高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とはドイツに見る重要原材料(CRM)調達の特定国依存への対応
欧州で進展するCRMの安定供給戦略
2026年1月28日
国際情勢や通商政策の不確実性が世界的に増す中、欧州では戦略的自律性の確保や競争力の強化を目的に、重要原材料(CRM)の安定供給に向けた施策が進められている。本稿では、欧州最大の経済大国であるドイツに焦点を当てて、同国のCRM調達の実情を解説するとともに、サプライチェーン強靭(きょうじん)化に向けた動きを、EUの取り組みと合わせて追う。
ドイツ経済の基盤である重要原材料
ドイツは主力産業である自動車および自動車部品、機械、化学などに支えられ、EU加盟国の中で最大規模の経済力と工業力を有している。直近は2年連続のマイナス成長だが、それでも名目GDPは世界3位を誇る。連邦政府は、さらなる技術革新と競争力の強化を目指しており、2025年7月には国家戦略「ハイテク・アジェンダ・ドイツ」を閣議決定した。本戦略では、(1)人工知能(AI)、(2)量子技術、(3)マイクロエレクトロニクス、(4)バイオテクノロジー、(5)核融合および気候中立なエネルギー生産、(6)気候中立型モビリティー技術、の6つの領域を重点研究技術領域に指定している。
ドイツの主力産業や今後注力していく技術分野を見ると、同国の経済力や影響力の維持・発展にはCRMの安定供給が必要不可欠だ。その供給リスクに備えて連邦およびEUレベルで対応が進められている。
欧州における重要原材料の定義
「重要原材料」の定義は、国や地域、時代などによって異なる。ドイツの場合は、2024年5月に発効したEUの「重要原材料法」(CRMA)(2023年12月15日地域・分析レポート参照)付属の「重要原材料」および「戦略的重要原材料」リストに見ることができる(表1参照)。CRMAは、重要な原材料の安全かつ持続可能な供給へのアクセスを確実にし、EUの競争力と回復力を確保し、開かれた戦略的自律性を維持することを目的とする。その柱は、(1)サプライチェーン強化に関する優先事項の設定と目標の明確化、(2)CRMの循環性と効率的利用の向上、(3)供給リスク低減とサプライチェーンのレジリエンス強化、(4)欧州重要原材料委員会の設置、の4つである。同リストは(1)の文脈で法的に規定された。
CRMAでは、経済的重要性が高く、供給途絶リスクがあるものを「重要原材料」として指定している。加えて、再生可能エネルギー、デジタル、航空宇宙、防衛技術などの戦略的分野で使用され、現在の供給水準に比べて今後の需要増加が予測され、生産の拡大が難しく、近い将来に供給リスクを生じる可能性が高いものを「戦略的重要原材料」に指定している。CRMAは、EU法における分類では「規則」(Regulation)であり、加盟国の国内法体系の一部となる直接適用性を有することから、リストに記載の品目はドイツに適用されるとみなせる。
| 戦略的重要原材料 | 重要原材料 | |
|---|---|---|
| ボーキサイト/アルミナ/アルミニウム | アンチモン | 軽希土類 |
| ビスマス | ヒ素 | リチウム |
| ホウ素(冶金グレード) | ボーキサイト/アルミナ/アルミニウム | マグネシウム |
| コバルト | バライト | マンガン |
| 銅 | ベリリウム | グラファイト |
| ガリウム | ビスマス | ニッケル(バッテリーグレード) |
| ゲルマニウム | ホウ素 | ニオブ |
| リチウム(バッテリーグレード) | コバルト | リン鉱石 |
| マグネシウム金属 | 原料炭 | リン |
| マンガン(バッテリーグレード) | 銅 | 白金族金属 |
| グラファイト(バッテリーグレード) | 長石 | スカンジウム |
| ニッケル(バッテリーグレード) | 蛍石 | 金属シリコン |
| 白金族金属 | ガリウム | ストロンチウム |
| 永久磁石用レアアース(ネオジム、プラセオジム、テルビウム、ジスプロシウム、ガドリニウム、サマリウム、セリウム) | ゲルマニウム | タンタル |
| 金属シリコン | ハフニウム | 金属チタン |
| 金属チタン | ヘリウム | タングステン |
| タングステン | 重希土類 | バナジウム |
出所:欧州重要原材料法 付属書I、付属書IIからジェトロ作成
ドイツにおける重要原材料の調達状況
表2は、ドイツ連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)の年次報告書「ドイツの原材料状況2023」に記載の貿易統計資料を基に、CRMAで指定の重要原材料・戦略的重要原材料のドイツにおける輸入状況を示したものである。
輸入相手国は世界に広がっているが、輸入の過半を一国に依存する品目を抽出すると、依存する国の特徴が鮮明に浮かび上がる。なお、かっこ内は該当する品目の数となる。
中国(16)、オランダ(4)、オーストリア(2)、チェコ(2)、ベルギー(2)、ロシア(2)、タイ(2)、フィンランド(1)、オーストラリア(1)、ブルガリア(1)、ノルウェー(1)、スロバキア(1)、デンマーク(1)、イタリア(1)、アイスランド(1)、チリ(1)、マレーシア(1)、ギニア(1)
まず、中国は16品目と他国と比べ圧倒的に多く、同国への依存の高さが裏付けられた。該当する品目は以下のとおりである(表3参照)。
| 品目 | 2022年 | 2023年 | 前年比 |
輸入国 (2023年) |
シェア (50%以上) |
|
|---|---|---|---|---|---|---|
| アンチモン | 塊および粉 | 245 | 217 | △ 11.7 | 中国 | 57.0 |
| ヒ素 | ヒ素 | 28 | 25 | △ 11.0 | 中国 | 51.6 |
| アルミニウム | 人造コランダム | 153,094 | 106,509 | △ 30.4 | 中国 | 60.6 |
| ビスマス | 塊、粉、くず、スクラップ | 1,208 | 804 | △ 33.4 | 中国 | 97.9 |
| 重希土類、軽希土類 | 混合物、合金 | 215 | 314 | 39.5 | 中国 | 95.8 |
| 化合物(金属混合物) | 167 | 826 | 394.7 | 中国 | 55.3 | |
| 希土類元素、スカンジウム、イットリウム(Sc, Y)(純度95%未満) | 18 | 20 | 9.4 | 中国 | 100.0 | |
| セリウム、ランタン(Ce, La) | – | 1 | – | 中国 | 100.0 | |
| プラセオジム、ネオジウム、サマリウム(Pr, Nd, Sm) | – | 3 | – | 中国 | 100.0 | |
| 化合物(ランタン)(La) | – | 4,061 | – | 中国 | 77.0 | |
| 化合物(ユウロピウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウム)(Eu, Ho, Er, Tm, Yb, Lu, Y) | – | 184 | – | 中国 | 70.3 | |
| マグネシウム | くずおよびスクラップ | 18,275 | 17,190 | △ 5.9 | 中国 | 66.0 |
| 未加工(マグネシウムの含有量が全重量の99.8%未満のもの) | 16,784 | 10,596 | △ 36.9 | 中国 | 59.5 | |
| 未加工(マグネシウムの含有量が全重量の99.8%以上のもの) | 23,224 | 14,687 | △ 36.8 | 中国 | 79.1 | |
| グラファイト | 天然 | 475 | 994 | 109.1 | 中国 | 74.5 |
| タングステン | 塊、焼結して得た棒を含む | 47 | 69 | 45.6 | 中国 | 73.2 |
出所:連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)年次報告書「ドイツの原材料状況2023」に基づきジェトロ作成
特に「ビスマス(塊、粉、くず、スクラップ)」が97.9%、「重希土類、軽希土類(混合物、合金)」が95.8%、「重希土類、軽希土類(希土類元素、スカンジウム、イットリウム(純度95%未満))」「重希土類、軽希土類(セリウム、ランタン)」「重希土類、軽希土類(プラセオジム、ネオジウム、サマリウム)」がいずれも100%と、中国頼みであることが分かる。
中国以外で輸入依存度が高いEU域外国と対象品目は以下の結果となった(表4参照)。
| 国名 | 品目名 | シェア |
|---|---|---|
| ロシア | 銅の粉およびフレーク | 59.3 |
| バナジウム(塊および粉) | 89.5 | |
| タイ | スラグ、灰および残留物、ニオブ、タンタルを含むもの | 69.4 |
| 塊、焼結して得た棒を含む(タンタル) | 53.9 | |
| オーストラリア | 銅(酸化物、水酸化物) | 58.4 |
| ノルウェー | 長石 | 50.1 |
| アイスランド | バナジウム(くずおよびスクラップ) | 99.1 |
| チリ | 炭酸リチウム | 68.8 |
| マレーシア | ニッケル(鉱石および精鉱) | 51.2 |
| ギニア | ボーキサイト | 91.7 |
出所:連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)年次報告書「ドイツの原材料状況2023」に基づきジェトロ作成
他方で、最大輸入国のシェアが50%に満たない品目であっても、例えば、「銅の鉱石および精鉱」は輸入国が南米諸国に集中する傾向があり、白金族については、南アフリカ共和国、米国、イタリアへの依存がみられる。
以上のように、ドイツは重要原材料・戦略的重要原材料の調達において、中国を筆頭に複数のEU域外国に高い割合で依存している。また、ロシアとギニアにはバナジウム(塊および粉)、ボーキサイトの約9割を依存するが、両国はOECDのカントリーリスク分類が最高の「7」で、ドイツは高リスク国にも調達を依存している。なお連邦政府も、中国を含むEU域外国への依存度の高さを課題と認識している。
また、一部品目は特定のEU加盟国に依存する。一見、域外国よりリスクは低いようにみえるが、ここは冷静に見る必要がある。例えば、「アンチモンの鉱石および精鉱」はオランダからの輸入が95.2%を占めるが、欧州委員会(以下、欧州委)によると、アンチモンの主要な一次生産国は中国とタジキスタンであるため、ドイツは両国からオランダを経由し輸入している可能性がある。
サプライチェーン強靭化に向けたドイツとEUの動き
ドイツでは、2020年1月に連邦政府の「原材料戦略」が閣議決定され、原材料供給の3つの柱とされる、国内での確保、輸入、リサイクルに関する17の措置が定められた。さらに2023年1月には、連邦経済・気候保護省(現連邦経済・エネルギー省)が要点をまとめた文書である「持続可能で回復力のある原材料供給に向けて(ドイツ語)」
を発表した。企業が持続可能で長期的な原材料供給を確保できるよう、より強力な支援を提供するため、「原材料戦略」を補う形でさらなる措置を追加している。
同ペーパーでは、(1)循環型経済、資源効率、リサイクル、(2)原材料サプライチェーンの多様化、(3)公正かつ持続可能な市場枠組みの確保、に重点を置くとしている。特に本稿に関連する(2)については、以下の項目が示された。
- CRMサプライチェーンのモニタリング
- 国内およびEUにおける原材料採掘の維持、拡大
- 原材料の備蓄
- 国内外の生産能力拡大のための原材料基金による支援
- 原材料分野における国際協力の戦略的指針
bとdに関して、ドイツ南西部のライン川流域では、深部塩水からバッテリーなどに利用する水酸化リチウム一水和物を製造する、約22億ユーロ規模のプロジェクトが進行中である。本プロジェクトは、欧州およびドイツの原材料供給の強靭化、気候目標の達成、脱炭素化に貢献するものと位置付けられている。プロジェクトを主導するのはオーストラリアのバルカン・エナジー・リソーシズ(Vulcan Energy Resources)だが、資金はドイツ、オーストラリア、EUで提供し、うちドイツは、原材料基金から最大1億5,000万ユーロを出資する(2025年12月18日付ビジネス短信参照)。
また、eに関連する動きとして、ドイツは2025年8月にカナダとCRMに関する協力の意向表明書に署名し、リチウム、希土類、銅、タングステン、ガリウム、ゲルマニウム、ニッケルの7種を対象に、採掘、中間加工、精錬、リサイクルなどバリューチェーン全体で協力する方針を定めた(2025年9月1日付ビジネス短信参照)。
このように、ドイツの施策には、自国のみならず、EU全体の利益への貢献を組み込んだ方針が見て取れる。
EUは域内47、域外13の「戦略プロジェクト」を展開
最後に、EUが進める施策を紹介する。EUでは、CRMAに沿って原材料の安定供給を図る取り組みを実施している。同法では、サプライチェーン強化のため、EU域内における戦略的重要原材料の採掘・加工・リサイクル能力を2030年までにそれぞれEU消費量の10%、40%、25%に近づける、または満たすことを目標としており(注)、このベンチマーク達成のため、欧州委は2025年3月、これら3分野に関わる47の事業を「戦略プロジェクト」として初認定した。認定されたのは、13の加盟国で計画され、設備投資総額225億ユーロを見込む47事業である(図1参照)。事業内容の内訳(複数の事業内容を有する事業を含む)は、採掘が25事業、加工が24事業、リサイクルが10事業、代替原材料関連が2事業であり、認定を受けた戦略的事業は、許認可手続きの簡略化や迅速化のほか、財政支援へのアクセスにおいて優遇を受けることができる(2025年3月27日付ビジネス短信参照)。2025年9月には2回目の戦略プロジェクトの公募を開始しており、欧州委は自律的な供給体制の構築を段階的に進めている。
図1:EU域内における47の戦略プロジェクトの分布図
出所:欧州委員会のプレスリリースの地図を基にジェトロ作成(© European Union 2025, licensed under the CC BY 4.0 license)
一方で、欧州におけるCRMの埋蔵量や加工・リサイクル能力には限度があり、域内のみで需要を満たすことは難しい。このような観点で、欧州委は域外における供給源の多様化も同時に図っており、2025年6月に前述の47の戦略プロジェクトを補完するかたちで、EU域外の国や地域における13の戦略プロジェクトを選定した。
図2:EU域外における13の戦略プロジェクトの分布図
出所:欧州委員会のプレスリリースの地図を基にジェトロ作成(© European Union 2025, licensed under the CC BY 4.0 license)
このように、ドイツおよびEUはCRMの安定供給に向けて着々と施策を講じている。直近では、2025年12月に欧州委が、一・二次CRMの域内生産の拡大と、サプライチェーンの強靭化や多角化を目指すことを目的とした行動計画「リソースEU」を発表した(2025年12月3日付欧州委員会プレスリリース参照
)。欧州委はこの計画の一環として、日本のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を参考に、「欧州重要原材料センター」を設置するという(2025年12月15日付ビジネス短信参照)。欧州では、日本は高度な経済安全保障戦略を有する先進国であり、日本から学ぶべき点は多いとする見方もある。日本がドイツや欧州委の体系的な施策から学ぶべきことは多いが、欧州も日本と同様の課題、懸念を抱えていることがうかがえる。こうした背景から、「日EU競争力アライアンス」の立ち上げ(2025年7月29日付ビジネス短信参照)や日独経済安全保障協議の実施など欧州と日本の間では既に協力関係の構築が始まっている。今後は官にとどまらず、産・学を含めたさまざまなレベルで、CRMの安定供給という共通課題に対処するための協力が進展する可能性がある。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部欧州課
近藤 慶太郎(こんどう けいたろう) - 2024年、ジェトロ入構。同年4月から現職。




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