世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うクイーンズランド州で発展するバイオ燃料産業(オーストラリア)
多様な技術や新原料に注目集まる

2026年3月24日

オーストラリア北東部のクイーンズランド州(以下QLD州)は熱帯性・亜熱帯性の気候を生かした国内有数の農業地域だ。国内生産の9割超を占めるサトウキビをはじめ、肉牛や果物、ソルガムなどの穀物類、マカダミアなどのナッツ類、綿などの主要生産地となっている。バイオ燃料の原材料となる植物や農業残渣(ざんさ)などのバイオマス、獣脂などの生産地としても期待されている。本稿ではQLD州におけるバイオ燃料産業の動向について、現地取材(2月2日~6日)も交えて紹介する。

新政権下でより商業化に近い案件重視へ

まず州政府の関連政策について概観する。QLD州では2024年10月の議会選挙で9年ぶりに自由国民党が政権を獲得、気候変動対策については前政権より現実路線に変更がなされた。現政権では農業部門の生産額を2030年までに300億オーストラリア・ドル(約3兆2,428億円、豪ドル、1豪ドル=約108円)まで高めるという目標の下、作物の需要家となりうるバイオ燃料産業についても拡大を図るとしている。具体的には、バイオ燃料の精製におけるアジア太平洋地域でのハブを目指すとともに、燃料安全保障の確保や、地域における質の高い雇用の創出や成長の実現に取り組む方針だ。その一環として、バイオ燃料のほか、防衛やバイオ医療といった優先産業向けに、1億8,055万豪ドル規模の国家産業開発基金(SIDF)を設立し、資金提供を行うとしている(クイーンズランド州ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

バイオ燃料産業については前労働党政権も、複数の企業に対し実現可能性調査(FS)や基本設計(FEED)向けの補助金を提供していた。他方、現政権が発表したSIDFは対象プロジェクトの要件として「建設や運営など、開始が可能(able to commence)」「持続可能な商業運転を達成できる実現可能な計画(a viable plan to achieve sustainable commercial operations)」といった点を挙げており、バイオ燃料への注力は変わらないものの、より商業運転に近いプロジェクトを支援する姿勢が見て取れる。

バイオ燃料生産に向け、新たな原料ポンガミアに注目

以降はQLD州のバイオ燃料関連企業について紹介する。

地場ジェット・ゼロ(Jet Zero)は、オーストラリアで先端的かつ多様な持続可能な航空燃料(SAF)の開発に取り組む企業で、複数の生産プロジェクトに取り組んでいる。同社の進めるプロジェクトの1つがユリシーズ(Ulysses)だ。州北部のタウンズビルで、国内から調達したバイオベースのエタノールを原料にATJ製法(注1)によるSAFと再生可能ディーゼル(RD)の生産を目指し、現在FEED調査を行っている。もう1つのプロジェクトはマンダラ(Mandala)だ。港湾のあるグラッドストンでのプロジェクトで、水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)(注2)製法を用いてSAF、RDを生産する。現在FSが完了し、FEEDの段階に移行している。同社のゼネラルマネジャーのデイビッド・ジョンストン氏とエグゼクティブマネジャーのニール・ガードナー氏(取材日:2026年2月4日)によれば、2つのプロジェクトを同時並行で進めることで、市場のニーズに柔軟に対応できる点が強みだという。現在これらのプロジェクトの進展〔ユリシーズは最終投資決定(FID)、マンダラはFEED〕に向けて資金調達を行っている。

新たな原料の栽培に向けた取り組みもみられる。その一つがポンガミアだ。

ポンガミアはオーストラリアに自生する植物で、その種子からとれる油を用いてバイオ燃料を製造できるとして注目を集めている。非可食かつ、干ばつに耐性があることから厳しい環境下での栽培が可能な植物として期待されており、QLD州で複数のプロジェクトが進行している。

1つ目は米テルビバ(Terviva)が実施する試験植林の大規模プロジェクトだ。同社は、需要が拡大するSAFまたはRDへの対応を見据え、次世代のバイオ燃料原料として期待されるポンガミアの試験植林に取り組んでいる。QLD州では、高収量かつ各地での栽培に適した品種の特定に関する研究を行い、商業規模の栽培に向けて取り組んでいる。この動きを受け同社は、世界各地での将来的な大規模植林に向けて親木のクローンとなる接ぎ木をアジアや中南米に輸出している。同社シニアマネージャーのケビン・スワネポール氏とシニアディレクターのカルロ・バン・ディー氏(取材日:2026年2月2日)によれば、種子ではなく接ぎ木を輸出することで、遺伝子的に一貫した収量が最も高い品種を世界各地で安定的に栽培できる。これにより、収量の変動抑制、樹園の整備の迅速化、長期的な生産性の強化につながるとしている。同社はアジア諸国や中南米でも積極的に試験植林を行い、持続可能な燃料生産に向けたポンガミアの世界各地でのサプライチェーンの確立に向けて取り組んでいる。

出光興産はSAFの生産・供給体制の構築に向けて取り組んでおり、その将来の原料としてポンガミアに注目している。出光興産CNX戦略部海外プロジェクト担当部長舟木洋介氏(取材日:2026年1月28日)は、オーストラリアでの試験植林に関し、ポンガミアの商業生産に向けた取り組みについて、英国・オーストラリアの資源大手リオ・ティントやジェット・ゼロ(後述)など複数の企業が試験植林に取り組んでいることから、アジア大洋州地域においては、同国が最も進展していると考えているとコメント。今回の試験植林を通じ、ポンガミア由来のSAFの経済性の調査に加え、しぼりかすや殻のマネタイズ、植林によるカーボンクレジットの活用などについても検証すると続けた。


テルビバが試験植林を行うポンガミアの実(ジェトロ撮影)

エナグリーン(Energreen)も、中央部エメラルドでポンガミアの試験植林を実施している。第1段階として500ヘクタールの農地を取得しており、2026年2月時点でうち57ヘクタールにポンガミアを植林済みだ。残りの農地についても今後段階的に植林を進める。エメラルドの内陸港内に種子の破砕・加工施設を建設中で、州政府からの補助金も取得している。同社ダイレクターのジョン・ウェッジウッド氏(取材日:2026年2月5日)は、栽培を早期に進めることを重視して取り組んでいると述べた。用地の確保に関しては地元農家との連携を図っているほか、鉱山周辺の土地にも注目しており、鉱業企業にもアプローチしていると述べた。現在セントラルクイーンズランド大学とも連携し、生産効率の最大化に向けて研究しているとした。


エナグリーンの試験植林の様子(ジェトロ撮影)

既述のジェット・ゼロも、子会社のシルボ+(Silvo +)を通じて複数のポンガミアの試験植林を行っている。植林の規模は各10ヘクタール程度だ。ジェット・ゼロが取り組むマンダラや他のHEFA製法を用いたプロジェクトでの利用を見据え、商業栽培の可能性を調査している。

リオ・ティントもRDの原料としてポンガミアに注目、2024年9月にタウンズビルで試験植林を行うことを発表している。

廃棄物由来の燃料プロジェクトも進行

廃棄物由来の燃料に注目する企業もいる。ワイルドファイア・エナジー(Wildfire Energy)は廃棄物をガス化して得た合成ガスからバイオメタノールや水素を生産するプロジェクトに取り組んでいる。同社ゼネラルマネジャー・ストラテジック・パートナーシップのジェイミー・ルーデンリーズ氏(取材日:2026年2月3日)によれば、同社はブリスベン空港の付近で実証を進めており、将来的にはバイオメタノールからSAFを精製し供給するとしている。技術の強みはガス化にあり、回収した廃棄物を分別することなくガス化が可能であることから、生産コストを抑えられる。民間からの資金調達のほか、連邦政府、州政府双方から、技術開発や実証、商用化に向けた支援を受けている。現在、1,000万豪ドル規模の実証設備を用いて技術の開発・証明を行っており、2026年後半の商業規模プラントの建設に向けて取り組んでいる。


ワイルドファイア・エナジーの反応炉(ジェトロ撮影)

ワグナー・サステナブル・フュールズ(Wagner Sustainable Fuels)は地場アセット・インフラ大手ワグナーのグループ会社で、ジェット燃料とニートSAF(注4)の混合に取り組む。同社はワグナーが所有・運営するウェルキャンプ空港で、国外から調達したSAFを用いて混合している。混合にはシンガポール企業のフライオロ(FLYORO)が提供する技術を利用している。ワグナー・サステナブル・フュールズによれば、同社は国内で初めて持続可能なバイオマテリアルに関する円卓会議(RSB、注)の認証を受けたSAF企業だという。また、混合設備も安定供給が可能となっているほか、世界で初めて空港での混合に取り組んでいると続けた。2025年10月よりブレンディングを開始し、生産した燃料は同空港での利用のほか、国内各地、アジア大洋州地域に輸送されている。同社はこのほか、大規模なSAFとRDの生産設備も開発している。廃棄物由来のエタノールを生産、そこからSAFやRDを生産することを目指している。同社は米航空大手ボーイングから支援を受けているほか、連邦政府、QLD州政府双方から補助金を受けている。生産設備については、伊マイリケミカル、米ランザテック、米ランザジェットの技術を用いて、廃棄物からSAFを生産する。ワグナー・サステナブル・フュールズのマット・ドイル最高経営責任者(CEO)(取材日:2026年2月6日)によれば、SAFの混合および生産につき、ブリスベンを皮切りに国内各地、将来的には海外へと拡大する計画としている。


ウェルキャンプ空港での給油の様子(同社提供)

RDに注目する企業としては地場のリキッドパワー(Liquid Power)が挙げられる。同社は輸送や鉱業、建設といった産業向けの低炭素燃料生産プロジェクトを進める。州政府から南東部でのプロジェクトにおけるFSのための補助金も取得している。同社ディベロップメント・ダイレクターのブレンダン・ジャイルズ氏は、RDにつき、製品のライフサイクルを通じた排出削減効果の高さや利用可能な用途の広さに加え、製品寿命の長さも強みだと述べている。ジャイルズ氏によれば一般的なディーゼルの寿命は6~12カ月である一方、RDの場合は最大10年まで延びるという。

バイオ燃料の利用拡大に向けて待たれる需要側への政策

バイオ燃料の利用拡大に向けては燃料の利用者たる需要側への働き掛けも必要になる。SAFに関しては、オーストラリアのフラッグシップキャリアであるカンタス航空をはじめ企業の自主的な取り組みも進む。他方、国全体として需要側を対象とした政策は検討中だ。これに関し、SAFの使用割合を義務付けるマンデートや、シンガポールのSAF税(本特集「SAF導入へ、シンガポールの航空脱炭素化の取り組み」参照)のような政策を望む企業も見られる。

大規模な投資となることから収益源の確保に取り組む企業もみられる。バイオメタンやSAF、RDといった燃料自体の多角化のほか、原料のサプライチェーンで生じる副産物の利活用、オーストラリアのカーボンクレジット(ジェトロ・ウェブサイト「主なプロジェクト別優遇措置」参照)の利用に向けた調査が進められている。日本や欧州など幅広い市場に目を向ける企業もいる。

資金調達については、各社は政府および州政府の補助金を活用しつつ、戦略的な連携を活用し民間資金を基に進めている。今回取材した複数の企業からも、自社の技術と親和性の高い日本企業との協業・連携に関心が寄せられた。

企業との連携に関してはクイーンズランド貿易・投資庁(TIQ)からの支援を受ける企業もいる(TIQウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

現状オーストラリアとしてのバイオ燃料の生産量は大きくないものの、QLD州では新たな原材料やATJ、FT法などさまざまな技術に注目するプロジェクトが同時に進行している。技術経路の多様化や原料の確保の重要性が認識される中で、こうした取り組みはバイオ燃料産業の拡大にとって重要となるだろう。


注1:
ATJ(Alcohol-to-Jet)は、エタノールなどを原料に化学反応を通じて航空燃料規格に適合する炭化水素を製造する技術。 本文に戻る
注2:
水素化処理エステル・脂肪酸(HEFA)製法は、脂肪酸エステルを水素化処理することで炭化水素系燃料を製造する技術。 本文に戻る
注3:
フィッシャー・トロプシュ(FT)合成は、一酸化炭素と水素の混合ガスと触媒を用いて合成燃料を製造する技術。 本文に戻る
注4:
ニートSAFは、廃食用油や廃動物油脂などの廃棄物を原料に生産された燃料。化石由来の航空燃料に混合した上で航空機に補給される。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課、ロンドン事務所を経て2025年8月から現職。