高度外国人材を輩出する大学、その最前線に迫る産学連携・高度人材育成に注力するインドネシア有力私立大学の取組

2026年3月13日

インドネシアでは、自動車をはじめ、電機、機械などの日系製造業の集積が進んでおり、日本企業の現場文化や品質意識を理解した人材への需要も根強い。同国有数の私立総合大学であるBina Nusantara大学(以下、BINUS大学)は、こうした産業構造を踏まえ、日本との教育・人材交流を戦略的に推進してきた。その中でも、工学分野において日本型教育を体系的に導入している拠点が、BINUS大学内に設置されたBINUS ASO School of Engineering(以下、BINUS-ASO)である。今回は、BINUS-ASOのカリキュラムの特徴や日系企業との連携の現状、さらには将来的な期待について、フェルギアント・グナワン学部長、伊藤宏一副マネージングディレクターに聞いた(取材日:2026年1月15日)

高度人材育成の連携先として注目されるBINUS大学

インドネシアはASEAN最大の人口規模を有し、安定的な経済成長を続ける一方、雇用創出の拡大や中間層の安定的な形成といった課題が顕在化している。産業構造の高度化と同時に、若年層や労働人口を吸収できる質の高い雇用機会をいかに創出するかが大きな政策課題となっている。

こうした状況の下、日本企業にとってはインドネシアを単なる生産拠点や市場としてだけでなく、現地の人材育成や雇用創出に貢献しながら、ともに成長していくパートナーとして関与する姿勢がこれまで以上に求められている。製造業やデジタル分野において現場で即戦力となり、将来的には中核人材へと成長し得る高度人材の育成・確保が不可欠だ。その有力な連携先として注目が高まっているのが、BINUS大学だ。

BINUS大学は1974年のコンピューター教育機関を起源とし、1996年に大学として正式に設立された。現在では、ジャカルタを中心にインドネシア国内に15のキャンパスを展開し、情報技術・工学・デザイン・ビジネス・人文社会・観光といった幅広い分野で、国内有数の教育プログラムを提供している。学士課程(S1)を中心に、専門職課程(Professional Program)、修士課程(S2)、博士課程(S3)まで体系的に整備されている。また、インドネシア国内外の産業界が求める高度人材の育成に取り組んでおり、45,000人の学生が在籍(2024年時点)するインドネシア最大級の私立大学である。

同大学が一貫して重視しているのが、「Industry Relevance(産業との関連性)」という教育理念である。インターンシップの必修化、企業ニーズを反映したカリキュラム設計、実務経験を有する教員の登用などを通じ、卒業後すぐに社会で活躍できる人材育成を進めている。特にIT・工学分野では、日本企業を含む多国籍企業からの評価も高い。


(左から)伊藤宏一副マネージングディレクター、フェルギアント・グナワン学部長(ジェトロ撮影)
質問:
BINUS-ASOの成り立ちや教育体系は。
答え:
BINUS-ASOは2014年、日本のものづくり教育の考え方を取り入れ、国際的に通用する実践的エンジニアを育成することを目的に、BINUS大学と麻生専門学校グループとの戦略的パートナーシップに基づき設立した。
現在は、(1)自動車ロボティクス工学に283人、( 2)プロダクトデザイン工学に56人、( 3)ビジネスエンジニアリングに54人の学生が在籍。日本の麻生グループから、現場での経験豊富な日本人講師にも加わっていただき「工学・デザイン・ビジネス」を横断する実践的教育をしている。2026年9月には、キャンパスをBSDシティー(注)に移転する予定だ。学生も一学年100人から150人に増やしたいと考えている。
質問:
学生の語学力、日本文化への理解は。
答え:
BINUS-ASOでは、英語による専門教育を基本としつつ、全学生に「日本語Ⅰ(第1学期)」から「日本語Ⅴ(第5学期)」の履修を義務付けている。また、日本語検定協会とMOUを締結し、在学中から日本語力を定期的に測定できる機会を拡充している。学生は到達度を客観的に把握しながら学習を継続しやすくなり、日系企業側にとっても応募段階で日本語力の目安を確認しやすい環境づくりにつながっている。さらに、日本人講師による5S、品質管理、改善活動、チームワークといった日本型ものづくりの考え方や、あいさつ・時間厳守などといった規律を重んじる姿勢など、日本の職場文化を意識した教育環境も整えている。

プロダクトデザイン工学内(左は伊藤講師)の様子(ジェトロ撮影)
なお、BINUS-ASOの学生は1カ月間、日本の麻生塾で研修を受ける機会がある。この研修では、麻生塾教員による自動車、ロボティクス、プロダクトデザイン分野の実践的な研修を受けるとともに、日本の文化や礼儀作法などを集中的に学ぶことができる。

麻生塾での研修の様子(BINUS大学提供)
質問:
日系企業との連携状況は。
答え:
BINUS-ASOは自動車産業およびテクノロジー関連分野との協力強化を重視しており、日立建機や安川電機などの日系企業と産学連携協定(MOU)を締結し、インターンシップを実施している。また、ソフトバンクとのロボットティーチング授業や、ダイハツとのカイゼントレーニングなども進めており、学生が日本型ものづくりや品質管理、現場で求められる工学系スキルに接する機会は増加している。
BINUS-ASOでは、学生の就業準備およびキャリア形成を強化するため、企業各社と連携したキャンパス内採用活動を定期的に実施しており、2025年も日系企業との採用イベントを実施した。また、BINUS-ASO主催のジョブフェアには、自動車やIT系の日系企業から複数社に参加いただいており、引き続き連携を強化していきたい。

日系企業とのインターンシップの様子(BINUS大学提供)

質問:
学生の日本企業志向についてどうみているか。
答え:
学生は製造業・自動車・テクノロジー分野を中心に、日本の高度な技術力、産業文化、整った労働環境に魅力を感じており、卒業後に日本での就労を希望している者が多い。これまでにも、自動車、精密機器、素材、食品など各分野の日系企業18社に卒業生を輩出している。
質問:
日本企業にどのような連携を期待しているか。
答え:
BINUS-ASOは、日本企業にとって工学系人材との実務的な接点を持ちやすい拠点となっているため、インターンシップや採用に加え、教育・研究面での協力も含めた中長期的なパートナーシップの構築を期待している。 BINUS大学では、大学全体のキャリア支援組織と各学部が連携し、企業との協力関係を構築している。BINUS-ASOとの連携・採用・協業に関心がある場合には直接ご連絡いただきたい。
また、毎年7月に学生プロジェクト展示会を開催している。この展示会では、学生が学術・実践両面の成果を産業界のパートナー企業に対して発表するものであり、企業側にとっては優秀な人材の発掘や学生との直接的な接点を築く場となっている。こちらに関心がある場合も連絡いただきたい。

注:
「BSDシティー」は、バンテン州タンゲラン県(ジャカルタ大都市圏郊外)で進む大規模都市開発プロジェクト。管理するのは、インドネシア不動産最大手のシナルマスランド。都市機能(住宅、商業施設、学校、病院、公園など)を備えたスマートシティーの構築を目指している。 本文に戻る
BINUS-ASO School of Engineering
学部長 フェルギアント・グナワン (Dean: Fergyanto E. Gunawan)
Email:fgunawan@binus.edu (日本語、英語可)
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 次長
高田 尚(たかだ なお)
2009年、経済産業省入省。エネルギー政策、貿易経済協力政策、中小企業政策を担当した後、大臣官房秘書課を経て、2024年7月から現職。