高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る産学連携で育む工学人材と広がる日本語教育:インドRMK工科大学

2026年10月8日

インド南部のIT・製造業の一大拠点であるタミル・ナドゥ(TN)州チェンナイ。その郊外に位置するRMK教育グループ(RMK Group of Institutions)は、3つの工科大学などを擁し、学生総数1万5,000人超を抱える私立の総合教育グループだ。その中核を担う1995年設立のRMK工科大学外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(RMK Engineering College)は国家評価認定評議会(NAAC)で上位の「A+」評価を取得しており、インド教育省が運営する国内大学ランキングのNIRFでエントリーしたインド全土の有力工科校約1,300校のうち151~200位群に位置する。コンピューターサイエンス(CSE/IT/人工知能〔AI〕)、電子通信(ECE/EEE)、機械工学(MECH)など学部・大学院を合わせて13の工学系課程を擁する、工学系中心の高等教育機関であり、理系高度人材の育成に特化した環境を整えている。

このRMK工科大学に、ジェトロは日本企業5社とともに「インド地方大学ミッション派遣(大学キャラバン)―チェンナイ編―」の一環として訪問した(2026年8月19日付ビジネス短信参照)。本稿では、同ミッションでの意見交換やキャンパスツアー、大学の各種公開データを基に、同学のポテンシャルや取り組みの現状を報告する(取材日:2026年8月4日)。


RMK工科大学正門(ジェトロ撮影)

カリキュラムの4割を産業界と共同設計「ナレッジ・パートナー制度」

同学教育の最大の特徴は、各分野の有力企業を「ナレッジ・パートナー」に指定し、産業界の現場ニーズを正規教育に直接組み込んでいる点にある(表1参照)。

表1:RMK工科大学の主なナレッジ・パートナー企業一覧
企業名 本社所在地(国名) 主要事業分野・領域 同学との連携(分野など)
Cognizant(コグニザント) 米国 ITコンサルティング・BPO AI / データサイエンス分野
HCL Tech(HCLテクノロジーズ) インド 組み込み・ハードウェア・IT Embedded Systems(組み込みシステム)分野
LTI Mindtree(LTIマインドツリー) インド デジタルソリューション・IT 包括的連携(MoU締結)
Soliton Technologies(ソリトン・テクノロジーズ) インド 半導体検証・計測・組み込み 包括的連携(MoU締結)
TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ) インド 総合ITサービス(タタ・グループ) コンピュータサイエンス・ビジネスシステム(CSBS)分野
Virtusa(ヴァーチュサ) 米国 ITサービス・デジタルエンジニアリング Full Stack / IT分野(カリキュラムの約4割を共同設計)
Wipro(ウィプロ) インド 総合ITサービス 包括的連携(MoU締結)

出所:大学公式ウェブサイトを基にジェトロ作成

パートナー企業は単なる提携先にとどまらず、各専攻の「教育課程審議会(Board of Studies)」の正規メンバーとして参画している。同学では各専攻の専門カリキュラムにおいて、これらパートナー企業が全体の約40%の設計に直接関与する実践教育モデルを導入しており、各社の実務に直結するドメイン特化型の最新知識や開発手法が授業内容にそのまま反映されている。

この仕組みの最大の強みは、実務教育がそのまま採用に直結する点だ。例えば米・コグニザントとの連携では、企業から提示された現場課題に学生が取り組み、社員メンターが直接指導する。その成果発表を通じて選考が行われ、受講生の約75%が同社への内定を獲得したという。産業界のニーズと大学教育を密接に結び付け、「学びを企業の即戦力育成と採用につなげる」仕組みが、同学の高い就職実績を支えている。

産学官ファンドで実現したものづくり拠点「IDEA Lab」

また、同学では学生の試作開発や実践的なものづくり教育を支援する施設として、学内に「AICTE(注1) IDEA Lab」を設置している。本ラボは、2021年にAICTEが選定した全国49機関の1つであり、設立スキームも極めて特徴的だ。AICTE、大学、地元産業界が各500万ルピー(約850万円、1ルピー=約1.7円)を出資し、計1,500万ルピーの「産学官三者共同ファンド」によって実現したという。

同ラボでは、産業用3Dプリンターや3Dスキャナーなどを学部生にも開放し、リバース・エンジニアリングや医療用モデルの可視化などに活用している。また、学生が開発した垂直離着陸(VTOL)対応の固定翼ドローンは、その実用性が認められ、インド政府から150万ルピーの追加開発資金を獲得した。

同学では、本ラボでの活動を正規カリキュラム(4単位)に組み込んでいる。学部生が日常的に高度機材を活用し、試作・製品化から特許出願、資金獲得までをワンストップで経験できる仕組みが、実践的な技術者の育成を支えている。

「日印共同ラボ」を通じた最先端の産学連携

同学は、日本との共同研究にも注力している。学内の「Indo-Japan Research Project / RMK-Japan Lab」では、教員と学生がチームを組み、日本の名古屋工業大学やトーエネック(本店・愛知県名古屋市)との産学共同研究プロジェクト(AI技術など)を進めている。

同ラボを視察した際、日本就職を目指して日本語を勉強中の女子学生らにヒアリングを行った。「日本の規則正しさや時間厳守の文化に強くひかれている」と語る彼女たちが紹介してくれたのは、AIを活用した「都市ヒートアイランド現象の予測モデル」だ。チェンナイ近郊の過去20年間の環境データを解析し、将来の地表面温度を高精度に予測するもので、緑地の減少と気温上昇の関係を可視化することで、都市計画や熱害対策に役立てる実用的な研究だ。


日印共同研究ラボにて研究成果を説明する学生たち(ジェトロ撮影)

内定辞退リスクを抑える独自の「Placement(就職)」ポリシー

就職担当者によると、同学のキャンパス採用には年間200~250社が訪れ、就職率は88~90%に達するという。他方で、インドに限らず、新卒採用で日本企業が懸念するのが「内定辞退」と「早期離職」だ。インドの大学ではキャンパス採用(Campus Placement)が主流であり、最高峰のインド工科大学(IIT)などでは、「1人1オファー制(One Student, One Job)」が厳格に運用されている。これは、優秀な一部の学生による内定の重複確保や直前辞退によって企業側に欠員が出るのを防ぎ、大学と企業間の信頼関係を維持するために、内定を1社得た時点で就職活動を終了し、以降の選考参加を認めない制度だ。これに対し、一般的な私立大学ではこの統制が緩く、学生が複数の内定を確保して入社直前までてんびんにかけるケースが常態化しており、企業の採用計画を大きく狂わせる要因となっている。

こうした課題に対し、同学の大きな特徴となっているのが、学生のステップアップ意欲を認めつつ無秩序な複数内定や辞退を抑制する、合理的な「給与帯(バンディング)別内定ルール」の運用だ。オファーは提示年収に応じて以下の4区分に分類されている(表2参照)。

表2:RMK工科大学における就職時の年収帯区分 (ーは記載なし)
区分 年収(ルピー) 年収(円換算) 備考
レギュラー・オファー(Regular) 60万未満 約102万円未満 初年度年収の平均は35万~40万ルピー。
ドリーム・オファー(Dream) 60万以上~100万未満 約102万以上~170万円未満 —
スーパー・ドリーム・オファー(Super Dream) 100万以上~200万未満 約170万以上~340万円未満 —
マーキー・オファー(Marquee/最上位) 200万以上 約340万円以上 主に国際採用・日本勤務案件。

出所:同学へのヒアリングを基にジェトロ作成

ルールとして、同等の給与帯内での内定重複や乗り換えは一切禁止されている。ただし、「レギュラー」を得た学生が、より上の給与帯である「スーパー・ドリーム」や「マーキー」への挑戦は認められている。

このルールの強みは、「日本勤務などの高額な国際オファー(マーキー帯)であれば、国内の内定を保持していても正々堂々と挑戦・移行できる」点だ。同学の就職担当者によれば、「過去4~5年間、日本企業からの内定を獲得した学生の辞退は一例も発生していない」という。

企業側との質疑応答では、「欧米志向が強いインドにおいて、なぜ日本なのか」という質問も提示された。これに対し大学側は、「米国のH-1Bビザ規制など、就労ビザ取得の厳格化が進んでいることもあるが、それ以上にTN州は自動車・製造業を中心に古くから日系企業が集積しており、文化的に日本に対するリスペクトや親近感が強い。さらに、日本企業で働く同窓生(アルムナイ)が『日本は生活環境が良く、安心できる環境で技術者としてじっくりキャリアを積める』との実体験を後輩に共有していることが最大の動機となっている」と語った。


大学と日本企業との意見交換の様子(ジェトロ撮影)

全学規模に拡大する「日本語教育」とアルムナイの存在

同学ではキャリア開発センターの下に外国語センターを置き、日本語とドイツ語の教育を行っている。2025年からは1年生の正規カリキュラムに「外国語の必修監査コース」が組み込まれ、学生は日本語またはドイツ語を履修する仕組みとなった。その結果、約50%(約1,800人)の学生が自発的に日本語を選択・登録をしたという(表3参照)。初年度に日本語学習者の裾野を広げ、進級後はJLPT対策などを通じて継続学習を支援している。

表3:RMK工科大学 2025年JLPTレベル別受験状況および登録者数(単位:人)注: 1.本集計はRMK教育グループ傘下の工学系カレッジを対象としたもの。 2.1年生は基礎導入・履修登録期間中(または集計確定前)のため表から除外している。 3.2年生のN5登録数(1,833人)は、前年度に1年次必修(単位外)科目として日本語を選択・登録した学生数であり、進級後に順次JLPT(N5〜N4レベル)の受験を進めている。 4.3年生・最終学年の数値は、本格導入以前より自主的・継続的に学習している学生を対象としたJLPT対策コースの実績。 5.N3コースの合計修了数(7人)および合格数(6人)は、現役学年の学内コース登録枠にとどまらず、先行して独自に学習・受験した学生実績等を含めた大学側の最新確認データに基づく。
年次(学年) N5コース
登録数
N5コース
修了数
N5
合格数
N4コース
登録数
N4コース
修了数
N4
合格数
N3コース
登録数
N3コース
修了数
N3
合格数
2年生 1,833 — — — — — — — —
3年生 220 125 54 34 3 — — — —
最終学年
(4年生)
138 55 29 24 10 5 5 — —
合計 2,191 180 83 58 13 5 5 7 6

注:
1.本集計はRMK教育グループ傘下の工学系カレッジを対象としたもの。
2.1年生は基礎導入・履修登録期間中(または集計確定前)のため表から除外している。
3.2年生のN5登録数(1,833人)は、前年度に1年次必修(単位外)科目として日本語を選択・登録した学生数であり、進級後に順次JLPT(N5〜N4レベル)の受験を進めている。
4.3年生・最終学年の数値は、本格導入以前より自主的・継続的に学習している学生を対象としたJLPT対策コースの実績。
5.N3コースの合計修了数(7人)および合格数(6人)は、現役学年の学内コース登録枠にとどまらず、先行して独自に学習・受験した学生実績等を含めた大学側の最新確認データに基づく。

出所:大学提供資料を基にジェトロ作成

同学では単に語学を教えるだけでなく、ABK AOTSチェンナイ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、日印商工会議所(IJCCI)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、インドの人材サービス大手傘下の語学教育部門であるミライ・アカデミーなどの外部機関と提携し、質の高い日本語の授業を提供している。

また、学生主体の「RMK日本語クラブ」が設立されており、漢字クイズ、アニメ・マンガ創作、折り紙、書道、日本語自己紹介スピーチなどのアクティビティーを通じて、楽しみながら日本文化に親しむ環境が整えられている。2025年11月には、インド人材に関心を寄せる岩手県北上市の企業代表団17人が同学を訪問した際、クラブの公式発足式が開催された。

これらの日本語教育を支えているのが、強固なアルムナイ・ネットワークだ。同学は3年前に日本に同窓会支部(Japan Alumni Chapter)を設立した。トヨタのコアR&D部門で活躍する卒業生をはじめ、ルネサス エレクトロニクス、ホンダR&D、カカクコム、富士通などで働く卒業生たちが定期的に母校を訪問・オンラインで交流し、在校生の研究指導やモチベーション向上に大きく貢献しているという。

日本企業にとっての新たな選択肢

「産学連携による実践教育」「全学規模の日本語教育」。RMK工科大学は、日本での活躍を目指す工学系人材を育成するための環境を備えている。約2,000人規模の裾野を持つ日本語履修登録者層から育つ、意欲的な人材とともに、日本で活躍するアルムナイによる強固な定着支援体制も整う。IT・製造業分野でインド人材の採用を検討する日本企業にとって、同学は候補校の1つとなり得る存在だ(注2)。


注1:
All India Council for Technical Education。 本文に戻る
注2:
日本企業は、RMK工科大学など、日本との関係構築に前向きなインドの大学とオンラインで面談が可能。詳細は「海外大学コネクションデスク」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ)
2025年、ジェトロ再入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。

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