高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る日本研究プログラム60年の歩みと展望:フィリピン・アテネオ大学

2026年2月24日

英国のTimes Higher Education(THE)が発表する世界大学ランキングで、4年連続フィリピン国内1位に位置付けられる私立アテネオ・デ・マニラ大学(マニラ首都圏北東部ケソン市、以下、アテネオ大学)において、2025年10月20日から24日まで「Japanese Studies Program Week」が開催された。「架け橋」をテーマとした本イベントでは、折り紙や浴衣の着付けワークショップ、フィリピン・日本合作映画の鑑賞会など、日本文化を体験する機会が提供されたほか、日系企業への就職に関する説明会も行われた。

本イベントは、全学年を対象とする副専攻科目「Japanese Studies Program(以下、JSP)」の一環として行われた。2020年の新型コロナ禍による中止を除き、2003年から毎年開催されており、2025年で21回目を迎えた。JSPは1966年に設立された東南アジア初の日本研究プログラムである。JSPを専攻する学生は日本語や日本文化、日本政治などを扱う科目の中から、15単位(1科目3単位)を履修する必要がある。本プログラムは、グローバルな視野を持ち、自国の文化と他国の文化、特に自文化と関わりの深い他の文化に対して、深い理解と敬意を持つ人材の育成を目指している。

アテネオ大学における取り組みや日本企業との連携の状況、今後の方向性について、JSPの太田貴講師に話を聞いた(取材日:2025年12月12日)(注1)


ロドルフォ・ナルシーソ プログラム長代理による講演の様子(2025年10月、ジェトロ撮影)

伝統ある教育と幅広い学科構成

質問:
大学の成り立ちや特徴は。
答え:
アテネオ大学(Ateneo de Manila University)は、カトリック教会の修道会の1つであるイエズス会がフィリピンで運営する教育機関だ。イエズス会は1590年、フィリピンで最初期の高等教育機関のひとつであるコレヒオ・デ・マニラ(Colegio de Manila)を設立し、1859年に当時のマニラ市から公立小学校マニラ市立学校(Escuela Municipal de Manila)を引き継いだ。1865年には中等および高等教育プログラムを開設し、学校名をマニラ市立アテネオ(Ateneo Municipal de Manila)に変更して、大学としての基礎を築いた。フィリピンの国民的英雄であるホセ・リサールも学んだ旧校舎は1932年に火災で焼失した。その後、マニラ旧市街地のイントラムロスからマニラ市内に移転し、1952年にケソン市ロヨラ・ハイツへメインキャンパスを移して、現在に至る。
アテネオ大学は16世紀に起源をもつフィリピン国内でも最も伝統のある私立大学の1つで、長年の歴史を経て、多様な分野で教育と研究を行う総合大学へと発展してきた。イエズス会の理念にのっとり、知性だけでなく、人間性や倫理、社会への責任を重視する「リベラルアーツ教育」を特徴としており、人間としての品格や社会貢献を重んじている。これまでに政府関係者、企業経営者、学界、文化界など、多方面でリーダーとして活躍する卒業生を輩出してきた。
加えて、国際化にも積極的に取り組んでおり、人文・社会・自然科学・工学・経営など幅広い学問分野を提供している。講義の多くが英語で行われ、グローバルな視野を持つ人材の育成を目指している。

ロヨラ・ハイツキャンパスの様子(アテネオ大学提供)
質問:
現在の学部の構成や学生数は。
答え:
アテネオ大学は、大きく5つの学部と40以上の学科がある。学部生には約1万人(2022年時点)の学生が在籍している。なお、修士課程・博士課程には90以上の研究科が設置されており、約5,000人の大学院生(2022年時点)が在籍している(表参照)。
表:アテネオ大学の学科および修士課程・博士課程
学部 学科 修士課程・博士課程
人文科学部 アートマネジメント、演劇、文学、哲学、神学など 修士課程(哲学、文学、神学など)、博士課程(英文学、哲学、神学など)
社会科学部 社会・人類学、経済学、歴史、政治学、開発学、心理学、国際関係学など 修士課程(社会学、人類学、経済学、日本研究など)、博士課程(社会学、経済学、倫理学など)
理工学部 化学、生物学、物理学、数学、健康科学、環境科学など 修士課程(化学、生物学、物理学、数学など)、博士課程(化学、生物学、物理学、数学など)
経営学部 経営、経営工学、通信技術経営など 修士課程(サステナビリティーマネジメント)、博士課程(リーダーシップスタディー)
教育学部 学習科学デザインのみ 修士課程(初等教育、ガイダンスカウンセリング)、博士課程(教育)

出所:ヒアリングおよび公式ウェブサイトを基にジェトロ作成

東南アジア初の日本研究プログラムと実践的なカリキュラム

質問:
日本語教育の状況は。
答え:
日本語および日本を専門的に扱う学部は設置されていないが、学部専攻に関わらず、全ての学部生に外国語科目が必修として課されており、日本語クラスも開講されている。毎学期、約200人の学生が初級レベルの日本語クラスを受講し、自己紹介や簡単な日常会話を学ぶ。また、国際関係論を専攻する学生は、初級に加えて中級レベルの日本語クラスも必修となる。社会科学部にはJSPがあり、日本研究を専攻とする修士課程も提供している(図参照)。
図:社会科学部における学部生(副専攻)および修士課程のJSP卒業生数
(1991~2025年)
1991年は学部生(副専攻)が12人、修士課程が0人、合計12人。1992年は学部生(副専攻)が24人、修士課程が0人、合計24人。1993年は学部生(副専攻)が11人、修士課程が0人、合計11人。1994年は学部生(副専攻)が12人、修士課程が0人、合計12人。1995年は学部生(副専攻)が9人、修士課程が0人、合計9人。1996年は学部生(副専攻)が9人、修士課程が0人、合計9人。1997年は学部生(副専攻)が24人、修士課程が0人、合計24人。1998年は学部生(副専攻)が18人、修士課程が0人、合計18人。1999年は学部生(副専攻)が40人、修士課程が0人、合計40人。2000年は学部生(副専攻)が45人、修士課程が0人、合計45人。2001年は学部生(副専攻)が26人、修士課程が0人、合計26人。2002年は学部生(副専攻)が9人、修士課程が0人、合計9人。2003年は学部生(副専攻)が13人、修士課程が0人、合計13人。2004年は学部生(副専攻)が13人、修士課程が0人、合計13人。2005年は学部生(副専攻)が14人、修士課程が0人、合計14人。2006年は学部生(副専攻)が33人、修士課程が2人、合計35人。2007年は学部生(副専攻)が30人、修士課程が1人、合計31人。2008年は学部生(副専攻)が32人、修士課程が1人、合計33人。2009年は学部生(副専攻)が35人、修士課程が0人、合計35人。2010年は学部生(副専攻)が50人、修士課程が2人、合計52人。2011年は学部生(副専攻)が40人、修士課程が0人、合計40人。2012年は学部生(副専攻)が49人、修士課程が0人、合計49人。2013年は学部生(副専攻)が57人、修士課程が0人、合計57人。2014年は学部生(副専攻)が50人、修士課程が0人、合計50人。2015年は学部生(副専攻)が26人、修士課程が1人、合計27人。2016年は学部生(副専攻)が35人、修士課程が0人、合計35人。2017年は学部生(副専攻)が56人、修士課程が1人、合計57人。2018年は学部生(副専攻)が47人、修士課程が0人、合計47人。2019年は学部生(副専攻)が51人、修士課程が1人、合計52人。2020年は学部生(副専攻)が31人、修士課程が1人、合計32人。2021年は学部生(副専攻)が23人、修士課程が1人、合計24人。2022年は学部生(副専攻)が23人、修士課程が1人、合計24人。2023年は学部生(副専攻)が24人、修士課程が1人、合計25人。2024年は学部生(副専攻)が20人、修士課程が0人、合計20人。2025年は学部生(副専攻)が8人、修士課程が0人、合計8人。

注:JSPが1966年に設立された後、社会科学部の学部生向けの副専攻課程は1988年、修士課程は1998年にそれぞれ開講。
出所:ヒアリングを基にジェトロ作成

同学部の国際関係学科では、外交・外交政策・国際関係に関する理論的かつ実践的な知識を学ぶと同時に、東アジアおよび東南アジア地域に特化した点が特徴だ。学生は、中国語、韓国語、日本語のいずれかを習得し、理論構築、調査、執筆に加え、シミュレーション環境における外交政策の分析と交渉といった実践的なスキルを身につけることができる。より高い日本語の理解力やスキルが求められるため、初級と中級の日本語クラス受講が必修となっている。
質問:
日本語を学ぶ学生たちの日本企業・日系企業への関心は。
答え:
定量的なデータはないものの、就職先の選択肢の1つとして考えている学生も多い。実際に日本国内の企業や海外の日系企業への就職を強く希望する学生がいることから、理工学部ではJSPとの連携を希望する学科やプログラムが複数あり、今後の連携が期待される。

キャリア形成を支える多面的プログラム、今後は海外インターンシップも

質問:
インターンシップや、企業との関わりなどの産業連携の現状は。
答え:
本学のインターンシップは、フィリピン高等教育委員会(Commission on Higher Education:CHED)の規定に基づき、受入企業と覚書およびインターンシップ研修契約を締結した上で実施されている。現在、認定されている受け入れ企業は、フィリピン証券取引委員会(SEC)およびフィリピン貿易産業省(DTI)に登録され、インターンシップ研修計画を有する現地企業、またはフィリピンで事業を展開する外資系企業に限られている。海外でのインターンシップはまだ実施されていないが、手続きの策定作業が進められている。
キャリアフェアは例年、第1四半期(1~3月)に開催されており、2026年は3月9日から13日までの開催が予定されている。あわせて、さまざまな業界を特集したネットワーキングセッションも企画されている。同フェアには、民間企業、政府機関、非政府組織などが参加し、その多くは地場企業またはフィリピンで事業を展開する外資系企業だ。
質問:
日本企業との連携は。
答え:
フィリピンで事業を展開する日本企業は、本学の就職・キャリアサービスオフィス(Office of Placement and Career Services:OPCS)と連携し、雇用やインターンシップの受け入れ、キャリアフェアやネットワーキングイベントへの参加などを行っている。中には、幅広い分野でコラボレーションを進めている企業もある。
複数の日系企業や人材紹介会社は、日本研究を副専攻とする学生への関心から、JSPと提携している。今回のイベント(2025年10月22日)では、人材紹介や労務に関するコンサルティングを行うパーソル・フィリピン(PERSOL Philippines)(注2)が、在フィリピン日系企業への就職と職場文化について説明した。また、特定の人材ニーズを持つ企業が、関連分野〔電気工学やCMS管理(注3)など〕や日本文化・日本語に関する専門知識を持つ学生を対象に、採用に関する説明会を開催した。

パーソル・フィリピンによる説明会(2025年10月、ジェトロ撮影)
質問:
学生の就職支援の取り組みなどは。
答え:
OPCSが、学生のキャリア開発と就職を支援するプログラムを実施している。学部生が将来のキャリアパス、職業訓練、インターンシップの機会を見出せるよう、毎年開催されるキャリアフェアやネットワーキングイベントに加え、履歴書作成セッション、模擬面接、パーソナルブランディングに関するイベントなども企画している。また、キャンパス内やオンラインで、企業との情報交換会も企画・実施している。
質問:
日本企業・日系企業との今後の連携に関する展望は。
答え:
イエズス会の教育に基づいて設立された本学は、フィリピンを代表する大学の1つであり、長年にわたり社会に貢献する多くの優秀な卒業生を輩出してきた。本学の学生は、卒業後、世界を舞台に活躍し、フィリピンと日本をはじめとする国際社会で幅広く活躍できるグローバル人材へと成長していくと信じている。インターンシップや就職支援に加え、学生が最先端の技術や革新的な実践に触れられるよう、共同研究、セミナー、学会などを通じて、日本企業・日系企業との連携を積極的に進めていきたい。

説明会を聞く学生たち(アテネオ大学提供)

注1:
2026年1月にも追加のヒアリングを実施。 本文に戻る
注2:
フィリピンでは、人材紹介業に関する外資規制があるため、同社はフィリピン最大手の人材会社ジョン・クレメンツ(John Clements)との事業提携により事業を行う。 本文に戻る
注3:
コンテンツ管理システムのこと。ユーザーがカスタムコードに頼ることなく、デジタルコンテンツの作成や管理などができるソフトウエアのこと。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
杉山 咲(すぎやま さき)
2022年、ジェトロ入構。企画部海外事務所運営課を経て、2025年7月から現職。