欧州委、「AI大陸行動計画」を策定、インフラ構築などの道筋示す

(EU)

調査部欧州課

2025年04月14日

欧州委員会は4月9日、欧州が人工知能(AI)分野での世界的リーダーとなることを目的とした「AI大陸行動計画」を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委によれば、主な施策は次の5つの柱から成る。

(1)大規模なAIデータおよびコンピューティング・インフラの構築

AIファクトリー(2024年2月1日記事参照)のネットワークを通じて、AIおよびスーパーコンピューティング・インフラを強化する。13のAIファクトリーが欧州各地のスーパーコンピュータと連携して既に展開されており、AIスタートアップや研究者を支援している。さらに現在の4倍となる10万個のAIチップを備えた「AIギガファクトリー」を設立予定。AIギガファクトリーへの民間投資は、EU全域で最大5カ所に200億ユーロを投入する。また、クラウド容量とデータセンターへの民間投資を促進すべく、欧州委は「クラウドおよびAI開発法」を提案する。今後5~7年間でEUのデータセンター容量を少なくとも3倍にする目標を持つ。

(2)大規模および高品質なデータへのアクセス拡大

AIファクトリー内にデータラボを設置し、多様なデータソースを整理・活用する。2025年内には「データユニオン戦略」を提示し、AIソリューションのスケールアップを支える市場の創出を目指す。

(3)EUの戦略的部門でのアルゴリズム開発とAI採用の促進

現在、EU域内の企業のAI導入率が13.5%である状況を踏まえ、公共部門および民間部門への全面的なAI導入を図るため、欧州委は今後数カ月以内に「AI活用戦略」を立ち上げる予定。AIファクトリーや欧州デジタル・イノベーション・ハブ(EDIHs)などの欧州のAIイノベーション・インフラが戦略において重要な役割を果たす。

(4)AIスキルと人材の強化

欧州の優秀なAI研究者や専門家を欧州に呼び戻すことやEU域外からの高度人材誘致を進めるべく、今後設立予定のAIスキル・アカデミーが提供するAIフェローシップ制度や「MSCA Choose Europe」(注)を活用する。また、生成AIを含む教育・研修プログラムを整備し、次世代人材の育成や既存労働者のリスキリングを支援する。

(5)規制の簡素化

AI規則の施行を通じて市民への信頼性と企業家への法的安定性を提供。「AI規則サービスデスク」を新設し、企業によるAI規則(2025年2月13日記事参照)の順守を支援する。

今後、「クラウドおよびAI開発法」および「AI活用戦略」についての公開諮問がそれぞれ2025年6月4日まで実施される。さらに、「データユニオン戦略」に関する3つ目の公開諮問が5月に開始予定。これらを通じて、特定の分野におけるAI技術の導入の可能性、ビジネスや生産プロセスにおけるAIの統合、またより広い経済圏におけるスケールアップの機会について、関連する事例を特定する。

(注)博士課程教育およびポスドクの研究者の養成に係るEUの主要な資金援助プログラム。

(坂本裕司)

(EU)

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