高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る「国際交流・地域貢献・起業家精神」を育む:インド北部チトカラ大学

2026年10月20日

インド北部パンジャブ州に本拠を置くチトカラ大学外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Chitkara University)。2002年に工学専門の単科校(Chitkara Institute of Engineering & Technology(チトカラ工科カレッジ)として開校した同大学は、その後同分野を軸に急速な拡大を遂げた。2010年にはパンジャブ州議会でチトカラ大学法(Chitkara University Act)が制定され、大学として正式に認可された。現在では3万人以上の学生が学ぶ一大教育拠点となっており、工学、経営、医療・ヘルスサイエンスなど幅広い分野を擁する総合大学へと発展している。

この大学に、ジェトロは日本企業5社とともに「インド地方大学ミッション派遣(大学キャラバン)―チャンディガル編―」(以下、大学キャラバン)で訪問した(2026年8月18日付ビジネス短信参照)。本稿では、同ミッションの現地視察および教職員・学生へのヒアリングに基づき、大学の特徴や現地学生が抱く就職意識などについて報告する(訪問および取材日:2026年8月6日)。


大学キャラバン参加企業および来訪を歓迎する大学側関係者(ジェトロ撮影)

海外経験と国際連携の重視

同学は「学生全員に世界水準の教育体験を提供する」という目標を掲げ、国際交流に極めて積極的だ。世界48カ国・約250の大学や機関と提携を結び、カナダ、オーストラリア、米国などとの「2+2プログラム」(前半2年を自校、後半2年を海外提携校で学び、双方の学位を取得する制度)や短期交換留学制度を充実させている。海外留学の経済的ハードルが高い学生に対しても、学内に海外提携校の教授陣を招いて1週間の特別集中講義を行う「グローバル・ウィーク(Global Week)」を年2回開催するなど、キャンパスにいながら国際的な学びが得られる環境を整えている。

「コミュニティー(地域社会)」への貢献と学内ウェルビーイング支援

チトカラ大学は、自校を単なる「教育機関」ではなく「コミュニティー」と定義している。大学創設の理念である「Chit(心)」と「Kara(行動)」。「誠実な心をもって行動・実践する」という精神の下、教育や研究にとどまらず、「地域社会への貢献と還元」も大学運営の重要な柱として位置付けている。

その象徴的な取り組みが、学生が主体となって番組制作・運営を行う自前のコミュニティーラジオ局「チトカラFM 107.8(Chitkara FM 107.8)」だ。放送エリアは半径18~20キロメートルに及び、地域住民に向けて気象情報、農作物の状況、感染症予防などの生活・営農情報を日常的に発信しており、大学が地域社会のインフラとして深く根を張っている。

学生や教職員の内面「Chit(心)」のケアにも力を入れている。同学は、メンタルケアや文化・スポーツを通じた交流を支援するウェルビーイング支援拠点「ハピネスセンター」を設け、専任のハピネス・オフィサーを配置している。学生が過密な学業から離れてリフレッシュし、心身の健康と幸福感(ウェルビーイング)を保ちながら前向きに学べるキャンパス環境づくりが進められているという。


学内展示施設「Chitkara Spectacles」でラジオ局「チトカラFM」について説明する大学関係者(ジェトロ撮影)

実践的な起業家育成と産学連携ラボ

学内には6つのインキュベーションセンターや45の試作・テスト用ラボを備え、アイデア創出からプロトタイプ製作、事業化、資金調達までを一貫して手厚く支援している。これまでに300社以上のスタートアップを育成し、電子決済サービス大手Paytmグループとの接点を構築し、エグジット(買収)に至った事例も生まれている。全プログラムで「優良企業への就職」または「起業による雇用創出」を出口(アウトプット)として明確に設定している点が特徴的だ。

企業連携ラボも多数稼働しており、インド通信大手Jioと連携した「Jio Games イノベーションセンター」では、学生が開発・製品化したゲームについては収益の75%(ロイヤリティー)が開発した学生に直接還元されるという、手厚いインセンティブ設計を採用している。また、大手ITコンサルティングのキャップジェミニと連携した「CodeX Experience Center」や、米アップル、地場IT大手インフォシスと連携した開発センター、人工知能(AI)教育スタジオ(CUE AI Educational Studio)など、企業の実務環境や最新機材をそのままキャンパス内に持ち込んだ実践的なラボが多数稼働している。


Jio Games イノベーションセンターの視察の様子(ジェトロ撮影)

日本の存在感はなお途上も、高まりつつある日本への関心

現在の同学学生の海外渡航先や人気留学先は、カナダやオーストラリア、欧州(ドイツやフランスなど)が上位を占めており、日本は依然として数ある選択肢の一つにとどまる。しかし、日本企業や日本の大学との連携実績は着実に拡大している。

具体的には、東洋大学や西南学院大学など日本の大学との提携プログラムを通じて、2025年は50人、2026年は約60人の学生が日本への渡航を予定している(2025年6月27日付ビジネス短信参照)。

今回の大学キャラバン参加企業からは、「日本での就労では日本語が強みになる。学生に対して日本語の教育を行っているか」という質問があった。これに対し、チトカラ大学では30人ほどが日本語を学習しているという。また、「学内の言語スクールで日本語は提供されている言語の一つであり、興味のある学生は自主的に学習を進め、日本語能力試験(JLPT)N5やN4などの資格も取得している。今回の大学キャラバンでの交流会やインターンシップ面接に参加している学生の中にも、そうした日本語に意欲的に取り組む学生が含まれている」との回答がなされた。

現地学生の生の声:就労への思いとインドにおける雇用情勢

ジェトロの大学キャラバンで日系大手総合広告会社のインターンシップ面接に臨んだディビヤム・アエロン氏(AI・データサイエンス専攻3年生)とシュレヤ・カトゥリア氏(コンピュータサイエンス工学3年生)。面接直後のヒアリングからは、日本文化への親しみと、インド現地の就職競争に対するリアルな意識が浮かび上がった。


ディビヤム・アエロン氏(左)と、シュレヤ・カトゥリア氏(右)(ジェトロ撮影)

アエロン氏が、日本に興味を持った最大のきっかけは、アニメやマンガ、「龍が如く」「Ghost of Tsushima」などのゲーム、スタジオジブリ作品などだ。しかし、彼の関心は単なる趣味にとどまらず、作品を通じて描かれる「武士道精神」「誠実さ」「名誉を重んじる価値観」に触れ、日本の伝統や価値観を深くリスペクトするようになったという。

また、カトゥリア氏は、アニメを通じて日本語に興味を持ち、アプリ(Duolingo)で日本語を勉強しているという。「日本で働くチャンスがあるなら、ぜひ日本語を本格的に習得してN3やN4を目指したい」と意欲を語った。

インドの就労状況について2人に尋ねると、「非常に厳しい(depressing)」「完全に飽和している」という率直な実態が語られた。主な背景と2人の学生の意識は以下のとおりでだ。

  • 膨大な若年人口と就職競争:2人によれば、インドでは毎年数百万人の高度IT人材や大学卒業生が就職市場に参入する一方、求人数が全く追いついていないという。「100の採用枠に対して10万人が殺到する(1つの枠を1,000人で争う)ような競争が日常化している」との声が聞かれた。
  • 経済的バックグラウンドによる制約:自費で海外留学や海外就労に挑戦できる裕福な家庭の学生がいる一方で、多くの中流・庶民層の学生にとっては渡航費用自体が大きなハードルとなる。そのため、学内で日系を含む海外企業へのアクセスや面談チャンスが得られる、今回のようなインターンシップや企業直接採用プログラムの価値は極めて高いという。

キャリア形成への熱意と充実したキャンパスライフ

こうした厳しい国内環境の中で、アエロン氏は、「インドの子どもたちは生まれ落ちたその瞬間から、戦うこと、そして競い合うことを教え込まれて育つ。良い職を得るためにアンテナを張り、自分を磨き続けることを意識している」という。

カトゥリア氏は、今回のインターンシップ面接について、「高度な技術や非技術面(マーケティングや『生活者発想』などの消費者理解、ビジネスプロセス)を現場で体得できる絶好の機会と捉えている。将来起業するにしても、まずは国際的な優良企業で組織の一員として働く実務経験が必要不可欠だ」と語った。

さらに、アエロン氏は、「僕たちは安定した正社員の仕事を求めている。誰もが人生のどこかで最終的には落ち着きたいと思っているからだ。ただ、良い仕事に就くためには、企業が求めるスキルがまず必要だ。だからこそ、インターンシップで十分な経験を積みたいと考えている。日本で腰を据えて長く働ける、正社員としての採用なら、迷わず挑戦したい」と、キャリアに対する高い熱量と現実的かつ真摯(しんし)な姿勢が示された。

なお、日々の学生生活についてアエロン氏は、「工学部の授業や研究は時に非常にハードになる」と触れつつ、前述したハピネスセンターが主催する水泳教室や週末のDJイベントやコメディーショーなどを積極的に活用してリフレッシュを図っているという。「ここでは単なるカウンセリングだけでなく、仲間と交流を楽しみながら学業と生活の健全なバランスを保つことができ、とてもありがたい」と語り、同センターが果たす役割を評価した。

グローバル人材獲得に向けた新たな可能性

チトカラ大学は、地域貢献と起業家精神、そして企業連携による実践的教育を軸に、即戦力となり得る人材を育む教育拠点だ。同学学生へのヒアリングからは、インド国内での競争的な環境下で磨かれた自走力や高い英語力に加え、将来のキャリアを見据えた高い実務志向と、日本企業での就労に対する強い関心が明確にうかがえた。

同学での日本の存在感は発展途上にあるものの、今回の大学キャラバンを通じたインターンシップなどの実践機会の提示は、潜在する意欲的な人材を掘り起こし、将来的な採用・獲得へとつなげる有効な一手となりそうだ(注) 。


大学キャラバンでの訪問を終えた、参加企業、大学関係者、ジェトロ関係者(大学提供)

注:
日本企業は、チトカラ大学など日本との連携に前向きなインドの大学と、採用やインターンシップを目的としたオンライン面談を行うことができる。詳細は「海外大学コネクションデスク」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ)
2025年、ジェトロ再入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。

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今後記事を追加していきます。

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