高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る70年に及ぶ外国語人材育成:ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学
2026年4月28日
ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学(以下、ハノイ外国語大学)(注1)は、2025年に開学70周年を迎えた。日本語教育についても、1990年の専門学科創設以来、長年にわたり行っている。2026年現在、日本言語文化学部の学生の多くは、日本語能力試験(JLPT)(注2)において最高難易度であるN1を卒業までに取得している。専門的な語学力を身に付けた卒業生たちは、企業のみならず教育業界でも活躍しており、ベトナムにおける日本語教育を牽引する存在となっている。
本稿では、ハノイ外国語大学の沿革と発展、さらに同大学の日本語教育の現状と企業との連携について、同大学日本言語文化学部長のチャン・キエウ・フエー氏に聞いた(取材日:2026年3月11日)。

- 質問:
- 大学と学部の成り立ちは。
- 答え:
- ハノイ外国語大学の前身は、1955年に設立された外国語学校にさかのぼる。その後、ハノイ師範大学の外国語学部に統合され、ハノイ外国語師範大学を経て、1993年にベトナム国家大学ハノイ校の再編に伴い、同大学の傘下機関としてハノイ外国語大学となった。略称であるULISは、University of Languages and International Studiesの頭文字を取ったものである。
- 設立当初はロシア語・中国語・英語の教育からスタートし、その後さまざまな言語に拡大した。このうち、日本語教育は1990年、日本語学科の設置に伴い開始された。当初は第2外国語として位置付けられていたが、2000年には現在の日本言語文化学部に昇格した。さらに2010年には、修士課程として国際連携・大学院課程を設けている。
- 質問:
- キャンパスの立地や学生の規模は。
- 答え:
- ハノイ市内カウザイ坊にキャンパスがある。全11学部のうち、7学部には修士課程、4学部に博士課程も設けており、全学で約8,000人の学生が在籍している(表参照)。日本言語文化学部にはこのうち、学士課程に約1,200人、修士課程に約80名の計1,280人ほどが在学している。
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表:学部の一覧 課程 学部名称 学士課程 英語言語文化学部 ロシア言語文化学部 フランス言語文化学部 中国言語文化学部 ドイツ言語文化学部 日本言語文化学部 韓国言語文化学部 アラビア言語文化学部 心理・リベラルアーツ教育学部 東南アジアベトナム言語文化学部 国際教育学部 修士課程 英語言語文化学部 ロシア言語文化学部 フランス言語文化学部 中国言語文化学部 ドイツ言語文化学部 日本言語文化学部 韓国言語文化学部 博士課程 英語言語文化学部 ロシア言語文化学部 フランス言語文化学部 中国言語文化学部 出所:同大学提供情報からジェトロ作成
- 質問:
- 教育の特色は。
- 答え:
- ハノイ外国語大学として、グローバルに活躍できる人材育成を基本方針としている。
- 本方針を踏まえ、日本語学部では、言語能力だけでなく、日本語教育や翻訳といった専門能力、人工知能(AI)活用やICTリテラシーなどのデジタル能力、さらに問題解決や多文化協働といった実務的能力の習得のための教育をめざしている。本学の日本言語文化学部は、日本語教育を行う大学としてベトナム最大規模を誇る。卒業生は、日本の大学における特任講師や、ベトナム各地の大学の教授・教員として活躍するほか、通訳など日本に関わるさまざまな分野で幅広く活躍している。
- 質問:
- 具体的な教育の内容は。
- 答え:
- 学士課程の1~2年目は、日本語の基礎(文法・作文・会話・読解)とともに、日本の文化などを教えている。3~4年目は、より専門性を高めるため、(1)通訳・翻訳、(2)経営・ビジネス、(3)言語・文化(日本研究)のいずれかのコースを選択する形式となる。
- 卒業時までの語学力の要求水準は、CEFR(注3)に準拠している。特に、日本言語文化学部の学生には、日本語ではCEFRのC1相当、英語はB2相当を習得できるようカリキュラムを組んでいる。日本語の能力だけでなく、英語能力も兼ね備えたグローバル人材であることを求めている。日本語能力についていえば、N1取得者は多い。
- 質問:
- 学生の就職動向や就職先の関心は。
- 答え:
- 卒業後の進路として最も多いのは、翻訳・通訳分野や政府系機関への就職である。民間企業への就職はこれに次ぎ、さらに学術研究や日本語教育の道に進む。近年の傾向として、教員を志望する学生がやや増加している。また、AIの台頭に伴って、通訳を志望する学生の間では、単なる通訳にとどまらないスキルを身につけたいという声も高まっている。このため、現在カリキュラムの見直しが進められている。大学としては、よりビジネスに近い実践的な経験を積ませることを重視している。
- 質問:
- 学生に向けた就職支援の状況は。
- 答え:
- 全学でのジョブフェア「ULIS Job Fair」を毎年3月頃に開催している。フェアには、日本からの参加企業だけでなく、在ベトナム日系企業、ベトナム企業、韓国企業など、約50社がブースを出展している。例年、学士課程の2~3年生が多く参加している。
- 質問:
- 採用を希望する企業にとって、どのような協力の形式が考えられるか。
- 答え:
- 先に述べたジョブフェアへの参加に加え、学生課が中心となって、「ULIS Career Hub」と呼ばれるキャリア支援拠点を設置し、学生をサポートする取り組みを始めている。同拠点に連絡して企業情報を登録すれば、外国語大学から採用イベントに関する情報を受けられるほか、時期によっては、学内での面接や採用活動を行うための登録も可能だ。
- また、「ULIS JAPAN DAY」という日本をテーマにした文化祭も実施している。本イベントにブースを出展する日系企業もある。就職を前提としているものではないが、日本語を専攻する学生が主に参加するため、学生との交流や企業の認知度向上を目的とする場合には、有意義な機会となり得る。
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ULIS JAPAN DAYの様子(ジェトロ撮影) 
ULIS JAPAN DAYの企業ブース(ジェトロ撮影) - 質問:
- インターンシップなど、その他の取り組みは。
- 答え:
- 在ベトナム日系企業にはインターンシップを受け入れていただいている。日系企業の方から、国際交流イベントやスピーチコンテストに後援を頂くこともある。
- このほか、ゲスト講演や特別授業の開催、ビジネス用の日本語に関する共同研究の実施などでの連携が考えられる。例えば、ある企業からは特別授業として、マナー・おもてなし研修の実施に協力いただいた。日本言語文化学部としては、学生と日本企業の接点はぜひ増やしていきたいと考えている。
- なお、現時点では、日本に学生を派遣するインターンシッププログラムなどはあまり組成していない。
- 注1:
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「ベトナム国家大学ハノイ校」について、訳者によっては「ハノイ国家大学」と訳す場合がある。
- 注2:
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日本語能力試験は独立行政法人国際交流基金の実施する試験で、難易度はN5~N1の5段階がある。数字が小さいレベルの方が、難度が高い。 なおN1は最高難度であり「幅広い場面で使われる日本語を理解することができる」ことが認定の目安になる。
- 注3:
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CEFRはヨーロッパ共通言語参照枠のこと。外国語運用能力の評価基準で、初学者から順にA1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階となっている。
C1は「いろいろな種類の高度な内容のかなり長い文章を理解して、含意を把握できる。言葉を探しているという印象を与えずに、流暢(りゅうちょう)に、また自然に自己表現ができる。社会生活を営むため、また学問上や職業上の目的で、言葉を柔軟かつ効果的に用いることができる。複雑な話題について明確で、しっかりとした構成の、詳細な文章を作ることができる」とされる。
参考:各資格・検定試験とCEFRとの対照表(文部科学省)(277KB)
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
河野 尭広(こうの たかひろ) - 2015年、ジェトロ入構。新興国進出支援課、国際ビジネス人材課で高度外国人材活躍推進事業の立ち上げに従事。2021年、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、企画課を経て、2024年8月から現職。





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