世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うSAF原料の調達・供給国としてのブラジル
ブラジルの次世代燃料政策と動向(2)
2026年2月3日
ブラジル政府は2024年、「未来の燃料法」を施行し、持続可能な航空燃料(SAF)の利活用促進を制度化した。世界で航空分野の温室効果ガス(GHG)削減に貢献するべくSAF利用促進の動きが広がるも圧倒的な供給不足の中、ブラジルは農業大国として、SAF製造に必要な非可食用および可食用原料の調達・供給国としてのポテンシャルを持つ。本稿は、ブラジルにおける次世代燃料動向を概観する後編。後編では、ブラジルのSAFの利活用促進政策を確認しながら、昨今ブラジルへの投資を発表した外国企業を含む企業の動向を紹介する。
SAFの利活用促進を目指すブラジル
ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は2025年10月8日、持続可能な低炭素モビリティーを促進するための法律第14,993号(通称:未来の燃料法)(ポルトガル語)
を承認した(注1)。同法は、運輸部門の脱炭素化を目的に、バイオ燃料の利用拡大と新技術開発を促進するための包括的な枠組みを構築するもの。同法により、ガソリンへのエタノール混合率とディーゼルへのバイオディーゼル混合率に関する新たな規制が導入されたことに加えて、SAFの利用促進を含む3つの新プログラムが導入された。そのうちの1つであるProBioQAVは、2027年1月1日以降、国内線を運航する航空会社に対し、SAFの使用によってGHG排出量を年1%削減する義務を課す(注2)。この削減率は2037年3月1日まで毎年1ポイントずつ上昇する予定だ。
ブラジル政府が策定するSAFの利用促進策は、国際民間航空機関(ICAO)によるGHG排出削減に関する国際目標の制定に起因する。ICAOは2022年10月、パリ協定に基づき2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す目標に合意した。2023年には、SAFなどの利用を通じて、2030年までに国際航空のGHG排出量をクリーンエネルギー導入開始時点から5%削減するという共同のビジョンを採択した。ICAOはまた、2050年までの目標として「国際航空における2050年ネットゼロGHG排出の長期志向目標(LTAG)
」を採択した(注3)。その上で、SAFなどの導入に向けて、各国政府に対し、目標設定やロードマップの整備、品質・認証基準の策定、技術導入や運用支援、インセンティブ・投資の促進に関する政策立案や支援を促している(注4)。
世界の航空会社で構成される業界団体である国際航空運送協会(IATA)も2021年10月、航空輸送分野における2050年のGHG総排出量をネットゼロとする目標を発表した。アメリカン航空、日本航空、ブリティッシュ・エアウェイズなど15社が加盟するワンワールドは2021年9月、世界経済フォーラム(WEF)が設定した、「2030年までに航空燃料の10%をSAFに置き換える」目標を支持する声明を発表した(注5)。ワンワールド加盟社以外にも、デルタ航空、エア・カナダ、全日本航空、カタール航空、キャセイ・パシフィックなども同目標に賛同している。なお、チリに本社を構える中南米最大級の航空会社ラタン航空は、2030年までに5%をSAFに置き換える目標を掲げる。また、ドイツに拠点を置くDHLグループは、2030年までに航空燃料の30%をSAFに置き換える野心的な独自目標を設定している。
国内外企業が原料供給に向けた計画や投資を発表
こうした状況を踏まえ、SAFの需要は急拡大することが予測される。2025年9月にIATAが公開したレポートによれば、2025年のSAF生産量は200万トンが見込まれている(IATAウェブサイト参照
)。ただ、2050年までのネットゼロ目標を達成するためには年間5億トンのSAF生産が必要で、需要との比較で供給が圧倒的に不足している。ブラジルにおけるSAFの商業生産はまだ始まっていないものの、農業大国であるがゆえにSAF製造に必要な可食性および非可食性原料の調達にアドバンテージがあり、国内の大企業から諸外国のスタートアップ企業に至るまで、複数の企業がブラジルでSAFやSAF原料の開発・生産に取り組んでいる。
SAFの製造方法は複数あるが、現在世界で製造、商業化されているSAFの多くは、水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)経由の製法で、非可食性の廃食油や獣脂などを活用する方法だ(注6)。ブラジルの食肉加工大手JBSは2024年8月、自社工場で廃棄する牛脂や豚脂(過去2年間で120万トン相当)をSAF製造に活用したと発表した(注7)。これらの原料は米国、カナダ、オーストラリアにあるJBSの工場から供給されたもので、ブラジル国内でも、JBSグループのフリボイ(Friboi)社が動物の廃脂肪を使用したSAFの研究を進めていることが明らかになっている。
関連する外国企業のブラジル投資も複数発表されている。ヒューストンに拠点を持つバイオテクノロジー企業センビタ
(Cemvita)は2025年8月、ブラジル南部リオグランデ・ド・スル州にSAFの原料となる脂質系油であるファーム油〔FermOil(TM)〕を生産する施設の建設計画を明らかにした。同社は2017年に米国で設立され、独自の微生物の研究開発および実用化技術を持つ。同社のフェルナンド・バルボーザ副代表によれば、当該微生物は、廃グリセリンを原料にすることで高い脂質生産性を持つように設計されており、SAF製造に適した持続可能な油であるファーム油を効率的に生産する役割を果たす(注8)。
米国農務省(USDA)によれば、ブラジルは世界第3位のバイオディーゼル生産量を誇る。グリセリンは、バイオディーゼルを生産する過程で出る主要な副産物であり、今後もブラジルではバイオディーゼル生産量の増加が見込めることから、Cemvitaはブラジルへの拠点設立を決断した。バルボーザ副代表は、2024年にブラジルで施行された、未来の燃料法が投資の決め手になったという。同法では、ディーゼルへのバイオディーゼル混合率に関する新たな規制が導入され、同混合率は従来の14%から、2025年3月1日以降2030年3月1日まで毎年1ポイントずつ上昇すると規定されている。米国やインドネシアなど、ブラジルと同様にバイオディーゼル生産量が多い国への投資も検討したが、これらの国への投資は断念したという。米国はトランプ政権の誕生による政策の不確実性を、インドネシアはパーム油由来のバイオディーゼル生産が主であり、パーム油生産が抱えるレピュテーションリスクを懸念したためだ。Cemvitaは、ブラジルでバイオディーゼルを生産するBe8が保有する工場の隣に、自社の拠点を設立することで、副産物であるグリセリンの輸送コストを削減し、よりコスト競争力のある原材料の生産を目指す。2023年には、ユナイテッド航空とSAF年間最大約50万ガロンのオフテイク契約(長期供給契約)も締結済みで、「ブラジルへの投資を契機にさらなるビジネス拡大に挑みたい」とバルボーザ副代表は意気込む。
同じく、非可食性の油脂生産を目指すのが、アブダビ首長国政府系エネルギー企業アセレン
(Acelen)だ。同社は2023年12月7日、25億ドル以上を投資して、マカウバ由来の油からSAFを製造する計画を明らかにした(注9)。Acelenは、アラブ首長国連邦(UAE)構成国の1つのアブダビ首長国の政府系ソブリン・ウエルス・ファンド(ムバダラキャピタル)がブラジルのサンパウロ市内に設立した企業だ。SAF製造に使用する予定のマカウバは、中南米原産のヤシ科植物の実で、生産面積当たりの油の生産性が非常に高く、痩せた土地を再活性化するために最適な作物の1つとされている。ブラジル農牧研究公社(Embrapa)が2022年12月に作成した報告書によれば、マカウバは生育に必要な水分量がパーム油の原料となるアブラヤシと比べて低いため、ブラジル国内のほぼ全ての地域で栽培が可能とされている(注10)。Acelenを支援する、ブラジルバイオディーゼル・バイオジェット燃料連盟(Ubrabio)によれば、マカウバは非常にポテンシャルが高いが、まだ植林量が不足しているため、まずは苗木の生産を拡大することから始める必要があるという。Embrapaとの共同技術開発に加えて、ブラジル国家経済社会開発銀行(BNDES)からの財政支援を受けながら実用化を目指す。

ブラジル国内の石油製品販売大手もSAFの利活用を後押しする。ブラジルの石油製品販売大手バイブラ・エネルジア(Vibra Energia)は2025年3月、国内で初となるSAFの商用規模での輸入と国内販売を行ったと発表した(注11)。Vibra Energiaのマルセロ・ブラガンサ事業担当副社長によると、今後、同社の燃料を使用する航空機は、SAF10%、従来の航空機燃料90%の混合率で使用する。国内の航空燃料市場のシェア6割ほどを有するVibra Energiaが提供するSAFは廃食油から製造されており、従来の航空燃料と比較して、GHG排出量を約80%削減できるという。
- 注1:
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同法は10月9日に官報公示され、即日施行された。詳細は、2024年10月16日付ビジネス短信参照。
- 注2:
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排出削減義務の計算の基礎は、全ての運航で化石燃料が使用されたと仮定した場合の、航空会社の該当年度の国内線に由来する排出量とする。
- 注3:
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LTAGは、Long-Term Aspirational Goalの略。SAF利用は、ICAOの分析において、最大のGHG削減効果を持つ手段とされ、今後の利用拡大が期待されている。
- 注4:
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ICAOはSAFなどの導入に向け、Policy and Planning、Regulatory Framework、Implementation Support、Financingという4つの構成要素を設定し(ICAOウェブサイト参照)、各国政府に対し政策立案や支援を促している。
- 注5:
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SAFの導入を目指す、国際的なエアライン、航空機メーカー、燃料メーカー、金融機関などが参加する世界経済フォーラム(WEF)内のClean Skys for Tomorrow連合は、世界の航空業界で使用する燃料におけるSAFの割合を2030年までに10%とすることを宣言した。
- 注6:
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詳細は、2025年12月11日付地域・分析レポート参照。
- 注7:
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詳細は、2024年8月2日付ビジネス短信参照。
- 注8:
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2025年11月3日にジェトロが同社に対して行ったインタビューによる。
- 注9:
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詳細は、2023年12月18日付ビジネス短信参照。
- 注10:
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Embrapaは、ブラジル農業・畜産・供給省と密接に連携し、食品や繊維、エネルギーの生産のために熱帯環境下でのブラジルの農業や畜産の研究・開発を進める組織。
- 注11:
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詳細は、2025年4月22日付ビジネス短信参照。
ブラジルの次世代燃料政策と動向
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ) - 2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。




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