高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る語学力を兼ね備えた実務家の育成(ベトナム):ハノイ大学

2026年4月21日

国立ハノイ大学は、1959年に設立された「外国語学校」にルーツを持ち、ベトナム北部における伝統ある外国語教育機関の1つだ。近年は、観光や会計など、外国語習得にとどまらず、さまざまな専門学部が新設され、教育内容は一層、多様化している。

同大学の沿革と発展に加え、日本語教育の現状および企業との連携について、日本語学部学部長のギエム・ホン・ヴァン氏に話を聞いた(取材:2026年3月5日)。

国際化で進化した教育体制

質問:
大学の成り立ちや教育体系は。
答え:
ハノイ大学の発祥は、1959年に発足した外国語学校に遡る。何度か名称変更を経たものの、長らく「外国語大学」の名称で知られていた。2006年の組織再編に伴い「ハノイ大学」へ改称されて現在に至っている。
成り立ちとしては、1954年のベトナム独立後、留学生への語学教育と通訳者養成を目的として、ロシア語・中国語の専門研修を行う機関として設立された。その後、ベトナム国内の政治状況の変化や戦争を経て、大学組織の改編が繰り返された。特に、国として国際化志向を強めた2000年以降の変化は顕著で、現在につながる教育内容が整備された。同大学は、その流れの中で、ベトナムにおける「外国語で専門科目を教える」というモデルの先駆けになった。
具体的には、2000年代以降、英語による教育を行う学士課程の学部として、2002年に経営・観光学および国際学を、2005年には情報技術(IT)を設けた。これと並行して外国語教育も拡充され、現在では外国語系学部だけで11学部あり、第2外国語を含めると、12カ国語の教育が行われている。

ハノイ大学(ジェトロ撮影)
質問:
キャンパスの立地や学生の規模は。
答え:
ハノイ市内ダイモー坊にキャンパスがあり、学生寮を含む全ての施設が同キャンパス内に立地する。外国人向けのベトナム語教育も実施しており、日本人を含む留学生も同じ学生寮に滞在している。正規課程(4年制)に入学する学生だけでなく、交換留学プログラムで来越している学生などさまざまな背景を持つ学生が在学している。
大学院を含め全体で15の学部・課程が学位を授与する課程として設けられている。大学院課程については、各学部の修士課程・博士課程をまとめる形で設けられており、全学で約2万人の学生が在籍している。

参考:学部・課程一覧

  • 英語
  • 韓国語
  • ドイツ語
  • 日本語
  • イタリア語
  • ロシア語
  • フランス語
  • 中国語
  • 経営観光
  • 国際学
  • スペイン語
  • ベトナム学
  • 情報技術
  • ポルトガル語
  • 大学院課程

注:大学院課程について、修士課程として英語・日本語・中国語・フランス語・ベトナム語・経営管理・公共政策の7つのコース、博士課程として英語・フランス語の2つのコースがある。
出所:同大学提供情報からジェトロ作成

専門性を育てる日本語教育

質問:
日本語教育の成り立ちや学部の規模は。
答え:
日本語教育は1973年に始まった。当初は、中国語・ロシア語専攻の学生向けに、第2外国語として教育を行ったのが始まりだ。その後、1993年に正規の学士課程として日本語学部が設置され、2010年には修士課程が開設された。現在では、学士課程で毎年約200人、修士課程で約20人を受け入れている。近年は通信教育や社会人向けの課程の導入もあり、在籍者は約1,100人に達している。
質問:
教育の方針や水準は。
答え:
学士課程4年間のうち、1~2年次は「読む・聞く・話す・書く」という4技能の基礎の習得に重点をおいている。また、日本文化や文学についても触れることで日本への理解を深める教育を行っている。3~4年次には、3つの専攻コース(通訳・翻訳専攻、ビジネス日本語専攻、日本語教授法専攻)から、学生の選択したコースと、それに関連した内容を集中的に学ぶ。
卒業要件としては、所定の単位取得に加え、CEFRのC1以上(注)の日本語力が求められている。本学の強みは、日本語教育だけでなく、その後のキャリアを見据えた専門性やビジネススキルの育成にも力を入れている点にある。特に、ビジネス日本語専攻では、企業担当者による特別講義などを通じて、実務の現場で必要となる日本語運用能力の感覚を養うことを目指している。

ギエム・ホン・ヴァン日本語学部学部長(ジェトロ撮影)

日本語を活かす進路と就職支援

質問:
学生の就職動向はどうか。
答え:
卒業後のアンケートによると、通訳・翻訳関係の職種に就く学生が最も多く、直近の2024年の結果では64.1%を占めた。学習した専門性を活用したいという意向が強いことがうかがえる。また、「就職先はFacebookで見つけた」という声も多く、学生への就職支援や情報発信の方法は、より工夫が必要だと感じている。
学生の5~6割は在学中に留学やインターンシップ、旅行などで日本を訪れる。卒業後に日本で就職する正確な割合は不明だが珍しくない。日本語を習得した上で、日本本社や在ベトナム日系企業など、日本語を使える環境で自身のスキルを発揮したいという意向は強いと思われる。
質問:
学生に向けた就職支援の状況は。
答え:
学生支援・企業連携室が主体となって、例年12月に全学規模で「HANU JOB FAIR」というジョブフェアを開催している。このほか、企業からの個別の要望に応じて企業説明会を開催し、学生に案内する取り組みも不定期に行っている。
直接的な就職支援ではないが、9月には「日本文化週間」として、日本の伝統的な遊びやお祭りをテーマにした学園祭を実施している。このイベントには、企業から協賛を得ることもある。日本語学習は難易度が高いため、学生がモチベーションを維持し、日本への興味を深める意味でも重要な取り組みと考えている。

日本文化週間の様子(ハノイ大学提供)

産学連携

質問:
産学連携にはどのようなかたちが考えられるか。
答え:
先述のとおり、企業担当者を招聘(しょうへい)し、特別講義を実施するというかたちでの連携事例がある。このほかにも、寄付講座の設置や奨学金への寄付などの関わり方もあった。
最近では、ロイヤルホールディングス、明光キャリアパートナーズとMOUを締結し、新しい人材育成プログラムを開始した。ロイヤルホールディングスは、日本語学部の学生を対象に、ロイヤルホストなど、日本での外食店運営の経験を踏まえ、日本のレストランビジネスに関する講座を実施する。また、学生は、同グループのベトナム国内の店舗での研修も行う。企業としては、卒業後にベトナム拠点の幹部候補生として、日本の本社に学生が就職することを期待していると聞いている。大学としても、学生に実践的な学びの機会が提供され、スキル向上やキャリア開発の可能性が広がることを期待している。
また、日越関係の深化を目的に、2016年に立ち上げられた学内組織「日本語日本文化コラボレーションセンター」が窓口となり、企業へのインターンシップ受け入れを調整するケースもある。ベトナム国内だけでなく、日本でのインターンシップもあり、企業の業務内容や強みに合わせ、多様に連携できると考えている。ジョブフェアの参加以外にも、さまざまなかたちで日本企業とのつながりを広げていきたい。

注:
CEFRはヨーロッパ共通言語参照枠のこと。外国語運用能力の評価基準で、初学者から順にA1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階となっている。C1は「いろいろな種類の高度な内容のかなり長い文章を理解して、含意を把握できる。言葉を探しているという印象を与えずに、流暢(りゅうちょう)に、また自然に自己表現ができる。社会生活を営むため、また学問上や職業上の目的で、言葉を柔軟かつ効果的に用いることができる。複雑な話題について明確で、しっかりとした構成の、詳細な文章を作ることができる」とされる。
参考:各資格・検定試験とCEFRとの対照表(文部科学省)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(277KB) 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
河野 尭広(こうの たかひろ)
2015年、ジェトロ入構。新興国進出支援課、国際ビジネス人材課で高度外国人材活躍推進事業の立ち上げに従事。2021年、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、企画課を経て、2024年8月から現職。