中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る住友倉庫に聞くトルコビジネス
トルコの物流・インフラ(2)
2025年10月23日
トルコで活動する物流・インフラ関係の日系企業や、トルコの物流・インフラ企業へのインタビューを通して、トルコの物流・インフラの現状を概説する本連載の第2弾となる本稿では、トルコの大手物流会社と提携してトルコ全土で物流サービスを展開する住友倉庫の国際プロジェクト室国際営業開発課長代理(イスタンブール駐在)の垣平浩明氏と、関翼氏に、トルコでの事業についてインタビューを行った(取材日:2025年9月23日)。

- 質問:
- トルコ進出の背景は。
- 答え:
- 当社は約20年前からトルコの物流会社アルカスロジスティクスと代理店契約を結んでおり、トルコ全土で物流サービス展開のため提携を行っていた。そうした中、2014年ごろに顧客のトルコでの工場設立が複数あったことで、日本人の駐在員を置くことを決めた。アルカスロジスティクスはトルコの主要都市を網羅しており、アジアや欧米を得意とする当社と、トルコやCISを中心に強固なネットワークを持つアルカスロジスティクスとは、互いの強みを生かし合う関係性だ。
- 質問:
- トルコでの事業内容や主要なサービス、強みは。
- 答え:
- 主に3つの事業が柱になっている。1つ目は、トルコ発着の海上輸送、航空輸送、陸上輸送のロジスティクス。2つ目は、コーカサスやCIS、バルカン半島などの周辺国での海上輸送、航空輸送、陸上輸送のロジスティクス。3つ目は非居住者在庫の取り扱いだ。非居住者在庫とは、日系企業の日本本社や、欧州やアジアの現地法人など、トルコに法人を持たない企業の名義でトルコ国内の保税倉庫で保税在庫を持つスキームだ。非居住者はトルコで在庫を持つことで、サプライチェーンの安定化や、発注から納入までのリードタイムの短縮化を図ることができるというビジネス上のメリットがある。このスキームで、トルコでの現地法人設立を行うことなく、トルコの地理的優位性を活用し、保税在庫をもってトルコや周辺国向けの在庫ビジネスを可能にする。トルコ国内では複数の倉庫会社と提携しており、イスタンブール、コジャエリ、ブルサ、メルスィン、イズミルなどでお客さまのニーズに合わせた倉庫を提案している。
- 質問:
- 事業を行う上でのトルコの良さは。
- 答え:
- トルコは人口が多く、ポテンシャルがあると感じている。また、欧州や中東、アフリカ、ロシア・CISに近いという地理的な優位性や、非居住者在庫の取り扱いが可能な点もトルコの強みだ。トルコから周辺国へのアクセスという面では、例えば、トルコから中央アジアへの輸送の引き合いが最近増えている。トラックや鉄道、カスピ海フェリーを利用する輸送ルートでは、トルコからジョージア、アゼルバイジャン、カスピ海を通ってカザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンなどの国々まで運ぶ(注)。このルートであれば、欧米から制裁を受けているロシアやイランを通過せずに、中央アジア諸国へ運ぶことができる。一方で、このルートでは国境通過に要する時間が読めず、カスピ海フェリーが定時運航を行っていない。また、冬季の路面凍結など道路の整備状況による遅延のリスクもある。鉄道輸送も、日本のような時刻表はないため、定時性を確保するためには1編成分(数十貨車)をチャーターする必要がある。
- 質問:
- トルコで事業を行う上での課題は。
- 答え:
- 人件費や燃料代などの物価の高騰だ。例えば、軽油やガソリンの国内価格が数カ月後どのように変動するかを予測することは難しい。また、こうしたトルコの物価上昇を全て顧客に転嫁することができていないのが現状だ。
- 質問:
- トルコでパートナーを選ぶ際に重視すべきポイントは。
- 答え:
- トルコにはいわゆる「余裕のある」会社が少ない。安全性やコンプライアンスへの意識も、トルコでパートナーを選ぶ重要なポイントだ。日本企業は価格面でトルコ企業と勝負するのは難しいため、品質やコンプライアンス、信頼性で差別化し、勝負する必要がある。例えば、自社は顧客の要望に従い、客先への納入前に空コンテナ内部の臭いや汚れを作業員がマニュアルチェックするコンテナの事前選別サービスを行なっている。これは、現場作業員を教育し、実現したもので、他社と差別化したサービスだ。
- 質問:
- 紅海情勢悪化のような地政学的リスクの影響は。
- 答え:
- スエズ運河を航行できないことはトルコには逆風だ。スエズ運河を通過できると日本からトルコへの所要日数は約35日だが、現在の喜望峰回りやジブラルタル海峡経由ルートだと60日~70日程度かかる。これは日本からドイツやベルギーまでの航海日数より長い。地政学的な問題で、トルコが本来持つポテンシャルを活用できていないように思う。
- 質問:
- 米国の関税の影響は。
- 答え:
- 現状影響はまだない。
- 注:
- 住友倉庫が2025年9月23日のインタビュー時点で予測しているトルコから各地への所要日数(カスピ海フェリー+陸上)は以下のとおり。
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- トビリシ(ジョージア):4~5日
- バクー(アゼルバイジャン):7~8日
- アシガバード(トルクメニスタン):14~19日
- タシケント(ウズベキスタン):19~22日
- アルマトイ(カザフスタン):19日~22日
- ドゥシャンベ(タジキスタン):21~24日
- ビシュケク(キルギス):21~24日
トルコの物流・インフラ

- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ) - 日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと) - 2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。