高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫るラオス若年層の海外志向
高度人材形成の現状と可能性(1)

2026年5月27日

ラオス人労働者の海外移動は、周辺国との賃金格差を背景に、非熟練労働(注1)(非正規を含む)を中心とする海外出稼ぎが主流だ(2024年3月21日付地域・分析レポート参照)。一方、近年は職業訓練学校の整備や労働者送り出しに関する二国間政府間合意(MOU)の締結に加え、政府主導による留学奨学金制度の拡充を通じて、特定の技能を備えた人材を育成する動きも進みつつある。

本稿では、こうした特定の技能やスキルを有する人材層の広がりやラオス人労働者の特徴を整理した上で、日本企業において採用の検討が進んでいる在留資格「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)(注2)」のポテンシャルや、ラオス人の日本就労における課題を現地ヒアリングも踏まえて考察する。

前編では、ラオスの若年層における海外流出の実態とその背景、日本との関係を整理し、将来的にどのような人材層が日系企業の人材需要に応え得るのかを分析する。

賃金格差が生む若年層の海外就労

ラオスの2024年の総人口は約764万人であり、25歳未満が全体の約49%を占める(図参照)。また、過去5年間の人口の年平均成長率は1.4%と比較的穏やかな増加局面にあり(ラオス統計センター)、人口構造の面では若年層の比率が厚く、中長期的に労働供給力の拡大が見込まれる国の1つといえる。

図:ラオスの人口ピラミッド(2024年)
ラオスの人口ピラミッド(2024年)について、0~4歳の男性は376人、女性は360人。5~9歳の男性は392人、女性は377人。10~14歳の男性は392人、女性は385人。15~19歳の男性は366人、女性は358人。20~24歳の男性は352人、女性は344人。25~29歳の男性は342人、女性は339人。30~34歳の男性は319人、女性は318人。35~39歳の男性は283人、女性は282人。40~44歳の男性は242人、女性は240人。45~49歳の男性は196人、女性は196人。50~54歳の男性は162人、女性は164人。55~59歳の男性は131人、女性は139人。60~64歳の男性は104人、女性は112人。65~69歳の男性は75人、女性は84人。70~74歳の男性は48人、女性は54人。75歳以上の男性は51人、女性は65人。合計値は男性が3,830人、女性が3,817人。

出所:ラオス統計センターからジェトロ作成

一方、こうした人口構造上の潜在力が国内労働市場で十分に活用されているとは言い難い。新型コロナウイルス禍以降、インフレと通貨安が長期化するラオス(2025年12月19日付ビジネス短信参照)では、実質賃金の伸び悩みにより、周辺国との賃金格差が拡大しており、国内就労よりも海外就労を選択する構造的な要因となっている。2025年時点の月額基本給(表1参照)を見ると、製造業・非製造業ともに、タイや中国との間には約2倍以上の格差が存在している。

表1:ラオスと周辺国における月額基本給(2025年の平均値)(単位:ドル)
国名 製造業・作業員 非製造業・スタッフ
中国 629 1,311
タイ 490 932
ベトナム 302 784
カンボジア 247 569
ラオス 145 400

出所:2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)PDFファイル(6.1MB)を基にジェトロ作成

このため、若年層を中心に、家族の生計を支える必要から、中学・高校を中退した年齢層が出稼ぎに出る事例も少なくない(2025年3月31日付「ビエンチャン・タイムズ」紙)。海外就労先としてはタイが主流であり、ラオス語とタイ語の高い相互理解性や陸路による越境の容易さを背景に、正規・非正規を含め30万~40万人規模のラオス人労働者が存在するとされる(注3)

一方で、こうした海外就労の多くは、サービス業・製造業・農業を中心とした短期的・季節的な「非熟練労働」であり、帰国後の人的資本の蓄積や国内産業の競争力強化につながりにくいという課題も抱えている。このため、ラオス政府は各国と連携し、労働移住に関する二国間MOU締結や送り出し制度、国内職業訓練学校の拡充を通じて、労働者の正規化と技能水準の底上げを図っている。

韓国就労の拡大と、ラオス人材の技能志向化

近年、ラオス人の海外就労先として存在感を高めているのは韓国だ。韓国では、日本の技能実習制度に類似した雇用許可制(EPS)(注4)に加え、農業・漁業分野を対象とした季節労働者制度(注5)2022年6月6日付ビジネス短信参照)を拡充しており、2026年には合計で約1万7,000人(EPS335人、季節労働者1万6,843人)のラオス人労働者を受け入れているという(2026年4月30日付「ヘラルド経済」紙)。EPSでは日本を上回る韓国の最低賃金が適用されるほか、季節労働者についても1日でラオスの最低賃金の約半分を稼ぐことが可能であり、賃金水準の高さが魅力となっている。

一方、日本におけるラオス人労働者数は、2025年6月時点で2,198人〔技能実習1,712人、特定技能342人(2022年8月9日付ビジネス短信参照)、技術・人文知識・国際業務144人〕にとどまり、受け入れ規模では韓国を大きく下回っている。

このように、近年のラオス人若年層は、より高い収入を得たいという共通の動機を持ちながらも、短期的な所得確保を目的とする海外出稼ぎ層に加え、技能や専門性を徐々に蓄積する人材層も現れつつある。ただし、韓国の雇用許可制や日本の技能実習制度・特定技能制度はいずれも学歴を要件としないため、こうした層が直ちに学歴要件を伴う「技人国」に移行するわけではない。むしろ、海外就労制度での経験を契機として、語学学習や職能向上への意識を高め、中長期的には実務経験を有する専門人材へと成長する可能性を持つ層として位置付けられる。

留学経験者を中心に広がる語学や専門性を備えた人材

ここからは、大学卒業以上の学歴を有し、専門知識や日本語能力を備えた「技人国」の人材候補として、ラオスにおける大学生の動向に着目したい。ラオスの大学在学者の中には、語学力や専門性の向上を目的に海外留学を選択し、帰国後または留学先で就労する者もいる。もっとも、家計に占める教育費の負担の大きさから、私費留学よりも奨学金プログラムを活用した留学が主流である(注6)

留学先としては、ベトナムおよび中国が突出して多く、次いでタイや日本などが続く(表2参照)。中でも、ベトナム、中国、タイは、ラオスにとっての主要投資国であり(ラオスの貿易投資年報2024年版参照)、ラオス人留学生の就職先の傾向とも密接に関係している。シーサワートの研究(注7)によると、留学経験者は、留学を通じて習得した語学力や専門知識、文化的知識を生かせる外資系民間企業や公的機関への就職を志向する傾向が強く、国内大学卒業者と比べ相対的に高い賃金を得ているという。こうした傾向を踏まえると、英語や日本語を習得した留学経験者は、「技人国」として日本を就労先に選択する層になり得る。

表2:ラオス人留学生の主な留学先(推計)
留学先国 在籍者数(人) データ年 出所
中国 1万4,645 2018年 中国教育部公表資料 
ベトナム 1万4,050 2021/22年度 現地報道 
タイ 538 2022年 政府公式統計 
日本 345 2025年6月時点 出入国在留管理庁統計 

備考:本表の数値は、受け入れ国の公表統計や各種報道を基にした数値。国・地域によって、データの年度や集計基準が異なるため、ラオス人留学生の留学先の相対的な傾向や規模感を示すことを目的としている。
出所:各種報道、統計を基にジェトロ作成

日本語学科と工学部が日本就労のポテンシャル層

ラオスの大学教育や日本語教育(注8)の現場では、日本との接点を持つ人材基盤が整備されつつある。こうした基盤の中で、「技人国」としての採用につながり得る具体的な人材供給源として、主に次の3つの高等教育機関が挙げられる。

ラオス国立大学(NUOL)日本語学科:

同科は、2003年に設立されたラオスで初めての日本語専攻学科だ。1学年の定員は40人だ。2025年時点での在籍者数は全学年で115人、毎年おおむね20人が卒業する。卒業時には日本語能力試験N3取得(注9)を目標としている。日本留学は、奨学金プログラム枠で毎年おおむね10人が派遣されている。奨学金を獲得できなかった学生もショートステイプログラムを通じて日本渡航を実現しており、学生のほぼ全員が日本で生活する経験を有している。なお、これまで私費留学の事例はほとんどないとのことだ(2026年1月、ジェトロの現地ヒアリング)。

サワンナケート大学日本語学科:

ラオス中部サワンナケート県(注10)に2017年に開設された同学科は、日本語を主専攻として学べるラオスで2校目の大学だ。日系企業が集積するサワン・セノ経済特区が近隣にあることから、地域の日本語人材需要に応える役割を担っている。現在の在籍者は1~4年生合わせて11人である(注11)。在籍する学生は、国際交流基金、日本の文部科学省などを通じ、日本への留学を果たしている(2026年2月、ジェトロによる現地ヒアリング)。

ラオス国立大学(NUOL)工学部:

ラオス国内の工学部では最大規模で、国際協力機構(JICA)による施設整備支援や工学人材育成プロジェクトが継続的に実施されている学部だ。毎年おおむね10人程度が海外留学を果たし、その約半数がJICAの奨学金制度を活用し、修士課程または博士課程で日本に留学している(2026年2月、ジェトロによる現地ヒアリング)。学士以上の学位と専門性を備えており、日本の製造業やIT分野における人材候補として位置付けられる。


NUOL日本語学科での在ラオス日系企業インターンシップ説明会の様子(ジェトロ撮影)

後編では、日本就労と親和性が高いこれらの人材層に焦点を当て、日本就労に至るルートや規模感に加え、現地ヒアリングを通じて見えるラオス人材の特性や「技人国」就労に関する課題について具体的に取り上げる。


注1:
非熟練労働とは一般に、特別な学位や資格を必要としない現場作業(農業、建設、単純製造など)に従事する層のこと。 本文に戻る
注2:
「技人国」とは、日本での就労を目的とした在留資格の一種で、自然科学(理系)や人文科学(文系)の専門知識、または外国文化・言語・習慣を生かす業務へ従事できる。受入企業での業務内容と大学での専攻分野の一致などが認可要件とされる。本稿では、大学卒業資格を有し、専門分野で就労する外国人材という位置付けとする。日本における同人材の動向は、2025年10月16日付地域・分析レポート「総論:高度外国人材採用に向け、海外大学と英語トラックに注目」を参照されたい。 本文に戻る
注3:
国際移住機関(IOM)のレポートによると、タイにおけるラオス人の正規労働者は2024年時点で約26万人、非正規労働者は2023年時点で約10万人存在していると報告されている。 本文に戻る
注4:
EPSとは、政府間MOUに基づく外国人労働者の受け入れ制度のこと。建設業や製造業を中心とした中小企業の人手不足解消を目的に、18~39歳で韓国語能力などの諸条件を満たした外国籍労働者が、韓国人の最低賃金を適用され就労する。 本文に戻る
注5:
季節労働者制度とは、農業や漁業分野の一時的な人手不足を補うため、自治体や政府間の協定に基づき短期間外国人労働者を受け入れる仕組み。就労にあたり、韓国語習得は不要となっている。1日の労働でラオス国内の約半月分の賃金を得られるとされている。 本文に戻る
注6:
ラオス教育スポーツ省(MOES)は、ラオス人の海外留学を(1)二国間政府奨学金、(2)大学間交換留学、(3)プロジェクト型助成金、(4)私費留学の4つに大別している。家計の教育費負担を抑えられる(1)~(3)の獲得が留学実現のカギとなっている。 本文に戻る
注7:
Sisavath, S. (2023). Journey from Higher Education to Employment Among Returnee Graduates in Laos外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます. In: Singh, J.K.N., Latiner Raby, R., Bista, K. (eds) International Student Employability. Knowledge Studies in Higher Education, vol 12. Springer, Cham. 本文に戻る
注8:
本稿で紹介した大学以外の機関としては、一般人を対象に日本語教育や日本文化体験を提供するラオス日本センター(LJI)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますや、日本語教育とコンピューター基礎知識の習得を兼ね備えたトレーニングセンター型の非営利団体、技能実習生・特定技能の送り出し機関などが挙げられる。国際交流基金「海外日本語教育機関調査(2024年)」によると、2024年時点で初等~高等学校教育における日本語学習者は約4,431人に達し、公立中学校4校に限られていた日本語教育は、2025年2月時点では私立学校を含めた全10校まで拡大している。 本文に戻る
注9:
N3とは、日本語能力試験(JLPT)で、基礎的な日本語を一通り修了し、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解し、基本的なコミュニケーションが可能な中級レベルを指す。 本文に戻る
注10:
サワンナケート県は、タイ東北部とベトナム中部と国境を接し、両国とアクセスが良いという特徴を持つ場所となる。 本文に戻る
注11:
コロナ禍や同学科教員の日本留学などを理由に、新入生の採用を一時中断した経緯がある。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
武井 浩人(たけい ひろと)
2023年、ジェトロ入構。本部海外ビジネス人材育成課を経て、2025年8月から現職。