中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探るイランの国内外情勢
2025年のイランを振り返る(1)
2026年3月26日
イランは、世界の原油輸送の約20%が通過するホルムズ海峡(2025年6月19日付ビジネス短信参照)を臨み、アジアと欧州を結ぶ戦略的な要衝に位置している。加えて、ロシアとインドを結ぶ複合輸送網である南北輸送回廊の中核も担う。
同国は2025年(注1)、イスラエルとの衝突や国連からの制裁の復活もあり、経済成長の鈍化が見込まれるなど、厳しい状況下に置かれた。一方、欧米以外の国との連携を深めることで、国力の強化を図っている。特に2025年のイランのイスラーム共和国通信(IRNA)では、鉄道による他国との協力強化や国内の鉄道輸送の拡大についての報道が多く見られた。
そこで本連載では、前編で2025年のイラン国内の状況と同国を取り巻く環境を整理した後、後編で2025年に進展を見せた同国の鉄道に関する取り組みについて、主にIRNAを基に概説する。
前編となる本稿では、2025年のイラン国内外の動向をまとめる。
(本連載は2025年末までの情報に基づき執筆されています。イラン情勢に関する情報はビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」もご参照ください。)
2025年は成長鈍化、イスラエルとの衝突や国連の制裁復活も
IMFの発表(2025年10月21日)
で、イランの2024年度(2024年3月21日~2025年3月20日)の実質GDP成長率は3.7%であったものの、2025年度は0.6%、2026年度は1.1%と成長の鈍化を予測した。イラン統計センターの発表でもイラン暦1404年上半期(2025年3月21日~9月22日)の実質GDP成長率は、石油部門を含めるとイラン暦で前年同期比0.1%、石油部門を含めない場合には同マイナス0.5%と報告した。
また、IMFは特にインフレ率について言及した。イランは自国通貨のリアル安、緩和的な金融・財政政策、国際的な制裁により、中東・北アフリカ(MENA)地域では例外的にインフレ率が上昇しており、2025年末には年間のインフレ率が2024年末比で45%に達すると予測した(図参照)。
実際にイランの中央銀行でも、2025年の後半にあたるイラン暦1404年の8カ月目(2025年10月23日~11月21日)末の月次インフレ率は、イラン暦で前年同月比41.0%に達したと報告した。高インフレへの対応の一環としてイラン政府は2025年10月、国の通貨の単位からゼロを4桁削除する法律の施行を正式に発表した(2025年12月11日付、11月27日付ビジネス短信参照)。
注:2025年以降は予測値。
出所:IMFを基にジェトロ作成
イランでは2025年6月、イスラエルとの衝突や米国によるイラン核施設攻撃が発生。10月7日付のIRNAは「12日間の紛争は経済インフラの脆弱(ぜいじゃく)性を露呈した」と題し、イラン企業へのインタビューを基にした記事を公開。12日間におよぶイスラエルとの衝突はイラン企業に、輸出入の制限や貿易ルートの閉鎖、原材料供給の問題などにより、サプライチェーンの混乱を招いたと報じた。また、7月28日付のIRNAもイスラエルとの衝突が、イランの輸入資源と非効率的な輸出に大きく依存している経済構造を見直す必要性を浮き彫りにしたと報じた。さらに、同年9月には国連からの制裁が復活。イラン側は制裁復活を批判した。
他にも首都テヘランでの深刻な水不足や大気汚染(2025年11月13日付、12月3日付ビジネス短信参照)だけではなく、2025年末には通貨安や物価高騰に対する抗議活動がイラン全土に広がったと報じられるなど、国内での課題も浮き彫りになった。
厳しい環境下で進む輸出回復と周辺国との連携強化
このようにイラン国内外を取り巻く環境は依然として厳しいものの、イラン暦1404年上半期(2025年3月21日~9月22日)の非石油部門の輸出額は増加したと、2025年10月11日付のIRNAは報じた。IRNAによると、イラン暦1404年上半期の最初の数カ月はイスラエルとの衝突や、南部のシャヒード・ラージャイー港の爆発、エネルギー不足などで大幅に輸出が減少したものの、半年間で見ると、その減少分も補われたという。また、原油について、安定して輸出が行われているとするイラン国営石油会社の最高経営責任者(CEO)の発言(9月22日付IRNA)や、欧州諸国のスナップバック発動がイランの輸出入に支障をきたすことはないとするイラン海運協会事務局長の発言がIRNAで報じられた(9月2日付IRNA)。
欧米からの制裁に対しても、イランは欧米以外の国や地域との連携を強化することで対応している(表参照)。例えば2025年8~9月にイランのマースード・ペゼシュキヤーン大統領は中国で開催された上海協力機構の首脳会談に参加、中国の習近平国家主席と会談し、両国の関係拡大を強調した。また、10月22日付のIRNAによると、ロシアとの貿易のうち、イランとロシア双方の取引品目の約87%が関税免除の対象となっているという。両国間の貿易額は、2023年は6億5,000万ドルだったものの、2024年には18億ドルへ急増し、2025年末までに30億ドルに達するとしており、今後も関係拡大が予測される。さらにパキスタンやサウジアラビアなどの近隣諸国やアフリカとも関係強化が進んでいる(2025年8月29日付、7月23日付ビジネス短信参照)。
| 月 | 出来事 |
|---|---|
| 1月 | ロシアと包括的戦略的パートナーシップ協定に署名(2025年1月21日付ビジネス短信参照) |
| 4月 | オマーン仲介により、米国と第1回間接協議実施(2025年4月14日付ビジネス短信参照) |
| 5月 | ユーラシア経済連合(EAEU)とイランの間で恒久的な自由貿易協定(FTA)が発効(2025年5月16日付ビジネス短信参照) |
| 6月 |
イスラエルがイランの核施設や軍事施設などを攻撃。イランも報復攻撃。両国は交戦状態に。いわゆる12日間戦争が勃発 米軍によるイランの核施設攻撃、イランによるカタールの米軍基地へのミサイル攻撃を経て、イスラエルとイランは停戦に合意 (特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」参照) |
| 8月 |
国際原子力機関(IAEA)関係者がイラン訪問(2025年8月14日付ビジネス短信参照) イランのマースード・ペゼシュキヤーン大統領が上海協力機構(SCO)の第25回首脳会議に参加(9月、中国の習近平国家主席と会談) (2025年9月12日付ビジネス短信参照) |
| 9月 | 欧州3カ国(英国・フランス・ドイツ)が国連制裁再適用(スナップバック)を発動(2025年10月1日付ビジネス短信参照) |
| 12月 | 首都テヘラン発の物価高や通貨暴落による経済不満の抗議が、反政府デモへ発展し全国に拡大 |
出所:ジェトロビジネス短信などを基にジェトロ作成
南北輸送回廊の進展とイランの中核的役割
こうした欧米以外との経済連携の強化は、鉄道分野にも表れている。その象徴が南北輸送回廊だ。2000年にロシア、インド、イランの間で、国際的な複合輸送手段である南北輸送回廊を創設するための政府間協定が締結された。当初はイラン、インド、中東湾岸諸国からロシア経由で欧州へ貨物を輸送することを目的としていた。その後、参加国は14カ国に拡大(注2)。2025年11月12日付のIRNAでは、スエズ運河を経由する海路と比較して、このルートは輸送時間とコストを半分以上削減でき、イランの地政学的優位性を高める基盤となっていると報じられた。また、同国の道路・都市開発相が、ペゼシュキヤーン政権では、南北輸送回廊の接続を最優先事項にしていると発表したことも報じられた(10月22日付IRNA)。
10月14日付のIRNAは、南北輸送回廊完成のために特に重要な区間はイラン北部のラシュトとアゼルバイジャンのアスタラ間(2023年5月19日付ビジネス短信参照)だとし、今後3年間で大きな進展が見込まれると報じた。11月18日付のIRNAによると、同区間のための300ヘクタールの土地の取得も発表されたという。また、同月26日付のIRNAでは、同区間が完成すれば南北輸送回廊の西ルートを鉄道で結ぶことになり、イランを経由したロシア・インド間の鉄道貨物輸送は年間7,000万トンになると予測している。
後編では、2025年にIRNAで報道された具体的な鉄道プロジェクトに関して概説する。
2025年のイランを振り返る
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと) - 2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。






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