高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る日本指向の高度技術人材を育むホーチミン市工科大学(ベトナム)
2026年9月30日
ホーチミン市工科大学(HCMUT)はベトナム南部最高峰の理工系大学として知られる。1957年の設立以来、機械工学、電気電子工学、土木工学、化学、コンピュータ科学・工学などの分野で多くの研究者や技術者を輩出してきた。
教育の国際化にも力を入れており、2007年に国際連携教育部(Office for International Study Programs、OISP)を設立した。OISPでは電気電子工学、コンピュータ科学・工学、機械工学の3分野で日本語教育を取り入れたプログラムを設け、日本語能力と工学分野の専門知識を兼ね備えた人材の育成に取り組んでいる(2024年8月28日付ビジネス短信参照)。
また、企業と学生を結ぶ「ホーチミン市工科大学キャリア・フェア」を毎年開催しており、技術系人材の採用を目指す日系企業も参加している(2024年10月31日付ビジネス短信参照)。
同大学の教育方針や日本語教育、学生の日本企業への就職志向などについて、ダン・ダン・トゥン国際連携教育部長に話を聞いた(取材日:2026年8月20日)。

(同大学提供)

- 質問:
- 大学の成り立ちと特徴は。
- 答え:
- 本学は1957年に設立された国家技術センターを前身とし、現在はベトナム国家大学ホーチミン市校を構成する主要大学の1つだ。設立以来、教育・研究の拠点として発展を続け、工学・技術分野を支える多くの人材を育成してきた。教育の国際化にも力を入れており、学生が創造力や批判的思考力を養い、幅広い知見を身に付けながら、グローバルに活躍できる環境の整備を進めている。また、イノベーションや起業家精神の醸成を推進するとともに、先進的な技術の研究開発を通じて、社会課題の解決や地域社会への貢献にも取り組んでいる。
- 質問:
- 現在の学部・学科構成および学生数は。
- 答え:
- 本学には現在11学部があり、学士課程で44、修士課程で30、博士課程で27の専攻を設置している。学部・修士課程・博士課程を合わせた在籍者数は、2万8,000人を超える。これまでに培った歴史、伝統、実績を基盤に、工学を中心とするSTEM(科学・技術・工学・数学)分野と経営分野の人材育成に注力している
- 質問:
- 国際連携教育部(OISP)の設立経緯や特徴は。
- 答え:
- OISPは、本学の国際化に向けた戦略的な取り組みの一環として、2007年9月に設立された。学士課程および大学院課程における国際教育を担う部署として、各種プログラムの企画・運営に取り組んでいる。先進的な教育モデルを調査して新たなプログラムを構築するとともに、大学の国際教育戦略に関する提言も行う。国際水準の知見を備え、多国籍な環境で活躍する人材の育成に加え、留学生や海外研究者の受け入れ促進にも取り組んでいる。
- 質問:
- OISPにおける日本語教育の状況は。
- 答え:
- 語学教育にとどまらず、日本文化への理解と実践的な能力の向上を重視した総合的な教育プログラムを展開している。主な取り組みは、「語学・専門教育」と「文化・実践体験」の二つで構成される。
- 語学・専門教育では、学生は基礎から日本語を学び、日本語能力試験(JLPT)N3レベル相当の日本語能力の習得を目指す。その後も、N2レベル相当の水準を目標に学習を続け、専門分野で必要となる日本語の授業や日本人教員による講義も行う。こうしたプログラムを通じて、日本での仕事の考え方なども学んでいる。
- 文化・実践体験では、文化講座、クラブ活動、短期インターンシップなどを通じて、日本文化への理解を深める機会を提供している。
- 質問:
- 日本企業との連携については。
- 答え:
- 本学は、企業をイノベーション創出の重要なパートナーと位置付け、産官学連携を積極的に推進している。ベトナム南部に進出している日系企業や国際協力機構(JICA)などの公的機関と幅広く協力関係を構築している。連携は主に、(1)共同研究・インターンシップ、(2)人材採用、(3)教育・研究環境の整備と研究開発(R&D)で進めている。
- (1)の共同研究・インターンシップでは、日本企業は、「企業セメスター」(注1)、企業見学、インターンシップなどを通じて、本学の教育活動に参画している。例えば、長岡技術科学大学との国際編入プログラムに参加する学生には、在学中に日本企業でインターンシップに参加する機会が設けられており、日本の企業文化や業務慣行への理解を深めることができる。
- (2)の人材採用では、本学が開催するキャリア・フェアなどを通じて、学生を積極的に採用している。
- (3)の教育・研究環境の整備と研究開発では、企業からの機器・設備の寄贈や学生向けの奨学金の提供に加え、共同研究や技術移転プログラムを通じて、大学の研究と産業界のニーズを結びつけている。
- 質問:
- OISPの学生の日本企業および現地日系企業への就職について。
- 答え:
- 学生は日系企業への関心が高く、多くの学生が日系企業を将来のキャリアの有力な選択肢の1つと位置付けている。その背景には、主に二つの理由があると考えている。
- 第1は、在ベトナム日系企業の職場環境や人材育成に対する評価だ。学生からは、日系企業の規律ある職場環境や組織運営、キャリア形成の機会を評価する声が聞かれる。短期間で転職を重ねるよりも、中長期的に専門性を高めつつ、キャリアを形成したいと考える学生が多い。
- 第2は、日本での就職機会に対する関心だ。例えば、日本指向プログラム(CS)(注2)や国際編入プログラム(TP)(注3)への応募者数は高い水準を維持している。また、1・2年次から日本語能力試験などの資格取得を目指すとともに、日本のビジネスマナーや企業文化について学ぶ学生もみられる。このように、学生は将来のキャリア形成を見据え、専門知識に加え、日本語能力や異文化環境への適応力を身に付けるため、早い段階から準備を進めている。
- 質問:
- 学生に対するキャリア支援や就職支援の取り組みは。
- 答え:
- 本学では、キャリア形成支援、多文化理解の促進、企業との連携を柱とした包括的なキャリア支援体制を構築している。特に、OISPが実施する日本への国際編入プログラムおよび日本指向プログラムの学生に対し、関係機関や企業と連携し、国際的な環境に適応するために必要な心構えや知見を教えている。
- 代表的な取り組みとして、海外産業人材育成協会(AOTS)の支援のもと、日系企業が毎年実施している研修プログラムが挙げられる。同プログラムを通じて、学生は日本式の管理手法、職場での行動様式、ビジネス上の考え方などを実践的に学んでいる。また、日本の文化や価値観への理解を深めるため、浴衣の着付け体験、書道、生け花、伝統舞踊を通じた交流など、多様な文化交流活動も実施している。
- 就職支援では、毎年「ホーチミン市工科大学キャリア・フェア」を開催し、学生と企業を結ぶ機会を提供している。同イベントでは、国内企業約90社がその場で面接を実施するほか、多様な業種の企業が出展するブースを通じて、1,000件を超えるインターンシップの機会も提供している。2025年には、日本で働くエンジニアを直接採用するため、日本からも25社が参加した。
- 質問:
- 学生の就職実績は。
- 答え:
- 長岡技術科学大学と提携する国際編入プログラムでは、卒業時の就職率が98.6%に達している。同プログラムの卒業生の多くは、卒業後に日本企業へ就職し、中長期的に活躍している。高い就職率は、本学の教育およびキャリア支援の成果を示す具体的な実績の1つとなっている。
- 質問:
- 近年、学生の就職やキャリア志向にどのような変化がみられるか。
- 答え:
- 労働市場の変化とデジタル技術の急速な進展を背景に、学生のキャリア形成に関して二つの重要な変化が生じている。
- 1つ目は、学生の関心が学際的な領域や持続可能性に関わる分野へと広がっていることだ。近年の学生は、従来の工学分野に加え、半導体や再生可能エネルギー、デジタルバイオテクノロジーといった将来性の期待される分野にも積極的に挑戦している。こうした学生のニーズを踏まえ、本学では2026年度から、IC設計、半導体工学、高速鉄道、都市鉄道工学、再生可能エネルギー、デジタルバイオテクノロジー、循環型経済などの新しいプログラムを開設している。
- 2つ目は、AI(人工知能)の発展を前向きに捉え、主体的に活用しようとする姿勢が成熟してきたことだ。本学ではAIを脅威と捉えるのではなく、目的に応じて適切に活用できる人材の育成を重視している。AIが「高速のレーシングカー」だとすれば、それを安全かつ適切に制御するのは人間だ。そのため、学生は専門的な知識に加えて、感情知能、共感力、批判的思考力、職業倫理など、AIでは代替できない能力の向上にも努めている。
- 質問:
- 日本企業との連携において、今後さらに強化したい分野や取り組みは。
- 答え:
- 日本企業との協力を、従来の人材供給にとどまらないパートナーシップへ発展させたいと考えている。政府、大学、企業の連携による地域イノベーション・エコシステムの形成を目指している。重点分野は、AI、半導体・集積回路、6G(第6世代移動通信システム)、次世代再生エネルギーなどに関する共同研究と技術移転が挙げられる。また、国際水準の研究拠点の共同設立、単位互換を基盤とするトランスナショナル教育(TNE)を推進していきたい。加えて、電子コンピューティング、自動運転、先進鉄道システムなどの長期的な研究にも取り組む方針だ。
- 本学の学術基盤と日本企業が有する経営の経験および・技術力を組み合わせることで、学生交流をさらに活性化させたい。また、日本企業のインターンシップに参加することで、ホーチミン市工科大学の単位を取得できる共同学位・複数学位プログラムの拡充を図りたい。これらの取り組みを拡大し、両国の学生が日本とベトナムで長期的に活躍できる環境を整えていきたい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所 次長
川崎 美奈子(かわさき みなこ) - 1999年、ジェトロ入構。イノベーション部プロモーション課やシドニー駐在を経て、2024年3月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ホーチミン事務所
ダン・ティ・ゴック・スオン - 2011年よりジェトロ・ホーチミン事務所に勤務。





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