高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは製造業の7割に影響
BIS強制認証に直面するインド日系企業(1)

2026年2月19日

昨今の世界情勢は、米中対立の長期化やロシアのウクライナ侵攻、米国のベネズエラ軍事介入など不確実性を伴いながら大きな変動期を迎えている。このような環境の中、各国は経済安全保障を軸とした政策を強化している。インドでは、長年の課題である中国への輸入依存、貿易赤字の縮小に向けた製造業振興策「メーク・イン・インディア」や、自国産業の保護を目的としたインド標準規格局(BIS)による「BIS強制認証制度」(注1)などを推進している。強制認証制度では対象製品の拡大など規制内容が強化され、在インド日系企業およびインド進出を検討している日本企業にも影響を及ぼしているものと思われる。

本稿では、BIS規制の概要や近年の動向、加えてジェトロが2025年8~9月にかけて調査を実施した「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)(注2)の調査結果から得られた在インド日系企業の実態を整理していく。

BIS強制認証制度の概要

BIS認証取得は、基本的には自主申請・認証付与のスキームだが、「公益」「健康保全」「環境保護」「不公正貿易」「安全保障」などを勘案し、品目によっては認証取得が義務付けられている。この強制認証対象品目(スキームI)は、管轄省庁が発行する「品質管理令(Quality Control Order: QCO)」により規定され、認証取得後には規格マークの使用が義務付けられる。近年は、スキームIの品目数が増加しており、2025年10月時点で773品目と、2014年から7倍以上に対象品目が増加した(図1参照)。対象品目は、BIS公式サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の「Products Under Compulsory Certification (強制認証対象品目)、Scheme-I (スキームI)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」に掲載されている。また、強制認証品目の対象該否は、前述のBIS公式サイトならびに各省庁のウェブサイトでも確認が可能だ(2024年3月18日付地域・分析レポート参照)。

図1:BIS強制認証対象品目(スキームI)の品目数
2014年106品目、2025年773品目。2014年から2025年にかけて約7倍。

出所:インド商工省の発表(2025年10月)を基にジェトロ作成

特に各社製品の材料となるねじ、ボルト類などが強制認証取得の対象となった2024年からは、サプライチェーンへの影響が顕著になり始めた。同年8月には、1つの品目にとどまらない「設備・電気機器安全規則(包括的技術規制、OTR)」が発表された。国内で流通する広範囲の設備・電気機器に、強制認証取得やOTRに基づく「スキームX外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」に従った規格準拠証明書の取得、OTR記載の安全規格への適合を義務付けた。当初は1年後に施行すると定められたが、産業界からの反発が大きく、2025年11月には当面の施行延期が通達された(2025年11月18日付ビジネス短信参照)。2026年1月にはOTRの撤回がインド重工業省(MHI)から正式に発表された(2026年1月21日付ビジネス短信参照)。

外務省系シンクタンクのインド開発途上国研究情報システムセンター(RIS)は、2025年10月に「QCOの解読」と題するディスカッションペーパーPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.14MB)を公表した。強制認証に対する内外の懸念として、十分なリスク評価をせずに制度が運用されていることや、認証を行っているのが規制当局であるBISであること、国際的な規範に即していないことなどを指摘した。改革しなければ、当初の目的である公益の保護が実現できず、単なる貿易ツールとして捉えられる上に、産業界の負担となり、インドの国際競争力を低減させるとして制度改正を求めた。スブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、「自立したインド(注3)」やメーク・イン・インディアなどの政策の目的は「経済的自給自足に注力することではなく、グローバルなレベルで重要なプレーヤーになれる能力を高めることである」と自著に記し、「強靱(きょうじん)で信頼性の高いサプライチェーンの必要性は適切な政策によって実現可能」(注4)と主張している。RISの主眼は、政策の長期的な狙いと短期的な施策の乖離の整合性を図ることとみられる。

またインド政府は、2025年11月に複数の品目で認証の取得を免除する規制緩和を発表した(2025年11月21日付11月27日付ビジネス短信参照)。財務省が2026年1月29日に公表した2025年度(2025年4月~2026年3月)の「経済白書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」には、「実用主義に向けたQCO」と題するコラムが掲載され、通知前の厳密な評価や十分な移行期間、全国的な検査能力、産業界の対応を考慮すべきだと盛り込んでいる。ただ既存の対象品目で規制が緩和されたものはわずかで、今後も緩和が続くのかどうか、見通しは不透明なままだ。

在インド日系企業もBIS規制の壁に直面

ジェトロの2025年度海外日系企業実態調査では、BIS強制認証制度が事業に影響を与えている(見込み含む)と回答した在インド日系企業は製造業で71.9%(128社)に達し、輸入などを行う非製造業では40.8%(64社)に上った(図2参照)。また、図には示していないが影響があると回答した企業のうち、影響の度合いを「深刻」「非常に深刻」と回答した割合は製造業で69.6%(89企業)、非製造業でも59.4%(38企業)となり、深刻度も高いことが示された。

図2:BIS強制認証制度による自社事業への影響
製造業 影響あり(見込み含む)71.9%、影響なし12.4%、その他15.7%。一般機械 影響あり(見込み含む)92.3%、影響なし3.8%、その他3.8%。輸送機器(含む部品)影響あり(見込み含む)76.8%、影響なし5.4%、その他17.9%。化学・医薬 影響あり(見込み含む)45.0%、影響なし45.0%、その他10.0%。非製造業 影響あり(見込み含む)40.8%、影響なし40.8%、その他18.5%。商社・卸売業 影響あり(見込み含む)81.6%、影響なし7.9%、その他10.5%。運輸業 影響あり(見込み含む)48.0%、影響なし48.0%、その他4.0%。販売会社 影響あり(見込み含む)35.5%、影響なし48.4%、その他16.1%。

注:回答企業数が20社以上の業種のみ掲載。
出所:ジェトロ2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

制度の課題(複数回答)については、「承認までの時間」が最大となる73.2%(139社)、「手続きが煩雑」が72.6%(138社)で続いた。「自社の製品・設備が対象か判断に困る」も37.9%(72社)だった(図3参照)。製造業の対応として、「現地調達率を上げた」が46.5%となり、日系企業の進出の多い輸送機器部品では65.0%に達した。販売事業に与えた影響では、42.7%(79社)が「製品の販売が停止」「取引先への納品が遅延」などを挙げた。

図3:BIS強制認証取得に関する課題(複数回答)
「承認までの時間がかかる」73.2%、「手続きが煩雑」72.6%、「自社製品が対象が判断に困る」37.9%、「規制対象の変更が多い」33.7%、「費用が高い」28.9%、「取引先から協力が得られない」15.8%、「その他」5.3%。

出所:ジェトロ2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

直面している具体的な問題として、「仕入先の協力が得られず、他の仕入先への変更が必要となった」「インド国産品に同じ仕様を満たすものがなかったり、少ロットでの調達ができなかったりする場合が多い」「従来NOC(異議なし証明書、強制認証の対象外)で通関していた日本からの輸入製品に対し、NOCが許可されないケースが多発している」「国内の顧客にはBISと言えば理解してもらえるが、海外の顧客を説得できるか不安」などが挙げられている。

冒頭でも述べたとおり、長年の課題である中国の輸入依存からの脱却や貿易赤字の縮小など、インド政府による自国産業保護に向けた動きが加速する中、日系企業からは「現地調達率の引き上げ」や「仕入れ先の変更」など、事業戦略の方針転換を余儀なくされた回答もあった。次稿では、現地日系企業へのヒアリングを交えて、BIS強制認証に関する最新情報のキャッチアップやサプライチェーンへの影響など、現地日系企業が足もとで直面する課題や対応策について述べていく。


注1:
BISはインド標準規格局という組織を指すが、インド標準規格(IS)自体も広くBISという略称で呼ばれている。 本文に戻る
注2:
インド進出日系企業の対象は930社で、対象有効回答数は385社(41.4%)。うち製造業が198社、非製造業が187社。 本文に戻る
注3:
モディ首相が2020年に提唱した、新型コロナ禍を契機とした経済政策のスローガン。国内生産を重視して他国への経済的依存を減らし、グローバルサプライチェーンの重要な拠点となることで、経済的自立と安全保障の確保を目指す構想のことを指す。 本文に戻る
注4:
スブラマンヤム・ジャイシャンカール著『インド外交の新たな戦略』笠井亮平訳、白水社、2025年、p116 本文に戻る

BIS強制認証に直面するインド日系企業

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(2)現地日系企業の声

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、2025年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
今野 至(こんの いたる)
出版社、アジア経済情報配信会社などを経て、2023年9月から現職。