中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る在トルコ日系企業に聞く
トルコの物流・インフラ(1)
2025年10月23日
中東地域には、スエズ運河やホルムズ海峡など、世界の物流の要衝が集まる。その中でも、トルコはその地理的な優位性から、欧州や中東、アフリカ、中央アジアを結ぶ地政学的な要衝ともいえる。また、近年では、港湾や空港などのインフラ整備も進む。そこで、本連載では、トルコで活動する物流・インフラ関係の日系企業や、トルコの物流・インフラ企業へのインタビューを通して、トルコの物流・インフラの現状を概説する。連載第1弾となる本稿では、トルコで活動する物流関係の日系企業A社へのインタビューで、トルコでの事業のメリットや課題、米国の関税の影響を聞いた(取材日:2025年9月22日)。
- 質問:
- トルコで事業を行うメリットは。
- 答え:
- 生産、販売拠点としての強みがある。トルコ基幹産業の自動車産業では、2024年の生産台数は約140万台で、トルコを欧州でみると、ドイツとスペインに次いで多く、アジアでみると、インドネシアよりも多い(2025年7月10日付地域・分析レポート参照)。自動車部品も含めたサプライヤーなど、生産クラスターができ上がっている。その他の産業を含めて生産の裾野が広い。また、8,500万人を超える人口と全方位外交も注目すべき点だ。全方位外交で、政府主導で関係を深める周辺国に、トルコ企業が進出していることはトルコの強みだ。例えば、トルコ企業はシリアの復興需要を捉え、特に建設関連で既にシリアとつながりを深めていると聞く。さらに、2018年に新たに開港したイスタンブール空港がハブ空港として急速に成長し、2024年にドイツのフランクフルト空港を抜き、航空貨物の取扱量で急速な伸びを示していることも興味深い。
- 質問:
- トルコで事業を行う上での課題は。
- 答え:
- 変動の激しい経済環境だ。近年はさらに拍車がかかっている。インフレが急速に進む一方、外貨(特にドル)に対して通貨トルコ・リラの価値が上がらないため、トルコ・リラに換金すると為替差損が出てしまう。倉庫事業に関しては、現在のイスタンブールの貸倉庫市場が逼迫していることも課題だ。現在はほぼ飽和状態にある。トルコ国内で倉庫への投資も進んでおらず、高インフレ、対外貨のリラレート停滞、高金利の問題があり、日系企業が取り扱える高品質な倉庫が極めて少ない。このような状況は新型コロナウイルス後、特にロシアのウクライナ侵攻後に広範化した印象だ。ロシアへの制裁の影響で、直接ロシアに商品を輸送できず、トルコで一度トランジット(トルコ発の扱いに)し、保管するため、さらに、手続きや購買力の問題のため、一時保管しているロシア向けの荷物の出荷が想定より進まず、荷物が保税倉庫で滞留することもある。欧州市場の停滞で一般倉庫の需要が高まった点も、供給難に拍車をかけた感がある。
- 陸上輸送については、トラック運転手の教育レベル、安全への意識をいかに高めるかが課題だ。また、燃料価格が頻繁に変更されることも難しい点で、変更が即日反映され、過去には変更が毎日のように行われたこともあった。
- 海上輸送については、スエズ運河を使わず、南アフリカ共和国の喜望峰を経由するルートになったため、途中の積み替えなどもあり、リードタイムが安定しない。加えて、2025年に海運アライアンスが再編されたことにより、寄港変更や航路スケジュールが一定にならない状況になっており、安定化が課題といえる。
- 質問:
- 国際貨物、コンテナ輸送費について、同じ航路でも前年より大きく下がる、あるいは上がるなど、変動が激しいが、何が関係しているか。
- 答え:
- コンテナ輸送費は貨物需要と船腹の供給量によって決まる。アジアから北米、欧州向けの主要航路はその影響を直接受けるため、価格が乱高下する一方、復路は満船にならないため、価格が低位安定する傾向にある。
- 質問:
- 「一帯一路」についてどうみているか。
- 答え:
- 中国からカザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージアを通り、トルコに到着し、さらに欧州に輸送するルートで、関係国の鉄道整備が進んでいない。トルコに特化していえば、イスタンブールのボスポラス海峡の輸送量が限定的だ。また、カスピ海輸送について、風の影響でフェリーが運休するなど、輸送状況が安定しない。現在、関係国と良好な関係を築いているトルコが中心となり、回廊の輸送整備をしようと関係国に働きかけている。
- ほかにも、中国の西安や重慶発で、カザフスタン、ロシア、ポーランドを通り、ハンガリーのブダペストに到着する北回廊の鉄道輸送ルートがあるが、ウクライナ情勢の影響をもろに受けている状況だ。
- 一方、日本発で中央アジア向けの輸送の場合、トルコまで海上輸送し、コンテナから貨物を陸揚げして積み替えという陸上輸送の引き合いが多い。その際、コンテナ不足を防ぐため、コンテナのまま輸送するのではなく、トルコの港到着後、直ぐにコンテナの返却を必要とするのがこのルートの課題だ。トルコから中央アジアへは、トラックを使うと、約1週間から10日ほどで到着する。鉄道もあるが、運行状況が不安定なことなどから、われわれはトラック輸送を主流としている。
- 質問:
- ロシア・ウクライナ戦争の終了後、トルコの物流はどうなるとみているか。
- 答え:
- ボスポラス海峡と黒海に面した地の利を十分に生かせると考えている。トルコの港でトランシップ(積み替え)するサービスも増えていくのではないか。現在、トルコからウクライナ向けは、ルーマニアのコンスタンツァに海上輸送し、そこから陸上輸送するルートだ。
- 質問:
- 米国の政策や関税について、貴社や貴社が取引を行う企業への影響は。
- 答え:
- 関税が課せられる前の駆け込み需要で、その後需要が落ち込むという現象はそこまで見られなかった。トルコから米国向けの貨物は少ない上に、トルコからの荷物は欧州を含めた域内で完結するため、影響は少ないとみている。また、日本とトルコの間の物流は自動車関係や工場部品が多く、そうした産業では即座に生産拠点、サプライチェーンを変えることはできないので、日本からの荷物の影響は少ないとみている。
トルコの物流・インフラ

- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ) - 日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと) - 2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。