高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る規模と実学志向で連携加速:インド南部のベロール工科大学

2026年2月19日

インド南部タミル・ナドゥ州の州都チェンナイから西へ約140キロのベロール・カトパディに広大なキャンパスを構え、4万5,000人の学生を擁するベロール工科大学(Vellore Institute of Technology、以下VIT)が、日本企業に熱い視線を注いでいる。同大はジェトロの日本企業との交流イベントにも登壇するなど、日本企業への働きかけを強めている(2024年5月20日付ビジネス短信参照)。

ジェトロが2025年11月に実施した現地ヒアリングでは、企業のニーズに極めて柔軟に応える同大の独自システムが確認された。通年での企業の採用活動支援に加え、学部生は6カ月、大学院生は1年に及ぶ「長期インターンシップ」が可能であり、日本企業との連携事例も生まれつつある。本レポートでは、現地ヒアリングと大学のデータを基に、VITの概要と日本企業との連携の可能性について報告する。

研究大学へ変革する巨大実学都市

VIT(注)本拠地であるベロールキャンパスは、370エーカー(東京ドーム約32個分)という広大な敷地を有する。緑豊かな並木道に加え、近代的な研究棟、巨大な学生寮、スポーツ施設などが完備され、さながら1つの「街」の様相を呈している。ここは、学生と教職員が生活の全てを完結させる巨大な学術都市だ。

VITは1984年に設立され、現在はベロールに加え、チェンナイ、インド南部アンドラ・プラデシュ(AP)州都アマラバティ、西部マディヤ・プラデシュ州都ボパールなど、インド国内に6つのキャンパスと1つのインターナショナルスクールを展開する私立大学だ。4万人を超えるベロールキャンパスのほかチェンナイキャンパスには2万3,000人、AP州キャンパスには1万8,000人の学生が在籍しており、この大規模な「数」の母集団こそがVITの最大の特徴の1つである。

その規模だけでなく、教育・研究の質においても高い評価を得ている。「QS世界大学ランキング(工学・技術分野)2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で世界142位にランクインしており、インド国内に限るとエンジニアリング部門が9位に位置している。注目すべき点は、VITが掲げる研究ビジョンの変革である。国際連携担当ディレクター、R・シーニバサン氏によると、かつては論文出版数(Publications)を主要な指標としていたが、現在はより実利的な「特許(Patents)」「製品化(Products)」「商業化(Commercialization)」へと舵(かじ)を切っているという。「論文発表だけでなく特許の取得のための発明を強く奨励している。研究成果を単なる学術発表で終わらせず、社会実装可能な製品やビジネスへと昇華させることが、現在のVITの核心的なビジョンである」と同氏は語る。VITは人工知能(AI)やデータサイエンスの分野でインド国内トップクラスの評価を得ており、ベロールキャンパス内にはサイバーセキュリティー、IoT(モノのインターネット)など、先端技術に特化した27の学部と研究センターが設置されている。

表:QS世界大学ランキングによる、VITの分野別世界・国内順位
分野 世界順位 インド
国内順位
工学・テクノロジー(Engineering & Technology) 142 9
コンピューターサイエンス・情報システム(Computer Science & Information Systems) 110 4~7
データサイエンス・人工知能(Data Science and Artificial Intelligence) 51~100 1~7
電気・電子工学(Engineering - Electrical & Electronic) 151~200 7~10
機械・航空・製造工学(Engineering - Mechanical, Aeronautical & Manufacturing) 201~250 9~10
化学工学(Engineering - Chemical) 251~300 9~11
自然科学(Natural Sciences) 362 11
マテリアル科学(Materials Science) 151~200 7
数学(Mathematics) 201~250 7~9
統計・オペレーションズリサーチ(Statistics & Operational Research) 251~275 8
化学(Chemistry) 301~350 9~11
物理学・天文学(Physics & Astronomy) 401~450 10~15
環境科学(Environmental Sciences) 451~500 13
生物学(Biological Sciences) 351~400 8~9
農林学(Agriculture & Forestry) 351~400 11~12
経営学(Business & Management Studies) 551~600 23~27

出所:「QS世界大学ランキング2025」と同大学提供資料を基にジェトロ作成

長期インターンシップ制度など企業主導で柔軟な採用支援

VIT学生向けの就職活動(プレースメント)シーズンは、例年7月から始まり、翌年3月まで長期間にわたって継続される。VITの採用システムは極めて柔軟であり、企業側のスケジュールやニーズに合わせて活動を展開しやすいという利点がある。企業は希望する日程でキャンパスを訪問し、選考ができる。キャリア開発センター(Career Development Center、 以下CDC)のK・ラマナタン氏、スシャント・ゴーラフ氏によれば、年間を通じて約1,000社近い企業が採用活動のためにキャンパスを訪れており、ピーク時には毎日3〜4社が説明会や選考を行っているという。

日本企業にとって魅力となり得るのが、カリキュラムに組み込まれた単位認定型の「長期インターンシップ制度」である。現地ヒアリング(2025年11月17日)で、就職担当者はその仕組みを次のように説明した。

  • 理工系学部生(B.Tech):最終学期(8学期目、1学年2学期制)の「通常1月からの6カ月間」 
  • 大学院生(PG):最終学年の「1年間」

多くの大学が2〜3カ月の夏季インターンシップを主流とする中、VITでは学部生なら6カ月、大学院生なら1年という長期間、学生を現場に受け入れることが可能である。まずはインターンシップ生として受け入れ、そのパフォーマンスを見極めた上で内定(PPO: Pre-Placement Offer)に切り替えるこの手法について、ゴーラフ氏は「日本企業が懸念する採用ミスマッチやリスクを低減できる、極めて有効なモデルではないか」との見解を示している。

明確な給与水準と提示カテゴリー

ポテンシャル採用を重視し、新卒初任給が横並びとなることが多い日本企業にとっては馴染みが薄いが、インドの採用現場では、企業のジョブオファーが給与総額(CTC: Cost to Company)に基づいて明確にランク分けされるのが一般的だ。VITの実績データもこの現地の慣習にのっとり、「金額」を基準とした階層構造でシビアに整理されている。2025年卒の採用実績を見ると、オファー全体のうち最上位の「Super Dream Offer」が約19%、「Dream Offer」が約15%を占めている。

インドの著しい物価上昇に伴い相場も年々変化しているが、エンジニア職を希望する学生に提示される具体的なCTCについて、今回のヒアリングでは、以下の基準が示された。

  • CTC:年間120万ルピー(約204万円、1ルピー=約1.7円)。
  • 最低給与要件:年間40万ルピー。大学側は、この水準を下回る企業には採用活動を許可しない方針を徹底している。
  • 最高額: 1,000万ルピーを超える提示も存在する。

日本企業が提示する一般的なCTCは、VIT卒生の平均を上回っており、学生にとって十分に魅力的な水準である。ただし、トップ層は欧米企業などからの高額提示をターゲットとしているため、日本企業が彼らを獲得するためには、給与だけでなく、技術面での成長環境やキャリアパスの魅力を訴求していく必要があるであろう。

日本語教育とキャンパス内日本企業拠点の設置事例

VITには現在、基礎的な日本語スキルを持つ学生が約150人在籍している。これは、毎学期の始まりに約300人が受講する学内の日本語コースに加え、学生自身がキャリアの可能性を広げるために自主的に学習を継続しているからだという。学内コースは基礎レベル(1学期分)にとどまるため、ビジネスレベルを求める企業には追加教育が必要になると大学側は認識している。企業の要望に応じて外部機関と連携し、高度な日本語教育やビジネスマナー研修を提供する用意があるという。

また、CDCのラマナタン氏は、日本企業との連携のモデルケースとして、日本の半導体関連企業テクダイヤの事例を挙げた。同社はVITのベロールキャンパス内にインキュベーションセンター(インターンシップ拠点)を設置している。この連携は、当初、教員(研究者)間の共同研究プロジェクトからスタートしたものであった。研究交流を通じて信頼関係が構築され、その後、学生のインターンシップ受け入れ、そして採用へと段階的に発展した。現在、学生はキャンパス内のセンターで同社の業務に従事し、実務経験を積んだ上で、同社のベンガルール拠点などでの採用につながっているという。「開所式には、日本人最高経営責任者(CEO)も来訪した。研究から始まり、インターンシップ、雇用へとつながる好循環が生まれている」と同氏は語る。この事例は、単なる採用活動にとどまらず、共同研究やインターンシップを通じて大学内に「自社の人材育成拠点」を築くことが可能であることを示唆している。

日本企業の合同採用イベントなど連携強化へ

大学側は、日本企業との接点を増やすために極めて協力的である。ジェトロの「海外大学コネクションデスク」を活用した、日本企業とのオンライン面談への興味や利用について尋ねたところ、CDCのゴーラフ氏は「もちろん」と即答し、日本企業へのインターンシップ派遣や採用、共同研究などを積極的に拡大したいと率直な意欲を語った。

具体的な採用プロセスについては、大規模大学ゆえに学生数が膨大であるため、事前に職務記述書(JD)に基づいて対象学生をスクリーニングし、意欲と能力のある100〜200人程度に絞り込んで選考を進めるという。また、同氏は日本企業向けに採用イベントをカスタマイズ可能だと述べる。開催形式やスケジュールに柔軟に対応できる点は、企業主導で動きたい日本企業にとって大きなメリットとなるだろう。

新たな選択肢としてのVIT

広大なキャンパスに集う大規模な学生層と、「特許・製品化」を重視する実学志向の教育システムを持つVITは、日本企業にとって未開拓の巨大な人材供給源となる可能性がある。通年での採用が可能なことや長期インターンシップの送り出しに柔軟なVITは、エンジニア採用における有力な選択肢となり得るであろう。企業の実務を通じた評価期間を確保しながら、時間をかけて学生を見極められるVITとのパートナーシップは、日本企業がインドで独自の採用基盤を築くための、有効な一手となるだろう。


ジェトロと大学関係者との面談時の様子(VIT提供)

注:
日本との関係構築に前向きなインド73大学などをまとめたジェトロの「海外大学ディレクトリー」67ページ参照。本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ)
2025年、ジェトロ再入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。