中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る中東・北アフリカの海上貨物と物流・インフラ状況
港湾の貨物取扱量は世界シェア9.2%、前年比5.2%増

2025年10月23日

中東・北アフリカは歴史的にもアジア、欧州、アフリカの物流をつないできた地域だ。現在、物流には陸上輸送や航空輸送もあるが、国際貿易では海上輸送が80%を占めているため、海外展開を目指す企業にとって海上貨物輸送や港湾の発展・改善は重要だ。本稿では、中東・北アフリカの港湾貨物取扱量などから、物流・インフラのビジネスの可能性について模索する。

港湾貨物量は世界シェア9.2%

中東・北アフリカでは、人口増加を背景に貨物量が増え、湾岸協力会議(GCC)諸国では、潤沢な資金でインフラ整備も進む。国連によると、中東・北アフリカ(注1)の人口は2024年時点で5億8,148万人、2054年には8億1,929万人まで増加する見通しだ(2024年7月19日付ビジネス短信参照)。さらに、世界銀行によると(2025年10月公表)、中東・北アフリカ(注2)の実質GDP成長率は2025年に2.8%、2026年に3.3%、2027年には3.9%となり、地域での軍事衝突や石油減産が経済に影響を与える中、経済成長が続く見込みだ。石油増産などの方針もあり、GCC諸国では2025年に3.5%、2026年に4.4%、2027年には4.7%の成長を遂げる予測だ。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2023年の世界全体の港湾貨物取扱量は前年比0.5%増の8億5,818万TEU(1TEUは20フィートのコンテナ1本分の容量)だった。中東・北アフリカ(注3)の貨物量は2010年比64.0%増、前年比5.2%増の7,910万TEUとなった。増加傾向ではあるが、世界シェアは9.2%だ(2010年時点では8.8%)。同地域の貨物量は、東アジア、東南アジア、欧州よりは少ないが、北米や中南米、サブサハラ・アフリカ、南アジア、大洋州よりは多い(図1参照)。

なお、UNCTADによると、世界の海上貿易量は2024年に2.2%増と堅調な成長を遂げたが、2025年には政治的緊張や新たな関税、航路の再編などで、輸送量は0.5%増とほぼ横ばいにとどまる予想だ(2025年10月14日付ビジネス短信参照)。また、コンテナ運賃は2024年に紅海情勢悪化に伴う航路の変更、航海距離の延長などで上昇し、2025年初頭には下落したものの、米国の関税発表やホルムズ海峡を含む地政学的リスクの高まりなどにより、再度上昇したという。

図1:地域別の海上コンテナ貨物量
中東・北アフリカ地域のコンテナ貨物量は、東アジア、東南アジア、欧州よりは少ないが、北米、中南米、サブサハラ・アフリカや南アジア、大洋州よりは多い。

出所:UNCTAD

港湾ごとの貨物量では、ドバイが世界9位

次に各地の港湾の貨物量について概観する。港の位置としては、GCC諸国、イラク、イランはホルムズ海峡を通るペルシャ湾内に港を持つ。オマーンはホルムズ海峡の手前(アラビア海・インド洋側)に港湾を持ち、サウジアラビアは紅海側にも港がある(図2参照)。また、エジプトとイスラエルは地中海のほか、紅海に面する港もある。トルコはボスポラス海峡をまたいでアジアと欧州の結節点に位置し、黒海と地中海に面する港を持つ。なお、図は主要港のみ記載している。

図2:中東・北アフリカの港湾位置

図2:PDF版を見るPDFファイル(365KB)

港の位置としては、GCC諸国、イラク、イランはホルムズ海峡を通るペルシャ湾内に港を持つ。オマーンはホルムズ海峡の手前(アラビア海・インド洋側)に港湾を持つほか、サウジアラビアは紅海側にも港がある。また、エジプトとイスラエルは地中海のほか、紅海に面する港もある。

出所:GlobalDataを基にジェトロ作成

港湾や海運に関する世界最古のジャーナルである英国ロイズ・リストによると、中東・北アフリカで港湾貨物取扱量100位内に入った港は2014年に9港だったが、2024年には15港まで増加した(表1参照)。日本の港と比べると、東京港(2024年45位)より貨物取扱量が多い港が3港、横浜港(70位)よりも多いのは7港だった。

地域最多はアラブ首長国連邦(UAE)ドバイのジュベル・アリ港で、前年比7.4%増の1,554万TEUだった。2014年時点でもドバイ港は9位だった。ジュベル・アリ港はフリーゾーンに隣接し、空港とも近く、多くの日本企業も利用する地域の重要な物流拠点となっている。同港を運営するドバイ・ポーツ・ワールド(DPワールド)は、港湾施設や経済特区、物流施設、海運サービスなどを提供しており、UAE国外での展開も積極的に進めている。オマーンやアルジェリア、エジプトのほか、ジブチ、ソマリアなどアラブ連盟加盟国にも展開している。また、UAEアブダビのハリーファ港も39位だった。港湾運営会社アブダビ・ポーツ(ADポーツ)も、エジプトのほかアフリカ諸国で港湾や経済特区、物流施設を運営する。

ロイズ・リストによると、サウジアラビアでは地域情勢悪化で、紅海沿いのジッダ港が前年比33.4%減となり、振り替えの輸送として、同国のペルシャ湾沿いのダンマン港が42.7%増と大きな伸びを示した。なお、首都リヤドや最大都市ジッダまで陸上で輸送していたという。一方、ペルシャ湾のアラビア海の結節点のホルムズ海峡に位置するイランのバンダルアッバース港は前年比11.8%増で84位となり、6年ぶりに100位以内に入った。

また、欧州やアフリカ、アジアの結節点となる港でも、貨物の取り扱いが多い。モロッコのタンジェメッド港が増加を続けており、前年比18.9%増で世界17位(アフリカ大陸では最多)だった。同国の製造拠点の輸出入や欧州向け積み替え貨物などがあり、また、同港の貨物取り扱いの効率性の高さが評価されているという。エジプトのスエズ運河の地中海側(欧州側)出入り口にあるポート・サイード港は1.8%減で53位となった。同じく欧州に近くてハブとなり、国内に港湾が多いトルコでは、100位以内に5港が入り、規模が大きい港が多いことがうかがえる。トルコ5港を合計すると、タンジェメッド港と同規模の貨物量となる。

2014年と比べると、タンジェメッド港が3.3倍、ダンマン港が88.3%増、エジプトのアレキサンドリア港が31.8%増と大幅な伸びを示した。

表1:2024年の中東・北アフリカの海上貨物取扱港順位(△はマイナス値、ーは値なし)
世界
順位
所在国 2024年
取扱量(TEU)
前年比
増加率
前年
順位
2014年比
増加率
2014年
順位
(参考)1位 上海 中国 51,506,300 4.8% 1位 45.9% 1位
(参考)2位 シンガポール シンガポール 41,124,100 5.4% 2位 21.4% 2位
(参考)3位 寧波・舟山 中国 39,308,000 11.4% 3位 102.3% 5位
9位 ドバイ(Jebel Ali, Dubai) UAE 15,536,000 7.4% 9位 1.9% 9位
17位 タンジェメッド モロッコ 10,241,392 18.9% 19位 232.5% 47位
39位 アブダビ(Abu Dhabi) UAE 5,421,201 10.4% 40位 圏外
53位 ポート・サイード エジプト 3,905,266 △1.8% 47位 △1.4% 35位
55位 ジッダ サウジアラビア 3,722,865 △33.4% 32位 △11.7% 33位
66位 サラーラ オマーン 3,304,700 △12.8% 52位 8.9% 48位
67位 ダンマン サウジアラビア 3,290,538 42.7% 82位 88.3% 85位
72位 アンバーリ(Ambarli) トルコ 3,009,700 5.1% 64位 △13.7 40位
84位 バンダルアッバス イラン 2,388,600 11.8% 圏外 圏外
86位 コジャエリ(Kocaeli、イズミル) トルコ 2,322,100 7.5% 85位 圏外
90位 アレキサンドリア エジプト 2,211,851 35.9% 圏外 31.8% 87位
91位 アリアガ(Aliaga) トルコ 2,119,200 33.6% 圏外 圏外
94位 テキルダー トルコ 2,032,700 19.5% 100位 圏外
98位 メルスィン トルコ 1,889,900 △2.7% 91位 26.1% 95位
99位 アシュドッド イスラエル 1,848,000 15.7% 圏外 圏外
(参考)45位 東京 日本 4,700,678 2.9% 46位 △4.0% 29位
(参考)70位 横浜 日本 3,075,369 1.8% 68位 6.5% 53位

出所:ロイズ・リスト「One Hundred Ports」(2025年8月19日公表)からジェトロ作成

紅海情勢はコンテナ港の効率性にも影響

2020年から2024年にかけて、新型コロナウイルス禍による物流の混乱や、紅海情勢の悪化、気候変動によるパナマ運河の水不足などの影響で、世界の港湾パフォーマンスは低下した(2025年10月9日付ビジネス短信参照)。世界銀行のコンテナ港の効率性に関する報告書「コンテナ・ポート・パフォーマンス・インデックス(CPPI)2020-2024」によると、中東・北アフリカ地域は2020年に地域別CPPIで最も効率性が高かったが、2023年、2024年には紅海危機など影響をより強く受け、南アジア地域や東アジア・大洋州地域よりも効率性が低くなった。地域別ではサブサハラ・アフリカが最も効率性が低かった。

なお、CPPIは船の位置情報などのデータを使い、寄港船の沖待ちも含んだ入港から離岸までの総滞在時間などから、コンテナ港の効率性を評価した指標だ。

国別に見ると、エジプトのポート・サイード港がCPPIで世界3位(前年16位)となり、中東・北アフリカで最高だった(表2参照)。同港は5年で効率性が大幅に改善したという。

また、モロッコのタンジェメッド港がCPPI世界順位で5位(前年3位)だった。前年2位のオマーンのサラーラ港は15位だった。トルコのメルスィン港は2023年に地震の影響で順位を大きく落としたが、2024年には改善を見せた。

一方、2024年はペルシャ湾に位置する港で、紅海情勢の悪化などによる混雑の影響が大きかった。中東で貨物取扱量が最多で日本企業の利用も多いUAEドバイのジュベリ・アリ港は、前年の49位から262位に後退した。UAEアブダビのハリーファ港も29位から68位に順位を落とし、サウジアラビアのダンマンも35位から161位に後退した。

同報告書では、各国の経済や港湾の持続可能な発展にとって貿易のコストや信頼性、サプライチェーンにも影響する港湾のパフォーマンス改善が重要と指摘した。なお、改善を見せた港湾は、停泊時間の短縮や、積み下ろし作業の最適化、デジタル化への投資、物流パートナー間の連携強化などで、成果を上げたという。人口増加やそれに伴う貨物の伸びもあり、新規の建設や既存の物流インフラ補修・効率化への投資も期待される。

表2:2024年の中東・北アフリカでのコンテナ効率性上位(ーは値なし)
順位 CPPI 2020 CPPI 2023 CPPI 2024
(参考)1位 上海洋山深水港 中国 142 152 146
(参考)2位 福州港(Fuzhou) 中国 118 95 139
3位 ポートサイード エジプト 96 118 137
(参考)4位 大連港(Dalian) 中国 122 123 137
5位 タンジェメッド港 モロッコ 133 139 136
11位 ハマド港 カタール 110 128 125
15位 サラーラ港 オマーン 141 141 117
(参考)16位 横浜港 日本 170 125 115
36位 ジェッダ港 サウジアラビア 113 68 79
43位 アカバ港 ヨルダン 106 54 66
45位 デリンス港 トルコ 65
48位 ソハール港 オマーン 94 64 61
53位 キング・アブドゥッラー港 サウジアラビア 155 102 58
54位 レバノン、ベイルート港 レバノン 97 58 57

注:CPPIはコンテナポートナパフォーマンスインデックス。数値が高いほどパフォーマンスや効率性が高い。
出所:世界銀行

人口などの経済指標からみる各国の可能性

中東・北アフリカでは、海上貨物量が世界9位のUAEが輸出入額の世界順位も高く、安定的な経済成長や人口増加が見込まれ、引き続き物流拠点としても重要な国といえる(2024年9月26日付地域・分析レポート参照)。また、サウジアラビアでも港湾など物流インフラ整備や都市開発が積極的に行われている。

国別人口では、国連によると、2024年時点でエジプト1億1,654万人、イラン9,157万人、トルコ8,747万人の順で多い。この3カ国が30年後の2054年まで、中東・北アフリカで1位から3位までを維持する見通しだ。他方、2054年までの増加率でみると、イラクは現在4,604万人だが、2054年までに64.0%増で、地域で最も伸びるとの見込みだ。治安が不安定なものの、インフラの整備・開発が進むとみられる。なお、シリアは2025年に米国制裁が解除され(2025年5月23日付ビジネス短信参照)、ビジネス再開の兆しもみられ、復興需要が見込まれるため、治安が落ち着けば、注目に値する。

また、2054年までにオマーンで人口が55.3%増、ヨルダンで46.8%増の見込みだ。湾岸産油国でも出稼ぎ労働者や移民が多く、UAEで45.8%増、サウジアラビアでも46.3%増と伸びる予測だ。

日本企業と中東との結びつきも

日本にとって中東は石油の重要な輸入元、自動車の輸出先で、日本と中東は関係が深い。経済産業省の石油輸入速報によると、2025年8月の中東依存度は前年比1.0ポイント増の95.8%だった。貿易統計によると、2025年上半期の日本からの中東(注4)への輸出では、自動車などの輸送用機器がシェア6割を占め、前年同期比で28.6%増と大きく増加した(2025年8月4日付ビジネス短信参照)。その他、鉄鋼、自動車部品、原動機、ゴム製品、ポンプ・遠心分離機の順で輸出額が多かった。

また、ジェトロの「2024年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)」でも、今後有望視するビジネス分野を答える設問(複数回答可、同設問に184社回答)で、インフラと回答した企業は32.6%だった。さらにそのうち鉄道や空港、道路、港湾など物流関連インフラに関心があると答えた企業もある。有望分野として、サービス業との回答は17.4%、そのうち31.3%が物流・海運と答えた。

関連のビジネスや投資に関して、日本企業も注目していることがうかがえる。なお、スエズ運河の地中海側にあるエジプトの東ポート・サイード港には2025年7月にエジプト初の完成車専用ターミナルが完成した(2025年7月30日付ビジネス短信参照)。

これまで述ベてきたとおり、中東・北アフリカには物流の拠点となるコンテナ港があり、貨物取扱量が増加し、効率性が改善されている港もある。さらに、経済成長率の高い国や、長期的に人口が増加する国の貨物量は増加する可能性が高い。日本企業のさらなるビジネス展開も期待される。

なお、中東情勢は流動的だ。ジェトロの特集「地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向」では、物流・サプライチェーンのリスクや課題、迂回ルートなどについて解説している。


注1:
国連の「人口見通し」に関する報告書では、中東・北アフリカは、アルジェリア、エジプト、リビア、モロッコ、チュニジア、イラン、バーレーン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメンを含む。
注2:
世界銀行の報告書では、中東・北アフリカは、アルジェリア、バーレーン、ジブチ、エジプト、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、UAE、ヨルダン川西岸地区とガザ地区、イエメンの22カ国・地域。イスラエルとトルコは含まない。
注3:
UNCTADの港湾貨物取扱量の統計での西アジアのUAE、トルコ、サウジアラビア、オマーン、イスラエル、カタール、ヨルダン、レバノン、イエメン、バーレーン、ジョージア、シリアと、北アフリカ諸国の合計。
注4:
日本の財務省貿易統計の定義では、中東はイラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノン、UAE、イエメン、ヨルダン川西岸・ガザの14カ国・地域を指す。トルコや北アフリカは中東に含まない。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。