中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探るサウジアラビアの物流基盤整備
港湾・鉄道・空港で競争力強化(2)
2026年1月9日
紅海ルートの混乱に伴う東部港湾へのシフトや、港湾ネットワーク強化が進むなか、サウジアラビアの物流体制は大きな転換期を迎えている。前編では、港湾分散化の動きや新航路の拡充など、海上輸送を中心とした変化を取り上げた。後編となる本稿では、港湾と並び物流基盤を支える鉄道網の課題、新空港建設の進展、さらに全国で拡大が続く物流センター開発を概説し、同国の物流インフラ全体の現状と展望を整理する。
課題に直面するサウジアラビアの鉄道網
サウジアラビアでは鉄道公社〔Saudi Arabia Railways(SAR)〕がコンテナ輸送を含む包括的な鉄道輸送サービスを提供している。貨物線としては以下の3路線が運行されている。2025年12月時点で、西部線(リヤド~ジッダ間)は敷設されていないため、東西を直結する貨物線は存在しない。
- 南北資源鉄道:リヤドからヨルダンとの国境近くのハディーサまでをつなぐ全長1,418キロメートルの基幹路線。北部リン鉱山地帯のジャラミドから中部ボーキサイト地帯のザビラを通り、東部の港湾工業地帯ラス・アズールまでをつなぐ。
- ダンマーム・リヤド貨物旅客線(東部線):キング・アブドゥルアジーズ港(ダンマーム)と首都リヤドをつなぐ東西ルート。
- アル・アハサ貨物専用線:キング・アブドゥルアジーズ港(ダンマーム)とリヤド・ドライポートを接続。
このうち東部線は同国でもっとも重要な商業ルートの1つで、キング・アブドゥルアジーズ港(ダンマーム)とリヤドを結び、鉱物輸送において重要な役割を果たしている。サウジアラビア運輸・物流サービス省(MOTLS)によると「輸送貨物の90%は道路を経由し、鉄道の利用は低水準にとどまっている。鉄道輸送の利用を増やすことが課題である」という(取材日:2025年11月17日)。
鉄道貨物輸送の利用が少ない理由として、南北資源鉄道(鉱物などのバルク輸送)とダンマーム・リヤド貨物旅客線(コンテナ輸送中心だが鉱物も搬出)の2つのルートに限られており、貨物駅も各12駅のみという制約が挙げられる。一方、国内の道路網は総延長7万3,000キロメートルを超える広大なネットワークとして整備され、全国をカバーしている。この格差が鉄道利用率の伸び悩みの要因とみられる。また、鉄道はバルクの長距離輸送に適しているものの、出発地や目的地の倉庫が鉄道駅から離れている場合、トラックとの併用が不可欠である。さらに、トラックはドア・ツー・ドア配送が可能で、少量・短距離・時間指定輸送に強みがあるが、鉄道輸送はラストマイルにおける柔軟性に乏しい点が弱みとなる。
2004年にサウジアラビア政府は紅海沿岸地域と湾岸地域を最短距離で結ぶ内陸輸送経路を構築するため、「サウジ・ランドブリッジ計画」を発表した。本プロジェクトは、キング・アブドゥルアジーズ港とジッダ・イスラム港間の貨物輸送強化を目的に、以下の路線で構成される。
- ジッダ~リヤド間:約950キロメートル(新規建設)
- リヤド~ダンマーム間:約450キロメートル(既存路線改良)
- ダンマーム~ジュベイル間:約115キロメートル(新規建設)
これらを含め、1,500キロメートル以上におよぶ新線・改修線の整備が計画されている。このプロジェクトにより、紅海側(ジッダ)とアラビア湾側(ダンマーム・ジュベイル)が鉄道で直結され、海上輸送と比較して輸送時間およびコストの大幅な削減が期待されている。将来的には湾岸協力会議(GCC)諸国との鉄道ネットワーク接続により、域内輸送の利便性向上も見込まれる。MOTLSは、「鉄道プロジェクトは大規模かつ集約的となることが予想される。現在、資金調達を含めてプロジェクトは最終段階にある。航空貨物輸送はコストや航空機サイズの制約などがあるため、国内線はあまり利用されていない。西部線は商業ルートとして重要で、NEOMルート(注1)との接続も将来的に計画している」(取材日:2025年11月17日)と述べている。
既存空港の拡張、新空港の建設が加速
サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)の「2024年航空輸送統計報告書」によると、2024年の航空貨物の総取扱量は約120万トンに達し、前年比34.0%増を記録した。内訳は輸出貨物6万4,000トン、輸入貨物72万トン、トランジット貨物40万7,000トンであった。GASTATの「International Trade 2024」空港別輸入額を見ると、キング・ハーリド国際空港(リヤド)が1,189億4,500万リヤルで前年比25.8%増、次いでキング・アブドゥルアジーズ国際空港(ジッダ)が22.7%増の630億5,200万リヤル、キング・ファハド国際空港(ダンマーム)が1.6%増の491億3,100万リヤルとなっている。
| 空港名 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
2024年の前年比 増加率(%) |
|---|---|---|---|---|
| キング・ハーリド国際空港(リヤド) | 84,622 | 94,521 | 118,945 | 25.8 |
| キング・アブドゥルアジーズ国際空港(ジッダ) | 43,148 | 51,381 | 63,052 | 22.7 |
| キング・ファハド国際空港(ダンマーム) | 41,130 | 48,341 | 49,131 | 1.6 |
| タイフ空港 | 884 | 1,593 | 2,377 | 49.2 |
| プリンス・モハンマド空港(マディーナ) | 18 | 42 | 50 | 18.5 |
| アブハ空港 | 2 | 25 | 19 | △ 25.8 |
| プリンス・スルタン空港(タブーク) | 11 | 8 | 13 | 70.1 |
| プリンス・アブドルモフシン空港(ヤンブー) | 1 | 1 | 5 | 555.7 |
| プリンス・ナイフ空港(カッシム) | 16 | 11 | 4 | △ 62.9 |
| アル・アハサ空港 | 3 | 3 | 0.4 | △ 84.8 |
| ハイル空港 | 0.4 | 0.1 | 0.1 | 44.8 |
| キング・アブドゥッラー空港(ジーザーン) | — | — | 0.03 | — |
| アル・ジューフ空港 | 0.02 | 0.004 | 0.01 | 237.7 |
| 合計 | 712,038 | 776,024 | 873,024 | 12.5 |
注:増加率については10万リヤル以下を四捨五入したため乖離が生じる。
出所:サウジアラビア統計庁「International Trade 2024」を基にジェトロ作成
サウジアラビアは地理的優位性を活かし、アジア・欧州・アフリカをつなぐトランジット貨物の結節点を目指している。その一環として、新空港の建設や既存空港の貨物ターミナル拡張を推進している(表2参照)。
| プロジェクト名 | 内容 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| キング・サルマン国際空港(KSIA) | 新空港建設 | 現在のキング・ハーリド空港に隣接、超大型ハブ、6滑走路 |
| キング・ハーリド国際空港 | 現空港の改修・拡張 | ターミナル改修、ターミナル1拡張 |
| キング・ファハド国際空港 | 東部拠点整備 | LCC誘致、大幅拡張・物流強化 |
| キング・アブドゥルアジーズ国際空港 | 拡張 | 国際ハブ空港としての機能強化 |
| レッドシー国際空港 | 観光ゲートウェイ化 | リゾート接続、二酸化炭素(CO2)排出ゼロ目標 |
| NEOM国際空港 | NEOM未来都市との連携 | フェーズ別拡張 |
| 地方空港群 | 地域連携・物流強化 | マスタープラン刷新、多空港整備 |
出所:各種報道を基にジェトロ作成
物流ゾーンとセンターも全国に展開中
サウジアラビア政府は国家産業発展・物流プログラム(NIDLP)に基づく物流センター・マスタープランに沿って、2030年までに3地域に59の物流ゾーンを整備する計画を進めている。2025年12月時点で22カ所が稼働中であり、2030年までに全国への展開を予定している。物流ゾーン(図2参照)では、輸出入に関する手続きを一元化するオンラインプラットフォーム(Fasah)の利用や物流プロセスの効率化が見込まれている。東部地域は港湾・工業地帯に近接し、同国最大の物流拠点となる。西部地域は紅海沿岸の港湾と連携し、中部地域はリヤドを中心に内陸輸送の要所となる(図1参照)。
出所:MOTLS提供資料を転載
サウジアラビアでは7カ所の特別経済区(SEZ)が認可されている(2024年1月15日付地域・分析レポート参照)。SEZでは、入居企業に対して税制優遇、100%外資所有の許容、簡易通関優遇措置などの特典を提供している。このうち「物流専用のSEZ」として認可されているのは、リヤド・インテグレーテッド・スペシャル・ロジスティクス・ゾーン(SILZ)のみである。ドイツの物流大手DHLはSILZに物流拠点を設置している。SEZとは異なるが、デンマークのMaersk(注2)はサウジアラビア港湾局(Mawani)と協力してジッダ・イスラム港に統合型物流パークを開設した。
サウジアラビアでは、「物流センター(Logistics Center)」と「物流ゾーン(Logistics Zone)」を明確に区別しており、いずれもビジョン2030の国家物流戦略(NTLS)に基づき整備が進められている。物流センターは、倉庫・仕分け・保管・配送等の機能を持つ単体のオペレーション拠点を指し、企業やオペレーター単位で運営され、特定のサプライチェーンに対応する。一方、物流ゾーンは複数の物流センターや倉庫群、道路・鉄道・港湾接続などの関連インフラを包含する広域の産業集積エリアで、ゾーンごとに規制・税制の枠組みが設けられている。なお、現在(2025年12月時点)稼働中の物流センターはジッダ地域物流センターとダンマーム地域物流センターの2カ所である。
今後、SILZおよび各物流ゾーンの活用が進むことで、国際貨物のハブ機能強化、再輸出の促進、サプライチェーンのレジリエンス向上が見込まれる(図2参照)。
注:地図上の都市やルートはおおよその位置を指す。
出所:MOTLS提供資料を基にジェトロ作成
2030年までに物流部門のGDP比率10%を目指す
サウジアラビアは2030年までに物流部門のGDP比率を10%に引き上げ、非石油収益を450億リヤル増加させるとともに、世界の物流パフォーマンス指数でのトップ10入りを目指している。
サウジアラビアには物流拠点となるコンテナ港が多数あり、年を追って貨物取扱量が増加し、効率性も改善されている。一方、輸入手続き関連制度面の不透明性の改善や、デジタルを含む専門技術を持った物流人材の育成が喫緊の課題となっている。MOTLSは「物流領域で、最新技術を有する日本企業を誘致し、連携を考えていきたい」(取材日:2025年11月17日)と述べている。先端ソリューションの提供、コールドチェーン設備、ラストマイル配送の高度化など、日本企業への期待は大きく、同国物流分野でのさらなるビジネス拡大も見込まれる。
- 注1:
- NEOMの産業ゾーンである「オクタゴン」と都市構想「ザ・ライン」を結ぶ約57kmの鉄道で、高速旅客線と貨物線を兼ね備えたコネクタラインを指す。将来的には、西部線やランドブリッジ計画と接続し、紅海側と湾岸側を結ぶ広域鉄道ネットワークの一部となる。
- 注2:
- Maerskの拠点は港湾主導の物流施設であり、SEZとは区別される。
港湾・鉄道・空港で競争力強化
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ) - 2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。




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