中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る世界有数のターキッシュカーゴに聞く
トルコの物流・インフラ(4)
2025年11月12日
トルコはその地理的な優位性から、欧州・中東・アフリカ・中央アジア・コーカサスを結ぶ、地政学的な要衝といえる。トルコの物流・インフラの現状を概説する連載の第4弾となる本稿では、2024年に航空貨物の市場シェアで世界第3位となり、2025年には、ワールド・エア・カーゴ・アワードで「Cargo Airlines of the Year - Global」を受賞したターキッシュカーゴ
に、当社の事業や航空貨物業界の今後について聞いた(取材日:2025年9月24日)。同社は日本発の貨物輸送量においてトップ10の航空会社で、日本における市場シェアは過去5年間で約5倍の3.6%へと増加しており、今後さらに日本との関係強化が見込まれる。

- 質問:
- 事業概要は。
- 答え:
- 当社の初めての国際貨物輸送は、1947年にターキッシュエアラインズの初の国際便とともに行われた。2000年には、世界的な航空貨物事業をさらに強化・拡大するため、ターキッシュカーゴのブランドが正式に設立された。一般貨物と特殊貨物の輸送に重点を置いている。これには医薬品、生鮮食品、動物、貴重品、Eコマースなどの輸送が含まれており、全て国際的な安全基準、セキュリティー、効率性の下で取り扱っている。
- 2010年は航空貨物量の市場シェアは1%未満で、世界で33番目だった。その後、年間平均20〜25%の成長を遂げ、国際航空運送協会(IATA)のFTK(貨物トンキロ)データによると、2024年には市場シェアで世界第3位となった。中長期的な目標としては、現在の市場シェア6%未満から、将来的には7%以上を目指し、貨物量で世界一になることを目標としている。また、規模だけでなく、サービスの質や製品の面でも世界一を目指していきたい。
- 現在、ターキッシュエアラインズとしては約510機の航空機を保有しており、そのうち貨物専用機は29機だ。今後8年間で貨物機を16機追加して計44機に増やす計画で、世界最大の貨物機保有数を目指している。ネットワークについては、旅客機の就航地は131カ国355地点以上にのぼるが、貨物については就航地を2028年までに120地点に、2033年までに150地点に拡大する計画だ。ターキッシュエアラインズは現在、世界の航空貨物ネットワークの70%以上をカバーしており、今後は、欧州やアジアとのパートナーシップを通じて、さらに多くの地点に到達できると考えている。
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ターキッシュカーゴによる貨物輸送の様子(ターキッシュカーゴ提供) - 質問:
- ターキッシュカーゴの強みは。
- 答え:
- 最大の強みはグローバル展開、最新鋭のインフラ、専門的なソリューションだ。130カ国以上に就航するターキッシュエアラインズは、他のどの航空会社よりも多くの国に就航しており、この広範な接続性は、当社の最大の強みの1つだ。インフラへの投資についても、施設や航空機に対して継続的に行っている。特にイスタンブール空港にある、大容量でテクノロジー主導の貨物施設スマーティスト(SMARTIST)は、スピードと効率性を追求して設計されており、シームレスな貨物処理を可能にしている。SMARTISTへの投資も含めて、継続的な投資で、2033年までに390万トンの輸送量と約100億ドルの収益を生み出すことを目指している。専門的なソリューションの点では、ターキッシュカーゴは繊細な貨物向けに設計されたTK Pharma(注1)やTK Fresh(注2)といったソリューションも提供している。
- また、機動力も強みだ。当社は他の航空会社よりも、市場からの要望に対して迅速に対応できる。例えば、新型コロナウイルス禍には、旅客機を貨物輸送に転用する決定を、競合他社は1年かかったところを、当社は 2〜3カ月で行った。
- さらに、当社には高いスキルを持ち、献身的な人材が揃っており、定着率も高い。新型コロナウイルス禍でさえも、給与減額はあったが、解雇はしなかった。その結果、新型コロナウイルス後の回復も早かった。
- 現在の当社の事業を支え、更なる事業拡大や技術・サービス向上を追求する精神は民営化以降、培われた。今後もイノベーションと継続的な改善に尽力し、信頼性の高い顧客重視の物流ソリューションを世界中に届けていきたい。
- 質問:
- 貨物施設SMARTISTの概要は。
- 答え:
- SMARTISTは、イスタンブールに位置するターキッシュカーゴの次世代貨物ハブだ。2033年までに世界有数の航空貨物会社の1つになるという当社のビジョンを支えるために設計された貨物施設だ。完全デジタル化・自動化され、24時間365日稼働している。自動倉庫・搬送システム(ASRS)やロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)といったスマートテクノロジーを備えた現在、年間220万トンを取扱量がある。第2フェーズの拡張後には、年間450万トンの処理能力に達し、欧州最大、そして世界有数の施設となる見込みだ。
- 特に自動化は、SMARTISTの中核を成している。ASRS、RPA、温度管理されたULD(Unit Load Device)保管庫といった高度なシステムで、高速、高精度、かつ追跡可能なハンドリングを実現している。例えば、世界中から集積した膨大な貨物を、分配、再び世界中に輸送するため、QRコードを作成し、広大な敷地内で目的地ごとに仕分けするシステムを導入している。フォークリフト運転手は仕分けする際、QRコードを読み取り、仕分けし、誤配送防止と効率化を図っている(写真参照)。今後も継続的なアップグレードとして、積み荷計画や異常検知のための人工知能(AI)搭載ツールや、無人地上車両の活用拡大などが予定されている。
- また、リアルタイムの貨物追跡や自動受け入れから、空港の駐機場の調整や運用効率を向上させる社内プラットフォーム(CAPRON)まで、あらゆる段階にデジタル化が組み込まれている。医薬品や機密性の高い貨物については、当社はモノのインターネット(IoT)センサーを活用し、輸送中の状況を監視している。
- さらに、SMARTISTは耐震設備を備え、地震への対策も行っている。2023年2月にトルコ南部で発生した大地震(2023年2月8日付ビジネス短信参照)では、当社も物資や輸送をはじめ、震災支援を行った。日本からは国際協力機構(JICA)などが当社を利用して、現地への物資の支援を行った。
- SMARTISTは、将来の貨物トレンドを反映している。2033年までに、当社の貨物収入の半分以上がEコマースなどから得られると予測している。SMARTISTは、これらの高価値で時間的制約のある貨物の特殊なニーズに対応する体制を整え、継続的に進化を続けていく。
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SMARTISTの外観(ターキッシュカーゴ提供) -

自動倉庫・搬送システム(ASRS)
(ターキッシュカーゴ提供) -

SMARTISTの中の様子(ジェトロ撮影)
- 質問:
- 最近の取り組みは。
- 答え:
- デジタル変革については、既に多くの進展がある。1〜2年前には計画段階だったプロジェクトの多くが現在は稼働している。収益管理システムなど、旅客部門では一般的だが、貨物部門ではまだ少ないシステムを、当社は独自に開発し、導入を進めている。
- また、当社では「Cargy」というチャットボットプロジェクトを進めており、新たな取り組みとして、現在ライン(LINE)アプリとの連携を進めている。正式な発表は2025年10月23日に予定されている。日本ではワッツアップ(WhatsApp)の利用が少ないため、この統合により、より多くのユーザーとつながり、LINEを通じてスムーズなデジタル体験を提供できる。AIを統合したことで、「Cargy」はよりスマートで正確な回答が可能になった。例えば、「イズミル(トルコ)から成田まで魚を輸送したい。次の便はいつ?」といった質問にも対応できる。貨物番号を使えば、即時通知で配送状況を確認することも可能だ。チャットボットのサポートは、日本語・英語・トルコ語で24時間365日対応し、いつでもどこでも迅速で信頼性の高いサポートを提供する。
- 質問:
- 現在最も多く航空貨物を取り扱っている区間は。また、顕著な増加が見られた区間はあるか。
- 答え:
- 現在、アジア太平洋地域においては、中国から米国および欧州への路線で最も多くの貨物を取り扱っている。日本発着便については、2025年の最初の7カ月で前年同期比4%の成長を記録した。特にアジア域内、米国、欧州、インドへの輸送で輸送量の増加がみられる。 他の地域では、当社の広大なネットワークで、欧州ではドイツ、オランダ、ルーマニア、中東ではカタール、サウジアラビア、アフリカではケニア、南アフリカ共和国において大きな成長を遂げている。
- 顕著な増加が見られた区間としては、日本発では、ルーマニア、カザフスタン、スイス行きの貨物市場が前年比50%以上、ベルギーおよびハンガリー行きが同約20%以上の増加を記録した。
- ターキッシュカーゴは、特にEコマースや特殊貨物分野を支える新興貿易路線における需要動向の変化を継続的に監視している。当社は、積極的な輸送容量拡大と顧客中心の路線開発で、各地域の貿易フローの変化にタイムリーに対応している。
- 質問:
- アフリカや中央アジア向けの貨物需要はどのように変化しているか。
- 答え:
- 2国間貿易、開発プロジェクト、そして地域間の接続ニーズの拡大を背景に、アフリカおよび中央アジア向けの貨物量は着実に増加傾向にある。これを受けて、ターキッシュカーゴは両地域で市場シェアを拡大してきた。イスタンブールの戦略的な立地と拡大するネットワークを生かし、信頼性の高いサービスと輸送能力で、高まる需要に引き続き対応している。
- 既にアフリカには大規模な投資を行っており、アフリカ大陸は著しい成長を遂げていることを認識している。現在、アフリカ41か国65都市に就航しており、この地域で最も多くの都市に就航する航空会社となっている。
- 質問:
- 日本発着の航空貨物運航の現状は
- 答え:
- ターキッシュカーゴは現在、東京の成田空港と羽田空港、関西国際空港からワイドボディ機を毎日運航している。イスタンブール経由で日本とグローバルネットワークを結ぶ便数は週21便となっている。成田空港は、需要と貨物輸送能力の拡大を踏まえ、将来の貨物運航拠点として有望視している。2026年夏季ダイヤでは、成田発の旅客便を3便増便し、成田発のみで週10便を運航する計画だ。この夏季ダイヤでは、ターキッシュカーゴは日本とイスタンブール間を週24便(日本発イスタンブール行き12便、イスタンブール発日本行き12便)運航し、1週間で約450トン、月間で約1,800トンの貨物輸送能力を提供する。この輸送能力の拡大で、2024年にターキッシュカーゴは日本発の貨物輸送量においてトップ10の航空会社の一つになった。さらに、過去5年間で日本における市場シェアは0.8%から3.6%へと約5倍に増加した。現在、日本からの積載率は94%で、業界平均を大きく上回っているが、まだ成長の余地があり、更なる拡大を目指している。貨物専用機を導入すれば、さらに数字を伸ばすことが可能だろう。
- 日本との関係という面では、事故防止や品質向上のため、日本の製造業の、ヒューマンエラー防止のノウハウを見習っている。日本の工場で、「現場」「改善」という言葉や意味を学んで生かしている。
- 質問:
- 航空貨物業界の課題と今後の動向の予測は。
- 答え:
- 世界規模の政治経済情勢の変動で、航空貨物業界は困難な時期を迎えている。世界中で続く紛争は、この業界に重大な影響を及ぼしている。空域閉鎖、路線延長、欠航などは、この業界が抱える主要な問題だ。また、最近の世界経済の動向を分析すると、貿易政策に関する議論が国際的な議題として再び浮上していることが分かる。さらに、通常の規制や義務から、特定の条件下で企業や貨物を除外する免除枠組みの調整は、世界貿易の動向に著しい変化をもたらしている。
- 航空貨物業界は、輸送能力の拡大、需要の増加、そしてより安定した世界貿易環境を背景に、今後数年間、成長の勢いを維持すると予想している。
- ターキッシュカーゴは、スピード、俊敏性、柔軟性をもって対応を続け、変化する状況において適切な対応をとれるよう努めており、創立100周年までに800機以上の航空機を運航するという2033年のビジョンに向けて動いている。
- 質問:
- 紅海危機による需要の変化は新型コロナウイルス渦と比べてどうか。
- 答え:
- 紅海は紛れもなく重要な物流ルートで、世界の物流セクターと海上輸送にとって極めて重要な役割を担っている。紅海での変化は、迅大な影響をおよぼす。紅海の状況に起因する安全上の懸念と輸送時間の増加は、一時的かつ限定的なモーダルシフトの兆候となった。一方、新型コロナウイルスの時期と比較すると、この影響は非常に限定的だった。新型コロナウイルスは業界全体に非常に深刻な影響を与えた。当社は主に旅客便を通じて追加の輸送能力確保を迫られ、新型コロナウイルスの時期には過去最高の売上高を達成した。この意味で、紅海危機による航空貨物業界への影響は、新型コロナウイルスの時期と比較すると非常に限定的だといえる。
トルコの物流・インフラ
- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ) - 日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと) - 2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。




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