高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とはAIのグローバルリーダーを目指すUAE
2026年3月23日
中東地域で人工知能(AI)の動きが活発化する中、特にアラブ首長国連邦(UAE)はその最前線といわれている(2024年8月5日付地域・分析レポート参照)。同国は、AIを国家成長戦略の中核技術として位置付け、政策、制度、投資、インフラ、人材育成を一体的に推進している。
そこで本稿では、UAEのAI戦略について、その背景、国家戦略、主要プレーヤーなどのエコシステムを整理し、日本との連携可能性を含めて概説する。
国家戦略でAI分野の発展を牽引
中東の産油国は、石油依存からの脱却を図るため、産業の多角化を国家的政策として推進している。とりわけUAEは、建国100周年に向けた長期計画「UAE100周年プラン2071
」や2021年に制定した「We the UAE 2031
」ビジョン、2025年3月に承認された「国家投資戦略2031(National Investment Strategy 2031)
」などの長期ビジョンの下、非石油分野の成長を加速させることで、資源輸出に依存しない安定的な経済基盤の構築を目指している。2024年時点でUAE のGDPに占める石油部門の割合は25%程度で、残りは非石油部門だ。AI、イノベーション、デジタル化、Web3.0(注1)、医療、宇宙、水、食料安全保障など、UAE政府が力を入れる産業は多岐にわたる。
このような国家戦略および産業多角化に向けた政策の中で、AIは特に重要な技術と位置付けられている。UAE政府はAIを、交通や医療、再生可能エネルギー、環境、宇宙などの幅広い分野に横断的に導入することで、経済価値の高い新たな市場を創出することを目指している。
AIが重視されるもう1つの背景には、UAEの経済成長の目標を達成するために必要となる労働力の観点が挙げられる。UAEの人口は約1,000万人にとどまり、うち自国民は1割程度で、9割近くが外国人労働者で占められている。成長目標の達成にはさらなる労働力が必要であり、その労働力を外国人に依存する現状から脱却するために、AIによる業務の効率化や自動化を通じて、労働力を置き換え、補完する狙いがあると考えられる。
UAEは、AIを国家戦略の中核に据え、制度面から整備を進めている。2017年には、世界で初めてのAI担当相を擁立した。任命されたオマル・アル・オラマ氏は当時27歳であった。同氏の下でAI省を設立し、AI政策を統括する体制を構築した。同年には「UAE AI国家戦略」を策定し、2031年までに世界有数のAI先進国に成長させ、AIを経済成長、行政改革、社会サービスの高度化を支える基盤技術と位置付けた。同戦略は、政府・産業・社会全体でAIを活用することを目的としている。さらに、首長国ごとにも国家の成長戦略に合わせた取り組みが進んでおり、ドバイ首長国は2021年に「ドバイAI戦略2031」を発表した。同戦略では、教育、公共サービス、地域福祉など幅広い分野でAIの導入を進め、2031年までにAI分野で世界の主導的地位を確立することを目標としている。ドバイでは初等教育段階からAI教育が義務化されている(2025年5月15日付ビジネス短信参照)。2025年12月22日付の国営エミレーツ通信(WAM)によると、UAEは政府機関におけるAIツールの利用率が2025年に世界トップクラスの97%に達したという(2025年12月25日付ビジネス短信参照)。UAEの戦略の特徴は、AIを単なる成長分野の1つとして扱うのではなく、AIを基盤とした成長戦略を構築している点にある。
政府主導の盤石なエコシステムの形成
AI分野への投資は、中東・北アフリカ(MENA)地域全体で急速に拡大している。UAEの調査会社マグニット(MAGNiTT)(注2)によると、2024年のAI分野のMENA地域の資金調達額は前年比66%増加し、取引件数も同15%増加した。これにより、AIは同地域で最も成長の速い産業分野と位置付けられている。同年には、ベンチャーキャピタル(VC)取引の約5件に1件がAIスタートアップ関連であった。主要な投資家としてはPlus.VC、Paypal Ventures、Nclude、GAIA AI Accelerator、Flat6Labs、500 Global、Wa’ed Ventures(アラムコ系VC)、G42などが挙げられる。また、国際的な評価においても、AIの導入を進める上での準備状況について、IMFが指数化したAI準備度指数では173カ国中35位、とりわけ政府部門およびデータ・インフラ部門でのAI準備度指数では188カ国中13位となり、高評価を得た。
UAEにおけるAI戦略は、政府主導の戦略の下、実装を担う中核的主体が役割分担しながら推進する体制が構築されている(表参照)。なかでも中心的な存在となっているのがG42だ。G42はアブダビのソブリンウェルスファンド(SWF)であるムバダラ傘下の政府系AI関連企業で、AI戦略の実装面において中心的な役割を果たしている。G42は、AI、データ、クラウド、計算基盤などを軸に事業を展開し、国家レベルのプロジェクトや国際的な技術連携を主導している。さらに、Presight AIなど、G42のグループ企業が実働部隊として機能している。
研究・人材育成の面では、世界で初めてAIに特化した大学、いわゆる「AI大学」として2019年に設立されたMBZUAI(Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence)
が中核的拠点となっている。同大学は、アラビア語ファルコンオープンソース言語モデル(LLM)を含むLLMを開発・公開するなど、基礎研究から応用研究までを一体的に進めるとともに、世界各国から研究者・学生を受け入れ、AI分野の高度人材育成を担っている。同大学のウェブサイトによると、59の国籍から650人以上の修士課程・博士課程の学生が在籍している。さらに、日本人教員や日本人学生も在籍しており、国際的な研究ネットワークの一部として機能している点も特徴だ。
ジェトロは、同大学の日本人教授の1人である乾健太郎氏に話を聞いた(取材日2025年9月26日)。乾氏によると、学生数だけでなく、教授の数や学部の数も年々増加しているという。同氏はMBZUAIの魅力を「多様性」とし、「世界中からさまざまな面白い教授が集まってきている。大学内には多くのコミュニティーが存在し、それでいてまとまっている。チームでまとまることが強みとなり、イノベーションの創出と新たな技術につながる」と話した。同大学は過去に日本企業との連携事例もあり、乾氏は「日本企業と学生の橋渡しの役割を担いたい」と話した。
アブダビの先端技術研究と政策連携を担うATRC
(Advanced Technology Research Council)は、傘下に技術プログラム管理および事業開発部門であるASPIRE
、応用研究の中核を担う機関であるTII
(Technology Innovation Institute)、TIIの応用研究を商用製品・ソリューションへと転換するVentureOne
を擁する。TIIでは、アラビア語LLMを含むファルコン3のLLMの開発・公開をしており、AI、宇宙、量子などの先端分野の研究がされている。また、アブダビ国営石油会社(ADNOC)傘下でAIの実証・実装を進めるADNOC Lab
など、政府、研究機関、産業界が緊密に連携する体制が構築されている。
| 機関 | 特徴 |
|---|---|
| G42 |
|
| MBZUAI |
|
| ATRC |
|
| ADNOC Lab |
|
出所:各機関ウェブサイトを基にジェトロ作成
スターリンクの始動など大型プロジェクトの動向に注目
AIインフラ整備の象徴的事例として、2025年5月にアブダビでの世界最大規模のデータセンターの建設計画が発表された(2025年5月30日付ビジネス短信参照)。同プロジェクトはG42が主導し、複数の米国企業が参画している。データキャパシティーは約5ギガワット、敷地面積は約25平方キロメートルにおよぶ。AIキャンパスとしての機能も備え、AIインフラ戦略の拠点となることが期待されている。UAEは産油国であり、石油を安価に供給できる。これを活用した火力発電による電力供給は、電力需要の大きいデータセンター稼働において大きな強みとなっている。この一環で、米国のオープンAIは、次世代AIインフラプラットフォーム「スターゲートUAE」を始動した。これは、同社がUAE政府と連携してAIインフラを整備する新構想「オープンAI各国連携プログラム(Open AI for Countries)」の第1弾だ。スターゲートUAEは「米国・UAE AIアクセラレーションパートナーシップ」および、同パートナーシップのもとで開かれた「UAE–米国AIキャンパス」に基づくもの。本プラットフォームでは、UAEの政府系のAI企業G42が建設資金を提供し、オープンAIと米オラクルが運用を担う。エヌビディア、シスコシステムズのほか、日本のソフトバンクグループもパートナーとして参画している。
日本との連携可能性
日本政府は、経済産業省を中心に「Run Faster パートナーシップ」を掲げ、AI、宇宙、量子などの先端分野における基盤技術の育成を進めている。この枠組みは、先端技術分野における国際競争が激化する中で、経済安全保障の観点も踏まえつつ、同盟国・同志国と連携しながら研究開発や社会実装を加速させることを目的としている。一方で、日本政府は、公的資金や補助金だけによる支援には限界があるとの認識を示している。このため、豊富な資金力を有する中東マネーへの期待は大きい。最近では、日本の秋田市が、アブダビと米国に拠点を置くIT関連スタートアップのビットグリット(Bitgrit)と秋田市でのAIデータセンターの建設に向けた連携協定を締結した(2025年11月18日付ビジネス短信参照)。UAEは明確なAI戦略と実行力を備えており、日本にとっては研究開発、人材育成、インフラ整備などの分野で連携余地の大きいパートナーであると考えられる。
- 注1:
-
ブロックチェーン上でクリプトなどのトークンを媒体とし、「価値の共創・保有・交換」を行う経済を指す。
- 注2:
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中東のスタートアップに特化・関連したデータベースを保有し、データ分析などを行う調査会社(MAGNiTTウェブサイト参照
)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと) - 2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。






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