高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは現地日系企業の声
BIS強制認証に直面するインド日系企業(2)
2026年2月19日
前稿では、インド標準規格局(BIS)が定める「BIS強制認証制度(以下、BIS規制)」(注1)に関する動向や「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)(以下、日系企業調査)」(注2)でのBIS規制の影響度を述べた。本稿では、BIS規制に関する情報収集の方法や抱える課題、取り組む対応策についてまとめる。執筆にあたり、インド北部デリー首都圏と南部カルナータカ州進出の主に輸入品を扱う日系企業にヒアリングを実施した(ヒアリング日:2026年1月26~30日)。
情報収集はさまざま、当局と連絡を取ることも
BIS規制に関する情報収集の方法は各社によってさまざまである。BISを含む各省庁のウェブサイトへのアクセスや外部セミナーなどを通じて情報収集は可能だ。しかし各省庁が通知する「品質管理令(Quality Control Order、QCO)」の対象品目は追加・変更となるケースがたびたびあるため、常に最新の情報をキャッチアップする必要がある。下図は2025年12月31日時点の省庁別のQCO対象品目の割合を示している。例えばA社(製造業)では、法規制に関するコンサルティング会社からの最新情報の取得に努めているという。また、自社内でも人口知能(AI)を導入し週1回、BISの更新情報を尋ねている。
一方で、ナショナルスタッフのコネクションを生かした情報収集の事例もあるB社(非製造業)では、同スタッフがBIS当局の担当官と関係を築いているという。QCO対象品目や、規制に関する詳細な解釈については、当局へ直接足を運んで適宜確認を行っている。また、各社ともBIS規制に関する情報は自社にとどめておくのではなく、同業他社に情報を開示している。具体的には、地域の日本商工会の専門部会など多くの日系企業が集う場で必要な情報を共有し、BIS規制の対応に努めている。
出所:財務省の「2025年度経済白書」を基にジェトロ作成
BIS当局の対応の遅さが課題
日系企業調査の回答でも多くの企業が課題の1つに「対応速度の遅さ」を挙げ、今回のヒアリングでも同様の声を聞いた。B社は、過去に本社が認証を何度も取得しているが、取得までに平均1年~1年半を要したという。取得過程は、申請後BIS当局側の担当者が決まるまで3カ月~6カ月。工場監査を実施するための日程調整で1カ月、日本国内の工場監査に関する実務で3カ月~6カ月。監査報告書の作成に3カ月程度が見込まれるという。
C社(電気・電子機器製造業)は中国製の輸入品を多く取り扱っており、スキームⅡ(強制申請・登録対象品目)の申請を新型コロナウイルス流行前と流行後に実施したという。流行前に申請したものは取得ができた一方、流行後2021~2022年に申請したものについては現在も申請中で、取得が進まない状況にある。同社は、日本やASEANから輸入する品目についても認証取得が必要であったため、申請後の申請番号取得、テストラボでの検査に必要な書類を提出したが、返答が来るのに1カ月以上かかった。また、テストラボの検査はBIS当局が民間のメーカーに委託していたため、製造プロセスを競合他社が把握できてしまうという問題もある。
中国製品の認証取得に対する不安の声
BIS規制はインドの中国からの輸入依存脱却、インド国内の産業保護を目的とした規制と捉えられる。そのため、中国製品の認証取得に対する懸念の声もあった。D社(販売会社)は、日本などから製品を輸入しており、中国の自社工場で生産した製品をインドへ輸出する計画もあったが、中国製品の認証取得は困難なため計画を断念したという。
C社は、中国製と同一の製品を取り扱っているASEANの工場で並行生産を検討していた。しかし、同社では中国で大量生産した製品を各国に輸出しているため、インド1カ国のために他国で製造ラインを確保するのは困難が想定されるという。
日本と異なる規格しかない
このような環境の中、日系企業には輸入原材料を、海外に比べれば認証取得期間の短い現地調達へ転換する圧力がかかるが、多くの企業が日本製と同品質の原材料を見つけることが困難だと指摘した。E社(一般機械製造業)の例を挙げると、日本製の板金とインド製とで厚さの規格が異なることが課題となった。日本製は0.1ミリ単位でさまざまな規格があるが、インド製は0.5ミリ間隔の規格しか手に入らず、図面どおりの製造が困難である。日系企業と継続的に取引のある地場企業などであれば、日本製のような細かい規格の板金も手配は可能だが、手間とコストもかかるため現地調達に踏み出せないという。インドの規格内容が自社製品仕様と異なる場合の対策の1つとして、省庁が発行する異議なし証明書(No Objection Certificate、NOC)の取得があるが、F社(商社・卸売業)はここ1年半ほどNOCの取得が難しくなっていると明らかにした。
複数の企業が現実的な対応として、輸入元の工場で認証対象の材料・部品から、対象ではなくなるように付加価値をつけて輸入することを視野に入れざるを得ないとの見解を示す。ただし、この場合は保守の際に部品だけの輸入が困難になるなどの課題が残る。
OTR規制撤回で危機を回避
2025年に実施された日系企業調査では、多くの企業がBIS規制の影響に対し「深刻」または「非常に深刻」と回答した。しかし2026年1月の「設備・電気機器安全規則(包括的技術規則、OTR)」の撤回(2026年1月21日付ビジネス短信参照)を受けた今回のヒアリングでは、これにより「危機を回避した」という声が一定程度あった。国内で流通する広範囲の設備・電気機器に強制認証などの取得を求めるOTRが実施されれば、多数の企業が影響を受ける可能性があった。一方で「OTRのような規制がまた発表されるのではないか」という不安の声も一部見受けられた。インド政府が2026年1月29日に公表した2025年度(2025年4月~2026年3月)の「経済白書
」には、今後のBIS規制の現実的な運用を求める内容が盛り込まれたが、緩和の方向に傾くかの見通しは不透明である。
BIS規制は日系企業のみならず多くの企業が直面する深刻な課題であるとともに、インド国内で自社の事業を展開していくには避けられない関門である。日系企業同士は「競争関係」だけではなく「協力関係」を築き、業種の垣根を越えて互いに情報を共有している。今回のヒアリングでも、自社が単独で規制緩和を要請しても当局からは「輸入を増やしたいだけ」とみられかねないという指摘があった。インド国内のエンドユーザーの声が当局に届くことが重要になるという。
BIS強制認証に直面するインド日系企業
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
野本 直希(のもと なおき) - 2016年大手生命保険会社入社、2025年から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
今野 至(こんの いたる) - 出版社、アジア経済情報配信会社などを経て、2023年9月から現職。






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