世界の次世代燃料の生産・消費動向を追うブラジルの次世代燃料政策と動向
モビリティーへの活用(1)

2026年1月20日

ブラジルはサトウキビ由来のエタノール生産量が世界一だ。ブラジル政府は1970年代以降、こうしたバイオ燃料の開発とモビリティーへの利活用を促進してきた。現在ブラジルで走行する乗用車の7割強が、ガソリンとサトウキビ由来のエタノールを混合し燃焼して走行するフレックス車だ。政府は2024年、「未来の燃料法」を施行し、ガソリンやバイオディーゼルへのバイオ燃料混合率を上昇させる方針を明らかにした。また、近年はブラジル独自の生産方法によってトウモロコシの生産量が増加し、トウモロコシ由来のエタノール生産量も急増している。本稿では、ブラジルにおけるバイオ燃料動向を概観すべく、前編ではブラジルのバイオ燃料政策とオフテイカーとしての自動車産業の歴史や企業動向を紹介する。

ガソリン代替のエタノール燃料利用拡大を目指すブラジル

ブラジル政府は2024年10月9日、持続可能な低炭素モビリティーを促進するための法律第14,993号(通称:未来の燃料法)(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを官報公示した(注1)。同法は、運輸部門の脱炭素化を目的に、バイオ燃料の利用拡大と新技術開発を促進するための包括的な枠組みを構築するものだ。同法により、ガソリンへのエタノール混合率とディーゼルへのバイオディーゼル混合率に関する新たな規制が導入された(注2)。ガソリンへのエタノールの混合率は義務値を引き続き27%と据え置いたが、義務値の可変範囲を、従来の18%~27.5%から22%~35%に拡大した。ディーゼルへのバイオディーゼル混合率は、従来の14%から、2025年3月1日以降2030年3月1日まで毎年1ポイントずつ上昇する。

ブラジルは、2024年の自動車生産台数が254万9,595台で世界第8位(表1参照)、国内販売台数(新車登録台数)は263万4,904台で世界第6位(表2参照)の自動車大国だ。そのうち、国内販売台数の約75%に相当する196万7,275台(表3参照)は、ガソリンとバイオエタノールを混合し燃焼して走行するフレックス車が占める(注3)。ブラジル国内のガソリンスタンドには、ガソリンと無水エタノールが混合された給油口と、100%エタノール燃料の給油口があり、顧客は燃料の販売価格や燃費などを考慮して給油時にエタノールの混合割合を自由に選択することが可能だ。ブラジル全国自動車製造業者協会(Anfavea)が2023年2月に発表した年次報告書の中では、バイオエタノール配合のフレックス車が温室効果ガス(GHG)排出量削減に寄与することや、脱炭素化を加速するにあたってのバイオエタノール利用拡大の必要性を強調している(注4)

表1:国別の自動車生産台数(単位:1,000台)
順位 生産国 生産台数
1 中国 31,282
2 米国 10,562
3 日本 8,235
4 インド 6,015
5 メキシコ 4,203
6 韓国 4,127
7 ドイツ 4,069
8 ブラジル 2,550
9 スペイン 2,377
10 タイ 1,469

出所:OICA

表2:国別の国内販売台数(新車登録台数)(単位:1,000台)
順位 生産国 生産台数
1 中国 31,436
2 米国 16,340
3 インド 5,227
4 日本 4,421
5 ドイツ 3,192
6 ブラジル 2,635
7 英国 2,369
8 フランス 2,155
9 カナダ 1,907
10 ロシア 1,834

出所:OICA

表3:ブラジルにおけるパワートレイン別国内販売台数(新車登録台数)
燃料の種類 ガソリン エタノール フレックス燃料 電気 ガス ディーゼル 合計
台数 102,484 20 1,967,275 178,183 291 386,651 2,634,904
シェア 3.89 0.001 74.66 6.76 0.011 14.67 100

出所:Anfavea

自動車燃料政策がフレックス車普及を後押し

ブラジルにおけるモビリティーへのバイオエタノール利用の歴史は長い。フレックス車の発展は、1970年代前半のオイルショックへの対策として、ブラジルで1975年にアルコール振興策「国家アルコールプログラム(Programa Nacional do Álcool)」が発表された頃までさかのぼる。ブラジルは今でこそ世界における産油国の一つだが、当時はエネルギー輸入国だった。政府は、エネルギーの輸入依存度を軽減するべくサトウキビを利用したバイオエタノール生産拡大を目指し、さらにバイオエタノールを自動車燃料としても応用すべく、バイオエタノール燃料混合車の技術開発を促進した。

国家アルコールプログラムは、1975年の政令76.593(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによって制度化された。国内外の燃料需要に対応するだけでなく、自動車用燃料政策を強化し、石油依存を低減するとともに、エタノール生産を促進することを目的として制定された。これにあたり、サトウキビなどを原料とするアルコール生産を奨励するべく、農業生産力の向上、既存蒸留所の近代化、新規工場や貯蔵施設の設置を政府が支援した。1993年には、自動車排出ガスの削減を目的とした環境保護法として法律第8.723号(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを施行し、1997年以降に製造される乗用車に対し、一酸化炭素(CO)や煤塵(ばいじん)などの排出削減措置を義務付けるべく、排出基準や技術的要件を規定した。また、2001年には、法律第10.203号(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを施行し、同法第9条でガソリンへのエタノール混合率22%を義務化した(注5)

同法により、自動車燃料へのエタノール混合が全国的な燃料供給の基準となったこともあり、当時ブラジルにおける主要自動車メーカーであった欧米自動車メーカーは相次いで新たな技術開発に注力した。2003年には、フォルクスワーゲン(VW)が、イタリアの自動車部品サプライヤーであるマニエッティ・マレリなどと共同開発した、バイオエタノールやガソリンを混合して稼働可能な世界初の商用フレックス・フューエル・エンジン車(フレックス車)「Gol Power 1.6 Total Flex」を市場に投入した。ゼネラルモーターズ(GM)も2003年、旧GMの自動車部品部門で現在はパワートレイン等を製造する自動車部品メーカーであるデルファイと共に共同開発したフレックス車「Corsa 1.8 Bicombustível」を市場に投入した(注6)。その後、政府のフレックス車に対する税制恩典(注7)に加え、エタノール価格がガソリン価格と比較して価格優位性があったことなども消費者のフレックス車購入を後押しし、2005年にはフレックス車の国内販売台数がガソリン車の販売台数を上回った。2008年には、国内販売台数(新車登録台数)の約9割をフレックス車が占め、現在に至るまでフレックス車は市場のシェアトップを維持している。

国家エネルギー政策評議会(CNPE)は2025年8月、ガソリンのエタノール混合率を27%から30%に引き上げた。ブラジルサトウキビ産業協会(UNICA)のエバンドロ・グッシ会長 によれば、将来的に混合率を35%まで引き上げることを検討しているという(注8)。混合率を27%から30%に引き上げるのは、自動車への負荷が少ないことが分かっていたため比較的容易だったが、35%まで引き上げるには既存の自動車やエンジンの技術検証が必要で、一年程の時間をかけて自動車メーカーと協力し耐久テストなどを行うという。

世界最大のサトウキビ由来のエタノール生産量を誇る

世界的なバイオ燃料の需要増加を受け、世界のエタノール生産量は増加の一途をたどっている。米国ワシントンD.C.に拠点を持つ再生可能燃料協会(Renewable Fuel Association)によれば、2024年の世界のエタノール生産量は312億1,000万ガロンで、2020年(264億8,000万ガロン)比17.9%増加している(図1)。最大の生産国は米国で、2024年は世界の生産量の52.0%を同国が占めた。次いで生産量が多いのがブラジルで28.1%、次いでインド(5.2%)、EU(4.6%)、中国(3.8%)、カナダ(1.5%)、タイ(1.2%)と続く(図2)。米国とブラジルで世界のエタノール生産量の8割強を占めていることが分かる。

図1:世界のエタノール燃料生産量
2020年は264億8,000万ガロン、2021年は273億1,000万ガロン、2022年は282億2,000万ガロン、2023年は293億9,000万ガロン、2024年は312億1,000万ガロン。

出所:Renewable Fuel Association

図2:2024年の国別エタノール燃料生産量
米国52.0%、ブラジル28.1%、インド5.2%、EU4.6%、中国3.8%、カナダ1.5%、タイ1.2%、アルゼンチン1.0%、その他2.6%。

出所:Renewable Fuel Association

ブラジルでも、バイオエタノール生産量は増加傾向にある。UNICAのデータによれば、24/25年度のサトウキビ由来のエタノール生産量は268億リットルで前年度(23/24年度)比では減少したものの、12/13年度(214億リットル)以降、順調に増加している(表4)。米国ではエタノール生産の9割以上がトウモロコシ由来のため、サトウキビ由来のエタノール生産量はブラジルが世界最大だ(注9)。UNICAとブラジル貿易投資誘致機関Apex-Brasilが共同運営するSugarcane Organizationによれば、サトウキビ由来のエタノール燃料は、化石燃料と比較して最大90%のGHG排出量削減を実現する。UNICAのグッシ代表は「サトウキビ由来のエタノールは、トウモロコシ由来のそれと比較しても炭素強度が低く、最も低炭素な燃料の1つ。今後もブラジル政府や民間企業と協力してモビリティーへの活用も含め、さらなる活用を推進する」と強調する。

表4:ブラジルにおけるサトウキビ由来のエタノール生産量(単位:10億リットル)
収穫期 生産量
12/13 21.4
13/14 25.6
14/15 26.1
15/16 28.1
16/17 25.4
17/18 25.6
18/19 30.2
19/20 31.6
20/21 27.8
21/22 24.2
22/23 24.5
23/24 27.3
24/15 26.8

出所:UNICA

現地進出日系自動車メーカーも、こうした政策に伴って積極的に技術開発や実用化を実現している。1950年代からブラジルで自動車生産を行うトヨタは2018年、サンパウロ市内で開催されたイベントで、UNICAとともに研究開発を進めてきた世界初となるフレックスハイブリッド車のプロトタイプを発表した。既存のプリウスにブラジル・トヨタで開発したハイブリッドシステムを組み合わせたもので、E100(バイオエタノール100%)にも対応可能な試作車としてお披露目した。翌年2019年にはカローラ、2021年にはカローラクロスのフレックスハイブリッド車の量産を開始した。2024年には、45億円を投じて拡張した既存工場で新型のコンパクト・フレックスハイブリッド車の量産を開始した。今後は中南米22カ国への輸出も計画されている。同社によれば、こうしたフレックスハイブリッド車は、従来のエンジン車と比較して、約70%のGHG排出量削減を実現するという。

トウモロコシ由来のエタノール生産/輸出拡大を見込む

近年は、ブラジル国内でトウモロコシ由来のエタノール生産量が急増している。24/25年度のトウモロコシ由来のエタノール生産量は819万リットル。14/15年度の生産量が8万5,000リットルだったことを考えると過去10年あまりで100倍弱まで拡大しており、急速に生産量を伸ばしている(表5)。

表5:ブラジルにおけるトウモロコシ由来のエタノール生産量(単位:100万リットル)
収穫期 生産量
14/15 85
15/16 141
16/17 234
17/18 521
18/19 791
19/20 1.624
20/21 2.580
21/22 3.466
22/23 4.432
23/24 6.267
24/15 8.190

出所:UNICA

ブラジルにおけるトウモロコシ生産は年に2回行われる。第一期作は9月から翌年2月まで、第二期作は2月から8月にかけて行われ、前者は主に国内消費用、後者は主に輸出に仕向けられている。第二期作はサフリーニャと呼ばれ、第一期作に大豆を作付けして収穫した後に、同じ土地でトウモロコシを作付けして収穫する方法だ。ブラジル農牧畜研究公社(Embrapa)によれば、近年はトウモロコシ生産量の7割以上がサフリーニャによるもので、第一期作の生産量を大きく上回っている。事実、24/25年度のトウモロコシ由来のエタノール生産量819万リットルのうち、約7割に相当する566万リットルが、大豆の生産地として有名なブラジル中部マットグロッソ州で生産されるトウモロコシ由来だった(注10)。UNICAのグッシ代表は「サフリーニャによる生産拡大は、(大豆生産を行う)土地の再利用という意味でも環境に優しく、無駄がない。サフリーニャに活用できる大豆生産地はまだ多くあり、トウモロコシ由来のエタノール生産量は今後も増加の一途をたどるだろう」と期待を寄せる。

ブラジル政府は、こうしたトウモロコシ由来のエタノール輸出拡大も見込む。2025年5月12~14日にかけて中国を公式訪問したブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は、中国国家エネルギー局(NEA)と、トウモロコシ由来のエタノールおよび副産物の輸出促進に関する覚書を締結した。中国では、2025年6月に新たなE10ガソリン規格が発表され、ガソリンに8~12%の燃料用エタノールを混合することを規定している。同法は、2026年7月1日に施行する。


注1:
詳細は、2024年10月6日付ビジネス短信参照。同法は即日施行された。 本文に戻る
注2:
ブラジルでは、ガソリンへのエタノール混合とディーゼルへのバイオディーゼル混合が法律で義務付けられている。混合率は大統領府傘下の国家エネルギー政策評議会(CNPE)が設定する。 本文に戻る
注3:
正式名称はFlexible Fuel Vehicles (FFV)。日本語ではフレックス車あるいはフレックス燃料車と呼ばれる。 本文に戻る
注4:
詳細は、2023年11月13日付地域・分析レポート参照。 本文に戻る
注5:
混合率は、20%~24%の範囲内で大統領府が調整可能と規定した。バイオディーゼルの利用については、2005年に施行された法律11.097号(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにより、バイオディーゼルを燃料として使用する法的義務(ディーゼル燃料に最低5%のバイオディーゼルを混合する義務)を規定した。なお、最初の8年間は、移行期間としてディーゼル燃料に2%のバイオディーゼル混合を義務付けた。その後、混合率は徐々に引き上げられ現在に至る。 本文に戻る
注6:
ともに、E100 まで対応可能なフレックス車。マニエッティ・マレリは、2019年に日本のカルソニックカンセイと経営統合し、マレリに社名を変更した。 本文に戻る
注7:
ブラジル政府は、フレックス車購入時の自動車税を14%に軽減した。なお、ガソリン車購入時の自動車税は16%だった。 本文に戻る
注8:
11月3日にジェトロが行ったインタビューによる。 本文に戻る
注9:
2025年3月26日付米国農務省(USDA)報告による。米国のエタノール生産において92.7%はトウモロコシ由来。 本文に戻る
注10:
UNICAによれば、24/25期のトウモロコシ由来のエタノール生産量(819万リットル)のうち、69.1%がマットグロッソ州産。次いで生産量が多いのはミナスジェライス州(20.1%)、ゴイアス州(10.4%)。いずれも大豆の一大生産地。Embrapaは、ブラジル農業・畜産・供給省と密接に連携し、食品や繊維、エネルギーの生産のために熱帯環境下でのブラジルの農業や畜産の研究・開発を進める組織。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 課長代理(中南米)
辻本 希世(つじもと きよ)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ北九州、ジェトロ・サンパウロ事務所などを経て、2019年7月から現職。