高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは資源大国オーストラリアの潜在可能性
日豪連携で強める重要鉱物供給網(1)

2026年1月8日

近年、レアアースをはじめとする重要鉱物の供給網(サプライチェーン)の強靭(きょうじん)化に、再び注目が集まっている。2010年の「レアアースショック」の後、日本は調達先の多様化、代替技術の開発、国家備蓄の強化、リサイクルの促進などを進めてきた。さらに、米中摩擦下で改めて重要鉱物の供給不安が高まった。日本は、サプライチェーンのリスク分散を図る必要性に迫られている。

日本にとって、重要鉱物のサプライチェーン強靭化に向け、有望なパートナー国の1つがオーストラリアだ。主要鉱物の世界有数の産出国で、経済安全保障の枠組みでも日本と連携しているからだ。一方で、国内の産業構造やコスト高など、課題も多い。

本稿では、11月に実施した現地取材を基に、重要鉱物サプライチェーン強靭化を進める上での二国間連携の課題と展望を追う。数回に分けて報告する予定だ。第1回は、重要鉱物に関するオーストラリアの現状と課題について整理する。

重要鉱物とは

重要鉱物とは「ある国や地域にとって経済的・産業的に不可欠でありながら、供給リスクが高い鉱物資源」(注1)を指す。真っ先に思い浮かぶのが、先端産業にとって欠かせない製品の原材料になる鉱物ではないだろうか。例えば、電気自動車(EV)に使うリチウムイオン電池には、リチウムのほかにも、コバルトやニッケル、マンガン、黒鉛などの鉱物が必要だ。「重要鉱物」という単体の物質は存在しない。つまり、先述のような鉱物多数の総称ということになる。

また、どの鉱物が「重要」なのかも、実は国によって異なる。日本では経済安全保障推進法に基づく「重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針」(注2)で35種類(鉱種)を重要鉱物に指定している。オーストラリアでは、重要鉱物として31鋼種、戦略物資(Strategic Materials)としてアルミニウム、銅、リン、錫、亜鉛を指定。これらは、連邦政府のウェブサイト(注3)に定義されている。

日本にとっての重要鉱物は、多くが海外の産出物。ほぼ全量を輸入に頼っている。課題の1つは、鉱物の産出国が特定国に偏っていること。しかしそれ以上に、精錬・加工にあたって中国の世界シェアが圧倒的に高いことが問題だ。中国は近年、安価な人件費と緩やかな環境規制を背景に、世界中の重要鉱物の精錬・加工を積極的に引き受けてきた。その結果、一極集中の様相を呈している。日本を含めて、世界各国で中国に対する依存度が高まった。

世界有数の資源国オーストラリアにも悩み

オーストラリアは、世界でも有数の資源国だ。石炭、天然ガス、鉄鉱石をはじめ、天然資源に恵まれている。片や中国やインドなど新興国では、急速に工業化・経済発展が進んだ。そうした動きを背景に、2000年代以降の資源ブームもあり、オーストラリアの資源産業は高収益化。製造業よりも同産業に投資が集中しやすくなった。

また、特に近年は他先進国と比較しても賃金水準が高くなった。その結果として、労働集約型の製造業で、近隣のアジア諸国に比べコスト競争力が低下。製造業の比重が、相対的に縮小していった。GDPに占める製造業比率を見ると、1990年の約14%をピークに、近年は5%台だ(注4)。

こうした経緯から、オーストラリアの貿易構造を見ると、一次産品を輸出し、加工製品を輸入するかたちになっている。

図1:オーストラリアの貿易構造(商品別)

オーストラリアの貿易構造は、一次産品を輸出し、加工製品を輸入するかたちになっている。輸出総額5,348億豪ドルのうち、鉱物・燃料が最大で69.8%を占める。次に飲食品・たばこ(10.1%)、製造品(6.7%)が続く。輸出の約7割を占める鉱物・燃料の内訳は鉄鉱石が25.8%、石炭が17.1%、天然ガスが12.8%、その他が14.1%となった。
輸入総額は4,242億豪ドルで、製造品が最大で64.7%となった。そのほか、鉱物・燃料(16.0%)、化学製品(10.1%)、飲食品・たばこ(5.7%)などが続いた。

出所:オーストラリア統計局

この貿易構造は、重要鉱物の分野でも例外ではない。オーストラリア連邦政府のオーストラリア地球科学機構(Geoscience Australia/産業・科学・エネルギー資源省傘下)のスポークスパーソンは、「オーストラリアには、豊富な鉱物資源がある。しかし、自国内で加工・精錬できているものは多くない」という。金属資源をとっても、金、鉄鉱石、ジルコン、ルチル、レアアースなどで、世界有数の生産国になっている。しかし、ボーキサイトと貴金属、およびコバルト、銅、リチウム、鉛、マグネシウム、マンガン鉱石、ニッケル、シリコン、スズ、亜鉛の一部を除き、ほとんどの鉱物は一次加工の後に輸出され、海外で精製されている。(図2参照)。

図2:オーストラリアの鉱物資源と世界生産に占める割合
豊富な鉱物資源はあるが、自国内で加工・精錬できていない。世界の資源に占めるオーストラリアの割合はジルコン(83%)、ルチル(65%)、イルメナイト(51%)、バナジウム(51%)、鉛(36%)、ウラン(32%)などとなっている。一方で、世界の生産に占めるオーストラリアの割合は、ジルコン(17%)、ルチル(44%)、イルメナイト(4%)、バナジウム(0%)、鉛(11%)、ウラン(11%)などとなっている。なお、ジルコン、ルチル、イルメナイト、バナジウム、、ウランなどオーストラリアで採れる多くの鉱物は日本の重要鉱物にリストアップされている。

注:Australia’s Identified Minerals Resources 2025(2024年12月31日時点の暫定データ、2025年11月25日更新)。
出所:オーストラリア地球科学機構

資源採掘・輸出型経済からの脱却に向けた支援

オーストラリア連邦政府としては、従来の「資源を輸出し、他国で付加価値を加えられた製品を高価格で輸入する」という経済モデルからの転換を図りたい。そのため2024年5月の連邦予算で「Future Made in Australia」政策パッケージが示された。この政策の狙いは、クリーンエネルギーや技術革新を支える新たな産業の育成を通じ、付加価値の高い製品を国内生産できる体制の構築だ。10年間で227億オーストラリアドル(豪ドル、1豪ドル=約100円、約2兆2,700億円)を拠出するという。

優先する5分野の1つが、重要鉱物加工(Critical Minerals Processing)だ。この分野では、オーストラリア国内で付加価値化を促進するための支援策を用意している。例えば、次の施策がある。

  • 重要鉱物生産に伴う租税優遇措置(Critical Minerals Production Tax Incentive:CMPTI)
    国内で重要鉱物を精製・加工する企業は2027年7月1日~2040年6月30日の期間、経費の一部(10%)を税制優遇で回収できる(最大10年間適用可能)。
  • 重要鉱物戦略備蓄(Critical Minerals Strategic Reserve)
    当該施策では、政府が商業プロジェクトから重要鉱物を特定価格で購入することになっている。政府は、そのために12億豪ドル(約120億円、注5)を拠出する予定だ(運用開始は2026年後半予定)。

そのほか、オーストラリア貿易投資庁(Austrade)は、オーストラリア国内の重要鉱物関連プロジェクトについて、取りまとめた。日本を含めて、海外投資家に紹介するため、「Australian Critical Minerals Prospectus」(注6)として公開している。2025年6月に更新し、現時点でプロジェクトを55件掲載する。在日本オーストラリア大使館のマーティン・シュトルベルク投資ディレクターは「発行元のAustradeには、地元企業が案件掲載の依頼を多く寄せてくる。その中でも、海外の投資家に自信をもって紹介できる案件を厳選して掲載している」と話す。現在は上流(採掘)に近い案件が多い。しかし今後は、精製や加工など中流工程も含めたプロジェクトも掲載される予定という。

重要鉱物の中流・下流工程を発展させていくには

重要鉱物のサプライチェーン強靭化には、資源に恵まれた国と、中流工程(精製・加工など)や消費者を擁する国を結び付けることが重要だ。

しかし、前述のとおり「重要鉱物」は総称に過ぎない。換言すると、単一の巨大市場ではない。複数の鉱物ごとに用途や需要構造が異なるため、細分化されたニッチ市場の集合体というのが実態だ。従って、異なる重要鉱物サプライチェーンに乗る個別プロジェクトには、オーダーメイドの解決策が必要になる。

GHD(当地発祥の国際エンジニアリング・コンサルタント会社)のポール・グリーニー氏(オーストラリアでの鉱業部門統括責任者)は、「国内で精製・加工すべき重要鉱物もあれば、必ずしもそうでないものもある」と指摘。技術やリソースなどの状況を踏まえ、どの鉱物について、サプライチェーンのどの部分に注力するか取捨選択すべきと述べた。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の報告書(注7)では、同国が産出する5鉱物(リチウム、コバルト、黒鉛、レアアース、シリコン)に焦点を当て、国内の研究・開発・実証(RD & D)のどこに強みがあるのかなどを分析している(表参照)。また、リチウムイオン電池、レアアース磁石、太陽光発電システムのサプライチェーンについても、現在、オーストラリアで商業生産している工程を明示。中間加工やリサイクルでの能力について、分析した(図3参照)。

表:オーストラリアでのRD & Dが持つ強み(国内の活動レベルを比較)(ーは記載なし)
項目 採取・抽出冶金 中間製品と先端材料の製造
研究 特許 パイロット試験・商業化 研究 特許 パイロット試験・商業化
リチウム 非常に強い 非常に強い 非常に強い 強い 限定的 中程度
コバルト 非常に強い 非常に強い 非常に強い 中程度 限定的 中程度
黒鉛 強い 非常に強い 中程度
レアアース 強い 強い 強い 限定的 強い 限定的
シリコン 中程度 中程度 中程度 限定的 限定的 限定的

注:黒鉛は非金属なので、採取・抽出冶金の適用はない。
出所:オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)

図3:CSIROによる重要鉱物の研究・開発・実証(RD&D)能力評価の範囲

図3:PDF版を見るPDFファイル(470KB)

リチウムイオン電池では探査、採掘、電池用高純度水酸化リチウムや炭酸リチウムなどの中間加工まで、そして、電池リサイクルが現在オーストラリアで商業生産できている。一方で電池負極の材料や電池セルなどは生産できていない。レアアース磁石では、探査、採掘から混合レアアース化合物までの中間加工がオーストラリアで出来ている。太陽光発電システムでは、探査、採掘、冶金用シリコンまでの中間加工がオーストラリアで出来ている。

出所:オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の報告書を基に一部加工

重要鉱物に関して、昨今のグローバル・サプライチェーンを踏まえると、精錬・加工で圧倒的なシェアを持つ特定国と急速にデカップリングするのは、現実的でない。つまり、全面的に他国・地域との取引に切り替えるという二者択一の姿勢は不適切だろう。むしろ、主要供給国との関係を維持したまま、供給源を多様化するかたちでデリスキングを進める「両立」型のアプローチが必要だ。

重要鉱物が特定国に集中した理由は、市場原理への依存が大きい。となると、コスト面の要因を無視できないことになる。日本・オーストラリア両国には、今後一層、(1)両国政府間、政府・企業間の連携を強化すること、(2)そのためにまずは、サプライチェーンの中で実行可能な取り組みから着実に進めていくこと、が大切だろう。


注1:
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
注2:
経済産業省資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(905KB)参照。
注3:
オーストラリア産業・科学・エネルギー資源省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
注4:
世界銀行データ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
注5:
このうち10億豪ドル(約100億円)は、オーストラリア輸出金融公社の金融支援制度「Critical Minerals Facility (CMF)」への追加資金として拠出。
注6:
オーストラリア貿易投資庁(AUSTRADE)資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注7:
オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
執筆者紹介
ジェトロ調査部調査企画課長
小林 寛(こばやし ひろし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ハノイ事務所、企画部事業推進室(ASEAN・南西アジア担当)、経済産業省中小企業庁出向、海外調査部アジア大洋州課長、海外展開支援部中堅中小企業課長などを経て2025年5月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所 マネージングディレクター
渡邉 尚之(わたなべ たかゆき)
1996年、ジェトロ入構。 ニューヨーク事務所、対日投資部対日投資課、サンフランシスコ事務所、人事課課長代理、農林水産・食品部総括課長代理、シカゴ事務所次長、ニューヨーク事務所次長、企画部海外地域戦略主幹(北米・オセアニア)などを経て2023年7月から現職。