキシコ国内にバイオガス製造工場が23カ所ある。そのうち、19カ所が発電向けにバイオガスを製造している。国家エネルギー委員会(CNE)のデータによると、メキシコにおけるバイオガス発電事業者は2013~2017年にかけて急増。それ以降、ほぼ横ばいで推移した。2012年の年間発電総認可量は299ギガワット時(GWh)。これが、2017年には982GWhへと約3.3倍に拡大した。2024年は1,048GWhに達している(図1参照)。
ランドフィルだけではない。加えて、廃水処理場からバイオガスを回収する例もある。発電した電力や、コジェネレーションで生成した熱は、多くを自家消費している。
- アトトニルコ下水処理場(イダルゴ州)
バイオガス回収に関して、最大規模のプロジェクトと言える。
当該下水処理場は、国内最大の処理規模を誇る(メキシコシティーと近郊の住人約2,000万人分から生じる家庭廃水の約6割を処理)。嫌気性廃水処理システムでバイオガスを回収し、12機のガスエンジンで32.4MW(メガワット)発電している。
同バイオガス発電により、同処理場で用いる電力の8割を賄える。 - モンテレイ・シンコ(5)バイオガス発電所(モンテレイ)
モンテレイは、北東部に所在するメキシコ第2の都市だ。当地では、都市交通(メトロ)の電力向けにバイオガス発電を用いている。
具体的には、ガスエンジンを5機用いて5.3MW発電。モンテレイ・メトロの要する電力の80%を供給している。
注:許認可申請の際に届け出のあった推定発電量の合計。
出所:国家エネルギー委員会(CNE)データから作成
多様な要因で、輸送部門へのバイオ燃料導入に進展なし
しかしバイオガス以外では、バイオマスの有効利用が遅れている。特に運輸部門では、液体燃料としてのエタノールやバイオディーゼルをほとんど利用していない。この背景には、次のような要因がある。
- 明確な混合義務が存在しない。
- 大気汚染(オゾン汚染)を警戒し、3大都市でエタノールの利用を禁止している。
- 貯蔵・輸送・流通インフラの欠如。
- 政府による支援や計画の欠如。
- 政府が石油公社(PEMEX)を支援している。
1について、メキシコにはエタノールやバイオディーゼルの混合を義務づける規制が連邦レベルでも州レベルでも存在しない。むしろ2のとおり光化学スモッグによる大気汚染を警戒し、大都市でエタノールの利用を制限している(エタノールは、オゾン値を高めるといわれる)。NOM-016-CRE-2016(石油精製品の品質規格)では一般に、オクタン価向上剤としてガソリンへのエタノール混合を5.8%まで認めている。しかし、3大都市圏(メキシコ、モンテレイ、グアダラハラ)は例外で、使用を認めていない。
3に関連し、エタノールを扱うには専用のインフラが必要になる。すなわち、現行の石油系インフラでは適合しきれないところが多い。そのため大規模導入には巨額の投資が必要になる。しかし、現在のエタノールの使用レベルでは「規模の経済」が成り立たない。
4に関連し、政府は2024年まで、バイオ燃料促進に向けた明確な政策や目標、計画を持たなかった。いきおい、事業者に対する支援も乏しかった。確かに2008年、バイオエネルギー促進開発法を施行してはいた。それでも同法体系下では、直接的な経済インセンティブ(補助金、税額控除、免税措置)の規定がなかった。行政機関が支援策を設計するための法的枠組みを整備するにとどまっていたのだ。つまり、バイオ燃料導入のインセンティブは、法律自体でなく、時の政権や政策に依存していたわけだ。
この状況を受け、バイオ燃料促進を目指しながら不調に終わった例もある。例えば国家植林委員会(CONAFOR)は2008年、チアパス州政府と連携してプロジェクト展開した。具体的には、バイオディーゼル精製用のジャトロファ(ナンヨウアブラギリ)の植林に補助金を支給するという内容だった。しかし、a)インドから輸入した種子が適切に発芽しなかった、b)栽培のための十分な情報提供や教育・訓練がなかった、c)市場規模が小さく収益性が乏しかった、ことなどにより失敗に終わった。
なお、バイオエネルギー促進開発法自体に意味がなかったわけではない。施行後、2008~2011年にかけては、一時的にバイオディーゼル生産計画が急増した。しかし、2012年以降は失速してしまった(図2参照)。ERMによると、2025年時点でバイオディーゼルプラントが13カ所あるのに、稼働中なのは10カ所に過ぎない。年間生産量も、合計5,300立方メートルにとどまる。また、その大半を所有する農機や建設機械、鉱山機械などの自家消費用に充てているのが実情だ。
出所:ERM(2025年)/原資料は、ECOFYS Netherlands B.V.(2016年)
5について、政府は国営石油会社(PEMEX)を支える立場にある。たとえその経営が非効率としても、だ。その結果として、石油精製品と競合するバイオ燃料の促進を大胆に進めることはなかった。同時に、他国の石油会社とは異なり、PEMEX自身がバイオ燃料の精製に乗り出し、収益を獲得する取り組みを進める余裕もなかった。
新法を公布、バイオ燃料導入加速に期待
ここまで見たように、当地ではバイオ燃料の導入が遅れている。そうした中で、バイオ燃料法が2025年3月18日、公布に至った。2024年末の憲法改正を実施に移すため、エネルギー分野で包括的に制度改革する上での一環になる(注2)。国のエネルギー主権を支える新たな供給源としてバイオ燃料に着目し、エネルギー転換や循環経済の柱として再定義したかたちだ。官民双方が関与する新市場を制度化する。
バイオ燃料は、(1)化石燃料と併存でき、国営企業が関与する余地が大きい、(2)国内農業や廃棄物処理分野と連携しやすい、という特徴がある。現政権のエネルギー主権モデルとも整合する。そのため、電力部門法(LSE、2026年1月26日付地域・分析レポート参照)や炭化水素部門法などとともに、クラウディア・シェインバウム大統領が2025年2月に国会に提出。上下両院が翌月、可決した。
新法は、バイオ燃料の全バリューチェーンを統合的に規制・促進する包括的な内容になっている。国のエネルギー主権を維持しつつ、エネルギー転換を進める政策の中核としてバイオ燃料の促進を定義した。2008年の旧法と内容を比較すると、表1のとおりになる。
| 項目 | バイオエネルギー促進開発法(2008年) | バイオ燃料法(2025年) |
|---|---|---|
| 原材料 | 多様な農業素材 | 有機廃棄物、「農業不適地」で生産するバイオマス |
| 規制対象 | 生産・販売一般 | 生産、輸入、輸出、貯蔵、輸送、流通、小売 |
| 担当機関 | バイオエネルギー省庁間委員会 | エネルギー省(SENER)、環境天然資源省(SEMARNAT)、農業地方開発省(SADER)で役割分担(注) |
| 立法の焦点 | 農村開発、食料安全保障 | 循環経済、脱炭素化 |
| 規制のレベル | 一般的 | 許認可とトレーサビリティーを伴う詳細な規制 |
| インセンティブ | なし。 | 優遇そのものを明確に定めたわけではない。しかし、組織的な支援メカニズムを規定した。 |
| 開発手段 | 研究開発と調整 | 許認可、トレーサビリティー、規格による統合的な体系 |
| 生産者への支援 | 定義せず、散発的。 | 管轄当局の役割分担により明確化した。 |
| 市場促進策 | 市場を創出するという考え方はない。 | 産業の土台を構築し、将来的な混合目標設定を視野に入れている。 |
| エネルギー転換策の位置づけ | 不明確 | 明確 |
注:役割分担の例は、次のとおり。
SENER:バイオ燃料に関して、国策や目標を定める。生産、輸出入、貯蔵、輸送、販売などの許認可を付与する。
SAMARNAT:バイオ燃料の生産に用いる有機廃棄物の利用や廃水処理 に関する政策を担う。
SADER:「農業不適地(Suelos Marginales)」でのバイオマス生産や農業廃棄物の食料以外への利用を推進する。
出所:バイオエネルギー促進開発法(2008年2月1日付官報)およびバイオ燃料法(2025年3月18日付官報)からジェトロ作成
さらに2025年10月3日には、バイオ燃料法の施行規則を公布。これにより、許認可の対象や取得プロセスが明確になった。その規定内容は、次のとおり。
- 当該法で、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオジェット燃料(SAF)を、正式にバイオ燃料として定義した。
- 品質基準(純度、安定性、混合比率など)は、今後エネルギー省(SENER)がメキシコ公式規格(NOM)として定める。
ただし、NOMを公布するまでは、2018年10月22日付官報で公布済みの指針に従う。 - 事業者は、生産、輸入、輸出、貯蔵、輸送、販売の全段階でSENERの許認可を得る必要がある。加えて、バイオ燃料の起源から流通までの追跡性(トレーサビリティー)を確保しなければならない。
- バイオ燃料用のバイオマスを生産するには、農業地方開発省(SADER)の許認可が必要になる。
原則として「農業不適地(Suelos Marginales)」で生産しなければならない。ただし、例外的にサトウキビやソルガムの余剰生産があって、その認定を受けることができる場合、バイオ燃料用に使用できる。
バイオ燃料の促進・振興策については、バイオ燃料法第17条に規定がある。連邦政府機関は同条に基づき、管轄権限の範囲内で税制・金融・市場インセンティブの導入を推進することになっている。具体的な内容は、法律施行後360日以内(2026年3月14日まで)に発表する管轄機関の「計画」(注3)に盛り込む予定だ。
SAFへの需要がありながらも、国内生産はこれから
国際的な枠組みの整備(2025年12月11日付地域・分析レポート参照)が進む中、メキシコでも持続可能な航空燃料(SAF)の需要が高まりつつある。地場航空会社もそれぞれ目標を掲げ、SAFの導入を推進している。
- アエロメヒコ(Aeroméxico/メキシコのフラッグ・キャリア)。
同社は2010年、SAFを使用したフライトをメキシコシティーとコスタリカの首都サンホセとの間で飛ばした(中南米のエアラインとして初)。さらに翌2011年、マドリードとの間で大西洋横断フライトが実現している。このように、従前からSAFの導入に積極的なエアラインと言える。
2021年には世界経済フォーラム(WEF)が主導する「Clean Skies for Tomorrow(CST)連合」に加盟。2022年には、ボーイング(米国の航空機製造業者)と国際航空運送協会(IATA)のイニシアティブにも加わった〔その機を捉え、ロサンゼルス-メキシコ間で、ボーイング787ドリームライナー(中型機)に初めてSAF使用したフライトを実現している〕。
目下の目標は、2030年までにジェット燃料使用量の5%をSAFで代替することだ。 - ビバ・アエロブス〔Viva Aerobus/メキシコの格安航空会社(LCC)〕
2023年3月、ネステ(フィンランドの再生可能燃料大手)からSAFを100万リットル購入する契約を締結。2023年下半期以降は、米国ロサンゼルスとメキシコシティー、グアダラハラ、モンテレイをつなぐフライトにSAFを35%混入したジェット燃料を使用している。
なお同社にとって最初のSAF利用フライトは、2022年6月にさかのぼる。ロサンゼルス-グアダラハラ間の飛行で、その際もネステから調達した。 - ボラリス(メキシコのLCC)
同社は2025年6月、エアバス(欧州の航空機製造業者)とともに、国際民間航空機関(ICAO)のボランタリー環境基金に拠出する意向表明書に署名した。
その狙いは、当地でのSAF開発を支援することにある。メキシコの連邦民間航空庁(AFAC)および空港・補助サービス公社(ASA)と連携。ICAOの技術支援プログラム(ACT-SAF)を通じて、SAFの国内生産に関して実現可能性調査を資金面から支援する。
なお、AFACとASAは、SAFの国内開発・供給ロードマップを策定済みだ。ボラリスは将来的なSAFの安定調達を視野に入れ、当地エアラインとして支援する立場にある。
このように動きこそあるものの、2026年1月時点で、当地にSAF生産実績はない。ただしERMによると、現在開発中の案件が2件ある。
1件は、前述したASAのプロジェクトだ。キンタナロー州(ユカタン半島)でエタノールを生産。そこからアルコール・トゥ・ジェット(ATJ)製法(2025年12月11日付地域・分析レポート参照)でSAFを製造する。エタノール生産量は年間9,000万トンで、一部は自動車用燃料として販売する。SAF製造量は未発表。ASAがカンクン国際空港で給油用に提供する。
もう1件は、国内外複数の研究機関が南バハカリフォルニア州で進めているプロジェクト。ジャトロファとトウゴマから植物油を抽出し、水素化処理してSAFと再生可能ディーゼル(HVO)を製造する計画だ。
このほか、最近発表に至った計画がある。カンペチェ州政府は2026年1月25日、SNSを通じて、同州で民間企業がSAFを製造する計画のあることを明らかにした。計画の名称は「バイオニュートラル・プロジェクト」。サトウキビ由来のアルコールからSAFを製造。6億5,000万ドルを投じる予定という。
とはいえ、これらの計画はいずれも初期段階にとどまる。そのため、実現するかどうかは未知数だ。
欧米系企業に複数の合成燃料製造計画、日本企業も関心
メキシコは、太陽光や風力など、自然条件に恵まれている。すなわち、グリーン水素(注4)の低コスト製造拠点として優位性があると言える。このほか、米国からパイプラインを通じて、安価なシェールガスの供給を受けることができる。そのため、ブルー水素(注5)の低コスト製造拠点としても、注目が集まっている(2024年11月14日付地域・分析レポート参照)。
つまり、クリーン水素由来の合成燃料を生産する上でポテンシャルがあることになる。実際、スペイン、米国、フランス、デンマークなど、欧米企業によるクリーン水素プロジェクトが既にある。その中には水素から最終的にアンモニアやメタノールを製造し、船舶などの燃料として供給する計画がある(2024年11月14日付地域・分析レポート参照)。
船舶燃料としては、液化天然ガス(LNG)に続く次世代の低炭素燃料として、低炭素メタノールに特に注目が集まっている。事実、今後建造予定の船舶の中には、メタノールを燃料とするものが多い。低炭素メタノールのプロジェクトに、日本企業がオフテイカーとして参画する事例もある。具体的には、次のとおりだ。
- 三菱ガス化学は2025年11月6日、米国のトランジション・インダストリーズ(TI)と、メキシコ製の低炭素メタノールについて売買契約を締結したと発表した。同社は2029年から、年間約100万トン規模で引き取る予定だ。
なお、TIは、シナロア州北西部のトポロバンポで「パシフィコ・メキシノール・プロジェクト(Pacifico Mexinol Project)」を展開している。同プロジェクトは、(1)グリーンメタノールを年間35万トン、(2)ブルーメタノールを同180万トン製造することを目指している。
このうち(1)は、テチント(イタリア・アルゼンチン系)とシーメンス(ドイツ系)が製造するグリーン水素を利用して生産。また、(2)は、米国の天然ガスを活用する予定だ(シナロア州には天然ガスパイプラインが通っているため、供給を受けることが可能)。そこからメタノールを生成し、発生する二酸化炭素(CO2)を回収する。
こうした低炭素メタノールは一般に、大型船舶燃料を脱炭素化する上での活用期待が高い。一方で三菱ガス化学は、「燃料用途に加え、各種化学品など幅広い用途に供給する」としている。
最後に、今後の低炭素メタノールの市場性について触れておく。この観点からは、国際海事機関(IMO/国連の専門機関)が進める海運分野の脱炭素化の枠組み「Net Zero Framework(NZF)」の採択に注目が集まっていた。しかし、IMOの海洋環境保護委員会(MEPC)臨時会合(2025年10月に開催)で米国トランプ政権が反対、採択が1年延期になってしまった(2025年12月11日付地域・分析レポート参照)。
すなわち現時点では、SAFのような国際的枠組みや業界目標が存在していないことになる。そのため、船舶燃料としてメタノールを導入していくには時間がかかると見込まざるを得ない。とはいえ、NZFが今後採択に至ると、低炭素メタノール供給拠点としてメキシコへの注目が高まることになるだろう。
- 注1:
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ジェトロは、ERM Mexicoに調査を委託した。その成果物が、「México,Evaluación de Combustibles de Próxima Generación en México」(2025年12月)だ。
- 注2:
- エネルギー分野で、国の優先事項を定めた憲法改正の内容を実現するために制定。次に示す一連の法律から成る。2024年10月末に公布。
- 注3:
- この計画は、次から成る。
- 注4:
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グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電気を使って水を電気分解して製造する。製造過程を含めて、CO2を排出しないことになる。一般的な評価として、最も環境負荷の軽いクリーン水素と言える。
- 注5:
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ブルー水素も、クリーン水素の一種。天然ガスなどの化石燃料から製造する一方、製造過程で出るCO2を炭素回収・貯留(CCS)技術で回収・貯蔵する。そのため、実質的なCO2排出をゼロとみなすことができる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課主幹(中南米)
中畑 貴雄(なかはた たかお) - 1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から調査部主任調査研究員、2025年4月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『グローバルサプライチェーン再考: 経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』など。






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