韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦モンゴルの生活を変える韓国企業、見据える先は中央アジア
2026年4月27日
1990年の韓国とモンゴルの国交樹立から35年が経過した。その間、留学や就業で韓国に滞在した経験を持つモンゴル人が増加し、モンゴル人の10人に1人は韓国に住んだことがあるとも言われている。同時に、韓国企業のモンゴルにおけるビジネスも活発化している。特に、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの小売業で顕著だ。本稿では、3月4日から6日にかけて筆者がモンゴルの韓国系企業などを訪問してヒアリングした内容に基づく情報も含め、モンゴルにおける韓国系企業の展開状況について考察するとともに、今後の日本企業のモンゴル進出などに参考となる情報を紹介する。
ヒト・モノ・企業、全ての動きが活発に
最初に、統計データを基に両国の関係について説明する。
モンゴルを訪れる韓国人は年間約18万人(2025年)で、10年前と比べて3倍以上に増えている。モンゴルを訪問する外国人数を国別で見ると、韓国はロシア、中国に次いで3位だ。逆に、訪韓モンゴル人は年間約16万7,000人(2025年)で、10年前の2倍となっている。国別では19位と決して上位ではないが、モンゴルの総人口が350万人程度であることを踏まえれば、非常に多くのモンゴル人が韓国を訪れていることが分かる。両国の人的交流は非常に活発だ。
両国の貿易規模も年々拡大している(図参照)。特に、韓国からモンゴルへの輸出額は、1990年の国交樹立以降、右肩上がりに増加し、2025年は約6億6,000万ドルとなった。主な輸出品目は、自動車、嗜好(しこう)食品(ビール、紙たばこなど)、石鹸(せっけん)・歯磨き粉・化粧品、農産加工品などだ。後述するが、韓国のコンビニやスーパーの進出拡大に伴い、モンゴルの店舗販売に向けた韓国消費財の輸出が増えていると考えられる。
出所 韓国貿易協会を基にジェトロ作成
企業進出も盛んだ。モンゴル経済開発省によると、2023年3月時点の韓国からモンゴルへの直接投資企業数は1,483社と、全体の16.2%を占めた。国別では中国に次いで2位だ(注1)。ちなみに、日本企業は408社で、韓国企業の3分の1にも満たない。韓国企業の進出状況について筆者が現地にある韓国の公的機関に詳細を聞いたところ、「日本は金融やインフラ関係の企業が多いが、韓国は消費財や流通関連の企業が多く進出しており、両国の企業は重複・競争が生じない分野でビジネスを行っている」と見解を述べた。また、筆者が聞いた現地韓国系会計法人によると、「モンゴルには有名ブランドがないため、韓国のブランドと組んでビジネスを広げたいと考えるモンゴル企業が多い」「一方で、モンゴル企業は企業体力に乏しく、大きく投資するのはリスクが大きいため、10%程度の出資に抑えてブランドの拡大を図る韓国企業が多い」と、進出形態について説明した。
韓国の小売企業が一気に拡大、モンゴル人の生活は「韓国化」が進む
前述の韓国の公的機関によると、「2000年代に入ってから韓国企業の進出が多くなった。人的交流が盛んになり、出稼ぎや留学で韓国に行ったモンゴル人が帰国し、韓国とのビジネスの担い手になることが多い」と指摘した。両国間の人的交流の増加が、相互に文化的な親近感を増幅させ、韓国企業にとってモンゴル進出の大きなインセンティブとなっているようだ。
このような中、モンゴルに進出した韓国小売企業が具体的にどのようにビジネスを行っているのか、筆者が行ったヒアリング内容を中心に紹介する。
ヒアリングは、コンビニ2社(以下、「コンビニA」「コンビニB」)と、ハイパーマーケット(注2)を展開するスーパーCの3社に対して実施した。ちなみに、各社の店舗展開状況は、コンビニAはウランバートルなど各地に合計約560店、コンビニBはウランバートルに約300店、スーパーCはウランバートルに6店となっている。
ウランバートル市内では韓国系コンビニを頻繁に見かける。車で5分も進めばコンビニ2社が交互に現れるほど多い。コンビニAが進出して10年も経過していないが、既にモンゴルでは韓国系コンビニが非常に身近な存在となっている。コンビニAによると、「モンゴルにはカフェがまだ少ないため、コンビニではレジ前のスナックコーナーやコーヒーが人気で、食事やお茶をする文化空間として発達している」と、韓国系コンビニが生活の一部に深く入り込んでいることを強調した。コンビニBも「モンゴルの冬は寒いため、集合住宅の1階にコンビニがあると非常に便利だ。これがコンビニ人気の理由の1つだ」と話した。さらに、モンゴルの生活スタイルに対し韓国系コンビニがうまく適応できたことで、両社とも短期間で急拡大した。実際に、店舗に足を踏み入れると見慣れた韓国のコンビニの風景が広がる。インスタントラーメン、菓子、韓国ビール、ソジュ(韓国焼酎)など、韓国製品が多く陳列されており、店内にはラーメンを調理して食べたり、コーヒーを飲んだりできるイートインスペースも併設されていた。
モンゴルに進出する韓国コンビニ(ジェトロ撮影)
韓国コンビニ店内には韓国のラーメンやビール、焼酎などが並ぶ(ジェトロ撮影)
スーパーCもモンゴル人から大きな支持を得ている。その理由について、スーパーCは「今までは伝統的な市場がバラバラに所在し、移動が必要だったが、総合的に一括でショッピングできるようになったこと」を挙げていた。実際、スーパーCは、敷地内にカフェや飲食店のテナント、フードコート、スポーツクラブやカルチャーセンターなどを構えるとともに、駐車場も広く用意している。そのため、週末には家族連れでにぎわい、ポップアップイベントなども頻繁に開催されているようだ。
さらに、韓国系会計法人の話によると、これら韓国系小売企業が活躍している別の理由は、ウランバートルの「都市交通」にある。ウランバートル市内には地下鉄がなく、バスや自家用車による移動が中心で、交通渋滞が深刻だ。車だと、数キロの移動で1時間程度かかることもある。日常生活で可能な限り移動距離を短くしたいというモンゴル人にとって、韓国系小売店が大きな魅力だったということだ。
スーパーCの店舗近くには「モンタン新都心」(注3)と呼ばれる地域がある。この地域には、低層階に各種テナントが入居する高層マンションが何棟も連なっており、まるで韓国の住宅団地のように見える。このような韓国スタイルともいえる住宅団地がウランバートル市内では人気を博しており、そこに韓国系小売店が出店を進めている。韓国系会計法人も「韓国在住経験がある人が多く、韓国スタイルの住環境を知っているため、商業施設との距離も近いコンパクトな生活圏を望んでいる」と、その背景を述べていた。
総括すると、両国の人的交流拡大にウランバートルの都市交通問題も相まって、住環境の「韓国化」を促し、ひいては韓国系コンビニやスーパーのビジネスを後押ししているという構図が見えてくる。
この3社以外でも進出事例は増えている。前述の韓国公的機関は「消費財と流通に加えて、外食産業もフランチャイズで参入している」と述べていた。街中にも、韓国ブランドのカフェやベーカリー、ファストフード店などを見かける。ウランバートル中心街では、韓国の大手ベーカリーチェーン「パリバケット」1号店の建設現場も見られた。同機関によると、これらの店舗はモンゴル企業が運営している。「韓国文化や韓国語に精通している人が多く、そうした人材がいるモンゴル企業が韓国企業にコンタクトすることが多い」ということだ。ここでも「韓国人材」が一役買っているようだ。


今後の課題は物流と食品プロセッシング、解決に向けて日系企業にもチャンス
コンビニ2社とスーパーCは、今後の課題として「物流」と「食品プロセッシング」を挙げていた。
モンゴルの人口は約350万人と小さい市場だ。その半分以上がウランバートル市内に集中しているが、地方に展開しなければビジネスは広がらない。また、ウランバートル市内は渋滞がひどく、1日1回の運搬が限界である。地方も含めてモンゴル国内の物流網を拡大し、需要が増える食品類を運搬できるよう、常温・冷蔵・冷凍の物流インフラを構築する必要がある。
キンパやチキン(注4)などの加工食品は、コンビニでもスーパーでも人気商品だが、物流環境に加えて食品プロセッシングを改善する必要があるとの課題認識もうかがえた。スーパーCは、「食品加工工場は地方にあるが、人材がすぐに辞めてしまうため、技術・質が安定しない」と具体的な課題を述べていた。
これに関連して、日本の食品加工技術や品質管理水準の高さに触れ、食品加工工場への日本製機械の導入や、日本製食品の輸入に対するニーズも聞かれた。ある会社は、日本の食品展示会にも参加し、日本から直接モンゴルへ仕入れることができる商品がないか探索中とのことで、既に具体的に動き始めていた。
モンゴルの実績を活かして中央アジアへ、それこそ真の狙い
最後に、このように韓国の小売企業がモンゴルで展開している理由について深掘りする。これまで述べてきたような人的交流の増加や住環境との相性の良さなどが、モンゴル進出活発化の素地となっている。しかし、モンゴルは人口が約350万人と、韓国内で言えば第2の都市の釜山広域市(約325万人)程度で、小さい市場に過ぎない。また、ロシアと中国に挟まれた内陸に位置し、物流面でも課題が多い。
それでは、なぜ、あえてモンゴルに進出したのか。ヒアリングで3社が口をそろえて言っていたのは、「中央アジアへの玄関」というモンゴル独特の地政学的特性だ。モンゴルの西には、ロシア・中国との国境を挟んですぐにカザフスタン、その西隣には中央アジア最大の人口を有するウズベキスタンが位置する。カザフスタンが約2,000万人で、ウズベキスタンが約3,700万人、合わせると5,700万人と、韓国の約5,100万人を超える市場が広がっている。さらに、中央アジアの市場特性はモンゴルと類似している。スーパーCが「モンゴルと中央アジアとは同じ文化圏で生活スタイルも似ているし、モンゴル内にはカザフ民族も多く暮らし、ウズベキスタン料理店も多い」と語った。実際、コンビニAは既にカザフスタンに店舗を出している。スーパーCも「モンゴルで成長して中央アジアに進出することを検討している」と語った。このようなニーズがあるためか、前述の韓国公的機関は、組織規程でウランバートル事務所をCIS(独立国家共同体)地域に分類し、中央アジア諸国と同じ地域管轄としていた。韓国の小売企業はモンゴルを「中央アジアへの玄関」と捉え、ビジネスを展開している実態が把握できた。
日本企業にとっても、このような韓国企業の視点は参考となろう。中央アジアへの展開を見据えた上で、モンゴルにおいてレファレンスを蓄積し中長期的に当該地域にビジネスを拡大していくことは十分に可能性があるものと考えられる。また、韓国企業の話からも、日本製の食品加工機械や食品の調達ニーズが高いことが分かったため、韓国企業が既に有するモンゴル内のビジネスリソースを活用することも選択肢として十分にあり得よう。韓国も日本も、少子化と高齢化が同時進行し、国内市場は飽和しているため、新しい市場の探索が不可欠だ。韓国企業のモンゴルでの展開手法、戦略などは示唆に富む内容が非常に多い。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ソウル事務所
橋爪 直輝(はしづめ なおき) - 2023年4月、経済産業省からジェトロ・ソウル事務所に出向。経済調査チーム所属。





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