高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る厳格な採用制度と独自の強み
北東インドIITグワハティ校(1)
2026年2月24日
GoogleやIBMなど世界的なテック企業のトップを輩出するインド工科大学(Indian Institutes of Technology, 以下IIT)。世界的な高度IT人材不足を背景に、欧米企業のみならず日本企業もインドの優秀な人材の獲得に向けた動きは年々活発化しており、注目度は高まっている。そうした中、インド北東部アッサム州に位置するインド工科大学グワハティ校
(IIT Guwahati、以下IITG)が今、日本との連携に意欲的な姿勢を見せている。2025年11月、ジェトロはIITGのキャンパスを訪問し、大学関係者との意見交換を実施した(ヒアリング日:2025年11月19日)。本稿では、現地ヒアリングと公開資料に基づき、IIT全体に共通する採用システムと、IITGが持つ独自のポテンシャルについて解説する。

「Old IITs」と「New IITs」
IITは、インド政府によって設立された工学・科学技術分野の最高学府である。日本でも、「IIT」という名前に加え、「優秀なIT人材の宝庫」というイメージは定着しつつある。一方で、実際にはインド全土には23ものキャンパスが存在し、それぞれ異なる強みや特徴があることまではあまり知られていないのが実情と思われる。これらは一般的に設立時期によって、「Old IITs(第1世代)」と「New IITs(第2・第3世代)」に大別される。
| 区分 | 設立・認可年 | 校数 | キャンパス名(全23校) |
|---|---|---|---|
|
Old IITs (第1世代) |
1951〜2001年 | 7校 | カラグプール、ボンベイ、マドラス、カンプール、デリー、グワハティ、ルルキー(注1) |
|
New IITs (第2世代) |
2008〜2009年 | 8校 | ハイデラバード、ガンディーナガル、ロパール、ジョードプル、パトナ、ブバネシュワル、インドール、マンディ |
|
New IITs (第3世代) |
2012〜2016年 | 8校 | ティルパティ、パラカッド、ゴア、ダルワード、ジャム、ビライ、バラナシ(BHU、注2)、ダンバード(ISM,注3) |
注1:1847年設立の「ルルキー大学」が2001年にIITへ指定。
注2:1919年設立の「バナラス・ヒンドゥー大学」工学部が2012年にIITへ指定。
注3:1926年設立の「インド鉱山学校(Indian School of Mines)」が2016年にIITへ指定。
出所:インド教育省およびIIT評議会公式サイトの設立年データに基づきジェトロ作成
第1世代にあたる「Old IITs」は、歴史と伝統を背景に世界的な知名度を誇る。また、卒業生のネットワークも強固であり、企業の採用市場では欧米企業との競争が激しい傾向にあるという。一方、2008年以降に設立された「New IITs」は、インフラや研究設備の充実が進んでいる。今回取り上げるIITGは、1994年に設立された第1世代(Old IITs)の1つであり、その中では最も新しいキャンパスだ。約30年の歴史を持ち、既に約2万5,000人の卒業生(注1)を輩出している。伝統校としての実績と、新しい技術領域への柔軟な適応力を併せ持つ点が特徴といえる。
激戦の選抜試験と世界屈指の難易度
IITの学生の質が世界的に評価される背景には、過酷な選抜プロセスがある。入学には、毎年140万人以上が受験するといわれる共通試験(JEE Main)を突破し、さらにその上位約25万人(カテゴリー別総計)のみが受験できる「JEE Advanced」で極めて優秀な成績を修める必要がある。その実質的な合格率は1%程度といわれ、世界で最も難しい試験の1つとして知られる。この狭き門をくぐり抜けた学生たちは、極めて高い数理能力と論理的思考力を有している。
厳格かつ迅速な「採用システム」
日本企業がIITの学生を採用する場合、独特かつ厳格なルールを理解しておく必要がある。採用活動(プレースメント)は透明性と公平性が徹底されており、企業と学生の双方が、定められた時間枠の中で効率的に動くシステムとなっている。
最大の特徴は「One Student One Offer Policy(1人1社制)」だ。これは、学生が内定(ジョブオファー)を1つ受諾した時点で、その後の選考プロセスへの参加資格を即座に失うという絶対的なルールである。企業にとっては、内定受諾後に他社に奪われるリスクがなくなるというメリットがある一方、内定を受諾した学生は即座に選考プロセスから離脱するため、特に成績上位層の獲得においては、面接実施のタイミング(スロット順)が重要となる。
採用のカギを握る「スロット制」
面接期間(通常12月1日に解禁)は、「Day 1」「Day 2」といった日程ごとに、さらに時間帯別の枠(スロット)に細分化されている。これを「スロット制(Slot System)」と呼ぶ。 前述の「1人1社制」により、トップ層(特にコンピューターサイエンス系の成績上位者)を獲得したい場合、企業は初日(Day 1)の早いスロットの確保が不可欠となる。各スロットへの配置は、企業の「提示年俸」「過去の実績」「学生からの人気」などを大学側が総合的に評価して決定する。好条件を提示する企業が上位のスロットを獲得する、合理的かつ競争的な仕組みとなっている。
採用カレンダーとインターンシップの重要性
IITの採用活動は、12月の面接解禁に向けた事前プロセスと、実際の選考期間に大別される(表2参照)。 近年、特に重要性を増しているのが、インターンシップ経由の採用(PPO: Pre-Placement Offer)だ。IITGのプレースメント担当者へのヒアリングによると、優秀な学生ほど3年次の夏季インターンシップなどで企業と接点を持ち、12月の本選考前に内定を得るケースが増えているという。企業にとっては、早期に人材を確保できる有効な手段となっている。
| 時期 | フェーズ | 企業のアクション |
|---|---|---|
| 7月〜8月 | 登録・募集開始 |
リクルーター登録とJNF提出: 各IITのプレースメント・オフィス(TPO)やポータルサイトを通じ、リクルーター登録およびJob Notification Form(JNF)を提出し、募集要項を公開する。 |
| 9月〜11月 | 事前選考(早期内定) |
説明会・スクリーニング・PPO:
|
| 12月1日〜中旬 | フェーズ1(面接解禁) |
面接・即時オファー: 12月1日より面接が解禁される。大学側が指定した「スロット(時間枠)」内で面接を行い、即座に合否判定およびオファー提示を行う。成績上位層の多くはこの期間に就職先を決定する。 |
| 1月〜5月 | フェーズ2(継続採用) |
第2期 採用活動: 1月以降、断続的に実施される採用期間。フェーズ1で未内定の学生や、追加採用を行う企業が参加する。最終的な内定実績などはこの時期(1月〜2月頃)に集計される。 |
出所:採用システム・スケジュールは、IITGを含む各IITが公式サイト等で公開している一般的なガイドライン(Placement Policies
(595KB)、Recruiters Guide & Policies Document PlacementsRecruiters Guide & Policies Document Placements
(524KB))に基づき、ジェトロにて整理・作成。
IITG独自の強み:伝統と革新の融合
数あるIITの中で、IITGはどのような立ち位置にあるのか。インド政府の高等教育機関ランキング(NIRF 2024)において、IITGは工学部門で国内7位、総合9位(注2)にランクインするなど、Old IITsの一角として確固たる地位を築いている。現地で「他のIITと比較したIITGの特徴」について尋ねたところ「われわれは約30年の歴史を持つ〔Old IIT〕としての伝統がある一方で、新しいアイデアを取り入れる柔軟性や、学生が未知の領域に挑戦する〔勇気〕も併せ持つ」と語った。
その象徴の1つが、工科大学としては珍しい「デザイン学部」の存在だ。テクノロジーとデザイン思考を融合させたカリキュラムは高く評価されており、実際にデザイン学科出身の学生がアニメーション制作などのクリエーティブ分野で起業する事例も生まれている。中には、日本でアニメーション関連の事業を展開している卒業生もいるという。主要学部にはコンピューターサイエンス、電子電気工学、機械工学などが並ぶが、既存の工学の枠にとらわれない革新的なカルチャーこそが、IITGの最大の武器といえるだろう。
次稿では、地理的・文化的に日本に近いというIITGの特性を活かし、同校が進める日本企業との具体的な連携策や、日本語教育導入の動きについて紹介する。
- 注1:
-
IIT Guwahatiデータブック(2024-25)より。
- 注2:
-
インド人材開発省のデータ「National Institutional Ranking Framework (NIRF) India Rankings 2025」を参照。
北東インドIITグワハティ校
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- 執筆者紹介
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ジェトロ知的資産部高度外国人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ) - 2025年、ジェトロ再入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。






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