高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫るインド北部の名門タパール工科大、日本就労支援を本格始動
2026年10月29日
ジェトロは2026年8月、「インド地方大学ミッション派遣(大学キャラバン)―チャンディーガル編―」(以下、大学キャラバン)で、日本企業5社と北部パンジャブ州にある私立タパール工科大学
を訪問した(2026年8月18日付ビジネス短信参照)。
同学は、全インドの大学・高等教育機関の中でも、特に工学・技術分野で高い評価を受ける有力大学として知られ、最新のAI研究基盤や実践的な産学連携教育を強みとする。また、2026年1月に「タパール・ジャパンプロジェクト」を発足した。さらに、2026年8月中旬からは日本語コースも開講し、日系企業への就職を目指す優秀な学生の育成に乗り出すという。
本稿では、現地視察や大学関係者へのヒアリングを基に、同学の強みと日本連携に向けた新たな動きを報告する (訪問および取材日:2026年8月7日)。

独立以来の歴史と高い教育水準を誇る工学の名門
タパール工科大学は、インド初代大統領ラジェンドラ・プラサード博士により1956年4月に定礎された歴史ある高等教育機関だ。インド・パキスタン分離独立で影響を受けたパンジャブ州パティヤーラーで、世界クラスのエンジニア育成を目的に設立され、1985年に大学に昇格した。
政府の国家評価認定評議会(NAAC)による評価で最高ランクの「A++」を獲得しており、2025年のインド国内大学ランキング(NIRF)のエンジニアリング部門で29位にランクインしている。また、全土で150万人以上が受験する共通入学試験(JEE)で上位4%に入る極めて優秀な学生が集まるという。
同学教育の特徴は、従来の座学・暗記型から脱却した「体験型学習(Experiential Learning)」にある。例えば、入学直後の最初の2週間でホンダ製エンジンを実際に解体し、その構造を把握するカリキュラムが用意されており、早期から工学の専門用語や実践感覚を養う。また、キャンパス内には大手二輪・自動車メーカーのバジャジがスポンサーを務める「バジャジ・スキルセンター」があり、メカトロニクスやロボティクスなど13の実験室を備えた産業グレードの製造設備を活用し、即戦力となる技術者を育成している。
エヌビディア提携によるAIデータセンターを整備
同学の最大の強みの1つが、半導体大手の米エヌビディアと公式パートナーシップを結び設立された「Thapar School of Advanced AI and Data Science (TSAAI)」の存在だ。
学内には、最大500テラフロップス(注1)に及ぶ処理能力を持つ専用データセンターが設置されている。ここには最新のAI研究向け高性能サーバー「DGX A100」システム19台のほか、800Gbpsの超高速インターコネクト網、NetApp製の400テラバイト・ストレージを備え、医療AI、気候予測、量子シミュレーションなどの先進研究に活用されている。
こうした先端インフラは研究にとどまらず、全学的な教育基盤にも直結している。特に注目されるのが、専攻を問わず全学生が卒業までに最低3科目のAI関連科目を履修する「全学AI教育システム」だ。さらに、研究成果の社会実装にも注力しており、パンジャブ州内約1万3,000の村にある汚水池を浄化する技術「タパール・モデル」は、州政府の予算事業に正式採用されている。

世界的建築と知の集積を誇る「ナーヴァ・ナーランダ中央図書館」
キャンパス中心に位置する「ナーヴァ・ナーランダ中央図書館」は、同学の学術的卓越性を象徴する施設だ。同図書館は、図書館や講義棟、理学系施設などで構成される教育施設群「Thapar University Learning Laboratory」の一部として整備された。同施設群は、2024年に英国王立建築家協会(RIBA)の国際優秀賞(RIBA International Awards for Excellence)を受賞している。
図書館は5階建て、面積7,182平方メートルを誇り、豊富な蔵書に加えて20万冊を超える電子書籍や電子ジャーナル、学位論文などを収録したオンラインのデジタルリポジトリを備え、教育・研究活動を支えている。平日は24時間利用可能で、学生や研究者に充実した学習環境を提供している。
同図書館は、「閉じた箱にしない」という設計思想のもと構想されており、自然光を取り入れた大規模な吹き抜け空間が特徴だ。上層階には工学・研究分野の専門資料を配置する一方、低層階には地域住民や子どもも利用しやすいエリアを設けるなど、大学と地域社会をつなぐ開かれた学びの場となっている。また、館内には音の反響を抑える工夫も施されており、学術研究を支える機能性と、人々の交流を促す開放性を兼ね備えた空間となっている。

「ジャパンセンター」構想と日本語プログラムの展開
タパール工科大学が進める「ジャパンセンター」構想の最大の推進力となっているのが、パドマクマール・ナイア学長の深い知日・親日的なバックグラウンドと強力なリーダーシップだ。ナイア学長は日本に7年間の滞在経験を持ち、東京大学で化学工学の博士学位を取得した経歴がある。加えて通算20回以上の訪日歴を有するなど、日本を「第二の故郷」と語る。日本の「KAIZEN(カイゼン)」精神を重んじ、自身の氏名を漢字登録するほど日本文化や産業精神に深い愛着と理解を持つ。こうしたトップの思いを背景に、同学では日本で不足する理系人材の供給地としての可能性に着目し、全学的な対日アプローチが急速に具体化している。
既に同学は20人以上の卒業生が日系企業や日本国内で就労している実績があり、学生側の海外就労志向も高い。これらを組織的かつ持続的な連携へと引き上げるため、2026年1月に学長直属のチームとして「タパール・ジャパンプロジェクト」を発足させた。学長、専任教員、企業連携・キャリア支援担当者から成る専門チームを組織し、対日連携を一元管理するプラットフォームの構築を進めているという。
プロジェクトの中核として、同学は2027年1月をめどに学内へ「ジャパンセンター」を開設する計画だ。同センターは単なる情報窓口にとどまらず、日系企業と大学を双方向で結ぶ総合ハブとしての機能を担う。 具体的には、
- 日系企業との連携窓口・キャリア支援:
まずはインド進出日系企業からの求人・インターンシップ受け入れから着手し、順次日本国内企業へと対象を拡大する一括窓口を担う。企業の採用要件や技術的ニーズを直接ヒアリングし、大学教育やカリキュラムの改善に柔軟に反映していく体制を採る。 - 日本語プログラム(TJLP)の導入・展開:
日本人専任講師の常駐体制のもと、独自プログラム「タパール日本語プログラム(TJLP)」を中核に展開する。会話・聴解力を養う必須科目に加え、文法・読解を深めるコースや日系企業への就労を見据えた「日本語能力試験(JLPT)対策」までを網羅した体系的なカリキュラムを整備し、語学のみならず日本文化やビジネス理解も担う。 - 学術・学生交流の推進:
テンプル大学ジャパンキャンパスとの2+2デュアルディグリープログラムの活用など、日本の大学との協定締結窓口としての役割を担う。
センターの正式開設に先駆け、2026年8月中旬から全学の学生・教職員を対象にTJLPが先行開講される。 また、語学教育にとどまらず、学生主導のサークル「ジャパニーズ・カルチャー・ソサエティ(日本文化研究会)」の発足準備が進むなど、全学的な対日理解と親日気運を醸成する環境づくりが進んでいる。
「Atsui!」を胸に日本でのチャンスをつかめ
ジェトロ主催の大学キャラバンで開催された日本の就業機会に関するセミナーでは、同学のリベラルアーツ・サイエンス学部の水越和摩講師が登壇した。2026年8月中旬から開始される日本語クラスTJLPの開講を案内するとともに、日本での就労機会に向けて「Atsui(熱い)」メッセージを送った。
説明の中で水越氏は、「学生にまず覚えてほしい日本語の一言」として「Atsui(アツイ)」を提示。インドの気候を表す「暑い(Hot)」と、前途有望な機会を意味する「熱い(Demanding and Promising)」の二重の意味を掛け合わせ、「この言葉を胸に、日本での就労という大きなチャンスを自らつかみ取ってほしい(Grab the chance)」と受講登録を促した。
水越氏によると、開講呼びかけ後、当初30人の定員でスタート予定だった同プログラムに対し、すぐに90人もの受講登録があったという。このような学生側の高い関心に加え、全学体制で進む「ジャパンセンター」などの受け入れ基盤は、今後、日本との連携に向けた確かな土台となりそうだ。こうした環境整備に加え、最先端の工学・AI分野における人材育成に強みを持つタパール工科大学は、日本企業がインドの高度技術人材を獲得・連携していく上で、有望なパートナーとなっていくだろう(注2)。

- 注1:
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テラフロップスは演算速度を示し、1テラフロップスは1兆回/秒に相当する。
- 注2:
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日本企業は、タパール工科大学など日本との連携に前向きなインドの大学と、採用やインターンシップを主目的としたオンライン面談が可能。詳細は「海外大学コネクションデスク」参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ) - 2025年、ジェトロ再入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。








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