中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探るフリーゾーン運営のDESBAŞに聞く
トルコの物流・インフラ(3)

2025年10月23日

トルコの物流・インフラの現状を概説する連載の第3弾となる本稿では、イスタンブール産業貿易自由地域設立・運営DESBAŞ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの最高マーケティング責任者イブラヒム・オズチェリク氏と、事業開発担当者のトゥーチェ・バユンドゥル氏に、同社の事業および地政学リスクや米国関税の影響について聞いた(取材日:2025年9月23日)。


DESBAŞのイブラヒム・オズチェリク氏(左)とトゥーチェ・バユンドゥル氏(ジェトロ撮影)
質問:
主な事業とサービスは。
答え:
DESBAŞは、トルコのイスタンブール産業貿易自由地域の創設者、運営会社として、インフラ、セキュリティー、清掃、物流、リース、計量、電気・天然ガス・水道供給、保管、駐車サービスを提供している。また、研究開発やプロモーション活動も行っている。プロモーション活動と代理店活動の一環として、トルコのフリーゾーンのコンセプトや当社のフリーゾーンが提供する機会について、外国の組織や企業に情報を提供している。ほかにも、当社のフリーゾーン利用者の企業に対し、設立段階や日常業務で発生する問題の解決を支援している。2024年の当フリーゾーンの総貿易額は27億ドルで、トルコ国内のフリーゾーンの中で第5位だった。輸出単価は1キログラム当たり7.3ドルで、単位面積当たりの貿易量も国内のフリーゾーンの中で1位と、生産性の面でも効率性の高いフリーゾーンだ。当フリーゾーンの建物の約90%が使用されている。

DESBAŞの入り口(DESBAŞ提供)

DESBAŞを空から見た光景(DESBAŞ提供)
質問:
世界、またトルコ国内の他のフリーゾーンと比較した強みは。
答え:
トルコの強みとしては、(1)トルコは3大陸が交わる地点に位置しているため、欧州、アジア、アフリカの市場へのアクセスで大きな物流上の優位性がある、(2)トルコは欧州諸国との関税同盟に加盟し、多くの国と自由貿易協定(FTA)を締結しているため、EUやその他多くの市場に無関税、または低税率でアクセスができる、(3)地域紛争に中立的立場を維持することで、トルコとこれらの国々との商業活動が中断されることなく継続され、トルコへの投資も確保される、(4)若い人口と活発な経済を有する発展途上国に位置しているため、労働力へのアクセスに有利、(5)自由で安定した投資環境により、外国投資は迅速に実行され、長期にわたる事業運営が可能になるといったことが挙げられる。 当社の強みとしては、(1)フリーゾーンがトルコ最大の工業、商業、観光都市で、トルコの貿易の中心であるイスタンブールに位置している、(2)フリーゾーンが道路、海路、鉄道路線に近接しているため、物流業務が容易になり、輸送コストを削減できる、(3)フリーゾーンの近隣に工業団地があるため、原材料や半製品へのアクセスが容易、また、特定の生産工程をフリーゾーン外の企業で完結することも可能、(4)安い電力料金を提供することで生産コストを削減し、収益性を向上させることができることが挙げられる。
質問:
フリーゾーンで事業を展開している企業の国や業種は。
答え:
2025年現在、当フリーゾーンでは約280社が事業を展開しており、そのうち120社が製造業者だ。また、このうち65社は外国企業または外国資本との合弁企業で、入居企業は米国、ドイツ、中国、日本を含む約40カ国から成る。米国やドイツの企業が多く、最近の傾向としては、中国企業からの関心が高まっており、トルコや当フリーゾーンへの進出が増加している。業種を見ると、電気電子、機械、自動車関連産業、化学分野が多い。その中で多く生産・取引をしている製品は、太陽光パネル、CNC(コンピュータ数値制御)機械、冷蔵庫部品、航空機部品、ポリマー、家庭用繊維製品、化粧品、加圧容器、自動車部品、産業用ロボット部品、断熱材、空調装置、電子セキュリティーシステム、自動車用バッテリーなどだ。当フリーゾーンの輸入額の1位の国は米国、次いでドイツやポーランド、ブルガリアなどのEU加盟国、ロシアなどが続く。2025年1月から8月までの業種別の貿易量では、機械類が25.86%を占めて最も多く、同期間の輸出量では電気電子が23.41%で最も多かった(図1、2参照)。
図1:DESBAŞにおける業種別の貿易量の割合(2025年1月~2025年8月)
機械類が最多で25.86%で、次いで電気電子が25.34%であった。

出所:DESBAŞ提供資料からジェトロ作成

図2:DESBAŞにおける業種別の輸出割合(2025年1月~2025年8月)
電気電子が最も多く、23.41%。自動車関連が19.03%で続いた。

出所:DESBAŞ提供資料からジェトロ作成

質問:
DESBAŞの今後の展望は。
答え:
ハイテク企業の誘致を進めることで、付加価値の高い貿易を目指している。また、サービスの質向上にも注力しており、現在はインフラの更新、設備の刷新、グリーンエネルギーの導入・拡大などの取り組みを進めている。さらに、環境負荷の少ない事業活動を支援し、ゼロエミッションでのグローバル市場参入を目指す企業をサポートしている。
質問:
地政学リスクの影響は。
答え:
トルコの中立的な立場により、当社やテナントは近隣諸国で発生した紛争による大きな影響は受けてはいない。むしろ、ロシア・ウクライナ危機の経済的影響により、当地域への新たな投資が行われた。ウクライナ企業がウクライナ現地の工場の安全性に懸念を抱き、トルコのフリーゾーンに製造拠点を移転する動きも見られた。また、ロシア企業も、制裁の影響で西側諸国への輸出が困難となり、代替拠点としてトルコへの投資を検討する動きも聞いている。一方、ロシアに対する決済に関する制裁により、同国との貿易で銀行送金はやや困難になった。イスラエル・パレスチナ紛争による大きな悪影響はなかった。
質問:
米国関税の影響は。
答え:
トルコは、米国の新たな関税政策の影響が少ない国の1つだ。そのため、当社の利用者は直接影響を受けていない。今後、当地域から米国への輸出、トルコから米国への輸出が増加すると予想している。米国がトルコに課している比較的低い関税は、トルコを魅力的な投資先としている。そのため、今後、より多くの中国メーカーがトルコやこの地域を生産拠点として選ぶと確信している。米国関税対策に加え、EU関税同盟やFTAといったトルコの優位性も、中国企業の進出を後押しすると考える。
質問:
日本企業との関係は。また、日本企業のDESBAŞへの進出のメリットは。
答え:
2024年に当フリーゾーンの企業は日本から2,160万ドル相当の製品を輸入した。日本は輸入元として第8位だった。また、2025年の最初の8カ月では、日本から1,070万ドルの輸入があり、日本は第11位の輸入元になっている。以前は日立製作所も進出しており、現在は自動車部品メーカーのフェデラル・モーグル(Federal-Mogul、アイルランドと日本が提携)がピストンを製造し、繊維機械を扱うバルダン(Barudan)、三菱電機がそれぞれ貿易拠点を置いている。
日本企業には2つの大きなメリットを提供できる。1つ目は、トルコ国内で低コストでの生産により(表参照)、欧米市場、そしてFTA対象市場へのアクセスが可能になることだ。2つ目は、短い時間で3つの大陸の多くの国にアクセスできることだ。
トルコ国民は日本に対して親しみを持っており、日本のビジネス文化や倫理観に高い評価をしている。「勤勉で誠実、信頼できる」というイメージがあり、日本企業の進出を強く希望しており、トルコと日本の友好関係は両国間の相互の投資を成功に導いてきた。日本のトルコへの投資も、これまで大きな成功を収めてきた。DESBAŞとしても、新たな成功事例ができたら大変うれしい。
表:DESBAŞのフリーゾーンの入居企業活動内容別の税メリット
項目 生産 組立・分解・メンテナンス部門 貿易・その他
法人税 0%(注1) 0%(注2) フリーゾーン外と同じ
従業員所得税 0%(注3) フリーゾーン外と同じ フリーゾーン外と同じ
付加価値税(VAT) 0% 0% 0%
関税 0% 0% 0%
特別消費税 0% 0% 0%
印紙税 0% 0% 0%
KKDF(注4) 0% 0% 0%
家賃の源泉徴収税 0% 0% 0%

注1:トルコへの販売には法人税が課される。
注2:全て輸出することが必要(条件)。
注3:最低85%を輸出することが必要(条件)。
注4:「Kaynak Kullanımını Destekleme Fonu」、英語では「Resource Utilization Support Fund」。トルコで特定の金融取引や輸入取引に課される特別な税金。
出所:DESBAŞ提供資料を基にジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと)
2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。