高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫るベトナム最高峰の理系大学の現在
ハノイ工科大学(1)

2026年10月26日

ベトナムでは、半導体、電子機器、IT分野への投資が拡大する中、高度人材の確保が企業の重要課題となっている。その有力な輩出源の1つがハノイ工科大学(Hanoi University of Science and Technology、HUST)だ。

同大学は理系分野ではベトナムトップクラスとされ、研究分野とイノベーション創出の双方の担い手となっている。優秀な学生が在籍するだけでなく、ベトナムにおける先端分野の研究・教育を担い、各国政府や企業との連携を積極的に行う。本稿では、同大学の概要と連携の取り組みについて、対外協力部副部長のチュー・マイン・フン氏に話を聞いた(取材日:2026年7月9日)。


チュー・マイン・フン対外協力部副部長(ジェトロ撮影)

大学の沿革と競争力

質問:
大学の成り立ちや大学組織の構成は。
答え:
本学は1956年に設立されたベトナム初の技術系の大学だ。現在は、傘下に6つの学校(注) と7つの学部、6つの研究所を有している(表参照)。キャンパスはハノイ市中心部のバクマイ区に位置する。修士課程、博士課程および研究生を含めた約4万5千人の学生が在籍し、毎年約1万人が入学する。プログラムの数は約170に及び、その中には日本語教育を行う日越情報教育プログラムのほか、IoT・スマート組込みシステムプログラムや、ハノイ工科大学と長岡技術科学大学による2+2メカトロニクスプログラムなども含まれている。
イノベーション創出に向けた取り組みも積極的に行っている。その1つがBK Holdingsであり、主に教員による研究成果の事業化や大学発企業としてのスピンオフを支援するために設立された企業だ。
もう1つは学生イノベーション・起業支援センターだ。同センターは、在学生によるスタートアップの立ち上げを支援するとともに、インキュベーション(起業支援)の機能を担っている。
表:ハノイ工科大学傘下の学校・学部一覧
単位 名称
学校 機械学校
情報通信技術学校
電気・電子学校
材料学校
化学・生命科学学校
経済学校
学部 教育科学・技術
物理技術
数学・情報
外国語
国防・安全保障教育
体育教育
政治理論

出所:ハノイ工科大学提供資料を基にジェトロ作成

多岐にわたる日本との連携

質問:
日本との連携については。
答え:
本学は、50以上の日本の大学および企業と教育や交換留学に関する協定を結んでいる。例えば、長岡技術科学大学との間では、「2+2」という、両大学で学ぶことでハノイ工科大学と長岡技術科学大学の両方から学位を得られる取り組みを行っている。また、大阪大学との間では、大阪大学接合科学研究所と連携し、「接合科学研究所HUST-UOsaka」を共同で運営している。国際協力機構(JICA)や科学技術振興機構とも共同研究を行っている。
企業との連携では、インターンシップや奨学金、教育プログラムの支援などが挙げられる。日産オートモーティブテクノロジーベトナム、キオクシアをはじめ、ホンダ、トヨタなど大手の企業とも連携している。また近年は、セキショウベトナム、アイデム、サンアスタリスクなど人材サービス関連事業を展開する企業との連携も増えている。セキショウベトナムは、本学学生と日本企業とのマッチングを目的としたジョブフェアを毎年開催しており、多くの日本企業に加え、滋賀県などの自治体も参加している。

ハノイ工科大学構内の接合科学研究所HUST-Uosaka(ジェトロ撮影)
質問:
日本以外との連携については。
答え:
ハノイ工科大学は米国、欧州、オセアニアならびにアジア諸国を中心に、世界各国の大学・研究機関との国際交流および国際協力を積極的に推進している。サムスン電子のベトナム法人と2012年頃から緊密に連携している。サムスン電子は、学生向けにさまざまなプログラムを提供しており、連携開始以降、累計で3,000名を超える卒業生が同社に就職している。
同社は採用活動にとどまらず、人材育成や研究開発への投資にも積極的に取り組んでおり、学生の間で高い認知度と強い採用ブランドを確立している。ハノイ工科大学はサムスン電子にとってもベトナム国内で重要な人材供給源になっている。本学の学生に対しては、一般に他大学の学生よりも高い給与水準が提示されているとみられる。サムスン電子ベトナムを加え、サムスンディスプレイ、LGディスプレイ、LGイノテックなどの外資系企業にも多くのハノイ工科大学卒業生が就職しており、各社の成長と発展に貢献している。

熾烈さを増す採用競争

質問:
学生の卒業後の動向は。近年の変化はあるか。
答え:
年間約7,000人が卒業する。このうち、海外で就職する卒業生は7%程度だ。また、約25%の学生が在ベトナム外資系企業に就職する。海外や外資系企業へ就職できる学生の多さから、本学の卒業生がグローバル市場で評価されていることがうかがえる。
2020年以前は、インターンシップや日本語講座を案内すると容易に学生を集めることができた。しかし現在は、学生の選択肢が増えており、企業側もプログラムの質を高めるとともに、自社を効果的にアピールすることが求められるようになった。
学生は、先輩の評価や口コミを参考にしつつ、企業のブランド力、提供されるプログラムの内容、就職後の明確なキャリアパスなどを重視している。
質問:
どの分野の採用競争が激しいか。
答え:
ハノイ工科大学には傘下に情報通信技術学校、電気・電子学校、機械学校がある。これらの学校の専門分野であるIT 、電気・電子工学、機械工学では、採用競争が特に激しい。ベトナムでは近年、AI(人工知能)分野への投資拡大を背景にIT人材需要が高まっており、人材獲得競争は一段と厳しさを増している。IT分野では、企業が提供するプログラムが充実している。求人も多く、大半の学生が卒業前に就職先を決めている。新規参入企業が採用競争に勝つことは容易ではない。
電気・電子工学および機械工学も需要は非常に高い。一方で学生数が比較的多いため、新規企業にも採用機会が残されていると考えている。
質問:
日本企業への期待やアドバイスは。
答え:
材料工学、化学・生命科学、ポリマー・複合材料工学、環境分野、食品工学などは、相対的に採用競争が少ない。本学傘下の学校のうち、材料学校と科学・生命科学学校の学生数は多いため、企業が採用・連携を目指す上では有望な分野になり得る。
今後、本学の学生へのアプローチを検討する企業、特に中小企業については、すでに大々的に採用活動を行っている大企業と正面から競争するのではなく、競争の少ない分野を探すことが重要だ。また、自社が持つ特定分野の専門性を示すことや、採用後の処遇などの魅力的な採用オファーをアピールできるよう準備を進めることも求められるのではないか。十分に魅力的なプログラムであれば、優秀な学生を採用することは可能だ。

人材獲得競争の新局面

ハノイ工科大学は、ベトナムを代表する理工系大学として研究・教育・産学連携の中心的役割を担っている。学生の採用を巡る企業間の競争は年々激しさを増し、「かつてはハノイ工科大学の学生も採用していたが、近年では採用できなくなった」という日本企業の声を耳にすることが少なくない。今回のインタビューからは、学生の採用を巡る競争状況は専門分野によって異なること、日本企業も韓国企業や欧米企業との競争に直面していることがうかがえた。

現在、さまざまなプレイヤーが大学との連携を行い、学生に対して多様な選択肢を提示している。今後、採用に向けた取り組みを行う日本企業は、分野の特性や自社の強みを見極め、競争の激しい分野では他社との差別化を図ることが重要となる。また、同大学との長期的な関係を構築し、学生との接点を早期かつ継続的に確保する戦略的なアプローチが、中長期的な人材獲得のために一層重要になるだろう。


注:
ハノイ工科大学は、専門分野ごとのスクール(原語はTrường、本原稿では「学校」と訳している)や学部(原語はkhoa)を内部組織として有している。詳細は「ベトナム大学調査 制度概要編(2026年3月)」13ページ参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
河野 尭広(こうの たかひろ)
2015年、ジェトロ入構。新興国進出支援課、国際ビジネス人材課で高度外国人材活躍推進事業の立ち上げに従事。2021年、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、企画課を経て、2024年8月から現職。

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