高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは米国・EU・日本の政策
デジタル社会を支えるデータセンター(1)
2026年3月30日
データセンターは、デジタル社会の基幹インフラとしてその重要性が急速に高まっている。世界のデータセンター市場は、2025年に前年比8.8%増の約4,525億ドルとなり、2029年には約6,241億ドルに達すると予測されている(注1)。これは生成人工知能(AI)やクラウド利用の急増を反映したもので、膨大な計算資源と安全なデータ処理基盤の確保が国家競争力の要となっている。本連載では、データセンターおよびクラウド基盤の整備に関する主要国・地域の戦略や支援策について、経済安全保障の観点から概観する。連載1本目となる本稿では、米国・EU・日本を取り上げ、政策動向をまとめる。いずれもデータセンターやクラウド基盤を戦略インフラとして位置付けるが、その整備方針や公的支援の枠組みは各地域の経済構造や安全保障観を色濃く反映し、異なる様相を呈している。
米国:強力な民間投資を軸に、政府支援も加速
データセンター数では米国が最多で4,000カ所超と突出しており、続く英国、ドイツ(それぞれ500カ所弱)に比して8倍を超える規模だ(注2)。米国でデータセンター数が突出して多い背景には、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)やマイクロソフト、グーグルといったクラウド大手の本社が集中し、需要と投資の起点が国内にある点が大きい。これらの企業は、他社データセンターにサーバーを設置してクラウドサービスを提供する(コロケーションの利用)こともあるが、自社でデータセンターを建設するケースが年々増加している。さらに、米国には個人だけでなく世界規模の企業によるデータ消費も含めた巨大な内需があること、工業用の大規模な土地確保が比較的容易であることなども重なり、数と規模の両面でデータセンターが集積しやすい構造が長年維持されてきた。
米国は民間投資主導の市場構造が強いものの、近年はAIインフラ競争の激化を背景に、連邦・州レベルで政策的後押しが強まっている。トランプ大統領は2025年7月23日、「AI行動計画」を発表した。この行動計画は(1)AIイノベーションの加速、(2)国内のAIインフラ構築、(3)AI外交・安全保障をリードの3本柱で、(2)にAIデータセンターの整備を含む(各柱の詳細は2026年1月19日付地域・分析レポート参照)。その具体的な実行命令として、トランプ大統領は同日、「データセンターインフラストラクチャーの連邦許可の促進
(192KB)」と題する大統領令(Executive Order 14318)に署名した。米国の技術的支配力を高めることを政権の優先事項とし、AI関連のインフラ整備にかかるスピードを国家レベルで引き上げることが目的だ。AIデータセンターと、それを支える電力・設備・半導体・通信機器などの重要インフラで、一定以上の規模や国家安全保障上の重要性があるプロジェクトを「適格プロジェクト」と定め、表1に示したような優遇措置の対象とする。総じて、既存の制度や枠組みを総動員してAIインフラ向けに最適化する政策で、そこにいくつかの新しい運用ルールやイニシアチブを上乗せしたものだ。
| 施策の項目 | 具体的な施策内容 |
|---|---|
| 財政支援 |
商務長官は、科学技術政策局(OSTP)の局長や関係省庁と協議の上、適格プロジェクトを支援するための新しい財政支援イニシアチブを開始する。支援の内容には融資、融資保証、補助金、税制優遇措置、オフテイク契約などを含む。 また、各省庁は、国家安全保障に支障がない範囲で、既存の財政支援制度の中から適格プロジェクトに活用できるものを見いだし、OSTP局長に報告する。 |
| 連邦所有地の活用 | 内務省とエネルギー省は、民間事業者と協議し、さらに商務省とも連携した上で、適切と判断した連邦所有地の利用に必要な許認可を与える。国防長官は、必要または望ましいと判断した場合、軍施設内で対象設備の建設に適した場所を特定し、その土地をリースできるようにする。 |
| 遊休地の再生利用促進 | 汚染された可能性のある放棄地(ブラウンフィールド)や、有害廃棄物の浄化対象地(スーパーファンドサイト)を特定し、それらをデータセンターとして再利用できるようにするためのガイドラインを策定する。 |
| 環境レビューの迅速化 |
国家環境政策法(NEPA)における環境レビューの対象外にできる「カテゴリー除外」行為(注1)のうち、適格プロジェクトの建設を円滑に進めるために活用できるものを特定し、必要に応じて対象範囲を広げることで、承認プロセスを短縮する。 また、連邦政府による資金援助が50%未満の場合は、NEPAで環境レビューが義務付けられる「主要な連邦行動」とみなさないとして、手続きを簡素化する。 |
| 許認可審査の合理化 | 大気浄化法、水質浄化法、包括的環境対策・補償・責任法(スーパーファンド法)、有害物質規制法などの関連法令に基づき定められた規則を必要に応じて新たに整備・改正し、適格プロジェクトの許可を迅速化する。 |
| 生物・水関連の許認可効率化 |
建設候補地について絶滅危惧種法第7条に基づき行う事前協議について、プロジェクトごとの審査ではなく、今後10年間に共通して発生する建設作業をまとめて一括で審査する方式に切り替える。 水質浄化法第404条や河川港湾法第10条に基づく「全国共通許可」(注2)を新設する必要性を検討する。 |
| FAST-41(注3)による透明性向上 | 適格プロジェクトをFAST-41の「透明性プロジェクト」に指定し、ダッシュボード上で審査スケジュールなどを公開する。また、これらのプロジェクトをFAST-41に基づく「対象プロジェクト」へ可能な限り迅速に移行させ、審査プロセス全体の効率化を図る。 |
注1:過去の経験から「環境に大きな悪影響を及ぼさない」と判断されている行為は、NEPA上の手続きの対象外にでき、これを「カテゴリー除外」という。
注2:環境影響が小さく、かつ全国で共通するタイプの工事を事前に許可しておく制度。
注3:FAST‑41(Fixing America’s Surface Transportation Act – Title 41)とは、2015年に成立した、連邦レベルにおける許認可手続きの迅速化・透明化を目的とした枠組みのこと。プロジェクトはまず「透明性プロジェクト」に指定され、ダッシュボード上でプロジェクト情報と迅速化スケジュールが公開される。その後、基準を満たしたプロジェクトは「対象プロジェクト」に認定され、FAST-41の支援が正式に受けられるようになる。
出所:米国政府発表
州レベルでも、これまで以上に積極的な誘致競争が展開されている。全米州議会議員連盟(NCSL)によると、2025年11月時点で少なくとも37州がデータセンター向けの売上税免除や固定資産税減免などの優遇措置を提供している(注3)。カンザス州は投資額と雇用創出を条件に20年の売上税免除を導入するなど、長期的なインセンティブを掲げる州も増えている。なお、一部の州では電力・水資源の負荷増大や地域からの反発を背景に、優遇策の見直しも始まっている(注4)。
EU:主権性と域内基盤強化を追求、新たな法案提出か
EUでもクラウドインフラはデジタル主権、競争力、AI戦略、安全保障を支える基盤的かつ戦略的重要インフラとして扱われている。しかしながら、現状では米国のクラウド企業への依存が極めて高く、欧州のデータセンター需要の65%を米国企業3社が占めるとの予測もある(注5)。こうした中、米国クラウド法(CLOUD Act)など米国法の適用対象となるリスクも懸念されている。クラウド法は、米国の捜査機関が米国に拠点を置く通信・クラウドサービスプロバイダーに対して、データの保存場所に関わらず令状なしで情報開示を要求できる法令だ。そのため、米国外に所在する企業であっても、AWSやグーグルといった米国企業のクラウドを利用していると、米国捜査当局の求めに応じて情報が開示されてしまう可能性がある。また、欧州委員会はAI・量子など戦略技術全般の発展や、防衛・サイバーセキュリティー強化などのためにも、基盤インフラの拡充を重要視している(注6)。
こうした依存脱却と基盤強化のため、欧州委員会は2025年4月、「AI大陸行動計画」を打ち出した(2025年4月14日付ビジネス短信参照)。これに基づき、EUは域内のAI計算ハブとして「AIファクトリー」と「AIギガファクトリー」を整備している。「AIファクトリー」は各国のスーパーコンピュータ拠点を中核に、データセンターとAI訓練環境を一体化したネットワークだ。2025年10月時点で、16加盟国・19拠点にわたる。EUと加盟国、EuroHPC JU(注7)が共同で、AIファクトリーとアンテナ構想(注8)に合計26億ユーロ以上を拠出する予定だ。「AIギガファクトリー」はAIファクトリーをはるかに上回る数の最先端AIチップを配備した大規模な計算ハブ。EU域内に最大5つのAIギガファクトリーを設立する見込みで、民間投資も含めて最大200億ユーロを動員する。
さらに、「AI大陸行動計画」の施策の1つとして「クラウドおよびAI開発法(CADA)」の法案提出が予定されている。CADAは、大規模AIモデルの学習・推論に不可欠な高性能計算(HPC)資源やクラウドインフラを強化し、EU内の計算能力の拡充を推進するものだ。また、研究開発を加速させるための技術革新や、計算資源の効率化・分散化を支援する政策を進め、AI産業の基盤を底上げする。さらに、データセンター整備を阻害している法規制や許認可の遅れ、資源アクセス(電力・水・土地)の制約、事業者参入のハードルといった構造的障壁を取り除くことで、持続可能で競争力のあるクラウド・AIインフラの確立を目指す。これには、民間投資の促進や、環境負荷を軽減するデータセンター技術の普及も含まれる。さらに、CADAは機密性の高い用途に高度に対応できる安全なEU域内クラウドサービスの育成を重要視し、公共部門や重要インフラ分野を支えるための高セキュリティークラウドの確保を目指す。
日本:地方分散と強靭化がキーワード
日本政府は、AI時代に急増する計算資源需要と首都圏・大阪圏へのデータセンター集中、さらには自然災害リスクを背景に、データセンターをはじめとしたデジタルインフラの全国的な再配置と基盤強化を進めている。総務省は「データセンター、海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靱(きょうじん)化事業」を通じて、地方へのデータセンターなどの分散配置を補助。デジタルインフラ整備基金(総額1,300億円超)を財源に民間事業者を支援している。実際に北海道苫小牧市では、ソフトバンクによる大規模データセンター整備に対し最大300億円の補助が行われており、生成AI用計算基盤としての活用が見込まれている。さらに、総務省は2025年6月、「デジタルインフラ整備計画2030
(1.46MB)」を策定し、データセンターと海底ケーブルの一体的整備、光ファイバー・5G・非地上系ネットワークを組み合わせた多層的な通信網の構築を推進している。この計画では、地方でデータを生成・処理し地域課題の解決につなげる「データの地産地消」モデルを支え、生成AIによる計算需要の増大に対応しつつ、災害時にも通信機能が維持される強靱な基盤を整えることを目的としている。
経済産業省は経済安全保障推進法に基づき、クラウドプログラムの安定供給確保
を支援している。また、AI用の高度な電子計算機の導入を進める事業者に対し、助成金を交付している。さくらインターネット(最大575億円)、ソフトバンク(最大474億円)、KDDI(最大102億4,000万円)など、大手事業者に対して大規模な助成が行われており、AI関連クラウド基盤を国内で自立的に供給する体制を構築している。また、福島県大熊町では、被災地の復興とAIインフラ強化を兼ねて、スタートアップのルティリアとその子会社であるAI福島がデータセンターを2棟建設した。2号棟のサーバー整備費用などが助成対象になった(最大25億6,000万円)。
また、自治体レベルでもデータセンター誘致競争が激化している。設備投資額への直接補助が最も一般的だが、地元人材の新規雇用や賃料に対する補助、再生可能エネルギーの導入支援など、地域ごとに多様な支援制度が展開されている(表2参照)。
| 自治体名 | 支援策の概要 |
|---|---|
| 東京都 | データセンターの省エネ・高効率化に資する先駆的技術の実装を支援する「データセンター高効率化実装促進事業」を実施。協定金(注1)の上限は大規模事業では2億5,000万円、中小規模事業では5,000万円。2025年には採択事例(KDDI)も公表済み。 |
| 石川県 | 「データセンター立地促進補助金」に基づき、データセンターの新設に投資額の10~25%(上限額は県と市町の補助を合わせて20億円)、増設に7.5~15%(上限額は県と市町の補助を合わせて10億円)を提供。地域により補助率が変動。さらに、常時雇用者の純増数×50万円も加算される。 |
| 奈良県 | 「データセンター立地促進補助金」に基づき、データセンターを立地する企業に対して固定資産投資額の5%(上限2億円)を補助。 |
| 徳島県 | 「情報通信関連事業立地促進補助制度」に基づき、新設するデータセンター事業でさまざまな補助を受けられる。新規地元雇用者増に対する助成(1人につき70万円)、専用通信回線使用料(2分の1補助)、事業所賃料(2分の1補助)ほか。 |
| 北海道 | 産業振興条例に基づく企業立地促進費補助金により、データセンターの新設に投資額の10%(上限額は一般型で3億円、環境配慮型で5億円)、増設に5%(上限額は一般型で1億5,000万円、環境配慮型で2億5,000万円)を補助。 |
|
札幌市 (北海道) |
「札幌圏設備投資促進補助金」では、札幌市内にデータセンターを新設、増設、または市内移転する事業者を対象に、取得固定資産評価額の10%(上限5億円)を補助。 |
|
石狩市 (北海道) |
「地域未来投資促進条例」に基づき、データセンター事業者が再生可能エネルギー利用設備・機器を設置する場合、投資額の2分の1(上限5,000万円)を助成。 |
|
仙台市 (宮城県) |
「ソフトウェア業・デジタルコンテンツ業・データセンター立地促進助成金」により、データセンターの新設・増設・市内移転に対し、新規投資に係る固定資産税等相当額の100%を3年間助成(限度額なし)。重点加算地域ではさらに2年間延長される。 |
注1:本事業では、採択された企業等と東京都が協定を締結し、その協定に基づいて東京都が事業に要した経費の一部を「協定金」として支払う。
注2:それぞれの自治体で補助対象となる事業には条件が課されている。
出所:各自治体ウェブサイト
三者三様のデータセンター政策
このように、AI・クラウド基盤を巡る政策は、各地域の強みと課題を示すとともに、今後の経済・産業構造を左右する重要な指針となっている。米国は民間主導の産業構造を前提にしつつ、NEPA環境審査の迅速化や連邦所有地の活用など、許認可制度の最適化を通じてデータセンター整備を後押しする「規制・制度改革型」のアプローチを強めている。EUは米国依存からの脱却と域内計算基盤の拡充を重視し、大規模計算基盤をEUと加盟国が共同で整備する「公的インフラ投資型」の戦略を採用している。これに対し、日本はデジタルインフラ整備基金などを通じ、データセンター建設そのものに補助金を投入する「直接支援型」を特徴としており、地方分散と国内事業者によるAIインフラ強靱化を推進している。こうした各国・地域の政策に後押しされ、民間投資がさらに加速することが予想される。
- 注1:
-
Statista Market Insightsのデータ
参照。 - 注2:
-
Statista(原出所:Cloudscene)のデータ
参照。 - 注3:
-
全米州議会議員連盟(NCSL)「Policy Snapshot: Data Center Incentives
」参照。 - 注4:
-
例えば、イリノイ州は2026年から税優遇を2年間凍結する方針を打ち出し、データセンターの経済・電力に対する影響を再評価する姿勢を示した。さらに、オクラホマ州、ニューヨーク州、メリーランド州、ジョージア州では、データセンターの設置を一時停止または全面禁止する法案が提出され、審議中だ(2026年2月13日付ビジネス短信参照)。
- 注5:
-
イタリア前首相で欧州中央銀行(ECB)総裁を務めたマリオ・ドラギ氏が発表した報告書の1つである「The future of European competitiveness
」参照。 - 注6:
-
欧州委員会「State of the Digital Decade 2025: Keep building the EU's sovereignty and digital future
」参照。 - 注7:
-
欧州高性能コンピューティング共同事業。EUにおける世界水準のスパコンの開発やデータインフラの展開を加速させるために、EUと加盟国などが共同出資する事業(2020年10月22日付ビジネス短信参照)。
- 注8:
-
欧州委員会が2025年10月13日に発表した、AIファクトリーと連携し、EU加盟国とパートナー国に欧州のAIインフラへの安全な遠隔アクセスを提供するという構想。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。






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